イイハナシダナーで終わらせるには、唐突なあのメモリアのシーンがノイズ過ぎたんで、色々便乗しつつ原作よりゲヘナへの警戒を徹底してた都合上、発覚があのタイミングに。
なお、前回の終わり良ければ…は別のとこにもかかってたり。LMでもやらかし組に一切お咎めなしはなんか違うくね?ってなったもんでね。
日が明けたとなれば早速反省会だと、朝から控室で各々分断されていた間の情報を共有することになったものの、私たちや一年組はともかく、昨日の負傷でまだ包帯が目立つ夢結と梅については、聞き終わった後真顔で腕を組んで仁王立ちする私の前に、二人揃って床に正座させられているのが答えというか。
「で、何か弁解は?」
「……いえ、梨璃たちを助けようと、必死で」
まあ、それが先に私らが動いてたせいでほぼ徒労に終わったのは結果論としても、止めるあてもなしにまたあっさり暴走しましたじゃあ、色々な方面に示しが付かない。
全体の概要くらいは昨日の帰りに聞いてたけど、改めてちゃんと話された状況を見るに、触手にマギを吸われた消耗と千香瑠の『ヘリオスフィア』のフォローが無ければ、結局また夢結が味方殺しの汚名を、今度は一切の疑いなしに背負ってたってだけなんだし。
だからこそ、今回の件をこうして報告された以上、二人の先輩として私はキツい言い方をしなければならない。それで二人仲良く反省だってなったせいか、梅が何処かソワソワしてるのは……指摘したらダンスの時のこともあって色々と自覚してニヤけるだけだろうから、黙っておこう。
ともかく、終わり良ければすべて良し──なんてのは、総合して上手く行っている内にしか通用しない単なる甘えなのだから、大分マイナスな今回に適応などさせてたまるか。
援軍にしたって、千香瑠の報告を受けて動いたろうセインツの方はワンテンポ遅れてだったとなると、私らがロネスネスと接触してなかったら、間に合ったかどうかって具合だし。
「いや、梅もギリギリ行けるかなーで最後間に合わなかったから、その……」
「そんなライブ感で私たちは、同士討ちで仲間を失ったって消えない傷を、一生背負わされる訳だ」
「……雪華、怒ってる?」
「それも過去一じゃな……今は下手に割り込むと、こっちが火傷するぞい」
いや、そこら辺の分別はあるつもりだけど? ──なんてひそひそ話に反応しても、説教役なんて貧乏くじを引いた以上威圧してるだけになるだろうし、あくまで聞こえないフリ。てか、これ以上は愚痴になりすぎるか……切り替えろ切り替えろ。
「あの、ところで千香瑠様は、大丈夫なんでしょうか……?」
そこでちょうどよく、昨日の件繋がりで周りを代表して梨璃ちゃんが遠慮がちに聞いては来るから、嘘をついても仕方ないし、私視点の情報は全て出す。
「あたしは百由が朝帰りしてたとこに鉢合わせただけだし、検査の結果待ちとしか言えないけど……ま、クスリの方は夢結が見た状況的に、飲んだ直後に悪影響出てたとかほぼほぼクロ確定だし、後はどれだけ悪いかって気はするかな」
「そう、ですか……」
「多分、こういう形でバレたのなら、まだ本格的な施術はされてないはず……だから、わたしよりは平気だと思う」
「鶴紗ちゃん……うん、ありがとう」
体験談も合わせて鶴紗ちゃんがフォローしてくれれば、梨璃ちゃんも一応は安心したって様子。実際、ブーステッドスキルなんぞ付けられてたら一発で分かる訳だし、まだ仕込みの段階でバレたのは幸いといえばそうなんだろう。
だとしても、出所がターゲットにすらバレてる仕込みとか、手口が雑にも程があるんだけど……これもゲヘナ特有の甘えか。
「なあ雪華サマ、そろそろ正座崩しても「ああ?」ナンデモナイゾ……」
散々後輩たちに勝手はダメだって言う羽目になってる以上、皆が見てないからセーフなんて前例を許したら、余計止めれなくなるでしょうが。
それにしたって、立場上私か梨璃ちゃんが言うことにはなるけど、どっちにせよどの口フレンズでどうしたって締まらないんだし、せめて反省する側くらいは真面目にしてもらわないとね?
「で、今回の一件も大体鶴紗ちゃんの予想通りというか、これも結梨ちゃんの時と同じ、やらかしたやつらを烏丸が好きにするための口実にってやつなんだろうけど……ごめん、その話上級生だけで止めてた」
最低限アールヴヘイムの二人には警戒してて欲しいと天葉には伝えていたし、エレンスゲに残ってた側は私がいたからってのもあるけど、一番は下手に後輩たちを不安にさせたくなかったって……いや、結局は言い訳か。難しいね、こういう話の線引きっていうのも。
「……いえ、大体は分かりますから、ゲヘナのやり口かどうかなんて」
「ありがと。なのにこれまで徹底的に情報がガードされてたっていうんだから、本当に前の政府ってもんは腐りきってたんだろうね」
そして、梨璃ちゃんたちは現場での報告以上のことはないし、私たちの方はロネスネスと会った以外特に言えることもないんだから、これで一応、話すべきことは終わった……となれば。
「さて、とりあえず私がこれ以上偉そうにするのもなんか違うし、多数決で決めようか?」
とはいえ、こうして今この場を取り仕切ってる私が言い出した以上、わざわざ確認するまでもなく満場一致で釈放にはなるんだけど、夢結はともかく梅はちゃんと立てないのか、空いてるソファにもぞもぞと這い上がっている。
「っ~、足痺れたゾ」
「そんなに、長くはなかったと思うのだけど」
まあ、そこら辺は慣れの問題として……そろそろ『面会時間』だから、私は控室を出ることにしようか。
◆◆◆
「ん……ここは……?」
「最初に結梨ちゃんが運ばれた病室と同じだなんて、気を利かせてるのか遠回しの皮肉なのか分かんないよね」
「雪華様……」
とはいえ、こんなことを千香瑠に言っても仕方ないとして、こうなった主犯な以上、壁にもたれながら待っていたポーズを解いて、ターゲットへの説明は責任持ってやらないとだ。
「夢結さんに預けた、薬のせいですか……?」
「ま、そういうところ。でもそっちが先にクロだって分かっちゃった以上、検査も無しに解放もできないからさ、悪いけど一葉ちゃんたちには先に帰って貰ったよ。こんな時間まで寝てたのは、私が一服盛ったせいだしね」
「……隊長は、このことを?」
そこで真っ先に聞いてくるのが依奈のことなのも、昨日から裏で私と組んでるの含め、まあもうバレバレか。
「こっちの方は当然把握済み。検査の方は、結果が出たら百由から伝えるってさ」
「そう、ですか……」
「こうなっちゃった以上下手な気休めなんて言えないけど、ひとまずはこないだの恋花みたく、風邪でも引いたと思って休んでてよ」
まあ、変に思い詰めさせても仕方ないし、事務的な話を終えたなら空気を切り替えよう。
「で、朝食べるんなら、何か買って来ようか?」
「……ありがとうございます。ですが、少し寝直しておくので大丈夫です」
「そっか。じゃあおやすみ」
実際千香瑠の様子はまだ薬の影響か気だるさが残ってそうだったから、遠慮された以上片方を盛った側の私にやれることもないかと、病室を後にする。
◆◆◆
「あれ、雪華様じゃないんだ?」
百由の工房前にて出会した片割れな天葉に、少し意外そうに聞かれれば、夢結としてもその答えは最初から決まっていた。
「わたしの報告が、この事態を作ったのだから……その責任から逃げる訳にはいかないもの」
それに、雪華の方は既に確信を持っていそうな感じだったのだから、夢結が言い出さずとも譲ってはくれただろう。
……そうする理由が、悪い意味故にとは、聞いても仕方がなかったとして。
「来たわね。雪華様は……まあ言わなくても分かってそうか、あの人たちは特に」
工房に三人を迎え入れた百由の言い回しが烏丸隊のことを指している、なんていうのは今更に確認が必要な面子でもなし、故に話が本題に移るのを、止める者もいない。
「それで、早速夢結が回収した例の薬のことだけど……皆、心して聞いて」
「………………」
千香瑠は補給など望むべくもない廃墟の中でこの薬を取り出していたのだから、彼女が普段から持ち歩いていた物には違いないのとして、それに対してこんな前置きが必要な理由など──
「この薬、
「…………!」
「つまり、それって……?」
──録な物ではない。そう覚悟はしていたはずなのに、いざ触りの部分を聞かされただけで、依奈は固まってしまい、天葉が聞き返すのをどこか遠いことのように感じていた。
「……いつからかは分からないけれど、彼女は知らず知らずの内に身体へヒュージ細胞を取り入れさせられ、それが完全に定着したことで、事実上強化リリィになっていた……そう言い切れるわ」
「──っ!」
「依奈?」
──最初から自分が無理矢理にでも、彼女をエレンスゲなんて地獄から引き離せていれば、こんなことにはならなかっただろう。
……そう、今になって突き付けられているような気がして、結果を聞いた途端、依奈は反射的に近くの壁を拳で叩いていた。
「……こうなるのは流石のわたしでも読めてたけど、黙ってたら黙ってたで、後からバレて余計酷いことになるでしょ」
「ごめんなさい。別に百由を非難するつもりじゃないわ……でも、頭じゃ分かってても、どうにもやりきれないのよ」
依奈が顔の左半分を押さえながら、自分でも気持ちの整理が付いていなさそうとなれば、百由の方も一応良い話はあると告げる。
「でも、魔術刻印はどこにもないし、そういった反応もなかったから、彼女はまだブーステッドスキルの施術まではされていない……ならわざわざ元から精神安定剤─ってことになってるだけの、実態は真逆な代物だったけど─が必要なレベルの子を、余計不安定になる強化リリィなんかにする利点がないように思えるんだけど……あるいはもっとヒュージ細胞が馴染んでから、折を見てちゃんとした施術を……?」
「と、とにかく、今すぐ何か悪いことになる……ってことはないのよね?」
また難しいことを考え込もうとしていると、百由を思考の海から引きずり上げる天葉の言葉には、一応といった感じの首肯が。
「こういうパターン、物語としてはありきたりだけど、直接じゃなくて何かに混ぜてヒュージ細胞を接種させるってのは、前例が少なくてなんともね……てか、そもそも薬飲んで即座に精神に異常が出てる時点で、間違いなくヤバいことにはなってるワケで」
「……わたしは、このことを百合ヶ丘に伝えるべきではなかったのかしら」
依奈の荒れ様や百由の物言いに、事態が変な方に向かってしまった……そう感じてしまい、夢結の表情は見るからに自責の念を強くしてしているのは見て分かるから、百由のフォローも素早くなる。
「いやいや、発覚が遅れてたら千香瑠さんどころかヘルヴォル単位で手遅れになってたかもしれないんだから、報告自体は悪くないって。悪いのは夢結じゃなくてエレンスゲ……のゲヘナ?」
結局無理矢理に千香瑠を保護しても、事態の全貌はまるで見えて来ない。仮にエレンスゲ全体がそういう方針ではなくとも、彼女を強化したゲヘナの派閥が校内でどれくらいの規模なのかすら、外からでは分からないのだから。
「まあ、明日には色々はっきりするんでしょうけど。この薬のことを連絡しといたからか、
「明日? 随分急だねー」
「あんないつでも好き勝手動けますよーって部隊用意してた以上、元々都内のラボがどこでもいいから尻尾を出したら突貫! って、正直どこでもよかったんでしょう」
つまるところ、今回やらかしていたのが仮に同じ過激派のルドビックラボだろうと、穏健派のイルミンリリアンラボだろうと、あるいは他の適当なラボであろうと関係ない。
今までのように裏でひっそりとでなく、世間に明かせるような大義名分を得たのなら、その迂闊な真似をしたラボを潰す際に他のラボへ協力を打診して、また何かあれば『次はお前たちだ』と見せ付けるかのように、徹底的に潰す──という魂胆のようで。
「ともかく、彼女も今日一日は絶対安静として……依奈も、変なことはしないでよね?」
「流石に分かってるわよ、それくらいは」
それに、ラボの過激派を壊滅させれば反過激派だという校長派閥の影響力が増し、彼女をエレンスゲに戻してもよくはなるはずだ。ならば千香瑠の身柄を、こちらで引き受ける期間もそう長くはならないだろう。
──なんて仮定がいい意味で裏切られたと百由が知るのは、夜中に作業疲れで寝てしまい、翌日の昼過ぎに工房で
◆◆◆
「これで、よかったのでしょうか」
「ドクターストップだって言われたら、逆らう方がよっぽどダメじゃん? 仕方ないってば」
エレンスゲの校舎はヘルヴォルの控室、千香瑠の体調が要検査な状態だったと言われ、仕方なく百合ヶ丘へ残してしまったことに一葉はどうにも後悔の色が隠せていないが、それを宥める恋花の方としては、そういう段階は既に過ぎ去っていた。
(ま、センパイがあんなこと言ってたクセにこうなってんだから、それだけ千香瑠がヤバい状態だったってことなんだろうけど)
雪華も依奈も、勧誘が断られれば素直に引き下がってはくれたし、見ていた側としてもそこに嘘はなかったと信じたい。
だというのに、実際は千香瑠だけが百合ヶ丘の医療施設に叩き込まれ、面会すら叶わず自分たちがガーデンへ戻ることになった理由は、そうまでする必要があったからだということくらい、恋花とて状況証拠だけで分かってはしまう。
元よりヘルヴォルは藍だなんて、初対面の時点から「裏がありますよー」と隠されてもいない特大の爆弾を抱えているのだから、今更エレンスゲなら何をやっていたとしても不自然ではないと来れば、ため息のひとつやふたつは出てしまう。
「はぁ……」
「ため息吐くと幸せが逃げるよ」
「にげるよー?」
瑤や藍にそんなことを言われても、現状逃げる程のそれが残っているのやらだ。
そもそもの話、ゲヘナが弱ったリリィを捕まえて何をするのかなど、多少世界の裏側を知っていれば誰だって同じ答えにたどり着ける。言い回しはどうあれ結果として死なせるか、実験材料にするか、そのふたつにひとつ。そして千香瑠は、まだ命までは取られていない以上──
◆◆◆
「ま、これが精一杯かな」
「雪華様?」
放課後、控室に向かう途中『知り合い』にメッセージを送っていれば、ちょうど通り掛かった二水ちゃんに見つかる訳だけど、特に隠すこともないし、ケータイをしまって振り返る。
「いや、ちょっと東京の知り合いにね」
「東京の……烏丸絡みか、例の『連絡網』の、ですか?」
「そんなところ。どうにも色々と、キナ臭い感じになってるからさ」
夢結から答えを聞くまでもなく、私の方には既に姉さんから『明日仕掛ける』とだけ送られては来てたから、つまりは千香瑠の件か他の何かか、あるいは諸々を合わせた結果がライン越えで、もう上と話は付け終えてるってこと。
そうなれば正当な大義名分を以て、姉さんたち執行部隊によりエレンスゲラボからゲヘナの過激派は一掃されるのだろう……当然、生死なんて問わずに。
別に、悪党が自分のやった悪事の報いを受けるだけなんだから、それ自体に思うことがある訳なんてない。
ただ、そうなった時に悪党の取れる手段なんて、無駄な足掻きで地獄への道連れを多くするだけだと、これまでの経験で嫌って程分かってるから、保険は掛けておいて損はないだろうと一応の根回しはしておいた……ってだけ。
◆◆◆
あの後夢結から聞いた千香瑠の検査結果は、想像の範疇を越えた物でもないし、「どうせゲヘナのやることだしなぁ」と今更怒りが湧くでもなく、自分でも驚くくらいあっさり流せてしまった訳だけど──
『ラボの『自称穏健派』から連絡が来ただぁ? 朝っぱらからなんの冗談よ』
朝起きたら『連絡網』の方に、恋花からそんな内容の書き込みがあったとくれば、寝起きであんまり頭が回ってないのもあって乱暴な返しになってしまう。
『まあ、そうなりますよねー』
『そりゃあこのタイミングでんな嘘臭い話なんて、全額前払いの依頼のがまだ信用出来るでしょうに』
『しかも詳しいことは一切明かさずに、ただ一方的に来てくれとか、どこをどう見ても罠だからあたしはやめとけーって言うのに、一葉の方は疑うより信じてみたいって、チャレンジ精神のが勝ってるんですよねぇ』
正直、このタイミングでラボからの接触だなんて、立場の真偽はともかく、ただ地獄への道連れが欲しいだけにしか見えんだろうに。
『でも、よりによって今日に限って藍の検査日なもんで、襲撃起きたら結局ラボに行くハメになるだろうからって言われたら、反論もし辛くて』
『つまり、最悪の結果になった時に備えて、共有はしときたいって?』
『ま、そんなところっすわ。あたしらも警戒はしときますけど、そっちの襲撃に巻き込まれたら流石にヤバいし』
それはそう。姉さんたちならまだしも、末端の部下にまで顔が知られてる訳じゃないんだから、ラボにいるエレンスゲ生なんぞ、敵と見られて即発砲されても仕方がない。
だから最低限藍ちゃんを連れて帰る必要がある以上、待ち時間の間に終わらせておくべきというのはまあ、分からんでもないけど。
『姉さんに今から伝えるのも、もう返信すら作戦後にって段階だろうしねぇ』
『ともかく、もし逃げる途中勢いでラボ壊すハメになったら、あっちのせいにしといてくださいや』
まあ、流石の姉さんも政府側での活動となれば、こないだみたく爆発オチにはしないだろうけども。少なくともエレンスゲのラボなら、校長派閥に明け渡して有効活用は出来るんだし、施設機能を一時的に麻痺させるくらいに留めるとして。
「さて、『今誰が見てるー?』っと」
そのまま返事が止まれば、恋花は準備に閉じたんだろうとして、ついでに書き込んでみれば反応があったのは東京組から紅巴ちゃん、佳世、楪くらいか。
『神庭は……まあ動けって言われる方が不自然か』
『は、はい……ただ、何か起きた時に備えてなのか、昨日から忙しくしている人がそれなりにいたと、彩文ちゃんが見たらしいです』
あやちゃんってことは、また生徒会の手伝いで、かねぇ? なんかこっちに情報回すのメインになってきてたら悪いとは思うけど、どっちにしろ神庭の生徒会は万年人手不足みたいだから、Win-Winということにしておこう。
『んで、ルド女は?』
『なんだか、今日になってラボへの呼び出しが複数組あったようなので……そういう感じみたいです』
そりゃまあヒュージを差し向けるとか偽援軍もいいとこだから、動かせるとして強化リリィで編成した部隊と。
テンプルレギオンを出さないのは、内側の情報すら制御出来てないのがここでバレてるからか、そもそも他所のために主力は動かさんだろうと期待すらされてないだけなのか。
『御台場には何も要請は来てないけど、ロネスネスは適当な理由付けて六本木の近くまで行くつもりみたいだし、椛から聞いた話だと、イルマは〈イルミンシャイネス〉を出すよう言われてるってさ』
『となると、本命はそっちなのかねぇ?』
前に二水ちゃんの言ってた、イルマの自主結成レギオンがマッハで承認されたらしい。とはリリィオタク情報で聞くけど、わざわざフットワークの軽いそっちでなくトップレギオンを出せとは、踏み絵にしてもやけに露骨で、別な狙いがあるように見えてくる。
……あるいは、ルド女はもう試す必要すらなくアウトだから、協力も最低限でいいとしているのかもしれないけど。その時が来れば一切の情けもなく、切り捨てられるように。
「ふぅ……」
そういう考えも出来てしまうのが、姉さんたちと色々やってきた私なんだから、これ以上染まらないよう卒業後は距離を置かれてる……っていうのは、どうにも自分でも分かってしまうし、ゲヘナ相手に歯止めなんて利かなくなるのも、前科から確定だ。
だから今回ばっかりは現場にでしゃばることも出来ないし、したところで誰のためにもならない。だから外野なりに情報を集める……だけで済まない辺り、往生際は悪いつもりだけど。
◆◆◆
「私から示せる道はふたつある」
今日も今日とて面会だけど、あんな結果が出た以上少なくともラボの件が片付くまでノコノコと登校させられる訳もないのだから、入院着なままベッドで上半身だけを起こす千香瑠に、指を二本立てて話す。
「ひとつは、何も知らないまま全てが終わり、向こうに返していいって判断が下るのを待つこと……」
こんな言い方を選んだ時点で、「何かあります」と白状しているも同然なのだから、千香瑠も特に口を挟まずこちらを見詰めてくれる。
「そしてもうひとつは、自分の足で真実に立ち向かうことよ」
「いや、それって確かマンガの言い種じゃありませんでしたっけ?」
む、依奈を呼んだ覚えはないけど、たまたま寄るタイミングが被ったのか、そもそも私のことを尾けていたか……どっちにしろ、わざわざ昔の隊服なんて持ち出してる時点で、やることは決まってる風だけど。
「さっき、イルマの御巴留から連絡があったわ。エレンスゲラボを叩く──それが国の決定ですって」
「で、そんなタイミングで藍ちゃんが検査でラボにいて、ヘルヴォルの残りの面々も別口で呼び出しを食らってるとか……依奈は、そういうつもり?」
「ええ。勿論、千香瑠が嫌だって言うのなら、無理強いなんて絶対にしませんけど」
そう言いながらも、もう一着同じ隊服を用意しているんだから、答えは聞くまでもないって感じ。
「隊長……ですが……」
「このあたしをフッたんだから、今更遠慮なんてしなくていいのよ? あなたはあなたの居場所を、誰に言われるでもなく、何よりも守りたいと思ってる。だからこその、〈楯の乙女〉なんでしょ」
「……はい。ありがとう、ございます」
だから、後は軽く背を押すだけで千香瑠も差し出された手を取り、依奈から隊服を受け取っている。
「さて、わざわざこんな仕込みをしに来たんですから、当然足は用意してあるんですよね?」
「勿論。ここのヘリポートに烏丸のガンシップを呼びつけてあるから、本社までひとっ飛びだよ」
スマホで地図を見せながら言うのが、昨日二水ちゃんに話した連絡の内容になるけど、私が出るにしては一切の準備をしていない、というのは珍しくCHARM等の装備をひとつも持ち歩いていないことから、千香瑠にも分かったようで。
「その、雪華様は……?」
「私? 行けるわけないでしょ。ゲヘナ相手には引き金が相当軽い自覚ならあるし、そうなるのを誰も望んじゃいないんだから」
「……そう、でしたね」
あの時、公園の片隅で全てを馬鹿正直に話したつもりはないけど、私が人殺しになるのを望まない『誰か』によって未遂に終わったのだけは、千香瑠に指摘された時のもって回った言い回しで半ば肯定したのだから、伝わってはいるはず。
だから、思い出したかのように頷いてくれた以上、今回の件は私のステージではないというだけ。
「ふーん? 雪華様が他人に過去を話しただなんて、槍の雨が降りそうなこともあったんですね」
「別に、千香瑠たちの話を聞いて連鎖的にってだけよ。正直、かなり強めの脅しも入ってたし」
あのタイミングで過去にゲヘナを撃った話をしたなんて、「お前もそっち側なら消すぞ」と暗に言ったようなものなのだから、結局あんまり冷静ではなかったんだろうなと、今更に自己分析。
まあ、この前新宿で会った時の状況を見るに、戸田さんの方も強化はされてるんだろうけど。お隣さんの有り様から、望んでかどうかまではともかく。
◆◆◆
「『エレンスゲを叩け』か……」
それが呼び出された、美岳と他数名の強化リリィ──全員の深い事情までは知らないが、どうせ全員が全員、望まぬ強化を受けた身だろうし、その中に一番名が売れているだろう黒木・フランシスカ・百合亜がいないというのも、未認可だろうとガーデンのやり方に逆らう自主結成レギオンのメンバーになったらしい。という噂を知っていれば、もうルド女の内情は想像以上にズタズタなのだろうと察せられる。
ともあれ『国としての命令』として下された内容がこうなったのだ、間違いなく、既に会社としてのゲヘナと話は付いているのだろう……つまりこれは、表向きにはもう以前政府内の主犯たちを追放した時同様、
東京御三家の中で、ラボを抱えるルドビコとイルマにのみ出動要請が出たのも、そういった方面のアピールだと見えてしまえば、いっそ分かりやすいくらいだ。
結局は人の命をなんとも思っていない連中が、平気な顔をしてエレンスゲを生け贄の羊とすることにゴーサインを出した、それだけの話。
「……やるせないわね」
いくら自分から捨てるように出ていったとはいえ、古巣の凋落っぷりに美岳も言いたいことがないでもないが、この状況で未だ簡単にバレるようなやり口を選んでいた連中の自業自得だと、頭の冷静な部分は告げているのだから、今更被害者面など許されないで済んでしまう。
「美岳様、そろそろ時間です」
「……ええ、分かっているわ」
幸いにして、自分は知り合いと組めているだけまだマシかと割り切りながら、CHARMケースを背負いガーデンを後にする。こんなところで使い潰されてやるつもりなどないと、心に決めながら。
◆◆◆
「それで、今度は依奈に何教えたんです」
「現状、一番速いだろう東京行きの切符かな」
依奈と千香瑠がもう出ただろう頃に、廊下で天葉に捕まるのは私が依奈の『共犯者』なことを知っている以上当然として、今日に関してはお互い先読みした結果に過ぎないんだから、そこには答えずに返せば、納得したようなしてないような具合。
「まあ、勧誘に失敗しちゃったからこうなるのは仕方ないとして、ホントによかったんですか?」
「あたしが行ったって色々台無しにしかねないんだから、行きたいって子に任せるしかないでしょ」
そりゃあ、普段の私なら同盟レギオンがどうこうって理由を付けて二人に同行してたろうけど、公の作戦ってことになってる以上、そこに制御の外れた私が存在するのは、姉さんたちの想いを踏みにじるようなものだし……とまでは口にしないけど、「台無し」の部分である程度は察してくれたようで、天葉も今度は納得している。
「あー、なるほど。忘れがちですけど、雪華様だってシルトですもんね」
「最後にタグを返される程度の、だけどね」
別にそれが縁の切れ目って訳でもないけど、姉さんと私との間で明確な線引きがされたとするのなら、多分その時だ。
そこで投げてでも私のタグを戻さなかった時点で、結局私もある程度は受け入れてしまってたんだろう、もうこれ以上、姉さんたちと並んで戦えないってことを。とはいえ、それで全部諦めたかって言うとそうでもないのが、我ながら本当に往生際が悪い。