なお、元の話は何をトチ狂ったのかホワイトデーの後のホワイトデーの後(???)らしいんで、なぞってしまうと前後の流れ全てが見事に崩壊しちまう不具合が。
前提が二年分って、その後の話で出てくる上級生、全員まとめて留年してるん?だから…破壊して殲滅して蹂躙するね(ぐえー)
少し時間は戻り、六本木にあるビルの屋上、エレンスゲラボを一望出来るそこにいるのは、仮面のリリィが二人……その得物がアステリオンとブリューナクであると見れば、裏の事情を知る者からは分かる通りの、霊奈と零夜のコンビ。
「A~Dポイントはクリア、後はEポイントだけですが」
「色々とややこしいことになってるか」
内側と外側とで情報を合わせていると、どうにも敵味方双方に想定外のイレギュラーが入り込んでいたようだが、このタイミングでの襲撃も敵側の鼠からすれば同じだろうと、零夜も口にした程は面倒に思ってはいない。
……まあそれも、味方側の仕掛人が雪華であることに、誰の影響なんだと考えても自分の顔しか浮かばないという、自業自得が故の開き直りもあるのだが。
「終わった連中は順次引き上げさせて周辺の警戒に回しておくとして……後は、俺が行く」
「そう言うだろうと思いましたよ。ただ、これから範囲を絞る上にシールド出力も最大ですから、『その子』でも内側からの突破は無理なんで、そこら辺はご注意を」
「分かってるさ。投入を間に合わせるために、わざわざ雪華にも黙ってテストに協力させた訳だしな」
逆を言えばこのシールドは、性質上外からなら
「よし、あそこの壁くり貫いてくれ。ダイナミックに行こうか」
「はいはい、了解ですよっと」
とは言うものの、遂に大手を振っての『ゲヘナ狩り』という一仕事になったのもあって、零夜のテンションは若干高い。
やはりコソコソしなくていい、という精神的な安心感は細かな所作にも現れるようで、CHARMを肩で担ぐようにしながら、爪先でリズムを取るように屋上の床を叩いている。
「では、あのヒュージを踏み台にって感じでよろしくです」
「おう。じゃ、行ってくる」
霊奈がアステリオンで見慣れた赤いドローンタイプのヒュージを撃ち、バランスを崩したところへ零夜がアンカーで飛び付けば、落ちる先なラボの壁面を何かが切断し、空いた穴へ飛び込む形に。
──見るものが見れば、壁の有り様はレーザーカッターか何かで溶断されたようにも思えたろうが、やろうと思えば「ギロチンバーストです」などと宣いながらそれを成せたであろう霊奈はアステリオンの構えすら解き、特に何をするでもなく屋上に佇んだままなのだから、後ろからの声もそこには触れない。
「あら、こんなところに……わたしたちも、その『入り口』を使っていいですか?」
「どうぞどうぞ。入るだけならタダですから」
お互いに誰を相手にしているかを分かっているが故の、若干芝居がかったやり取り──
「ありがとうございます。では、仲間を待つ間、わたしとお茶でもしません?」
とはいえその相手な、焦茶色の長髪にベレー帽を乗せたエレンスゲのリリィ──クエレブレの一年生
「まーたやってるよ……」
「なんですか蒔菜。どうせ優珂たちを待つ時間がありますし、その暇は有効活用するべきでしょう?」
「いやいや。シュミに走るなーなんて結爾に今更言っても無駄なのは分かってるけどさ、明らかアベックいる人まで口説いて、なんか意味あんの?」
いつものように、そこら辺でたまたま出会った女の子を反射で口説くのならともかく─時折防犯ブザーから補導のコンボで警察のお世話にまでなってる以上、そんな簡単に流してはいけない気もするが─公然の秘密でやってきたペアの片割れを口説いたところで、結果など分かりきっているだろうに。
「分かっていませんね。こういうのは、やること自体に意味があるんですよ」
「それで何度もお巡りさん呼ばれてちゃ、世話ないけどね」
「ふむ。今から抜けては後で叱られてしまいますので、後日こちらの指定した場所でというのはどうですか?」
「……え、マジ?」
「当然、これがわたしの魅力です」
フフン。と腕を組み自慢気になるように、確かに結爾とて黙っていれば恋愛ゲームか何かのヒロインの一人だと偽れそうなくらいには整った容姿をしているため、普段のナンパも最初こそ上手く行くこともなくはない。
だがしかし、我が強すぎるところがあるのは伊達にエレンスゲ生ではないというか、すぐに自分の趣味──特に恐竜だの怪獣だのの話題に走っては、その女の子らしからぬ内容に引かれて立ち去られたり、そうでなくとも邪な感情がダダ漏れなのを感じ取られて逃げ出されたりと、後が続かないというのが毎度のことだし、それが分かっているから警察沙汰になる前に蒔菜が無理矢理割り込んで中断させたことも、一度や二度ではなかった。
「その時はこのカタログでも見ながら、ゆっくりと語り合いましょうか」
「……あ、キャッチセールスの類いだこれ」
とはいえ今回ばかりは結爾の方が逆に獲物だというのは、流石に企業所属と感心したり、こんなオチだろうと思ったとの呆れが混ざったりで、黙っておいた方がいい内容まで口をついて出てくる。
「ふっ、甘いですね。きっかけなんて些細なこと、一度捕まえてしまえば、後は時間が解決してくれます」
「それ、大体お相手が『しょうきにもどった!』ってなるとこまでパターンだけどねー」
──例えに使ったの、結局また後で操られるガリだけど。
「何やってんだ?」
「はぁ、まったく……」
なんて伝わらない趣味の話をしても仕方なしと、若干の現実逃避も込めた謎な思考に走る蒔菜だが、とりあえずレギオンの残り二人も来たなら、後はお仕事だと気持ちを切り替える。
◇◇◇
(ん……?)
煙越しに見えたCHARMのシルエットと、煙を抜けてきた仮面に01の刻印がされたリリィの持つ、可変機構が歯車な少し古いタイプのブリューナクの形状が一致しないような気がして、微妙な違和感を拭えない恋花だが、恐らくリーダーと思われるナンバーから彼女が烏丸零夜だと察せられれば、また烏丸なりのトリックだろうと言及は控えておくことに。
「ぐっ……時間を掛けすぎたようね」
「ああ、お前でラストだ。投降すればすぐにどうこうはしないが……受け入れるようなら、そもそも逃げようともしないだろう?」
「ま、待ってください!」
机を支えになんとか起き上がろうとする教頭へ、容赦なく推定零夜がブリューナクの切っ先を向ければ、流石に問答無用はどうかと一葉が待ったをかける。
「ふむ。その格好、もう取引済みか?」
「は、はい。ですので、出来れば穏便に済ませられれば「それはエレンスゲの代表としての言葉か?」え……?」
どうなのだろうか? と即答出来ない疑問に一葉が黙らされることになるように、結局のところヘルヴォルはエレンスゲのトップレギオンでこそあるが、所詮は本来その座にあったクエレブレを押し退ける形で用意された歪な立場に過ぎず、事実トップレギオンに指示を出すべきな校長との接触も、明らかにラボ側と隠しもしない教員に妨害されてばかりだ。
むしろ、ヘルヴォルはガーデンの悪評を少しでも晴らすために動いている以上、それ即ちガーデン全体の流れには逆らっていることに他ならず、同じく過激派のやり方に反対な校長派閥とも連携が望めないが故の、孤軍奮闘。
その活動の結果ゴーストの件で協力的だった教導官や、他のリリィたちもある程度認めてくれてはいるが、結局それも『頑張ってね』程度のそれで、彼女らの代表だなんてとても──
「それだけは、決してあり得ないわ」
「……この声は」
一葉が答えを出せないまま、部屋をしばしの沈黙が包む中、それを裂くように割って入る鋭い声に覚えがあるのか、廊下から見ていた美岳が反応して声を零す。
「クエレブレさんじょ~」
「なんで蒔菜が仕切るんですか」
「ま、なんにせよさっさととっちめよーぜ?」
零夜が通った壁の穴、そこから中を破壊しつつ直進してきたことかや、後に続いたクエレブレの方はより楽に到着したと、隣の部屋からゾロゾロとやってくる訳だが、本来エレンスゲの代表者たるべき彼女らの姿を見て、一葉の考えも纏まったのか、ポツポツと語り出す。
「ええ……多分私は、ガーデンの代表を名乗るには相応しくありませんし、そうであろうとしたのなら、もっと賢いやり方を選ぶべきだったのでしょう」
高等部へ進級してすぐな、入学式の場で新たな序列1位として登った壇上、そこで多くの生徒や教導官の見ている前でエレンスゲのやり方を批判したこと、それ自体が間違っていたとは思っていないが、若さ故の後先を考えない行動であったと、今なら省みることは出来た。
ガーデンの全てがそうでないと後になって知ってからは、まず最初にやるべきはそちら側の勢力と接点を持ち、行動に移すより先に土台を固めるべきだった。そう時折思考の隅から冷静な部分が訴えて来るから、あの時の自分は焦っていたのだろうと──いや、多分今も焦りはどこといわずにあるからこそ、結局こうしてラボからの怪しい誘いに乗ってしまっているのだ。
「今日のこともそうです。私は、ラボの人と接触すればきっと何かの結果を得られるはずだと、甘い考えでここまで来てしまいました……」
「そう。なら
「優珂さん……」
つまり、クエレブレは烏丸同様教頭をターゲットとしている側で、皮肉なことに彼女がどちらにも付かないと示したが故に、どちらからも敵だと排除されそうになっている、そういう状況らしい。
「……いいえ、私はリリィ同士で無意味な争いをするつもりはありません。なので、すみませんが教頭先生、我々は今回の件から手を引かせて頂き「そうはいかないわ! 私を守りなさい!」
一葉の言葉を遮りながら、急に声を荒げる教頭の様子に、当然部屋にいた面々の視線は一点に集まる。
とはいえ、明確に命を狙ってこようという相手に囲まれた状況で落ち着き払っていられる人間など、逆に事態の全てを把握している黒幕でもないとそうはいないのだし、そこで必死になる姿を「本性を現したな」と嘲るような人間こそ、真にロクでもないやつだという話ではあるのだから、まだ態度だけで彼女の善悪を決め付けることなど出来はしないが……それだけで済まないというのは、すぐに結果が。
「……フン。にわか仕込みでも『仕掛け』は終わってやがるか」
「ちょ、何やってんのさ二人とも!」
「ち、違う……これは……!」
まるで糸で吊られた人形のように、覚束ない動きでCHARMを零夜へ向け振るい、身体ごと彼女のブリューナクの一振りに弾き返される一葉と瑤。それを見て完全にギルティだと、廊下で待機していた組も部屋に突入する。
「一葉ちゃん! 瑤さん!」
「ち、千香瑠様!? ダメです……二人を連れて……逃げ……!」
「……美岳様」
「……優珂か」
「なるほど、条件付けに機械の補助も合わせて、マインドコントロールの仕込みに掛かる時間を踏み倒した……というところかしら」
その中でも03が物知り顔でいるのなら、一葉や瑤がCHARMを持つ腕を空いた手で必死に押さえている中、他の面々も聞きの姿勢に。
「この手の方法は、強化リリィや『ルナティックトランサー』持ちのような、恒常的に負のマギの影響を受けている者程掛かりやすい傾向にあるけれど、本来は数日単位での仕込みが必要だし、その上でも術者の技量次第ではほんの数分で解ける程度の強度しかない、実験に失敗して精神の崩壊した抜け殻でも対象に選ばなければ、ロクに扱えたものじゃない不安定な代物よ」
「それを、あのスーツ辺りで下駄履かせてるってことか?」
「ええ。加えて『契約』の内容で更に行動を縛り、ヘッドセット辺りからも微弱な電波でその補助をしているのでしょう」
烏丸組のそんな答え合わせを聞きながら、どうにも尋ねずにはいられない部分を、恋花が代表して聞く。
「……随分と詳しいんすね」
「私のいたラボが主にそういう研究をしていたものだから、受ける側の一人として嫌という程見てきたわ。ちなみに、髪の色も実験のせいで今のになったのよ?」
その返しは、これも一種の強化リリィ特有のあるある話、ブーステッドジョークの類いだろうか?
03の日本人としては浮いている程に鮮やかな─といっても実の姉妹でも髪や目の色が違うこともザラにあるように、その身に流れるマギの影響か、リリィというものはレアスキルだの神宿りだのな特別なことをせずとも、全体的にえらく見目がカラフルなのが基本ではあるが─朱色の髪を手でなびかせながらの発言には、恋花や他の面々もよくて苦笑いしか返せないが、時間を掛ける程効力が増すということは、逆に当日のにわか仕込みな今回はわざわざ条件付けや装備での補助をする必要がある程度に、マインドコントロールの効力自体は弱まっているはず──つまり、狙いは『そこ』だということ。
「じゃあ、二人をぬがせばいいの?」
「いや、言い方」
藍の例えは極論ではあるが、だからこそ確信は突いている。剥ぎ取るでも奪い取るでも、どのようなやり方でも二人をおかしくしている原因を引き剥がす──そう考えれば、事はシンプルだ。
「別にわざわざ引き剥がさなくても、そのままぶっ壊すのが一番早いでしょう。そんな簡単なことも思い付かないの? 序列13位にもなると」
「あっ……ははは! そっか。ぶっ壊せばいいんだ、こんな悪巧みなんて、全部」
加えて、そこで割り込んでくる優珂の言い種は煽るような空気が強かろうと、全くその通りとしか返せないとなれば、いっそ清々しいくらいだし、気付いてしまえば恋花も笑うしかない。
言われてみればそうだ、わざわざ相手の用意した舞台の上で踊ってやる義理なんてどこにもないのだから、今更お行儀よくやる必要もなく。
ならばと気合いを入れ直すように、ブルンツヴィークをクルリと回してみせる恋花だが、こういう派手なパフォーマンスを好むのは身近な相手だと藍、次いであの
「んじゃ、一葉も瑤もなんとか堪えててよ、ちゃっちゃと終わらせるから。行くよ藍、千香瑠!」
「うん、さっさとひんむく!」
「えっと、加減はしてあげてね……?」
そうなればもう教頭など周りに任せてしまえばいいと、ヘルヴォルなりの空気で気合いを入れているが、当の一葉と瑤は苦しそうな顔で頷きこそ返せても、もう口で返事をする余裕もなさそうなのだから、急場凌ぎにしては十分な効力は発揮しているようだと分析していると、堪え切れなくなった笑いが教頭の口から漏れる。
「ふっ……ふふふ、美しい友情ごっこね」
「生憎と、一から十までただのビジネスよ。必要な情報を黙っていて、無駄な被害を出したら査定に関わるもの。ねぇリーダー?」
「ん? まあそうだな」
ごっこも何も、どこまでも雇われが故の仕事に過ぎないと03は教頭からの皮肉にも一切動じず返すが、「まさか……」と零す優珂だけは、その言葉の指す本当の意味に気付いているようだった。
「ああ。あの校長のことだもの、当然下にも話しているでしょうね」
「……何、実はヘルヴォル全員が強化リリィでしたー。とかそういうオチ?」
「採点としては部分的に正解な△、かしらね。飯島恋花さん?」
ここまでくれば千香瑠とは仕込みのタネを変えた上で、自分を含む残り三人も漏れ無く処置済みよ☆
などと言われても、多少ショックは受けたとして「まあそうでしょうね」くらいには流せる程度の予感はしていると、もう悪そうな態度を隠しもしない教頭に悪党らしく『冥土の土産』でも期待して恋花が聞いてみれば、案の定気分が良さそうに答えてくれるのだから、追い込まれた悪党程分かりやすいやつもいないとは、この場の全員と共有出来る感想だろう。
「正解はあなた以外の全員。それにそこの相澤一葉は「ちぃっ!」ふふ、そう焦らなくても、事実は変わらないでしょう?」
もう完全に制御下に落ちたのか、『それ以上言うな』と言わんばかりに優珂がマルテを変形させて放った射撃も、CHARMを構えて教頭の前で楯のようになる一葉と瑤に阻まれてしまうのだから、下手に手を出せば巻き添えは避けられない配置に。
そして、舞台が整ったと見ると教頭は背後から一葉の肩へ手を置き、耳元で語り始める。
「相澤一葉、おかしいとは思わなかった? 何故あなたは時折他人の視点の夢を見るのか、何故それが自分の記憶と地続きなのか、何故その『お姉さん』のことを探しても彼女の生きていた痕跡すら見付からないのか……その全ては、日の出町の惨劇から始まったことよ」
「……また、あそこなの」
恋花としては、自身の背負う業の始まりの場所。しかし今は妙に饒舌に、何故か本人以上に一葉個人の情報に詳しいらしい教頭が聞いてもいないところまで話してくれるのなら、それよりもこちらだとすぐ意識を戻す。
「最初はどこぞの特撮番組のように脳を直接移植するだの、身体からの拒絶反応でダメになるに決まってるネタが上がっていたけれど、最終的に選ばれたのは、死んだマディックの肉体に他の『犠牲者』の記憶を転写、インストールすること……ここまで言えば、それが誰かなんて言わなくても分かるでしょう?」
最後の方は子供を諭すような、紛い者の教育者としての態度を見せ付けるように語り終えれば、恋花もそこまで察しが悪いつもりもない以上、意地だけで否定することも出来ない。
「それが、一葉だっていうの」
「────!」
しかも、タチの悪いことに身体の制御を奪っても、半端な仕込みの弊害か意識までは遮断されていないようで、急に明かされた『自分が既に死んでいる』という事実に一葉もショックで目を見開いていると、正面からは見て分かってしまう。
当然、そうなると分かっていて言ったのだから彼女の有り様には構いもせず、教頭は無感動に手をパチパチと叩いて続ける。
「正解正解、出来の良い生徒で先生嬉しいわ。しかも身体は本来未覚醒なマディックの物なはずなのに、リリィとして目覚めた彼女のレアスキルはちゃんと
「──もういいか?」
「ええ、録音は済ませたわ」
そもそも、零夜が追撃もせずこうまで教頭に好き勝手喋らせていたのは、念のため裏で得ていたデータの動かぬ証拠が欲しかったが故。だからこれ以上の能書きは不要だと、死角からの一撃が教頭の脇腹を抉る。
「ぐっ……!?」
「さて、欺瞞ももう必要ねぇか」
既にラボのシステムはこちらの手の内なのだからと、零夜が仮面を外し、懐にしまいながらその側面のボタンを押せば、認識阻害の効果も解け彼女のCHARMがその本来の──ボックスタイプに変更された先端部のアタックユニットと、グリップエンドからマギのワイヤーにて繋いだテイルブレード─いつぞや雪華が察したような、迷彩機能を搭載したビット兵器─を合わせ持つ、カスタムブリューナク『メディウス』としての姿を現す。
「とはいえ、こっちも少し時間を掛けすぎた。雑魚の相手は任せる」
「ええ。ではそこの彼女を借りるわ」
「……あ、はい!」
ラボに残るヒュージの反応が、このエリアに集まっていると外の霊奈から情報が入れば、指名された03に伴われて部屋を出ていく途中、琴陽が囁くように言葉を発する。
「……また、何かのお戯れですか。──様」
「そうでもないわ。運良く烏丸に助けられたとはいえ、仮に実家へ戻ってもまた拐われるだけだもの。なら何よりも先にゲヘナを潰す、という目的を共有出来たからこそ、こうして雇われているのよ」
◆◆◆
そして、残された面々はテイルブレードが瑤に弾かれるより先に零夜の元へ戻ったのを合図にして、傷口を押さえる教頭を横目に一旦仕切り直しの形に。
「改めて、操られている二人の対処はエレンスゲに任せる。悪いが、手加減出来るようなタチでもないんでな」
「了解、代わりにあっちは任せますわ。そういうことだから、クエレブレも今はこれ以上噛み付いてこないでよ?」
「そちらがヘマをしなければ。ですけどね、恋花先輩?」
一応は味方であるからか、優珂の呼び方も皮肉さは変わらずとも敵意は若干抜けているが、それでも刺が残っていて完全にではない辺り、ヘルヴォルそのものが最初からゲヘナに仕込まれたレギオンだというのは、恋花たちが思っている以上に深い問題のようだ。
「ぁ……ぁあ……」
「……本当に、ゲヘナのやることは毎度、悪趣味にも程があるわね」
そして、最早幽鬼のようにフラフラとしている一葉を見れば、こんなことをするために自分たちマディックを死後も弄ぶなど、許せた物ではないと優珂が怒りを露にしているところへ、千香瑠が並ぼうとするのは横に伸ばした手で制する。
「先輩は病み上がりなのですから、前衛は私に任せてもらいます」
「……ええ、お願いするわ」
返事が少し硬いことから、『今の仲間』も怒ってくれている……とは伝わるが、そんなことはなんの慰めにもなりはしない。
この手でゲヘナの企みを終わらせる。それだけが、散っていった魂へ捧げられる唯一の
「ぐ、ぅ……」
「瑤、あたしらはいつもいつも、面倒事に巻き込まれてばっかよね……例えそれが運命なんだとしても、最後まで反逆するしかないっしょ」
「やりなさい!」
「そうはいくかよ!」
こうなった以上、囲まれたままではどうにもならないと教頭も二人をけしかけて来るが、いの一番に止めるべき零夜は、アンカーを天井に打ち込みその頭上を越えて来る。
そも、烏丸隊の標準装備となっているアンカーガンは、本来こういう室内での運用こそが本領で、雪華の派手なパフォーマンスは、そんな用途から意識を逸らす意味もあった。
「くっ……瑤!」
一葉は優珂が受け持ってくれているなら、こちらは自分だと瑤の振り下ろす一撃を受け止めながら恋花が呼び掛けるが、仮に声が届いていようと、身体の方はどうにもならないようでCHARM越しに押さえ付けてくる力は強まる。
しかし、いざCHARM同士で打ち合うとなるとどうにも瑤たちのさせられている格好が目についてしまうというか、見るからにピッチリと身体に張り付くタイプのボディースーツは、下手に攻撃すればその下までダメージがダイレクトに通りそうで、ヒュージの技術でも流用しているのか今は変な模様が浮かんでいるのといい、作ったヤツの性根の悪さが滲み出ているようだ。
「というより、JKにこんなもん着せて喜ぶなんて、とんだ変態だけでしょうが!」
ホイホイと騙されたにせよ、仲間にこんな悪趣味が過ぎる格好をさせられて平常心でいろと言うのも無理な話ではあったが、幸いにして今は呉越同舟だろうと一緒に戦ってくれる相手はいたのだから、恋花が熱くなった分のフォローはすぐに入る。
「……これがゲヘナのやり方だと、分かってなかったとは言わせないわ」
「現状に甘えてたって? そりゃあもう嫌って程実感してるっての!」
その結果自分自身もゲヘナの毒牙に掛かったからと、自虐的にも聞こえる美岳の言い方はともかく、彼女がティルフィングで受けてくれたクリューサーオールの刃を、恋花がブルンツヴィークで横から弾けば距離が空き、見合う形に。
◆◆◆
周りのことを任せたからには、自分は教頭を抑える。と机の側へ降りる零夜だが、仕込みすら苦し紛れの半端な以上、ここで決戦を行うような備えは特にないと、教頭の装備は慌てて机の引き出しから取り出される、刃渡りが大きくとも極普通のナイフが精々のようだ。
「くっ……!」
なるほど、確かに閉所での戦闘においてナイフ程信頼性の高い武器も、そうはないだろう。
しかしそれは闇夜や物陰に隠れての不意討ちや、銃を抜くよりも早く相手を斬れるような距離まで近寄れた場合の話で、より強力な武器を持った相手と真正面から向き合ってのよーいドンで勝てるような万能性などは、決して持ち得ない。
これが急に悪意を露にし、相手が混乱している内に懐へ入り込めたなら、話は違ったはずだ。更に何か重要な情報を持っていると仄めかし、相手がそれを嘘と否定できず『ここで殺す訳にはいかない』と判断してくれたならば、より容易かっただろう。
しかし冥土の土産はもう十分と、途中だった話を遮ってまで自分のことを殺そうとしてきた相手には、どちらの可能性も今更望めたものではないのだから、度重なるダメージが残る身体で不恰好に構えてみても、素手よりはマシ。という形だけの抵抗の意思にしかならない。
「はぁ……こんなにも早く、他所にバレる予定はなかったのだけれど」
「お生憎様だが、今回は別にアンタ一人の問題じゃねぇ。ラボ選びが悪かったな」
実際彼女はゲヘナらしい活動から粛清候補ではあっても、優先排除対象にする程でなかったというのは、この程度の小悪党などゲヘナには掃いて捨てる程いるのだから、わざわざ零夜の時間を割く程の大物でもなし。という判断を下されていたから。
だから今こうして机越しに対峙しているのは、たまたまお互いこの時期にエレンスゲラボを選んだが故、それ以外の理由などありはしないと、ただ事実だけを告げて零夜はメディウスの切っ先を向け、テイルブレードを従者のように側へ浮かべる。