アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:アイスブレイクとワイワイワイワーイとあやしいふたりと乱闘開幕。

BBBBBBBBBB。
まあ、色々とすっ飛ばしてるから梨璃共々キャンセルするようなワープ(課金)進化もないし、全体としてもそんな脈絡もないポッと出の力に頼る必要なんてない進行になるんだけどナ!
ぶっちゃけ単に色替え商法したいだけだろ?って雑なのが多いし。もっとこうドラマ性をだな…
で、特に隠してるつもりもない彼女は番号の由来からピーチエナジーなんで、大体そんな役回り。

あと、三話前の地名ミス修正した結果があったりなかったり。短編でもこっちに移す前やらかしてたしなぁ…地理マスタリーは×です。


竜の終演

「おい優珂、本当にいいのか?」

 

「……ええ。なので緋紅様は、向こうのフォローを」

 

 こちらには蒔菜と結爾を残しておけば、不測の事態には十分と務めて冷静に告げれば緋紅も従いはするが、心配される理由など優珂とて分かりきっているのだから、未だ立ち直れていない表情のまま身体だけが勝手に動き襲い掛かってくる一葉を、CHARMごと弾き返す。

 

「わ……私は……ぅぅ……」

 

「……一葉ちゃん」

 

「先輩は撃てないんなら下がりなさい! 蒔菜!」

 

「はいはーい」

 

 その隙にスーツなりヘッドセットを攻撃してくれるならともかく、まだショックから完全に抜けきれていないのか、シューティングモードのゲイボルグをただ構えたままの千香瑠では、到底戦力にならない。

 即座にそう見切りを付けて早速呼びつければ、『円環の御手』持ちらしく両手にCHARMを携えた蒔菜がアステリオンとグングニル・カービンで弾幕を張り、ブルトガングを盾にさせる形で一葉を釘付けに。しかし、蒔菜が優珂と入れ替わりに近寄れば直ぐ様迎撃の構えを取るのだから、簡単に壊させてはくれないようだ。

 

◆◆◆

 

「そういうことで、助太刀するぜ美岳」

 

「緋紅か……相変わらず強引ね」

 

「へっ、お互い様だろ!」

 

 美岳が転校してガーデンが別れたとて、同期なのは変わらない。初見なやつより勝手は分かると、彼女への反撃にモンドラゴンを割り込ませる形で緋紅が瑤側に来れば、これで人数的には残った面々が半々に別れる形になる。

 しかし、いくら広さがあるといっても室内には違いない以上、二手に分けたのもあって実質使える空間はそう多くはなく、今は美岳と緋紅が瑤を押さえている中ヘルヴォルの二人が下がる形になり、何も考えずに突っ込めば「えらいこと」になるとの自覚はある藍が、隣の恋花に相談中。

 

「どうしよっか?」

 

「いっそ隣の部屋なり廊下なりに連れ出して……いや、あんましやつから離し過ぎると呼び戻されるか」

 

 こちらが混戦になっているのとは対照的に、ゆっくりと机を挟んでその周りを回る形で牽制し合っている零夜と自称教頭だが、元シルトな雪華の戦い方を見るに、彼女とて本気ならば時折わざとナイフに弾かせているテイルブレードだけでなく、CHARM本体や手なり足なりも出しての連撃だって余裕だろうから、下手に追い込みすぎて操られている二人が護衛と呼び戻されないよう、わざと引き伸ばしてくれているんだなとは察せられる。

 

 ──つまるところ、それは自分とそう歳の変わらない新卒社長さんが、曲がりなりにも大人─しかもゲヘナとなれば、どうせリリィたちにやっているのより遥かに上質な強化も自らの身体に施しているのだろう─相手に分かりやすく手加減をする程の余裕があるということで、下準備の差や複数回の不意打ちによるアドバンテージが積み重なった結果、今更足掻いたところでどうやっても覆せない明確な壁として、悪意(ゲヘナ)の前に立ちはだかってくれている。だから、その背を見ているお陰もあって少し思考に割ける余裕は、恋花にも与えられた。

 

(けど、本当にこんなちゃちな装備だけで、そんな簡単に人を操れるっていうの?)

 

 本来は長々とした仕込み期間が必要らしいということもあり、いつでもどこでも即催眠! だなんて薄い本のようなお手軽不思議パワーなどではないようだが、どうにも今回の一件はありとあらゆる所がヘンだ──なんて恋花が腑に落ちないままでいると、装備の影響か身体の負担を考えずに動かされているからか、あるいは双方が重なった結果として、こちら側の前を任せた二人は瑤を攻めあぐねている。

 

「くそっ、加減しながら相手するってのも、思ってたよりやり辛いな!」

 

「あなたたちクエレブレは、そういう言葉とは無縁な戦いを続けていたそうだものね」

 

「ああ? ま、そうでもなきゃ事故も装えないしな!」

 

 聞かれて困る相手もいないと滑った緋紅の言葉から、エレンスゲ全体の戦い方が周辺の被害を考慮しない、他校の生徒会長に『野蛮人』とすら例えられる程荒っぽいのをいいことに、クエレブレが出動先近辺のゲヘナ関連の施設へ『故意の流れ弾』をぶちこんだことは一度や二度どころではなさそうで、そういうスタイルでやってきたからこそ、優珂からもさっさと壊すべきという選択肢が出て──

 

「──ん?」

 

「恋花?」

 

 待て。さっきといえば、今は出ていったあの朱髪の執行部隊員はなんと言っていた? そう、『機械の補助』だ。

 しかし、教頭が直接何かを使って操作している様子もない以上、ラボのどこかから流した電波なりなんなりを受信させている……というより、操るという観点で見れば、そうしないと不測の事態でも予め定められた行動しか取れない木偶の坊にしかならず、使い物にならないだろう。

 

「藍! 部屋ん中になんか怪しいものない!?」

 

「んー……ぜんぶ!」

 

「いや、そう言われたら何もかも怪しいけどさぁ!」

 

 しかしそうなると逆に分からなくなるし、一人で逃げ出そうとしていた以上、他に協力者がいるでもないならあまり遠くに置いていると、今度は襲撃の最中壊される恐れもあるのだから、この部屋の中に目立つようなものがないようならば……隣か?

 

「千香瑠、ちょっとあっち見てきて!」

 

「恋花さん? で、でも一葉ちゃんが……」

 

 恋花の指差す方が零夜の壊してきた扉の跡、と見れば言いたいことは伝わるが、千香瑠が一葉とそことで視線を何度も往復させて決めかねていると、意外な所から援護が来る。

 

「満足に引き金を引けもしない先輩一人、抜けても別に問題ありません。ねぇ蒔菜?」

 

「いや、人に前任せといて言う台詞がそれ?」

 

 とはいえ、結爾とて蒔菜の隙を潰すよう、一葉のブルトガングをブリューナクからの射撃で弾くとしっかり支援はしてくれているのだから、彼女が顔だけでも振り向いて文句を言う時間くらいは、作れているのだが。

 

「……分かったわ!」

 

 結局、仲間に銃口を向けるのすら躊躇うようなら、他にやれることがある方が気も楽だと、依奈に借りた衣装のマントを翻し、千香瑠は隣の部屋へ駆け込む。

 

◆◆◆

 

「ここね……」

 

 しかし、初めて入る部屋なのだから診察台のようなものの横に置かれた籠に二人分の制服が畳まれている以外、特に目立つ物も見付からず、空振りになるようなら、今度こそ覚悟を決めて一葉と対峙するしか……そう思考が進んだところで、手に持つゲイボルグが何かにコンコンと叩かれたことに気付き、千香瑠が視線を下げれば──

 

「──ビット?」

 

 それも、雰囲気が零夜の先程から使い倒しているものや、雪華が用いているブレイザーのソードビットたちに似ている。と千香瑠がなんとなく感じている中そのビットが上に向かい、目で追えば天井の一角でその同型機が何かをしている。

 

「あれは?」

 

 ジジジ──とビットたちが至近距離でのレーザー照射で天井を切り取れば、いかにもそれっぽい機械が落ちてくるのだから、恐らくはこれが……

 

『まだ外でやることがあるので、中はお任せしますね』

 

 そう、千香瑠が確信を得ようとしていたら部屋の中の端末でもジャックしたのか、不意に霊奈の声だけが聞こえたのに一瞬ビクリと身体を震わせるが、言いたいことだけ伝えると端末の電源を落とし、ビットを他所へ飛ばしているのなら、本当にそれだけだったのだろう。

 

「……やぁっ!」

 

 ともかく、任されたということはこの装置が二人をおかしくしている一端を担っていると思っていいのだろうと、ゲイボルグの刃を上から突き立てるようにして、装置を破壊する。

 

◆◆◆

 

 宙に出したモニターを操作しつつ、中に送り込んだ二基とは別に、自身の周りに四基のビットをステルス状態で浮かばせていれば、そちらのセンサーと自分で感じた気配、その両方が再度の来訪者を伝えてくるから、霊奈は今度も最初は振り向かずに対応する。

 

「今日は随分と来客が多いですねー」

 

「……まさかここまで大掛かりな作戦を表から仕掛けられるとは、いったい何と戦うつもりなのかしらねぇ?」

 

「無論、『世界』とですよ」

 

 故に使えるものはなんでも使うし、必要ならばこうして表向きはコキ使われもする。世間様に見られて大丈夫な範囲でなら、本当になんでもするのが烏丸のやり口な以上、こうしてリリィ側から疑ってくれる内は、逆に問題ではない。

 

「世界……」

 

「そう。私たちリリィを使い捨ての道具にしておいて、その犠牲を当然のものだと思い込み報いることも詫びることもない、歪んだ世界。それを徹底的に破壊して、破壊して、破壊し尽くして……その主犯であるゲヘナなんぞの居場所がこの世に欠片も残らないようにしてようやく、私たちの復讐は果たされるんですから」

 

 鳥船霊奈には過去がない。ラボに拐われる前の故郷も家族も、それらにまつわる記憶は実験の中ひとつ残らず奪われて、同じ部屋に叩き込まれていたもう一人な零夜だけが世界の全てだった──その頃から少しは『身内』とする範囲は広がったものの、故にこそ、彼女らを害する世界への敵意は、より一層研ぎ澄まされている。

 

「だから、まだ戻れるラインにいるあなたたちまで、こっちに落ちてこなくていいんですよ」

 

「……あたくしが?」

 

「はい。だってあなたは『まだ誰も殺していない』んですから」

 

 振り向きながら告げられる言葉、それを聞いたオッドアイのリリィ──燈は「何をバカな……」と口を開こうとして、その裏側の意味に気付けば、驚きを隠すようにして白けたような顔に。

 

「はん……『そういうこと』だと?」

 

「そういうことなのです。いくら肉体を破壊しようと、その存在に“完全なる死”が訪れていないのなら、決してそいつを殺し切れたなんて言えませんから──そして、そんな小手先の手品に甘えているから、トリックが割れた後も馬鹿一辺倒に同じネタを使い続けて、今夜こんなところでくたばる羽目になるんですよ」

 

 結局のところゲヘナの成果と呼べる物の内、『とある系統』のものは技術的な再現性などある方が非常に珍しく、それ故にひとつ目立った成功例が出れば、一部の物好きはこぞって同じ物を使い回す──そんな、甘えたと言い切れる動きになってしまっている。

 だというのに、他人に指摘されるまで燈の頭にその可能性が欠片すら浮かばなかったのは、当時の状況が悪かったが故か、あるいはラボ時代に刷り込みでもされていたか……いずれにせよ、わざわざそんな気付きを与えてくる辺り、どうにも烏丸周りの連中はリリィにやたら過保護だと、そんな感想にはなるのだが。

 

 しかし、そこで『自分たちと違って』だなんてニュアンスを言外に含めているところからして、確実に始末する手段は用意してあるようなのだから、卒業した面々の方は雪華より大分過激なようだ。

 

◆◆◆

 

「────?」

 

 洗脳──というよりは強化リリィであるらしいことから、わざわざ着せたスーツも利用した肉体のコントロールの方が近いのかもしれないが、それが乱れたのか瑤の動きに微妙なラグが混ざりだした。と見れば、緋紅の行動は早い。

 

「はっ、どうしたどうした? もうへばったのかよ!」

 

 露骨な挑発。しかし瞳に光を失くし、機械のようにぎこちない動きな今の瑤には単純に過ぎるそれでもただ反応するだけには十分なようで、CHARMの矛先が自分に向いたのを確かめつつ横目で美岳の方を見てくれば、囮になってくれているとは伝わる。

 

「ぐっ……今だ、やれ!」

 

「っ、はぁっ!」

 

 とはいえ、機械的な対応に切り替わったのもあり、これまで以上に攻撃には素直に反応してくれるが、狙いが正確過ぎるなら逆に分かりやすいと、美岳がティルフィングの刀身部分の連結を敢えて外しながらクリューサーオールの一撃を受ければ、脱落するパーツごとすっぽ抜けるように振り抜かれた隙に、瑤の懐へは飛び込めた。

 

「────!」

 

「これ、でぇっ!」

 

 瑤が腕を引き戻すのは、緋紅がCHARMの軌道へモンドラゴンを割り込ませて妨害しているし、他の二人はそれぞれの担当が足止め中。

 ならば後はショートブレードを突き出せば、片側を破壊されたヘッドセットはそのまま弾かれるように瑤の頭より離れ、床に転がる。

 

「どうよ! これでまずは──」

 

異常……確認……システム……強制的に最終段階へ……あ、あああっ!?」

 

 無理矢理読み上げさせられているような、平坦過ぎる警告メッセージのような発言の後、瑤が頭を押さえて苦しみだしたと思えば、彼女から放たれる波動のようなマギに、近くにいた緋紅と美岳は、揃って入り口付近まで吹き飛ばされる。

 

「うおっ?」

「何っ!?」

 

 周りへの影響としては、零夜と教頭は机の影へ隠れ、ヘルヴォルの正気な面々は隣の部屋への入り口辺りに集合し、千香瑠が展開した『ヘリオスフィア』の裏へ、一葉に対応していたクエレブレの三人は、前で対応していた蒔菜が一葉を波動の盾にするため二刀のCHARMで挟んだブルトガングを引っ張るようにして回り込んだのを見て、その影となる位置へ。

 

 そして、嵐のようなマギが収まった中心にいた瑤は──

 

「──────」

 

「よ、瑤、さん……?」

 

 まるでスーツ自体がヒュージと化し、瑤がその本体代わりとして取り込まれたような姿に千香瑠が言葉を失っていると、盾にされたダメージで動きの止まった一葉越しに、蒔菜が面食らったような声を上げる。

 

「ちょっ、再起動の第二形態とか聞いてないんですけど!?」

 

「最早やり口が侵略宇宙人とかのそれですね」

 

 人の心がどうとかでなく、元から違う種族だと言われた方が納得が出来る程、悪辣な手口だと結爾が呆れていれば、机の影から顔を出す教頭の方も意外そうに目を丸くしている。

 

「へぇ、まさかここまで簡単に適合するだなんて……想定以上ね」

 

ゲヘナ(お前ら)の言う想定なんざ、とりあえず何らかのデータが取れりゃあなんだって成功以外を、ハナから考えてもいないだけだろうが」

 

 反対側から同じように顔を出す零夜が言葉に一切の熱を込めず両断するように、ゲヘナが例えどんな結末だろうと勝ち逃げのような雰囲気でいられる理由など、『勝利以外の結果なんてない』と最初から決めているような、あまりにも基準の甘過ぎる自己判定でしかない。

 だからこそ、自分たちの定めた勝利条件こそが唯一絶対だなんて、ありもしない大前提が音もなく崩れ去っていることに、誰も気付こうともしない。それが驕ったまま頂点を気取ってしまったゲヘナの限界で、もうその先などないという終着点──ここまで来ても逃げ出せばなんとかなると思ってしまっている時点で、二度と勝者の側に立つことなど出来ないというのに。

 

「まあ、確かにこれは思ってた中で一番『勿体無い』終わり方ね。何せここまでステージが進行しちゃったのは、完全に自我が崩壊した証だもの」

 

「「………………え?」」

 

 空気を切り替えるように告げられるのは、井戸端会議のノリでサラリと言っていいような内容ではないが、それ故に教頭の言葉から嘘は感じられないと、スーツに浸蝕されたかのようになっている瑤の有り様に次の手を考えていた恋花と千香瑠、二人の思考が同時に止まる。

 

「……優珂、こうなったら介錯も選択肢ですか」

 

「敵対することになった場合も、ヘルヴォル相手の命令は確保よ。例え何人廃人と化そうが、そこは変わらないわ」

 

 努めて冷静に状況の確認をしているクエレブレも、その下の怒りまでは隠しきれていない。それが余計に事実なのだと突き付けてくるが、だからこそ恋花は、一歩前に踏み出す。

 

「……藍。()()()は任せるから、マギも元気も溜めといてよ」

 

「恋花?」

 

 藍の頭へ手を置いてから前に出る恋花の言葉に、何へのトドメかとハテナを浮かべるのは本人だけで、他の面々は妙な覚悟を決めたような恋花の表情に、嫌な予想は出来てしまう。

 

「恋花さん、まさか……」

 

「……冗談、心中なんてあたしも瑤も趣味じゃないってば。動きは止めたげるから、その隙に全力でぶっ壊せーってだけ」

 

 幸いにも瑤が纏うスーツはヒュージのような状態になった影響か、その一部だけが分かりやすく肥大化しているのだから、後は本体の動きさえ止めれば『ルナティックトランサー』発動中な藍でも、見るからに異常な部位だけを狙って壊すことは出来るだろう。

 しかし、簡単に作戦を説明する恋花の様子は妙に落ち着いていて、怒りも極まって逆に頭が冷えた……とも思い難かったが、千香瑠がそこを指摘出来ないまま続きが告げられる。

 

「どっちにせよ瑤があんな有り様になったんじゃ、まともにやり合うにはあたしか藍がレアスキル切るしかないっしょ? で、保つ時間考えるとあたしが足止めして藍でフィニッシュ、多分これが一番合理的。大丈夫、あたしはまだ冷静だから」

 

 まだ──なんてわざわざ付けている辺り、一気に言い切ったのを含め恋花自身ギリギリのラインである自覚はあるようだが、だからこそ単純な打ち合いで済む足止めに徹して、トドメは難しい言葉だらけな事態に理解が及んでいないのか、あるいはそんなことは関係なく仲間を助けるのみと、ただただ一直線なだけなのかはともなく、雰囲気は普段通りな藍に任せる。

 

「……分かりました」

 

 そうと言われれば、千香瑠も納得は出来てしまう。それに、先程まで瑤の相手をしていた二人も、吹き飛ばされたまま未だ起き上がれない様子から、これ以上前には出せない。なら──

 

「瑤さんはこちらでなんとかします! クエレブレのみなさんは引き続き一葉ちゃんの方をお願いします!」

 

「言われずともそのつもりよ……色々と、保証は出来ませんが」

 

 期せずしてレギオン別に分かれることとなったが、そのことを伝えても優珂の態度はどうにも固いまま。事実瑤がこうなってしまった以上、一葉の方もいつどうなってしまうのやらだが……まずはこの状況をなんとかしないと、その後の話をしてもいられない。

 

「さてと、やりますか──」

 

─フェイズトランセンデンス─

 

 恋花がレアスキルを発動し飛び込めば、今度もやはり瑤は機械的に反応し攻撃してくるが、スーツの何ヵ所からか伸びる先端が爪のように鋭くなっている触手でと、その手口は大分ヒュージ的で、もうダメなのだろうかという予感を加速させる。

 

「それでも、この程度で止まってらんないのよ!」

 

 事実『フェイズトランセンデンス』で得た出力に物を言わせ、防御結界のみでも弾いて強引に突っ切ることは出来たが、この場合恋花より問題になるのは……

 

─ヘリオスフィア─

 

「……っと、悪ぃ」

 

 まだ動けない緋紅と美岳を狙った分、それと一葉側の邪魔にならないようにヘリオスフィアの光壁が空間を切り取るように展開され、恋花と瑤、それ以外とを分ける形に。

 

◆◆◆

 

(どうして、こんなことになっちゃったんだろう)

 

 意識の奥底、というものだろうか? 身体の異変と共に完全に外と切り離されたまま、誰の声も姿も分からない暗闇の中で、ただ後悔だけが積もっていく。

 

(わたしが、もっとしっかりしていれば……)

 

 結局状況に流されるまま、ゲヘナの掌の上でしかなかった。それも、言い種からヘルヴォルが結成されてからずっとずっと──

 

 

──本当に?

 

 

 だというのなら、ヘルヴォルの訓練にはあまりにも非効率的で、理論的に正しいのか正直言ってあやふやなものも多かった。

 本当に全てがゲヘナの糸に括られていたのなら、普通はもっと常識的に、もっと効率的に、下手に悪目立ちなどしないように……そしてガーデン、というよりその裏のラボと対立するような無駄な言動も、当然許されないはずだろう。

 

 ……それに、仮に全ての行動が大人(ゲヘナ)に操られてのものだとしたのなら、〈ヘルヴォル幼稚園〉などとすら揶揄されるような騒ぎ方を考えていたのも、当然いい年をしたお偉いさんたちだということになり、そんなことの内容をTVでよく見るような無駄に広い部屋で大真面目に会議でもされていたのなら、なんだか別の意味で嫌だなとなる。

 

(…………あれ?)

 

 結局こうやってすぐ脇道に逸れる考えこそが、全てがゲヘナの思惑通りに進んでいるという幻想が口から出任せの虚勢に過ぎないと示してくれはするのだが……普通こういう時は、仲間の呼び掛けで目覚めるだとか、掛け替えのない思い出が呼び戻してくれるだとか、もう少しロマンチックなものだろうと言いたくなるから、『瑤』の思考が覚めてくる代わりに、なんとも言えない空気が漂う。

 

(けど、その方が『わたしたち(ヘルヴォル)』らしいのかも)

 

 誰もが欠点があって、だからこそ自分たちらしくいられる。そんな不完全な日々を愛おしいと思えるのだから、自分たちは決してゲヘナの操り人形なんかじゃないと──それに、レギオンの仲間と馬鹿みたいに騒いでいる時間が、大切な時間でなかったなどと、誰にも言わせたりしない。

 

「……う……よ……瑤!」

 

(……恋花?)

 

 そこで途切れ途切れに、不定期なリズムで、叩き付けられるように響いてくる言葉。それは音に乗ってのものというより、心に直接届いてくる感じで、だからこそ今のよく分からない状態な瑤にも聞こえたのだろうと分かったから、手を伸ばすのでなく、こちらも心で応えよう。

 

◆◆◆

 

『……恋……花……聞こ……え……?』

 

「……瑤?」

 

 千香瑠が周りと切り離してくれたが故の一騎討ち、その最中何度目かのCHARMを打ち合わせた時、どこかから響くように瑤の声を感じたと、恋花も気付く。

 

『わたしが……なんとか……してみるから……お願……』

 

「なに? どうしろって?」

 

 下手にマギを放出したりもしていないから、まだレアスキルの時間には余裕がある。だから力任せに、ブルンツヴィークでクリューサーオールを強引に押さえつけるよう下げさせると、身体からぶつかるように瑤へ触れる。

 

『そのまま……抑え……』

 

 そうしていると、聞こえる声が途切れたと同時にクリューサーオールのグリップを握る手が片方離されるから、CHARMを抑えられたなら今度は物理かと、恋花も身構えるしかない。

 

「んのっ、ヘルヴォル──」

 

『ヘルヴォル……舐めん、なぁっ!」

 

─ブレイブ─

 

 しかし振りかぶられた手は、彼女でなく瑤の胸元へと、マギの光を込めて振るわれるのだから、台詞を取られた恋花が眺める中ヘリオスフィアの光壁越しに周りにもその光景は伝わり、真っ先に教頭が反応を零す。

 

「……エンレイジ? この状況でなんの意味が」

 

 レアスキル『ブレイブ』は、他者に使うと負のマギの浄化や、それを用いるルナティックトランサーの強化安定を図るといった効果になるが、自身に仕様するとその効果は実質反転するという、珍しい特性がある。

 区別のためもあり〈エンレイジ〉と呼ばれるそれは、例えるならば暴走まではいかないルナティックトランサーのような強化技となる反面、負のマギが浄化されるどころか逆に蓄積してしまうというリスクもあって使い手はそう多くなく、当然瑤も元より消費が激しく使用回数の限られるレアスキルで、そのような博打を好むような戦闘スタイルではなかったはず。ならば何故──

 

「──っ! はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

「瑤!?」

 

 止まっていた息が急に戻ったかのようになりながら態勢を崩し、恋花に受け止められる。そんな瑤の姿はスーツ側の変異こそそのままでも、首から顔へと広がっていた浸蝕の跡が消えていることから、正気に戻ったのだとは察せられた。

 

「藍ちゃん、今!」

 

「いっくよーーーっ!」

 

─ルナティックトランサー─

 

 だから理屈など分からずとも、チャンスには違いないと千香瑠が囲いの一ヵ所を開ければ、レアスキルを全開にした藍がそこから飛び込み、瑤の纏うスーツで特に巨大になっていた部位をモンドラゴンで叩き壊す。

 

「瑤、瑤ってば! 生きてんなら返事して!」

 

「……ごめん、ちょっと苦しい」

 

「いやだってわぁっ!?」

 

 その衝撃に加え、肩を掴んでくる恋花にグラグラと揺さぶられては瑤も堪らないようだが、少なくとも正気には戻ったらしいことに、フェイズトランセンデンスの時間切れで身体の力が抜けたのに合わせ気の抜けた恋花がへたれ込めば、瑤も釣られて彼女の上へ倒れる。

 

「どういうこと……? システムが未完成だったから……それともまだ完全に馴染む前で……不安定だったのが……エンレイジによる負のマギ……追い出された……?

 

「…………」

 

「……先輩の様子で、大体の位置は分かった。こっちは装置を同時に破壊するわ、結爾」

 

「了解。人使いが荒いですね」

 

 教頭が事態を分析しようとして、動きが完全に止まっているのを零夜すら放置しているのなら、わざわざ相手をする必要もないと優珂も思考を切り替え、詰めのピースを填めるよう指示を出す。

 

─ファンタズム─

 

「私が腰の装置をやる。そっちは序列1位を抑えつつヘッドセットを破壊!」

 

「これ、結爾も手伝ってくれる前提でいいんだよね?」

 

「そう視えたんなら、わざわざ聞き返さないでください。時間の無駄です」

 

 打ち合わせも『ファンタズム』のおかげで一瞬で済むのだから、ダメージから立ち直った一葉がCHARMを振るってくるのに合わせ、優珂と結爾は左右へ、蒔菜は背後に跳ぶ形で一度散るクエレブレ。

 

「んじゃ、もう流れ弾とか気にしないでいいよね……そりゃっ!」

 

 蒔菜がその勢いで壁に背を付けながら、両手のCHARMをシューティングモードへ切り替え、ブルトガングを水平に構えたまま突っ込もうとする一葉へ向け乱射するが、弾かれた弾や逸れた分が跳ねたりで、部屋の中は一気に騒々しくなる。

 

「……視えてはいたけど、ひどい有様」

 

「もういつものことでしょう」

 

 そんな未来も既に視ているのだから、結爾や優珂は屈んで跳弾による被害を被るのを避けるが、そうも行かないのが約一名。

 

「やばっ。千香瑠、こっちにバリア多めに回して!」

 

「大丈夫、このスーツ見た目よりは防御力あるから」

 

「いや、そうみたいだけど!」

 

「えいっ」

 

 恋花に文句があるとするのなら、動けないのを庇うためとはいえ瑤に覆い被さるようにされている状況そのもので、二人の前に立った藍がモンドラゴンを床に立てる形で楯にしてくれて、ようやく解放される。

 

「……なんというか、久しぶりにエレンスゲだなという感じね」

 

「微妙に否定しにくいのやめてくれないか?」

 

 エレンスゲは上がほとんど信用ならないのと、所属するリリィ個人個人の癖が強いことが合わさり、結果として身内で騒いでいるイメージばかりだと、隣で倒れる美岳に懐かしまれては、他所からはよく『エレンスゲは治安が悪い』と陰口を叩かれていることもあり、どうにも返す言葉に困る緋紅だった。

 

「んで、例の技が来ると!」

 

 突撃の勢いを乗せた連続の回転斬り、一葉が得意とするその攻撃も、本人の意志で放つのでないのなら精度はお察し。ただ型にはまっただけの物に成り下がったのなら、円環の御手の敵ではないと一撃一撃に両のCHARMを合わせて勢いを削ぎ、四撃目を二刀で完全に受け止めたタイミングで蒔菜は左右に異彩の目線を送るが、それに応じて優珂と結爾が距離を詰めれば、一葉が何かを呟いているのに気付く。

 

「……を……して……」

 

「ん?」

 

「私を……壊して……ください……」 

 

◆◆◆

 

──私は一体誰なのか

 

 その答えは、あまりにもあっさりと明かされてしまった。『お姉さん』の存在を上書きするように、『相澤一葉』という別人の存在が貼り付けられて……嘘だと否定しようにも、継ぎ接ぎされたような歪な夢を見ている理由として、他に考えられないと納得してしまった自分がいる。

 

(なら、もういっそこのまま、道具として使い潰される方が相応しいのかもしれない)

 

 あのマディックのお姉さんがいたから、今の自分がある。だけどそもそも今の自分がいるからこそ、あの人はもう……瑤のように抵抗する素振りも見せられないのは、一葉の心の中にあった大切な芯が、ポッキリと折れてしまっているからで、思考もどんどん深く沈んでいく。

 

(そういう意味ならば、優珂さんには誰よりも私を『壊す』資格があるんだろう)

 

 松村優珂がマディック上がりの強化リリィだというのは、エレンスゲの内外問わず有名な話だし、強化リリィのあるべき形というのは、大人の欲望のまま大した理由も意味もなく「ただやれるから」と造り出されるのでなく、戦う力の足りない者が、それでもと手を伸ばす手助けであるべきだろう。

 ならば、彼女の方がよっぽど叛逆の旗頭に向いていると、後を任せることに不安もない。

 

(だから……お願いします……誰か……私を……壊して……)

 

◆◆◆

 

「ふざけるんじゃないわよ!」

 

 ──『壊して』? 『殺して』ですらなく、自分で自分を物扱いと来たか。よりによって()()()()()()()()そんなことを言うのか、このお飾りの序列1位は。

 

 その怒りのまま、本来ならスーツ側の装置に向けCHARMを振るうべきタイミングだというのに、優珂の拳は一葉の右頬を打ち抜き、胸ぐらを掴んでいた。

 

「ちょ、優珂!?」

 

「まあ、こうなるでしょうね……へぇ?」

 

 二人にテレパスで送ったより先の未来も、こっそり視ていた結爾としてはこれも可能性のひとつと読めていた展開なのだから、反撃を防ごうとブルトガングを弾こうとして、優珂に吊られ垂れ下がっていた一葉の腕が、ヘリオスフィアにより空間へ縫い付けられるように固定されているのに気付く。

 

「一葉、ちゃん……!」

 

「んな結末誰も望んでないっての、さっさと目ぇ覚ましなさいよ!」

 

「藍、何か呼び掛けてみて」

 

「えっと、かずはが起こしに来てくれないと、らん、また遅刻しちゃうよ?」

 

 それを成した千香瑠も駆け寄り、四人一塊になった残りのヘルヴォルメンバーからの呼び掛け。藍のそれがどうにも気が抜けるものだからか、釣られて恋花も前々から言いたかったことが飛び出す。

 

「それに、あんたたちだけ・J・の財力で取り寄せさせた築地のマグロ食べてんでしょーが!」

 

「いや、それは単に恋花の不養生が……」

 

「今はんなこたぁいいの! あたしも企画側だったのに楽しめなかった夏の海、それもゲヘナの企みだって言いたいのって話! 楓や姫歌も、他のレギオンの皆も、実はゲヘナの仕込みでしたって? あり得ないでしょ」

 

 それでも、理屈としては今この場で持ち出す意味を持たせる辺り、恋花も本気ではあるのだろう。悔しがっているのも、また別方向に本気なだけで。

 

「恋花、様……」

 

「一葉。例えわたしたちが集められたのが、最初からゲヘナの企みなんだったとしても……それからわたしたちで積み上げた思い出まで、嘘になる訳じゃないよね」

 

「瑤、様……」

 

「一葉ちゃん。私だって、自分の身体のことを何も分かっていなかったから、隊長や雪華様たちに余計な手間を取らせてしまった……でも、そのおかげって言うのも変だけど、私はやっぱり、ヘルヴォルの一員でいたいって気付いたの。五人揃った、『家族』の一員で」

 

「千香瑠、様……」

 

「かずはは、楽しくなかったの? らんは楽しいよ、ヘルヴォルのみんなといるのも、他の学校のみんなと会うのも!」

 

「ら、ん……」

 

 確かに、今になって暴かれし真実を否定することは出来ないのかもしれない。だが急にしゃしゃり出てきたそれに、今までの道のりを否定する資格も、またないのだろう。

 一度砕けた物が、綺麗に元に戻るなんてことはない。ただ、一葉一人で立つ理由でなく、仲間と共に歩んでいくための理由ならば、まだいくらでも残されていた。

 

「……先程の発言を、訂正させて下さい」

 

「フン。好きにすれば?」

 

 思えば、身体こそ自由に動かずとも、もう口だけは大分好きに動かせるなと一葉も気付くが、そんな思考は脇に追いやり、自分の失言もあって不機嫌な優珂に、改めて告げる。

 

「私たちを縛る鎖を壊すために……あなたたちの力も貸してください!」

 

「今更ね。けど、手を貸すのは今回限りよ。あんたたちのお守りだなんて、いくら任務でも二度と御免だわ」

 

「そういうのって、結局なんだかんだ言ってズルズル何度も助けるハメになるやつだよねー」

 

「まあ、それだけヘルヴォル(こいつら)が手間の掛かる相手ということです。諦めましょう」

 

 レギオンの同学年組から聞こえた遠慮の欠片もないぼやきに、優珂の額に立つ青筋も穏やかでなくなってくるが、「なんだかきいたんみたーい」という藍の感想までは、恋花以外の二年生二人に口を抑えられて届かずに済む。

 とはいえ、結局の所一葉の身体は未だ操られたままのようで、固定されている腕がもがこうとしているのは見えるのだから、結爾は予定通りブルトガングを弾き、後はスーツを破壊するだけ。

 

「先に言っておくけど、先輩の有り様を見るに強引なシステム切断の反動は相当よ。歯を食い縛りなさい!」

 

「────!」

 

 いざ任されてみれば、死ぬ程痛いのを想定してか目を閉じ思い切り力んでいるような顔を見せられ、どうにも調子が狂うが、蒔菜に目配せをして、同時にCHARMを突き出し上下の装置を破壊する。 

 

「ぐ、ぅ……あっ……」

 

◆◆◆

 

──暗闇──熱──炎──煙のにおい

 

 また、いつもと同じ()()の光景。ただ、それすら靄の向こうのようにどこか遠く感じてしまうのだから、どうにも反動が想像以上だったのだろうと、今度こそ『本当に終わり』なのかと一葉に思わせてくる。

 そのことに仲間を置いていく後悔はあれど、これ以上ゲヘナの思い通りになって皆を苦しめずに済むなら、それでもいいかと目を閉じようとして、その後の流れがいつもと違うことに気付く。

 

「──え?」

 

 本来ならば、致命傷を負った自分が瓦礫の中息絶えるのをお姉さんが見届けてくれた後、夢は彼女の視点へ切り替わるはず。

 だというのに、視点は変わらず誰かに優しく起こされたように視界が上がり、背中をトン。と押されたとなれば、驚いた一葉は反射的に振り向いた。

 

「なん、で……?」

 

『────』

 

 その人影の見え方は風景より更に曖昧で、口の動きが見えた訳でも、声が聞こえた訳でもない。ただ、送り出してくれているという気配だけは感じたから、一葉は息を飲んだ後、靄の向こうの見覚えのある気がするシルエットへ、頷きと返事を返す。

 

「っ──はい、行ってきます」

 

 当然、この言い方が正しいのかすら分からないが、彼女が自らのルーツ、ある意味で『もう一人の自分』だというのならば──だから、この場所から、過去の光景から一歩踏み出すには、この言葉が相応しいと思えた。

 

◆◆◆

 

「……その、こんな時に言うのもなんですが。改めて見ると、結構可愛いんですね、優珂さんって」

 

「はぁっ!?」

 

 ──正気に戻った。というにはいきなり口説きに来る辺り、結局元より頭はおかしいやつか。

 などと一葉にもたれ掛かられる形になる優珂が呆れきった反応をしていると、ようやく立ち上がれた緋紅と美岳の間へ、部屋に戻ってきた影が立つ。

 

「向こうは片付いたわ。こちらも……もう終わりのようね」

 

「確かに、これは潮時かしらね」

 

 手駒とするはずだったヘルヴォルの二人は解放され、ヒュージを任されていた二人も戻ってきた以上、もう完全にこの場は『詰み』となるのだから、教頭も話を畳む雰囲気でいた。

 

「ふふ、今日は楽しかったわ。また会いましょ──」

 

 言い切る直前、糸の切れた人形が如くガクンと教頭の頭や腕が垂れ、ナイフも音を立てて床を転がるが、零夜は『慌てて逃げた』のを追うこともせず、淡々と告げる。

 

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

 零夜の言葉に応えるようにバチリと、何かに拒絶されたような、そんな感覚と共に跳ね返されるように意識が身体に『戻され』れば、教頭も想定外の事態に明らかに狼狽しているのだから、隙だらけなどとわざわざ言うまでもない。

 

「────!?!? あ、あり得ない……!」

 

「あり得ない──なんてことこそあり得ない。研究職ってのは、普通そういう考え方じゃないのか?」

 

 呆れるように吐き捨てた零夜が机に手を付いて飛び越えながら迫れば、直前まで()()()()()ようになっていたのだからメディウスを胴体に突き刺されるのに教頭は反応すら出来ず、零夜はその勢いのままCHARMごと彼女を壁に叩き付けると同時、アタックユニットを上下に開く。

 

「これでゲームオーバーだ。先に逝ってろ、お前らの大好きな煉獄(あの世)ってとこにな」

 

「ガ──」

 

 突き出るように現れる二門の銃口、その下側から放たれた弾丸が身体を穿ち、上の銃口から放たれるレーザーで壁を複数枚抜いて吹き飛ばした後、ラボの外壁のすぐ裏になる『シールド』に当たった教頭は、追撃のテイルブレードにより胴体を突き刺され、そのまま磔にされる形に。

 CHARM越しの手応えを確かめると、零夜は右腕を突き出したまま左手を耳元へ当て、他の誰よりも信頼しているパートナーを呼ぶ。

 

「狙いは?」

 

『完璧です』

 

 ──こちらは最後の一撃で心臓を貫いた。ならば後は頭部を破壊すれば、例えやつが強化リリィ上がりだろうと、ゲヘナ特有の『裏技』もシールドの隠された効果で封じた以上、チェックメイトだ。

 故に、霊奈の普段と比べ極端に落ち着いた声と共に、外からの狙撃がシールドを素通りして一撃で仕留めたのを確かめると、振り向きながら腕を振り、()()から抜けたテイルブレードを、メディウスの後部に納める。

 

「運がなかったな」

 

「一番なかったのはセンスだと思いますけどね」

 

「はっ、違いねえ」

 

 零夜の開けた穴から飛び込んで来た霊奈が吐き捨てるように、スタートラインに立つ資格もなく終わった『計画』は、毎度の行き当たりばったりで単に悪趣味なだけだったと言われればその通りではあるのだから、乾いた笑いしか出てこない。

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