彼女が名前すら出さずに死んだのは、単なる舞台装置に過ぎないキャラは個の登場人物と扱うのすらおこがましい。という持論があったりなかったり…メインの役者さんが手の空いてるシーンにモブやガヤ兼任してるとか、アシさん代わりにカンペ持ってたりするレベルのをキャラクターとは呼べねぇのだ。
で、散々言ってるメインストーリーは扱わないんじゃなかったの?に関してはあくまで長編(にしては毎回ライター取っ替え引っ替えしてたせいか、繋がりはグダグダの極みだけど)を開幕キルしただけと言い張ってみる。
なお、一回操作ミスして下書き全部消えたり、スマホ壊れたついでにまた数段落消えたりでグダグダしてたのが、ここまで遅くなった理由。うがー!
「リーダーより各位、最後のターゲットも死んだ。後はまだ抵抗の意志があるやつらを片付ければ……ここでの茶番は終わりだ」
結局は誰からも都合よく疑われない──そんなあり得るはずもない前提がないと成立しない企み未満の行い、それを茶番と呼ばずどう呼べと言いたくなる零夜だが、この程度の連中すらここまで圧倒的に有利な盤面を築かないと、表立って始末に動くことも出来ない世の中にままならないものだとなるが、その苦労を共有出来る霊奈は既に中の面々への説明に向かっているのだから、今更誰に言うでもないと通信を終えたまま自分の開けた穴越しに、六本木の街並みを見下ろしてため息を吐く。
◆◆◆
「──とまあ、大体はこんなところでしょうか。これにて最後のターゲットも撃破、つまりは作戦終了、お疲れ様でした」
そんな霊奈は、教頭のいた部屋で事の経緯や裏の事情などを現役リリィの面々に話していたが、疲労からか誰も口を挟むこともないなら、悠々と語り終える。
「これで、終わったのでしょうか……?」
「むしろ、ここから始まるんじゃないかなぁ」
その間もすったもんだあった結果、優珂により雑に床へ転がされている一葉の呟きに、恋花としてはようやくスタートラインの手前に過ぎないと向かい側から告げれば、ヘルヴォルの他の面々も似たような感覚でいたらしく、彼女の隣から瑤が続く。
「そう、だね。まずは自分たちのことから、改めてちゃんと知っていかないと」
「ほむ。そういうことでしたら、接収したデータの内明かしてもいい部分は、後日ガーデン越しにお伝えするよう手配しておきましょうか?」
「ええ、お願いします。一葉ちゃんも、それでいいわよね?」
そこへ霊奈が乗ってくれば、千香瑠経由で確認され一葉もゆっくりと上半身を起こしながら頷くが、返事は何処か言葉を選ぶように。
「そう、ですね……我々の身体のこともありますし、何か健康に異常のある部分があれば、お願いいたします」
「……それだけで、いいのですか?」
だから琴陽が意外そうに、もっと聞かないのかとでも言いたげな感じで聞いてくれば、やはり今度も、どうにも悩みながらの返しに。
「はい。私の見る夢が変に継ぎ接ぎだらけのようになっていた理由は、もう分かりましたし、だからといって、今更私は私以外の誰にも──」
そこで一度口籠ると、一葉は頭を振り訂正するように続ける。
「いえ、多分これは強がりですね。今はまだ、しっかりとした答えを出せそうにないので、これ以上情報を渡されても、混乱するだけかなと」
「な、なるほど……」
「フン……」
既に亡くなった者の代わりとなる──だなんて傲慢は、誰にもやれはしないし、させようとしてもいけない。
そんな当たり前なことくらいは分かるが、それでも急に明かされた作り話のような─実際、今の自分の造られた経緯の話ではあったが─真実に、『お姉さん』と自分との関係にどう折り合いを付けるべきか、一葉が答えを出すのにはまだ時間が必要だと、まとめられたとは言い難いながらに考えを告げれば、琴陽もこれ以上外野として言えることもないし、それを聞いていた優珂も腕を組みながら鼻を鳴らしはしても、普段の調子で煽ってまでは来ない。
「では、こちらはそろそろ撤収ですので、『アデュー♪』です」
仮面にマントだなんて、いかにも『快盗』らしい格好だからと、小洒落た挨拶と共に霊奈がもう一人の隊員を連れて去れば、残る現役リリィたちも各々仲間同士で集まり撤収を……となる前に、少しして出ていった二人とはまた違う執行部隊員たちが、廊下側の入り口より部屋に入ってくる。
「んん? そっちのお仲間なら、今さっき出ていきましたよー」
「確かに、あのリーダーもいつの間にかいませんが……」
シールドも解けている様子からして、開けた穴から外に飛び降りでもしたのか、零夜の姿も既に見えない。
しかし、敢えて呑気に迎えてみせる蒔菜の様子を見ても、先頭の一人が纏う空気はどうにも剣呑過ぎたから、緋紅は警戒したまま優珂へ視線を送る。
「なあ、この感じ……」
「……恐らくは、その通りかと」
何かを探すようにしていたダインスレイフ持ちなそのリリィは、部屋の一角にいる『二人』の存在を確かめると、ゆらりと持ち上げたCHARMの切っ先を、彼女らへ向ける。
「見付けた。ルドビコの手先──姉さんの、仇!」
「…………っ」
事実、二人は今回ラボの命令でここに来ているのだから、手先と言われて否定出来る要素はどこにもないが、いざ自分がその仲間であると──目の前の彼女から見て、仇の同類だと言われてしまうと、美岳の方はともかく、それを事実と自覚してしまった琴陽は萎縮してしまう。
しかし、その切っ先を下げさせるのは意外にも彼女の後ろからグングニルで割り込んできて、顔の上半分が仮面で見えずとも態度から心底面倒くさそうにしているのが伝わる様子の、小柄なリリィ。
「わざわざ命令無視して何するのかと思えば、雑な復讐者ごっことか後で怒られますよ、先輩?」
「なにがごっこなものよ! わたしの姉さんはあいつらに、ルドビコの連中の玩具にされて……最期は──」
──適当な戦場へ捨てられ、失敗だったと切り捨てられた。
確かに、そういうことはゲヘナのよくやるような手口ではあるが、被害者からすればありふれていようがなんだろうが関係ないのなど、彼女の怒り様からよく分かる。
そして、仇の仲間を前にして気持ちを押さえきれないというのも……等と言ったところで、煽りにしかならないとは彼女から放たれる敵意に圧倒されている琴陽とて理解しているし、だからこそ、仮面に05の番号が刻まれているリリィの様子が、どうしても自分と重なってしまう。
「だとしても、それをやったのはあくまでもラボの連中で、使われているだけな現場のリリィに当たっても仕方ないでしょうに」
「あんたに何が「分かりませんよ」なっ……?」
「復讐という行為に酔っ払って自分を正当化して、手当たり次第に噛み付いた結果自分に復讐しに来る人間を無駄に作る理由なんて、僕は理解したくもないね」
途中から敬語も捨てて、先輩の主張を一刀両断してみせる小柄なリリィはそういう呼び方を使っているのと、割り振られた番号が09なこともあり歳は05の彼女より下に思えるが、斜に構えているようで言っていること自体は真っ当な感じもあり、彼女たちが組まされている理由はなんとなく分かる。
──もっとも、執行部隊の番号は出撃毎に割り振られるだけなので、後輩の方が01で先輩の方が二桁な時もあるのだが。それを部隊外で知るのは、霊奈から直接聞いた雪華くらいだろう。
「そんなのもう関係ないわ、どうせ次はルドビコなのだから、こいつらが生きて帰れるかなんて!」
「あーあー。これ以上先輩喋らすと余計な機密に触れかねないんで、誰か気絶させるの手伝ってもらっていいです?」
つまるところ、暴走しがちな先輩を後輩にフォローさせる、よく聞くような形ではあるようだが、流石にアウトなラインを越えそうだと実力行使に──
「すみません。いえ、私が謝っても仕方ないかもしれませんが、私にも目的があるので、あなたにここで殺される訳には「どんな目的よ」……それは」
──出る前に、琴陽が気を逸らそうと話し掛けたはいいものの、どうにも仇の仲間を前に暴走する彼女の様子に、外から見た自分も同じなのではと思えてしまうと、同じく復讐が目的と返していいのか、これまで聞かされたやり取りの内容から、迷いが生じてしまう。
以前、雪華相手に筋違いだと自ら言ってしまっているのだから、仮に夢結を問い詰めようとしても横からそう言われて終わりだと、既に認めたようなものだ。
そもそも、彼女らのことを襲ったのはヒュージなのだから、自分が東京のガーデンに回収されたのも、今思えば撤退戦そのものの裏にゲヘナがいると疑えてしまう。加えて彼女は『あのお方』の……
「そこまでよ。作戦目標が達成されたのだから、これ以上の干渉は許可されていないわ」
「……ちっ」
思考の海に沈み、琴陽が目的が何かを告げられないままでいると、撤収だというのにメンバー欠けがあると気付いたのか03が戻ってくるのだから、05にもここまでかという弁えはあった。
「まあいいわ……運が良かったわね、ルドビコの手先。次は止めない」
「……いいえ。そもそも次などないのでしょう?」
03がどこから話を聞いていたかにもよるが、次のターゲットなラボからの指示で動いる自分たちが、ルドビコが次の標的と聞いてタダで返してもらえる等と思える程、美岳は楽観的にはなれなかったから、確認するように問い掛けてしまう。
「そうね、少なくともこの子がルドビコを攻める時のメンバーから外されるのは確実でしょう」
「……え?」
「当然ですよね。むしろ甘過ぎるくらいでしょうに」
必要もない寄り道で勝手に情報漏洩しましたなど、ゲヘナのようなアングラな組織であればそのまま闇に葬られていただろうし、執行部隊の場合は政府直属の組織という側面と、正体は隠しつつも宣伝目的の運用が主だというふたつの理由から、無闇矢鱈と即粛清! とはならないだろうが、当面彼女に謹慎処分なり出撃禁止の命令が下されるのは確定だとは、現役リリィ組にも分かる。規律のない組織など、空中分解が関の山なのだから。
「なら、私たちがここでそちらへ投降すれば、問題にはならないでしょう?」
「……美岳様?」
別に相手が知り合いの知り合いといえど、顔も素性も隠した相手に情が湧いた訳でも、特別信頼したという訳でもない。
ただ、今回の件から東京御三家が故の規模でギガント級すら運用しているルドビックラボが同じ状況になった場合、維持するよう命じられたエリアを敵もろともギガント級の攻撃で焼き払われて終わり。などという馬鹿げた末路を否定出来なくなってしまった結果、まだこちら側についた方が生存の目があると判断しただけ。
「おっと、そういう話なら美岳の身柄はこっちで預かるぞ。元はウチの生徒だしな」
「「……なるほど」」
しかし、そこで言葉でも物理的にも緋紅が割り込んでくれば、それぞれに入った通信に、優珂と03にも事情は分かる。
「ふむ……何やら上の方で話は付いているようね。いいわ、彼女はそちらに任せましょう」
「よかったですね先輩。筋違いな復讐、背中からいつでも撃てますよ?」
「んぐ……随分と根に持つわね」
しかし05も、そこで『ルドビコの捕虜なんかいるかよ!』と問答無用で撃たない程度の理性はあったから、
「こんな簡単で、良いのでしょうか」
琴陽としてはルドビックラボも〈プロフェッサー〉も揃って口先ばかりで、自身の目的のために利用しようにも、その『前提』を満たすことすら出来ていないのだから、役にも立たない連中との繋がりを捨てろと言われれば頷く他ないのだが、あまりにもあっさり過ぎるせいか反応は拍子抜けもいいところでいると、03が諭すような語り口で付け加える。
「そうね、敢えてスケールを小さく言えば、バイト先の社員に今度から違う店舗のシフトに入るようにと、事後承諾で言われたようなものよ。表向きゲヘナ絡みには違いない以上、ね」
執行部隊も、根本的にはゲヘナ側の存在ではあるし、どの派閥に属するかなどという話になれば、穏健派と名乗るには過激に過ぎるやり口から、パッと見れば過激派の内部粛清用のそれに見えるだろう。
しかし、その実態は反過激派の運用する、過激派殲滅のための部隊である──というのは現場で関われば一目瞭然。それを見た以上タダで帰してくれないとなれば、最早確定事項なのが現実だ。
「……それは、分かっているつもりです」
「なら、今は従って貰えると助かるわ。私としても、あなたと一緒の方が気も楽だもの」
結局、自分は何をするにも中途半端だということは『この方』には初めから分かっていたのだろう。ならば、もう叶う目もない目的より大事な『繋がり』は目の前にあると、その手を取ること自体に否やはない。
ただ、琴陽に心残りがあるとしたら、今度も自分の交友関係を気にかけてくれる、同じくラボに使われる立場だった先輩。
「存外、あなたの顔も広かったようね。それならば、私ももう不要か」
「美岳様は、大丈夫なのですか……?」
「さて、今度は落ち目になったからと、所属するガーデンを売ったような女よ。単なる出戻りと扱って貰えれば、可愛い方でしょう」
エレンスゲの序列上位7位までに入れず、自分のレギオンを持てなかったが故にガーデンを飛び出したというのに、ルドビコでのトップレギオンのリーダーとなったのは、同時期にやってきた他校からの転校生。
そして、新しく生えた自主結成レギオンについても、強化された身で真っ向からラボに逆らう気概もなく、関われず終いで全てが空振り……そんな有り様でまたガーデンを捨てるなど、影口で済めば優しいだろう。
「美岳様……」
(やっぱそういう感じか。こういうとこは分かりやすいのにねぇ)
何処か諦めたように自嘲する美岳を見る優珂の様子からは、普段の生意気後輩ムーヴなど欠片も見受けられず、自分の片想いと思って心配しているような雰囲気ではあるが、
「さあ、今度こそ時間切れね。お説教は一人で受けるように」
「……すみませんでした」
「それは今言っても仕方ないですよね?」
「……お世話に、なりました」
ともかく、改めて撤収となる執行部隊に混ざって、別れの言葉を残し琴陽も去って行けば、今度こそ解散だとヘルヴォルとクエレブレも、それぞれ違う入り口から出ていくことに。
「いや、なんでこっち?」
クエレブレと被るのが気まずいとしても、どう考えても廊下から出るのが自然だろうとなれば恋花もついツッコミに回るが、こうなる理由は先にいた二人から、どちらも微妙そうな顔で。
「その、私と瑤様は制服を隣の部屋に置きっぱなしなので……この前も戦闘中に袖が破れたので、予備の数も心許ないですし」
「というか、この格好で外を出歩くって思うと、今になって恥ずかしさが……」
──その流れすら最後まで締まらないのも、まあヘルヴォルらしさなのだろう。
◆◆◆
先程霊奈にインタビューもどきをしていた燈だが、変態だなんだと言われようと勝手に一人で六本木まで散歩に来ていた……なんてことはなく、当然ロネスネスとしてレギオン単位で出撃していた形にはなるが、戦闘エリアに到着後は純から──
『ギガント級が出てくるまでは各自の判断で』
──だなんてほぼほぼ自由行動を言い渡され、戦場全体の管制をしているオペレーターからもそれで構わないと言われてしまったからこその、単独行動であった。
「ヒュージの反応もなし……終わったみたいね」
そうなれば、この前のこともありどうにも昔を思い出すと、迎撃戦の知り合いを探すかとなっていた槿は、面白全部で付いてきた梢はともかくとして、いざ御巴留と合流してみればまたしても依奈の姿があった。
というのに色々と言いたいことはあったものの、やることはやると戦いに集中していたが、結局ギガント級も出てこないまま辺りのヒュージを粗方片付けた頃、不意にラボの複数エリアを覆っていた結界が消え、頭に付けている角のようなヒュージサーチャーからの反応も異常なしとなれば、事態の推移は分かる。
「ふぅ。じゃあわたしも知り合いで会って来るんで、後はごゆっくり~」
「あっ、ちょっと梢?」
道中その相手を見掛けでもしたのか、形だけの敬礼をしながら迷いもなく駆け出す梢に槿が呆気に取られていると、御巴留の方から聞き覚えのあるような反応が。
「その名前、確か羽来の友人だったかしら」
「え、ええ。なんか、趣味の話が合ったとか」
「へぇ、都内の人間関係も結構面白そうじゃない?」
そう言う依奈も、人間関係という意味では魔境の域に達している百合ヶ丘の所属ではあるが、それはさておき今の面子を見ていて思い付いたように一言。
「そうだ。良かったら今度皆で集まらない?」
「……つまり、第3部隊で、ってこと?」
槿にもこの顔ぶれから依奈の言いたいことは分かるが、御巴留の方は至極真っ当な返しに。
「確かに魅力的な提案だけれど、その日の都合による、としか言えないわね」
「まあ、それはそうなんだけど、なるべく多く来てくれたらあたしが嬉しい。ってことは言っておくわ」
と言うのも、第3部隊は迎撃戦の中でも百合ヶ丘と御台場の比率が高く、各校から一人ずつな御巴留と千香瑠を除けば、残る面々の割合は大体半々と言ったところになる。
故に、基本は依奈と槿がガーデンで声を掛ければほとんどのメンバーが集まることになるのだから、後はそこの二人。
──とはいえ、百合ヶ丘の方には絶体に呼ぶことの出来ない
「……依奈、少し変わった? なんか前よりオープンっていうか」
「欲に、正直になった?」
「うんそれ。そんな感じ」
勿論、一年前も司令塔として第3部隊の仲間を引っ張る強さは感じていたが、それとも違うグイグイと話を進めて来る様子は、色々とあったのだろうと二人にも感じられる。
「まあ、あんまり自分を抑えてても仕方ないもの。リリィなんてのは多少欲張りなくらいでちょうどいいって、周りを見てたら気付いたのよね」
それはそうと、作戦終了だと正式に通信越しに告げられれば、これ以上お邪魔するのもあれだと緩く敬礼を残し、依奈も去ることに。
◆◆◆
翌日、裏でも色々あったようで直接粛清されたラボは元より、校内の方もまだ混乱の残る部署が多いと、ゴーストの一件があった日にも担当だった教導官に呼び出されたヘルヴォルの五人が『ちゃんとした場所で』検査を受けるよう言われたのは、ホームルームも始まってないような朝早くだった。
「ま、あたしだけが身綺麗だってのはウソじゃなかったと」
結局踏んだり蹴ったりのまま終わった自称教頭の言うことなど、どこからどこまでが本当で、どこからどこまでがその場の雰囲気で適当フカしてた、あるいは本気でそうと勘違いしていただけなのかは、零夜たちに
……なお、リリィ的な面では「異常無し」とされていても、それ以外の、特にストレスから来る極端な食生活には気を付けるように。とは書かれていたのだが、「余計なお世話だっつーの!」と逆ギレするのすら、夏終わりのバカンスへ残り四人を送り出した後、皆が帰ってくるまで薬を貰いに行っただけのはずな病院のベッドに叩き込まれていた以上、「あっはいそうですね」としか返せる言葉もなく未遂に終わる。
(そもそも、たかが夏風邪程度でほんの数日とはいえ入院って、今思えばヘルヴォルで東京にあたししか残ってなかったからなんだろーけど)
どうせその手回しをしたのも、打ち合わせに使った『連絡網』のこともあり大方の事情は把握されている烏丸側だろうとして、他の面々の有り様を見るに、万一寮で一人寂しく寝込んでいたら、夜寝ている間にラボへ運ばれ、朝起きたら知らぬ間に強化終了☆だった可能性もあったのだから、今思えば全く笑えない。
「ま、大人しく草食べろってことっすか」
「草?」
そこで二番目だったらしい藍がとてとてと歩いて来て、首を傾げながら恋花の腰掛ける椅子の横にぽふんと座って来るなら、スラング的な物言いの翻訳を。
「あー、サラダもちゃんと食えーってことよ。藍もよく千香瑠に似たようなこと言われるでしょ?」
「でもにがいのきらーい」
本当にこういう話をしている分には、藍も見た目相応の幼女でしかないなと、和みそうになるがそれはそれ。
「んで、藍は昨日の今日だし結果変わらんって?」
話を逸らすのはここまでとして、藍が検査結果を二重に持っていたのを見て、中身を横目で追ってみた感想がそれ。
なんでラボでの検査結果もあるのかなど、どうせこの施設も烏丸の傘下で、接収したデータを回したとかそんなところだろうなとは察せられる。
「うん、あめちゃんももらったよ」
「いや、完全に子供扱いだっての、それ」
しかし藍本人は満足そうに口の中で飴玉を転がしているなら、それでいいのだろうが。
ともかく、どういう訳か貸し切りになっているようで、他の来客もいないならとしばらく二人で戯れていると、次に戻ってくるのは瑤と千香瑠。揃って浮かない顔をしているのなら、ここから先は「異常なし」とはいかないようで。
「二人ともお疲れ。どうだって?」
「わたしも千香瑠も、発覚が早かったおかげかブーステッドスキルもないみたいで、すぐに身体がどうこうなるってことはないらしいけど……強化リリィだって部分は、今更どうにもならないみたい」
それはそうだろうなと、望まぬ強化とその副作用とに苦しむ強化リリィを校内で見掛けることも少なくないことから恋花にも分かってはいたが、いざ仲間がそうだと言われると、思っていた以上に返事に困り、続きは藍に任せる形に。
「じゃあ、みんなも藍みたいに?」
「ええ。発作が出た時用の『ちゃんとした』お薬も貰ったし、今後はラボで定期的な検査も必要になるらしいわ。酷いようなら、その時々に合わせた調整も」
とはいえ、『連絡網』の運営側からのメッセージ通りならエレンスゲラボの過激派は昨日粗方駆逐されるか、投降し鞍替えをやむ無くされた以上、感覚としては通院程度に済みはするのだろうが、どうしても言葉の響きに嫌な物を感じてしまうのが恋花だった。
「………………」
「……恋花?」
「分かってる、これでも恵まれてる方なんだってのは。でも、多分一番許せないのは……こうなるまで誰の異変にも気付けなかった、あたし自身のこと」
何の予兆もなかった瑤はともかく、千香瑠の方は戦場でたまたま一緒になった夢結でさえ気付けたのだから、恋花とてやれるタイミングはいくらでもあったはず……だというのに、身体の事情を知ったのさえ事後報告に等しいというのは、どうにも不甲斐なさが強くなってしまう。
「……お待たせ、致しました」
「一葉ちゃん……」
そんな風に変な空気になっていると、最後尾なこともあり一番長く掛かったのだろう一葉も、あまり元気がなさそうな様子で千香瑠も不安を隠せない。
「その、多分私が一番変な状態だと思うので、順に話させて頂きたいのですが」
「……ああうん、なんかあのゲヘナにも好き勝手言われてたしね」
しかし、そうなってくれば自分まで沈んでいても仕方ないと切り替えられはするのが恋花の、普段から努めて軽いノリで振る舞っているからこその割り切りか。
「まず、急に私が消えて前の……マディックのお姉さんの人格に戻るだとかそういうことは、ひとまず起きそうにないということです」
結局自称教頭が語っていたのは人体実験の結果ばかりで、細かい手段については大分ふんわりとしていたというか、そもそも人の意識だ記憶だというものがそんな簡単に出し入れ出来るのかという時点で眉唾でしかないが、少なくとも中等部時代から『今の一葉』でいられている以上、適当に張っ付けられたそれがある日突然剥がれてしまう──なんて杜撰な仕事ではなかったらしい。
「まあ、それなら昨日のショックで消えてても不思議じゃなかったしね。てか、それを言うなら瑤も精神が崩壊したーとか言われてたけど、実際そこんとこどうなのさ?」
「……検査中も特に何も言われなかったし、結果の方でも触れられてないから、あの人が騙されてた、とか?」
あの変態スーツの開発者が別にいて、ラボ所属の彼女はあくまでも搬入された装備の運用を任されていたというだけなら、その理屈も通らなくはないが……あるいは試作段階の装備だったが故に、ゲヘナ特有のガバガバに過ぎる『想定』が今度も外れただけ。
そんな方が自然かもしれないと言いたくなるくらいに、烏丸が暗躍するようになっただけでどんどん国内での損害を増やしているゲヘナの有り様から思わなくもないが、流石に判断するためのピースが圧倒的に足りない以上、とりあえず無事なら今はそれが真実かと、恋花も無理矢理に自分を納得させる。
「どうなんだかねぇ……話逸れちゃったか。ごめん、戻すわ」
「あ、はい。それと身体の方は、順序の違いはあれど強化リリィには間違いないとのことなので、今後は藍と同じように時折ラボ通いになるかと」
「そこは二人にも聞いた。ホントにあたし以外全員とはねぇ」
嘘を信じこませるためには、適度に本当の事を話すべし。
とは騙す側の鉄則ではあるけれども、こうなるとゲヘナ内部でも他者を出し抜く、あるいは陥れるために情報を意図的に絞っていて、あの自称教頭も結局他人の手の上で転がされていただけな可能性も、微妙に否定が出来ないなと恋花も苦笑いと共に返すしかない。
「次に、ブーステッドスキルに関しては、何かを発現させようとした跡はあったらしいのですが……結局のところは『特になし』とのことです」
「施術に失敗していた、ということかしら……?」
あるいは複数回の施術や、何らかの条件を満たさなければ──といった類いのスキルだったのかもしれないが、ともあれ不意に意図せぬ何かが暴発しても困ると、体内のそれらしい痕跡は取り除かれたらしい。
「あとは、今の私がお姉さんの記憶を、断片的にとはいえ持ち合わせているのは不自然だとも言われたのですが……そこについては私にも詳しい理屈までは分からないので、なんとも」
「大体、死体に意識を出し入れして起き上がりまーすなんてのが、医療関係の全方面に喧嘩売ってるしねぇ」
それこそ全国のドクターにチベスナ顔で囲まれて、揃ってハイパー無慈悲されても文句が言えない程に生命を冒涜した所業だし──なんて考えたところで、このネタはあたしじゃなくて『あの人』の領分かと、なんだかんだ影響されている相手の顔を、恋花は思い浮かべる。
◆◆◆
「くしゅん!」
さては誰か私の噂してるな? なんてよくある話はともかく、百由から霊奈さんが来ている。なんて話を聞かされてラウンジへ向かってみれば、こないだ見たようなエレンスゲの子と一緒にテーブルを囲んでるってのは、ちょっと想定外。
「……どういう取り合わせ?」
まあ、この前依奈がレギオン単位で連れ込んだのに比べたら、二人だけなんてもう気にする程でもないんだろうけど。その片方は前に都内で見たようなオッドアイの子で、こっちに気付くと緩そうな感じに手を振ってくる。
「あ、こないだのパイセンじゃん。おいっすー」
「うっす。で、隣の子は同じレギオン辺り?」
「プラス同室でーす」
ほむ、だから一緒にね。というのは察せられるけど、その帽子の子が周りを物色するようにチラチラ視線を動かしてる感じは……楓さんとか亜羅椰ちゃんとかの側な空気感。
「てか、なんでわざわざ百合ヶ丘に連れ込んでんですか」
「んー、いくら『お茶しない?』と誘われたからって、本社に連れ込むのも他所のレギオン囲うみたいでアレっていうのもありますけど、一番はこれの都合ですかねー?」
ともかく、挨拶も飛ばして霊奈さんを問い詰めてみれば、ヒラヒラと見せて来るのはCHARMのカタログ……なんだけど。
「それ、一体どこのです? 表紙に並んでるやつの時点でメーカーがごったとか、嫌な気配しかしないんですけど」
「別に悪巧みでもなんでもなく、とある事業ついでに色々と縁が出来たってだけの話ですよー? 百由ちゃんが作ったコレの売り込みもありましたし」
「──おっ?」
百由のって……ああ、こないだのマギカノンか。蒔菜ちゃんもアステリオンのユーザーなだけあって、霊奈さんの開いたページに興味引かれてるみたいだし。
「それは……噂の荷電粒子砲とやらですか。そんなもの蒔菜なんかに渡したら、辺り一面火の海でしょうに」
「分かってないなー結爾は、そんだけの出力があるなら、単発に拘らなくてもいいっしょ? こうバララッと」
そこで腰だめにマシンガンでも構えるようにされれば、言いたいことは分かる。ほんの一撃でパーツが自壊する程の出力を小分けにすれば、某艦長も大満足の弾幕を張れはするだろうけども。こんな考えの浮かぶトリガーハッピーちゃんに、そんなものを持たせたらどうなるかってのも、まあ。
「なるほど、確かに出力の向上やその上での安定化にばかり目が向いていて、敢えて火力を抑えるという方向はノータッチでしたけれど……ふむ、つまりは、こうがこうで、こうです?」
「お、分かります?」
「分からいでか、というやつです。あんまり過剰火力でも使い道が限定されますし、新しいアプローチの発見も、やはり現場の声あってこそですから」
なんか意気投合してるけど、そのままの勢いで今度はこっちに話が振られる。
「時に雪華ちゃん、百由ちゃんはまだ下です?」
「ん? まあ、悪い方向に煮詰まっちゃってる感じなんで、ほっといたら翌朝ミリアムちゃんに引っ張り出される、いつものコースだろうけど」
それはそれでどっちがお姉様だよ。ってなるけど、いっそ百合ヶ丘の擬似姉妹関係としてはよくあることして、そのまま二人はウキウキで工廠科の方へ向かうんだから、半端な時間故に人もまばらなラウンジには、特に縁もゆかりも無い私たちが残される訳で。
「はぁ……まったく、今日はわたしがお誘いしたはずなんですけど」
「いや、そもそも霊奈さんコレいるからね?」
B型兵装のリングカートリッジをわざわざ左手の薬指に付け替えて、指を揃えながら手の甲を向けて見せ付けてはみるけど、結爾ちゃんだかの方は誰の気を引くためなのか隣の席に置いてあった、よく見る感じの緑色した恐竜っぽいぬいぐるみを抱き寄せながら、遅いお昼だったのだろうチャーハンのグリンピースを箸でちまちまと退けているから、見てるかどうかなんだけど。
──てか、霊奈さん相手ならその方向性だともっとメカっぽくないと、ストライクゾーンに入らないと思うし。アー君とかメカゴ◯ラとか、そっち系。
「まあいいです。こうして天下の百合ヶ丘に堂々と乗り込めた以上、一人二人逃がしたところで問題にはなりませんから」
「案の定そういうタイプね」
しかしまあ、いくら百合ヶ丘がワールドワイドといえど、それ故にとっくにパートナーを見付けている子は多いんだから、急に外から来た子が食い散らかせるような子なんて──
「亜羅椰さーん」
──あ゛っ゛。
案の定というか、聞こえた声の通りな柚子ちゃんは呼び方からして距離が縮まっているようだし、わんこがじゃれるように亜羅椰ちゃんを見付けて駆け寄るその姿は、犬耳や尻尾の幻覚が見えるくらいにあっさりと懐いてしまっている……
というのは、結爾ちゃんが見ても一目瞭然なようで、いかにもチョロそうな獲物を見付けた。と言わんばかりに、そちらを向いて舌なめずり。
「へぇ……押せば落ちますね、あ・れ・は」
「いや、一応あの子希望同室組のはずなんだけどね」
それも特別寮で。となると逆に距離が最初から定まり過ぎてて、今更関係を動かそうとして何かが致命的に壊れるのが嫌だ。
とかそういう付き合いが長い組程陥りがちな停滞期なのかもしれないけど、だからって餓えたライオンとザウルス(ザウルス)に挟んでしまえは、荒療治どころの騒ぎじゃないし、そのまま喰われておしまい。しかあり得な──
「雪華?」
「よし、行っていいよ。さっさと手を出さないのが悪いんだから」
──いんだとしても、流石にシルトと知り合いの友人、どっちを餓えた野獣の前に差し出すかと聞かれたら、ノータイムで答えは出てしまう。なんとでも言え。私とてシルトを守護らねばならん!
一応、喰う側が二人になればこないだ治が取り合いになってた時みたく、大岡
とはいえ、私を見付けて寄ってきた結梨ちゃんに気付けば、結爾ちゃんも数段気分が萎えたようになってるけど。
「……ああ。流石のわたしも、ガーデン間の問題になりそうな子は避けますよ? 警察どころか、もっと怖い人たちに追われそうですし、捕まってもカツ丼すら出なさそうですし」
色々あり過ぎてまだ情勢が落ち着いたなんて言えない状況で、エレンスゲのリリィが結梨ちゃんを何処かへ連れてったなどという話になれば、主に史房さん辺りを中心にこないだに引き続いて喧嘩なら買うぞとガーデン同士で開戦待ったなし。
なんていうのは、流石に校長直属レギオンの所属となれば言わずとも分かってはくれるから、杞憂で済んだ形には。
──あと、取り調べのカツ丼は代金警察持ちだと買収になるから、仮に出てきても自腹だからね?
「だったら尚更確定でしょ? 二人が戻ってきたら、私から言っておくからさ」
まあ、火遊びが過ぎるようなら流石に鶴紗ちゃんも何かは行動に起こすだろうし、多分他人のそういう話にまで口を出してる余裕は、私にはまだないんだからこれでいいはず。
そもそも、百合ヶ丘でちょっと声掛けるだけでホイホイ付いていきそうな子なんて、大抵既にセコムにガードされてて当然みたいな雰囲気があるから、万が一連れ去るのに成功しても後方何か面な一同によるカチコミ隊結成待ったなしで、即座に絶滅ザウルスなんだけども。
──ちなみに、後日クラスで今日のことを話してみたら、史房さんがため息を吐きながら「最近その子と同じような特徴のエレンスゲ生がガーデン近くで目撃されている」との情報を零してくれたんだけど……え、もしかしてこっちにも堕ちた?
◆◆◆
朝から検査に飛ばされ、ガーデンに戻ったら戻ったで昼食を摂る暇もなく校内放送で校長室へ呼び出しを食らうと、大分忙しない形になるヘルヴォルだが、普段ならとっくにラボ側だったのだろう教員に呼び止められている廊下を通り過ぎても、妨害の欠片もないのは昨日の結果が嘘ではないと、今更に実感が。
「……着きましたね」
「マジであっさりだなぁ」
二日連続の呼び出し──とはいえ今度は得体の知れない誰かでなく、立場のはっきりしている相手となれば、緊張の方向性も違うといえばそうなのだが、一葉に限ってはその理由も周りとは更に違う。
「…………」
「クエレブレのこと?」
「はい。昨日は私のせいで、随分不愉快な思いをさせてしまいましたから……」
その理由は色々とあれど、一葉が昨日の今日ならば普段より数割増しな皮肉程度は、甘んじて受け入れようという気分でいるのは見て分かるから、瑤たち二年生もフォローするような言い回しに。
「でも、ヘルヴォルとクエレブレがレギオン同士で不仲なのって有名だから、何か用事があっても、わたしたちがいない内に終えてると思う」
「確かに、わざわざ校長先生が喧嘩をさせるために呼び出すとは思いませんが……」
「ウダウダ悩んでてもしゃーないし、もう入ってみるっきゃないっしょ?」
「わかった!」
初めから悩む時間などないと、恋花の発言に乗っかった藍がドアをノックすれば、中から「どうぞ」と落ち着いた女性の声が聞こえるのだから、一葉もこれ以上考えても仕方ないと覚悟を決め、「失礼します」と挨拶しながら入室する。
「初めまして。と言うべきでしょうか」
「そう、ですね。初めまして、校長先生」
ベージュの長髪に、肩を出しているのが特徴的な服装。行事事の壇上で何度か見掛けたことこそあるが、個人として対面するのは散々と妨害されていたこともあって初なその姿は、間違いなくエレンスゲ女学園の校長、高島八雲その人だった。