東京災禍~哲学的雪女と死にたがりJKの怪異譚~   作:三文小説家

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この話は書いてて楽しいけど、多分流行らないなって思ってます。


船上の闘いー壱

「どうでもいいんだけどさ……」

「何だい、藪から棒に」

「いくら次元〝海賊〟なんて呼ばれてるからって、本当に船で来るなんて出来過ぎじゃない?」

「本当にどうでもいい内容だな」

 

 襲撃してきた次元海賊の船に乗り込んだ時雨は思った事を口にする。甲板の稀人達は既に事切れていた。死因は銃殺であったり撲殺であったりと様々だが、斬殺された者が大半であった。

 

「楽しそうに相手をブッ殺しといての賢者タイムは今までも何度かあったが……お前の凍り付いた技以上に寒いのはわざとなのかい?」

「頭冷やすのにもってこいでね。特に、恋人の前でブ男になりたくないし」

 

 実は敵の襲撃自体は時雨にとっては喜ぶべき事だ。『反撃』『迎撃』という大義名分のもとで相手を好きなだけ切り刻めるという状況は、殺人衝動を抱える時雨にとっては下手な宴会よりも楽しい遊戯だ。今回渋っていたのは小夜花が参加すると聞いて気分がブルーだったからに過ぎない。

 

「今更小夜花ちゃんの前で取り繕っても手遅れだろ」

「そうだよ。そういう人じゃないと私の事殺してくれないだろうし」

 

 孫一と小夜花に言われ、溜息をついて刀をしまう時雨。確かに、この二人の前で取り繕っても今更だという主張には反論のしようが無い。そもそも、小夜花は殺人に狂った鬼である時雨だからこそ好きになったのだから。

 

 行き場を無くした感情を持て余した時雨は小夜花を撫でることにした。小夜花は至福の笑みを浮かべているが、独り身の孫一は憮然としていた。

 

「戦国時代でも無いのに会話が物騒な事だねえ」

「戦死する人間が減った分、自殺する人間が増えたんだろ」

「世知辛い事だねえ……」

 

 船外のインプの群れを片手間にいなしながら時雨が答える。人間の業など時が経ったくらいでは変わらぬと思いながら。

 

「蠅は蠅でも鬱陶しいなあ。一掃していい?」

「好きにしなよ。私もあの的は飽きてきた」

 

 時雨は優しく小夜花を引き離すと、全身に冷気を纏った。そしてその冷気から生み出したのは刀ではなく、氷で出来た蝶であった。雪女のような時雨の美貌と雰囲気も相まって、一枚の絵であるかのような錯覚すら覚える。

 

「ふぅー……」

 

 そして、物語の雪女のように冷たい息を吹きかけると、蝶たちはインプの飛び回る空へと飛び立ち、爆発した。花が開花するかのように一瞬で空間に拡がる氷にインプ達は貫かれていく。

 

「綺麗……」

 

 時雨の〝雪揚羽(ゆきあげは)〟という技を見た小夜花は思わず呟いた。串刺し公の処刑のような残酷な光景であるにも関わらず、見る者を魅了する光景。それは時に牙をむく自然を愛でる感性と似通った部分があった。

 

 一方、孫一はその光景を見て死んだ目をしていた。骸套戦の後に披露した通り、孫一は翼を介して空間を転移する能力があるのだが、その障害となるのがこの〝雪揚羽〟という技だ。なんと、この蝶の爆発は空間そのものを凍てつかせるのである。恐るべき空間操術封じであった。

 

 そして、孫一と時雨が修行で手合わせした際に幾度もこの技に辛酸を舐めさせられたのである。今でこそ対策も出来ているが、初見時は能力の大半を封じられてしまった。まあ、時雨が対孫一用に作った技なのだから当然とも言えるが。

 

「そう言えば、この船を落とすのに僕達以外に誰か来るの?」

灰殲(はいぜん)の奴を呼んだよ。暇そうだったし」

「カワイソ。平和主義者なのに」

「非戦闘主義ってわけでもないだろ」

 

 灰殲という名前には小夜花も覚えがあった。顔中に包帯を巻いた水夫のような男で、かなり陽気な性格であることは二言三言話しただけでも充分に分かった。

 

「全く不条理な物だねえ。見た目が怖い灰殲が平和主義者で、女みたいな顔してる時雨が殺人狂なんて……」

「……女の方が狂暴じゃない? 場合に依るけど」

「ああ、まあ、君にとっちゃそうか」

「あ、違う! 小夜花の事じゃないから……」

 

 つい先刻まで敵を殴り殺していた小夜花が落ち込んでしまい、時雨が慌ててご機嫌を取る。再び独り身にはつらい空気が流れるが、それをぶち壊す者が現れる。

 

「虚数次元の波に乗り、墓に訪れたる狼藉者! この村上灰殲が沈めてしんぜようじゃあありやせんかぁ!」

「……誰が平和主義だって?」

「血の気は多いね。知ってるけど」

 

 それは件の灰殲である。法被(はっぴ)を着て(いかり)を担いだ包帯男だ。時雨は初対面時に「平知盛かな?」とか思っていたが、この男は村上水軍の出、つまり芸予諸島近辺の海で活動していたらしいので、壇ノ浦からそれほど離れてもいないようである。

 

「いやいや、平和主義ってのは間違っちゃいませんぜ、(あね)さん。この灰殲、ラヴ&ピースを愛する男。何なら服に刺繍したってかまいやせん」

「暴走族かな?」

「ダサすぎるからやめろ。というかバケモンが横文字使ってんじゃないよ」

「それに関しては今更だろ……」

 

 Damsel in distressとかいう横文字を使った時雨が小さくツッコむ。そもそも江戸や明治ならまだしも、21世紀において横文字を使わない事の方が難しいだろう。それほど気取ったものでは無いにせよ、孫一とてそれは変わらない。

 

 と、灰殲が小夜花の姿を見止めて呟く。

 

五月雨(さみだれ)殿の初陣ですかい……嘆かわしい事ですねい。女子(おなご)一人、平和を享受できぬとは」

「さんざん悩みましたけど、それでも時雨くんの傍にいられないのは嫌です」

「健気な事ですねい……」

「良い女だろ? 思わず将来を憂うくらいには」

 

 時雨は半ば諦めたのか、彼女自慢に移行した。それでも絶対に守ると言わんばかりに抱き寄せているが。並大抵の元では小夜花が死なない事は百も承知だが、それでも彼女が傷つくのは嫌なのだ。

 

「それに……例え世の中が平和でも、小夜花に居場所は無かったんだ。彼女を犠牲にして平和になるなら、いっそぶっ壊れちまえって思うけどね」

「過激ですねい……」

「いや、人間どもと大して変わんないって。有象無象の生死なんか気にしないってだけだよ。一人の少女を貶める為だけに流された情報を信じるような奴らにはお似合いの末路じゃない?」

 

 灰殲は「おっかねえ人ですねい」と少し引きながら会話を止める。一方、小夜花はその発言に頬を染めていた。

 以前ならば「私が犠牲になって誰も傷つかないなら、それもいいかもしれない」とかいうくらいには優しい少女だったのだが、

 

「少なくとも目の前の白髪野郎は傷つくね」

 

 と、時雨に言われてからはそのような事は言わなくなった。

 

 小夜花は平和とも言えない平安の世の犠牲者だ。誰もが麗しく暮らすためと、人間の欺瞞と悪意に全てを奪われた。家族も、将来も、生きる権利さえも。「清く正しくありなさい」と言った人間達は、同じ口で汚く間違った事を言った。

 

 だが、何の力も持たなかった過去の小夜花は清く正しく幸せな不利(フリ)を続けるしかなかった。無限で無為な明日が何度もやってくる。死しか救いが無くなるのも自明の理であった。だが、それすらも異能に奪われた。異能で人を助けたら化け物と蔑まれた。

 

 ———だから、ねえ、もう、いいでしょう? 殺してよ。

 

 少女は目の前の雪にそう頼んだ。だが、雪は霜となって花を包んだ。予想外の出来事に花は驚き、そして微笑んだ。花を愛でる雪は、彼女のためなら吹雪にも氷雨にもなれる。鬼としての本能ではなく憎悪を以て殺してやる。

 

 常に向けられる殺意が、冷気が小夜花は愛おしかった。凍えた指は暖かく、白銀の髪は肌を焼かない曇天を想起する。添い寝した時に流す涙は名前の通り、悲しき雨のよう。

 

「ホント……一度惚れると入れ込むよな、時雨は」

「まあいいじゃねえですかい。或る意味平和ですぜ」

 

 毎度のことに呆れる孫一を灰殲が宥める。船を殆ど制圧しているのでそれほど急ぐ事は無いが、空気が辛いのだ。

 

 と、孫一の望み通り、その空気をぶち壊す者が現れた。

 

「〝大入道〟だね」

 

 現れたのは大入道という稀人だ。巨漢の出家僧のような姿をしており、その正体は修行の身ながら世俗への未練を断ち切れずに堕落した僧の成れの果てとも、生き過ぎた修行をした結果、人である事を止めてしまった狂信者とも言われている。

 

「さっそく現れやしたねえ。僧でありながら賊に堕ちるとは情けない。この海の漢、灰殲が天誅を下してやりましょう」

「あれ? 村上水軍も海賊まがいな事やってなかったっけ。というか、八咫烏も半ば賊みたいなものだけれど……」

「だまらっしゃい! こんなならず者と一緒にしないでくれやせんか。雑賀衆とともに石山本願寺に赴いた事すらもある我らが村上の伝説を端から―――」

「はいはい、ごめんごめん。攻撃来てるよ」

「おっ」

 

 大入道の張り手が飛んで来た灰殲は碇を振り回してそれを弾く。時雨と舌戦を繰り広げながらも敵の攻撃にはしっかりと対応するのだ。

 

「んじゃ、私は遠距離に徹しようかねえ」

 

 孫一が翼を生やし、そこから空間を繋げて大入道の死角から銃撃する。そして、それに怯んだ大入道に灰殲の碇の一撃がヒットした。更に大きく仰け反った大入道に時雨の大太刀の一振りが当たる。

 

 と、体勢を立て直した大入道が張り手を次々と繰り出してくる。

 

「ハッ……粋がってんじゃないよ。生臭坊主が」

 

 時雨が嘲笑と共に大太刀で攻撃を逸らす。そしてすかさず小夜花が踵落としを喰らわせた。だが、大入道もやられっぱなしではない。なんと、拳から衝撃波を飛ばして遠隔攻撃をしてきた。

 

「無事かい? 金ヅルども」

「いっそ清々しいな……」

「大丈夫です! しっかり避けました!」

「金ヅル呼ばわりに動じてねえですねい、五月雨殿……まあ、棟梁は昔からこうですから今更どうにもなりやせんが」

 

 小夜花はおそらく今の言葉を悪意とも認識していない。実際、孫一にとって『金ヅル』は誉め言葉だ。第捌機関もそうだが、『利用』とは『信頼』を意味する。

それでなくとも、八咫烏に拾われる前は多種多様な悪意の坩堝(るつぼ)にいた小夜花である。この程度では小揺るぎもしない。

 

「カツアゲと違って愛を感じますもん」

「比較対象がそれな時点でアレだと思うけど……後、その下衆どもの素性教えてくれない?」

「アレだのソレだのボケが始まってんのかい? 小僧」

「知ったらどうする気なの……?」

 

 再度放たれる衝撃波を躱しながら時雨の真意を問い質す小夜花と皮肉を返す孫一。それに対する時雨の返答はシンプルだった。

 

「別に? そいつらの側を吹雪が通り過ぎるだけだよ」

「私としては、そんな暇が有ったらお家デートしてほしいです」

「……分かったよ。小夜花」

 

 時雨はそう言って大入道に斬撃を飛ばす。もはや流れ作業と化している。

 

「準備が整いやしたぜ! 皆の衆!」

「了解。小夜花、離れよう。巻き込まれないように」

「あ、うん」

 

 灰殲が身長以上の碇を掲げているのを見て下がる時雨達。

 

「悪党邪道もろともに沈みやがれぃ。打碇轟沈(だていごうちん)!」

「暑苦しい……」

 

 巨大な碇が打ち下ろされ、大入道を潰す。自慢の豪腕で対抗しようとするも、大質量に為す術もなく力負けしたようだ。

 

「お見事。さて、それじゃあ船内を物色しようじゃないか」

「うわぁ……」

 

 孫一が意気揚々と足を進める中、小夜花は灰殲によって引き起こされた惨状に驚いていた。灰殲とは戦ったことが無かったが、力勝負なら競り負けそうだとも思った。

 

「力だけで雑に戦うのはアイツ一人で十分だよ」

「時雨くん……」

 

 そんな小夜花の思考を読み取ったのか、時雨が話しかける。小夜花の武器は腕力だけではない。それに固執する必要は無いのだ。

 

「うん、頑張る」

 

 小夜花は両の拳を握りしめて頷く。自分が時雨の枷にならぬよう、精進しようと決意を固めていた。

 

「よし! 気張っていきましょうや!」

「「いや、気抜いて済むならそれでいい」」

「あれぇ……」

 

 テンションの高い灰殲と、冷めた態度の時雨と孫一に笑みを零しながら、小夜花は三人についていった。

 




 新キャラ、血気盛んな平和主義者の灰殲。うん、一行で矛盾するキャラ設定よ……でも主人公とヒロインよりマシっていう。因みにハイゼンって名前だけど物理学に強かったりはしません。恥ずかしながら私は村上水軍についてはほとんど知らないので、かなりオリジナルのストーリーになると思います。(雑賀衆も大して変わらん)。調べろよ、という話になりますが、それも難しい……とはいえ、下手に情報を持ってると既存の作品と似たりよったりな展開になるのでこれでいいと開き直っておきます。

 そして主人公とヒロイン含む味方陣営を金ヅル呼ばわりする女、孫一。コイツが守銭奴なのは元ネタが傭兵集団の棟梁という点と、単純にカラスなので光物が好き、という発想でこういうキャラ設定なんです。ただ、実在の雑賀孫一とはおそらく異なる性格ですね。一応、史実の人物とは同じ集団に属してはいるものの別人という設定ですし。昨今のラノベならざまぁの対象になりそうですが、今作ではなりません。
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