東京災禍~哲学的雪女と死にたがりJKの怪異譚~   作:三文小説家

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 時雨が女性っぽい見た目してるのは、三文小説家がイメージ起こしやすい&イラスト描きやすいからって理由が大きいです。あと、『美人な男』ってあんまり見ないので書いてみたかった。(いやまあ、探せば幾らでもいるんでしょうけど、あくまで私の閲覧範囲の話です)


怪死病時代の饗宴―壱

 猫のいなくなった猫カフェのソファで寛ぐ怪異二人。咥えているロリポップが煙草に見えるせいで余計に場所とミスマッチであり哀愁が漂っている。

 

 言うまでもなく時雨と杏火であり、流石にそれなりの戦闘力を持つ二人が争い合った疲労は一度休憩を挟む必要が有った。

 

「なんかこうしてるとデートみたいだよねえ。一応、猫カフェってデートスポットでもあるし?」

「ノーコメント」

 

 杏火が戯れに口を開くが、時雨は視線も寄越さずに切って捨てる。照れも困惑もせず、疲れ切った表情でそう返す時雨に、杏火は「かわいくな~い」と毒づいた。

 

「君はもう少しギャルゲーの主人公を見習った方がいいんじゃない? もう少し照れたりとかさ……いつ話しかけても草臥れたOLみたいな顔しちゃって」

「何十年たっても思い出せないんだよな、その手の顔。あと何ギャルゲーって」

「ギャルゲー知らないのかよ。いつもパソコン開いて何見てんのさ」

「ダークウェブ」

 

 杏火は辟易して「うひー……」と声を出した。ダークウェブとは一般的に使われるウェブページとは違い、アクセスするために特定のソフトウェアや設定などが必要となるウェブコンテンツである。更に通常の検索エンジンでは収集できない情報である『深層ウェブ』もダークウェブの一部なのだが、そこには怪異ですら進んで見ようとは思わない情報が散らばっている。

 

「え? 何? それで一部界隈にやたらと詳しいワケ?」

「そういうこと。実際役に立ってるだろ? いつかの殺し屋共の奇襲を前もって知れたのは僕がダークウェブで情報を拾ってきたからさ」

「あー、そういやそんな事もありましたねえ」

 

 大抵のものは見通す瞳磨や棟梁である孫一ですら知らない情報を時雨が拾ってくることが度々あったのだが、どうやらダークウェブでネットサーフィンしているのが原因らしい。

 

「どうやってそこでのノウハウを学んだのさ」

「まあちょっと古巣でね。今ほど普及してはいなかったけど、原形自体はあったのさ。非合法の取引をする為のネットワークが。今でこそ多少勝手は変わるけれど、根本的には変化してないね」

「う~わやだやだ。ただでさえ市井ですら闇が渦巻いてるってのにさあ」

「一応ウチだって非合法組織だし、防衛のために学んどくのは有りだと思うけどね」

 

 孫一と瞳磨は時雨にレクチャーを受けてある程度は知っている。が、この辺りは専ら時雨が担当する事が多い。

 

「て、今はそんな事はどうでもいいんだよ。別に白蛇君がダークウェブにdeepにdopeだとしても彼女に愛情表現くらいしなよ? マジで私怨抜きで小夜花ちゃん可哀想だから」

「……はい」

 

 時雨が自発的にやった事と言えばセクハラまがいの悪戯だけである。自分で考えても最低だと思った時雨であった。一方、杏火はこれでも真夏の時よりはマシになっているという事実に戦慄していた。どこまで恋愛方面で無能なんだ、と。

 

「なんでこう女心が分からないかなぁ……」

「まあ、女心どころか大抵の感情に共感できないけどね」

「余計ダメじゃん。自慢気に云う事じゃねえんだよ」

「いやマジで、人生経験積めば積むほど分からなくなるんだよな」

「あーしと違って元人間のくせしてマインドが根っからのバケモノのそれじゃん」

 

 時雨が月並みの餓鬼とは言っても、それは稀人基準の話である。人間から見れば十分に高齢であるし、人外特有の生きている時間と人生経験が比例しないという現象はあまり起きていない。にもかかわらず時雨は人間の感情を理解する事ができないのだ。

 

 とは言っても、杏火の方も時雨が髪を伸ばしている理由を見誤っている。時雨の思考回路が雪煙のように不透明であったとしても、好意を寄せる相手の事を誤解していたのは変わりない。

 

「もはや業だと思ってるよ、僕は」

「即刻捨てろ……と言いたいところだけど、あーしもあんまり人の事言えないなあ」

「まあ、昔の学者だって言ってたじゃないか。無知を自覚した人間こそが本物の賢者だってね。軽々しく『分かるよ』とか言えないかな」

「うーわ、そう来たか。それは何? 自分が莫迦になるのが嫌なの? そんな理由で小夜花ちゃんは放置されてるの?」

「違うよ。知とは自らの無知を知る事であり、知る事の終わり無きを知る事さ。訳知り顔で相手を定義付けて泣かせるのは真夏で懲りたよ」

「なんで0か100かしか無いんだよお前」

「僕が器用だったらもう少し恋愛は和気藹々としてただろうね」

(小夜花ちゃん頑張れ……)

 

 二人が談笑(?)していると、それを邪魔するかのように刺客が現れた。それは明治・大正時代の華族令嬢が着るようなドレスと帽子を被った人型であった。尤も、デザインだけを切り取れば現代でも通じそうではあったが。

 

「なんか見たことあるな、コイツ。大正時代に」

「ふーん。じゃあ闘い方も知ってる感じ?」

「アレから変化してないならね」

 

 その令嬢のような人型は時雨達を見止めると剣を取り出して斬りかかって来る。それを鞘に入れた刀で弾き返すと、時雨は息をついて言葉を発した。

 

「さてそれじゃあ遊ぼうか。演者の増えた、この道化の宴でさ……」

「っ……はいはい、おとなしく助演女優やってあげるよ」

 

 令嬢のもう片方の手から放たれる鞭の一撃を躱しながら杏火が答える。

 

 相手は鞭で拘束しようとするが、杏火は車輪を身代わりに回避し、

 

「Boom!」

 

 車輪を爆破して怯ませる。すかさず時雨が令嬢の真上に跳びあがり、

 

「〝氷雨〟」

 

 斬撃の雨を降らせて相手にダメージを与える。怯まされた上に爆炎が目くらましとなり、令嬢は攻撃を諸に受けてしまう。

 

「—————」

 

 令嬢は目らしき部分を光らせ、新たに二体のメイドのような稀人を呼び出す。〝銃射(ジュウシャ)〟と呼ばれるその稀人はマスケット銃のような武器を時雨と杏火に向けて発砲する。

 

「おう、危ないねえ」

「マ○ハンドは仲間を呼んだ」

「流石はお貴族サマ。白蛇君と違ってぼっちじゃないんだねえ」

「喧しい」

 

 銃射は時雨に向けて新たに三発弾丸を放つ。一発目と二発目は首を動かして回避し、三発目を刀で弾き返して銃射に急接近し、首を切り落とすかに思えたが、

 

「見え透いてんだよ」

 

 直前に体勢を低くし、令嬢の剣戟を回避する。更に、低い体勢から斜め上に斬る〝薄氷(うすらひ)〟によって令嬢と銃射の両方を攻撃した。

 

「あれあれえ~? そんなんじゃいつまで経っても当たんないよ~?」

 

 一方、杏火も持ち前のスピードを生かして銃射の銃撃を華麗に回避していた。更に、隙を見計らって車輪で反撃する余裕もある。

 

「も~らい」

 

 駄目押しに背後に回って頭部に踵落としまで喰らわせている。この闘いは完全に杏火のペースであった。

 

「いや~、両手に花とはモテモテだね~。白蛇く~ん」

「羨ましいなら一体くれてやるよ……と言いたいところだけど、やめておこう」

「ほ~?」

「だって女を二人も斬れるなんて、貴重な夜じゃないか」

「うっわ久しぶりに出た。君の殺人狂」

 

 令嬢は剣を斜に構え、一瞬静止した後に振り下ろす。攻撃速度は正に神速。常人であれば訳も分からぬままに殺される。しかし、時雨が相手ではそうはいかない。抜刀の勢いそのままに弾き返され、一方の令嬢も今度は横からと剣を振るが、こちらも鞘で弾き返される。

 

 更に銃射が銃を撃つと見せかけてナイフで斬りかかるが、武器を素早く小太刀に変えた時雨に応戦された。

 

 だが、その勢いの衰えぬままに令嬢と銃射が連携攻撃を仕掛けてくる。銃射がナイフで斬りかかり、その後ろから令嬢が鞭で攻撃してくる。

 

(掴まれたら面倒だ)

 

 時雨は銃射のナイフを小太刀で弾き、鞭を後方に宙返りして回避する。鞭による攻撃は弾いてもあまり旨味が無い。軌道を逸らす程度は可能だが、やはり大人しく回避した方が無難であろう。

 

 ジャンプは一般に隙が大きいとされるが、それでも最小限の動きで避けたので問題はない。万一突かれたとしても対処法はある。

 

 と、そろそろ銃射が次の攻撃を仕掛けてくる頃合いだ。時雨の読み通り、今度は銃による攻撃でありまたも三発。

 

 先の要領で回避しようとした時雨だが、今度は三発目がミソであった。

 

「お……」

 

 三発目は煙幕であった。時雨の刀の一撃で起爆するようになっていたのである。煙幕の目的など逃走か奇襲と相場が決まっているのだが、

 

「やるじゃん」

 

 今回は奇襲だったようだ。令嬢が剣で時雨を強襲した。

 

「テクニカルな戦術がお好みなら、こんなのはどうかな?」

 

 時雨は令嬢の剣技を真っ直ぐに見据えると、その剣に刀を触れさせる。すると、令嬢の斬撃が複数に分裂して使用者の元へと跳ね返された。

 

 〝氷面鏡〟

 

 相手の技を分裂させ、跳ね返す技。あまり旨味は無いように思えるが、例えば巨大な敵が強力な一撃を放ってきた場合に威力を減弱させつつ攻撃を返す事で無傷でやり過ごす事も可能となる。

 ただ、この技は相手の攻撃を理解している事が前提となる。初撃で見切れるほどに単純な攻撃ならば良いが、そうでないならばリスクだけが高くなる。

 

 そんな技を今回使用した理由だが、単純に時雨の興が乗ったからだ。

 

「はあ、逃げたか」

「どうする? 追いかける?」

「そうだね。昔と同じなら後二体は別パターンの個体がいるはずだ。〝狂宴(キョウエン)〟は三体で一つの稀人だからね」

「オッケー。じゃ、アイツを追いつつ後二体を探すんだね」

「そういうこと。斜陽族にはさっさとご退場願おう」

 

 刀と車輪で切り裂かれた銃射の残骸を一瞥し、今後のプランを簡単に話す。その後、それらの呪いが霧散するのを見てから時雨と杏火は狂宴の内の一体が逃げたであろう通路に足を進めた。

 

(それと、小夜花達も見つけないとね)

 

 もしかしたら、時雨の中では主目的は異なるかもしれないが。

 




 中々に面倒くさい敵が現れました。まあ、同時に倒さないとザオリクしてくる系ではないのですが、中ボスクラスが三体いる事自体が面倒だと思います。
 そして面倒くさいと言えば時雨君。まあ、コイツなりに色々考えてはいるのですが、如何せん極論から極論に走るのでね……まあ、いずれ矯正しますよ。後シレっと『ダークウェブの住人』という属性が追加。着実にアンハッピーセットが揃いつつある……

 備忘録

 狂宴:尽きぬ怠惰への渇望から生まれた稀人。三体で一つの怪異であり、今回現れたのは剣と鞭で直接攻撃を担当する『剣舞の令嬢』。また、明治・大正時代の華族がモチーフであり、メイドのような稀人『銃射』を召喚する。

 銃射:狂気的なまでの忠誠心から生まれた稀人。メイドのような姿をしており、主な攻撃方法は銃撃だが、ナイフも使う。主人の邪魔をする存在を抹殺せんと襲い掛かる。

 氷雨:時雨の技で、跳躍して敵の頭上から斬撃の雨を浴びせる。

 氷面鏡:相手の技を分裂させて跳ね返す技。ピーキーなように思えて、対大型の敵など使いどころはある。
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