東京災禍~哲学的雪女と死にたがりJKの怪異譚~   作:三文小説家

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 久しぶりの投稿。

 何だかんだでオリジナル作品を書いている時が一番楽しい事が分かりました。


稀人に与する人間

―――失態です。

 

 上空にて騎士に抱えられ、空を駆る女の胸中に渦巻いていたのは深い後悔だった。何故なら、時雨達が派遣された任務にて、警察官達の派遣を判断したのはこの女であったのだ。

 

 本来ならば八咫烏のみに任せても良かったような簡単な任務。しかし、人里のど真ん中に出現した稀人の集団ともなれば、警察が関わらなくて済むような事態がこれからも続くとも言えない。

 

 元々、警察達の質の低下は最近の課題であった。過去の闘いで大勢が殉職した結果、手練れが大量にいなくなり、闘志ばかりを漲らせた、経験の浅い者達ばかりが警察の大半を占めているのである。これは自衛隊なども同様であり、それ故に外部の戦闘力に頼らざるを得ない状況なのである。

 

 その点において、八咫烏という集団は実に都合が良かった。金さえ積めば大抵の依頼は請け負う上に、戦闘力も絶大。この女が所属する機関と双璧を成す日本最強の武装集団と言っても良い程だ。この切迫した状況において、構成員が稀人であるかどうかなどどうでも良い。

 

 だからこそ、まずは簡単な事例で警察と彼らとの連携を学ばせる必要があったのだ。仮に失敗しても自分達や八咫烏がカバーできる範囲であった()()()()()

 

 しかし、結果は女の想定を超えて悲惨なものだった。女が想像していた以上に警察官達の稀人に対する憎しみは深く、そしてそれに耐えられる程の精神性も持ち合わせていなかった。そして、それを『呪い』に付け込まれた。

 

(この事態の収拾は、私がつけなければ……)

 

 女は騎士に命じて速度を上げ、禍殃(かおう)の現場へと向かう。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、時雨と紫苑は稀人『外道兵』と化した警官達をそれぞれの方法で殺していた。その最中、先程の警官が恨みがましい視線を向けてきたが、時雨は礼儀正しく無視した。

 

 恨みたいなら恨めばいいと思う。

 

 それが時雨、及び紫苑の共通したこの場における答えだった。自分達が幾人の復讐者に狙われているやら、もはや数える気にもならない。時雨も紫苑も、生き抜くために大勢の人間や稀人を殺してきた。その人数に比例、いや、それ以上の勢いで復讐者は生まれていく。

 

 紫苑とて、一時の暴挙はあったにせよ、それは重々承知している。そうであるから時雨の制止にも耳を貸したのだろうが。

 

 いずれにせよ、殺しが渦巻く闇夜に生きるとはそういう事だ。罪悪こそが秩序と言っても過言ではなく、適応できなければ自分が食い物にされる。御伽噺で語られるような正義など、夜には何の意味も無い。

 

(ああいう奴とは分かり合える気がしないね)

 

 時雨とて、親しい人が殺されれば怒りくらいは抱く。だが、それはどこまでも時雨個人に帰結する感情だ。人間だの、稀人だの、関係ない。だからこそ分かり合えない。時雨からすれば主義や思想なぞ、実に忌々しいペテン師だ。

 

 だが、その中にも例外はいるわけで、

 

「……使徒襲来」

「この気配……あの女性(にょしょう)でありんすか」

 

 時雨達と外道兵の間に何かが着弾する。煙が晴れて見えた姿は、軍服のような服装の、騎士を引き連れた若い女であった。

 

(いささ)か久しぶりだね。綺征饒さん」

 

 女の名は綺征饒(きせいじょう)美沙(みさ)。凶悪事件や超常現象などを扱う情報部にして、事態の終息を担う執行部隊である〝第捌機関(だいはちきかん)〟の一員だ。そして、時雨が認める数少ない『正義の味方』でもある。

 

「珍しいね。第捌機関がこの程度の事件に出張って来るなんて」

「警察も自衛隊も人手不足は否めませんし、警官達の派遣を決定したのは私です。ならば、その責任を取るのが筋という物」

「真面目な事で」

 

 憮然とした敬語で時雨に返事をする美沙。いつもの事なので時雨や紫苑も特に反応しない。時雨もやや揶揄い気味ではあるが、稀人で構成されている八咫烏に負けず劣らずの変人集団である第捌機関にはこういう人材も必要だろう。

 

「ていうか、アンタが来たなら僕達帰っていいかな。一人でどうとでもなるでしょ」

「……少なく見積もっても三割は貴方達のせいでしょう。あくまで仕事と割り切ればマシな結果になると思っていたのですが」

「そりゃ言いがかりって物だよ。僕達視点じゃ向こうが勝手にキレて勝手に突っかかって来たんだから。最初から詰んでたのさ」

「はぁ……もういいです。これ以上話しても水掛け論でしょうし。落ち度の半分以上がこちらに有るのも事実のようですしね」

 

 美沙は残った警官を見て溜息を吐く。美沙は紫苑の狼藉の後を見抜いていたが、それでも落ち度は警察の側にあるのだ。時雨達は依頼されて出向いただけなのだから。

 

 外道兵達を屠り続ける美沙と時雨。だが、元警官達を切り伏せる数は美沙の方が多い。その様子を残った警官は信じられない様子で見ていた。

 

「相も変わらず、カワイイ系の顔に似合わずエグイねえ……」

 

 美沙は異能で召喚した騎士と共に外道兵を圧倒的手数で封殺する。その様子を見て時雨は独り言ちた。

 

「何か言いましたか」

「何でもございません」

 

 美沙の地獄耳に時雨は辟易した。カワイイ系など、それに類する言葉を言うと怒るのである。正直、異能の強さに融通の利かない性格も相まって、怜悧な容姿だったら本当に人が寄り付かなくなるのでバランスは取れていると時雨は思っているが。

 

 〝異能者〟。人というには稀人に近く、しかし稀人というには存在が人間である存在。どちらも人の感情が起源になっている以上、似たような存在になるのは自明であるともいえるが。

 

 完全な稀人よりも、曲がりなりにも人間である異能者の方が待遇が良いのは事実だが、それは書類上の話であり、人でありながら超常の力を有する人間を良く思っていない者は多い。稀人と異能者の世間からの認識は五十歩百歩といった所だろう。

 

 美沙とて、今の地位に上り詰めるまで何も苦労しなかったわけではない。現に、書類上の立場に反して、彼女に反感を持つ人間も多いのだ。

 

「寧ろ、警察内においては、好まれて然るべき人なのだけれど」

「何を言っているのか知りませんが、貴方も少しは手伝いなさい」

「やってるよ。仕事が無いだけさ」

「今後は我々第捌機関と共同で作戦にあたる機会が増えるでしょう。その際、後ろで暇していただけ、などと噂されれば八咫烏とて評判の下落は必至。大人しく私の言う事を聞いた方がよろしいかと」

「はいはい……とりあえず、報酬の分くらいは仕事しますか」

「それで結構。新たなる秩序の台頭のため、協力していただきますよ。時雨さん」

 

 背中合わせで立つ殺人衝動に苛まれる鬼と警察。その周りには、元警官の死体が散乱していた。

 

 時雨よりも美沙の方が冷酷に相手を排除していたのは、やはり彼女の目的を、よりによって警察組織の人間が邪魔した事による憤りだろうか。時雨は美沙の性質を思い出す。正義の味方である彼女は、それ以外の物を徹底的に排除する傾向がある。悪に満ちた世界そのものを破壊してしまおうと思うくらいには。

 

 一見常識人ではあるが、非常に危うい人物なのだ。なまじ、実力と精神力があるぶん余計に危険度は増している。「人は絆によって生かされるんだ」などという青臭い事を時雨は言う気にはならないが、彼女の手綱を握る存在はどうしても必要だろう。

 

「そう言えば、紫苑は何処に行ったのさ」

「別途、迎撃を依頼しました。暴動が起こったのは、この場所だけではありません……原因は同じですよ」

 

 美沙がやや恨みがましそうな目で時雨を見る。それで時雨も察した。

 

杏火(きょうか)冴凪(さえなぎ)か……確かに冴凪はともかく、杏火は相性悪いだろうね。でもさ、何でも僕達のせいにされても困るって」

「分かっていますよ。ただの八つ当たりです」

 

 時雨は咎めたりはしなかった。どうにも昔の美沙を知る身としては、この程度のことで怒る気にならないのである。

 

(やれやれ、これもアンタの計画の内かな? 牧之原さん)

 

 時雨は美沙の上官にあたる人物の事を思い浮かべる。警察組織は彼女の計画に必要な存在であるはずだが、一時的な犠牲であれば躊躇いなく実行するのが牧之原という人物だ。真相は不明だが、第捌機関の必要性は上昇し、そして発言権は更に高まっただろうな、と時雨は半ば事実であろう邪推をしていた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、紫苑は郊外の上空にて稀人に乗っ取られた武装ヘリを相手にしていた。八咫烏の一員である杏火と冴凪が当たっていた任務にて使われていたらしいのだが、武装ヘリまで持ち出していたとなるとかなり大掛かりな敵だったのだろう。

 

『いや~? あーし達からすれば取るに足らない雑魚だったよ~』

 

 頭の中に仲間である杏火の念話が響く。『断罪』という概念を司る稀人の〝火車〟である彼女は、その厳格そうな性質に反して現代のギャルのような話し方をする癖がある。紫苑はこの話し方には相変わらず慣れないが、許容できないという訳でもなかった。

 

 杏火の話によると、冴凪とこなしていた任務の場所が高速道路であり、猛スピードで走っていた稀人を排除するために、杏火と警察はバイクで、一部の警察は武装ヘリで追っていたらしい。そして、その稀人自体は倒せたものの、今度は例の稀人化が起きたという訳だ。

 

『マジびっくりしたよ~。まさかいきなり稀人化するとは思わなかったし~。やば~いって感じ』

 

 婉曲表現、とはまた違うフワフワした会話だが、いつもの事なので紫苑は特に口を挟まない。花魁とは違うコミュニケーションの取り方だが、やり取りが成り立っているのだから特に矯正する必要もないだろうと思っている。

 

『いきなりあーし達が悪だとか、復讐されるべきだとかさあ……』

 

 いきなり声が不穏になり、紫苑は身構える。こういう時は碌な事を言ったためしがない。

 

『お前らが生み出したくせに、飽きたらポイですかぁ? 創造主様ぁ~!?』

 

 やはり。稀人を憎む人間がいるのと同じように、人間を憎む稀人もいるのだ。杏火はそのタイプであり、しかし、同時に人間を愛してもいる。そう創られた存在なのだ、杏火は。創造主に見捨てられた断罪の巫女。生きる意味を見失うには充分だろう。

 

 紫苑が慰めつつも任務に戻るように言おうとしたが、その前に杏火は自分で折り合いをつけたようである。

 

『いっけな~い、殺意殺意♪ まあ、こっちのバイク警官は掃除しとくから安心してよ。(はじめ)君呼んでるからもう切るね~』

 

 元というのは美沙と同じ第捌機関に所属する男だ。どうせなら武装ヘリもそっちで始末してもいいだろうとは思うが、紫苑も暇だったので特に断らなかった。

 

「まったく……」

 

 何度目かになる追尾ミサイルの襲来に、扇を振るって起こした風邪で対応する紫苑。武装ヘリまで稀人化しているのか無駄に頑丈だ。〝箏曲 誘〟で自分に注意を向けているが、機銃の掃射とミサイルの連射が鬱陶しい。

 

 雑踏ひしめく街中に落とすわけにもいかず、予定された落下ポイントまで誘導しなければならない。市民を守るべき警察が市民の安全を脅かしているとは、なんとも笑えない話である。

 

(まあ、わっちほど適任な者もいないでありんしょうねえ)

 

 この場にいる稀人で、空中戦や誘導に最も向いているのは自分だろうことは紫苑にも分かる。飛来物をあしらいながら目標地点に飛んでゆく紫苑。つかず離れずの距離を保つのはそれ程難しくも無いが、時々武装ヘリがあらぬ方向に向かおうとするのは地味にストレスが溜まった。

 

(嫌でありんすねえ。機械というものは無粋で……)

 

 目移りする与太郎なんぞお呼びではない。さっさと済ませてしまおうと、目標地点に付くな否や、反転して扇で突風をぶつける。

 

〝扇舞 風林舞破〟

 

 回転翼で空を飛んでいる以上、気象条件には左右される。超威力の突風は天敵の一つだろう。これだけで墜落してくれれば楽なのだが、武装ヘリはすぐに立て直す事ができるようだ。ならばと空を飛ぶ花魁は次の舞に移行する。

 

〝扇舞 燕雀(えんじゃく)

 

 紫苑は数を増やした扇を投げて飛ばし、その扇が武装ヘリを切り刻む。相手が金属でできていようと紫苑の技の前には関係がない。みじん切りにされた武装ヘリはあえなく墜落した。

 

「ふん、他愛もなし」

 

 空に舞う花魁は、墜落していく金属片を見下ろしていた。その後、再び念話が届き、杏火、元、時雨、美沙も仕事を終わらせた事を把握した紫苑は八咫烏の拠点へと仲間を案内するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえば冴凪はどこ行ったの』

『あーしの後ろに掴まって寝てるよ』

『コアラかよ』

 




今回は新キャラが次々に登場しましたが、暫くはこんな感じだと思います。

この話の味方陣営は八咫烏と第捌機関で、第捌機関は警察内部の組織です。結構黒い部分もありそうな内容を話していましたが、次回以降にもう少し語ろうと思います。

また、時雨君のモチーフの一つに雪女があります。時雨君自体は男だけど(笑)。晩秋から初冬の雨=雪とするのは少々強引かも知れないが、自分でも思っていた以上にしっくりきました。
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