東京災禍~哲学的雪女と死にたがりJKの怪異譚~   作:三文小説家

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久しぶりの投稿。なんかガチでスランプ入ったっぽいです。


The strategy of two side’s eight

 第捌機関の協力のもとに稀人化した警察官の暴動を制圧した後、時雨は()()()()()()落ちていた。通常の物理法則に逆らう異常事態だが、時雨に焦りや不信感は無かった。

 

 何故なら、これは味方が発動した能力だと分かっていたからだ。

 

 この事態を引き起こしているのは紫苑だ。『堕ちる』という概念を司る稀人である紫苑にとって、重力操作などお手の物である。そして、別に紫苑が裏切ったとか、時雨に危害を加えようとしているわけではない事も時雨は知っている。

 

 空に向かって落ちる時雨の先に、落下点が見えてくる。闇夜に浮かぶ楼閣。時雨たち八咫烏の拠点である〝魔転楼(まてんろう)〟が帰還者を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 魔転楼は人間達が住む場所とは違う空間に存在する浮遊建造物だ。中心点を貫くように多重の塔が存在し、それを取り囲むように諸々の建物や庭園などが浮遊している。

 

なぜ浮遊しているのかというと、この空間には地面やそれに類する物が無いからだ。それどころか、緯度やら経度やらの人間界において場所を規定する座標すらない。魔転楼が位置しているのは〝虚数空間〟という通常の方法では観測できない空間で、人間側が場所を補足しようにもその座標は永遠に割り出せないという始末。

 

 魔転楼に入る事が出来るのは、管理人である紫苑が招いた者のみである。

 

 時雨は塔を取り囲む建物の一つに着地した。時雨ほどの実力者であれば問題なく降りる事ができるが、招待された者によってはそうでない事もある。故に着地の直前に減速するようになっている。不法侵入者の場合は床のシミになっている事だろう。

 

「相変わらず、圧倒される建物ですね……」

「阿呆みたいな場所だよな」

 

 実は時雨と一緒に落ちてきた美沙が魔転楼を見て呟く。周囲の庭園も見事な物だが、中心の多重塔は見上げるだけでその威容を示される。一世紀以上住んでいる時雨からすれば日常の光景だが。

 

 降り立った二人の側を、何人かの人間が通り過ぎてゆく。八咫烏に雇われている者達だ。いくら武装集団とは言っても、構成員は戦闘員ばかりではない。食材を調理する料理人や書類を整理する事務員や司書なども存在するのだ。

 

 また、魔転楼には服飾や建築その他の職人も住んでいる。彼らが作ったものや技術を売って利益を出している面もあるのだ。

 

「………」

「どうしたのさ。急に静かになって」

「いえ、警察では彼らは救えなかった、と思いまして」

 

 その言葉に時雨は肩をすくめる。いつもの事ながら美沙の責任感には恐れ入ると思ったのだ。

 美沙の言う通り、此処にいる職人たちの中には人間界に居場所を得られなかった者も多い。とはいえ、周囲との不協和を全て本人の怠慢とするのは、あまりにも乱暴だ。対処できない程の巨大な圧力に居場所を奪われた者、時代という流転に押し流された者……だがそう言った者を救うのは警察ではない、と時雨は思う。

 

「まあ、警察は秩序を守るか、秩序を作るのが仕事だろ。秩序から外れた者達は、僕達みたいな非合法組織に任せておけばいいのさ」

「そういえば非合法組織でしたね……あまりにも普通に出入りしているので忘れていました」

 

 警察がそれでいいのかと時雨は思ったが、敵意を持たれるよりはマシか、と気を持ち直した。

 

 今二人が話した通り、八咫烏は非合法組織だ。厳密には全てが合法の範疇にあるわけではないという事だが、法的な扱いは大して変わらないだろう。

 とは言ってもあからさまな犯罪行為を働くわけではなく、ただ単に法律上定義できない集団というのが警察その他の見識である。基本的に人間を統制するために存在するこの国の法の下において、組織的稀人など平等ではない。普段は傭兵稼業のような事をやっており、金次第で犬の散歩から稀人討伐まで()()()()()

 

 そう、何でもだ。それが例え人間の法や常識から外れた物でも関係が無い。故に人間界にて理不尽に居場所を失った者にも手を差し伸べるし、警察よりも自由が利く。

 

「まあ、正直そこは役割分担だろ。だからこそ、アンタら第捌機関と協力できるわけだし」

「……そうですね。私とて神ではありませんから、全てを救う事は出来ません」

 

 そんな話をしながら時雨と美沙は塔の中へ入っていく。

 

 内部は内部で混迷を極める有様で、空間が歪み、上下左右や重力の概念が滅茶苦茶な状態となっている。更には襖やドア、階段、廊下、壁や床などがやはり物理法則を無視しているかのように出鱈目に()()ぎされた奇怪な場所となっている。

 

「正直、空間が歪んでるなら全部塔の内部で完結させればいいんじゃないの?」

 

 と時雨は思っているが、それはそれで不便が生じると八咫烏の面々に口をそろえて返された。まあ、外側には庭園や畑などの物も存在するので全てを詰め込めばいいという物でもないのだろう。

 

「後はまあ、デザインセンスが大正時代で止まってるんだよね」

「だって現代の建物って殺風景ではありんせん?」

「あ、紫苑だ」

 

 時雨達から見て真上の渡り廊下に立つ紫苑。時雨と美沙の雑談を聞いていたのだろう言葉に時雨は溜息を吐く。実を言うと、現代の『殺風景な』様式も時雨は好きではあるが、多数派がこのデザインを推しているので現状に落ち着いている。別に時雨自身、致命的なまでに居心地が悪いという訳では無いのだが。

 

「棟梁がお待ちでありんす。さっさと降りてきなんし」

「登るんだか降りるんだかややこしいなホント」

 

 時雨と美沙は紫苑のいる場所に降り立った。見ると、美沙が少し寒そうにしている。

 

「どうしたの? 急に怖くなった?」

「違いますよ。貴方が溜息を吐くと冷気が……」

「あ、ごめん」

 

 どうでも良い人物に対する態度だけでなく、吐息さえ冷たいのが時雨という男である。一応意識すれば冷たくない息を吐く事も出来るが、本拠地である魔転楼に入ると時々忘れてしまう。

 

「息が臭いって言われるのと似たような感じかね」

「無臭なのがまだ救いではありますが」

「そっちに向けて溜息吐いてないしな」

「それで冷気を感じるとか、どれだけ低温でありんす……」

 

 そんな他愛の無い会話の最中に目的の場所に着いた一行。扉をノックすると返事が有ったのでそのまま入る時雨達。

 

「やあ、おかえり。ご苦労だったね」

 

 部屋で待っていたのは、片腕を露出させるかのように着物を着崩して書類を眺めている女。八咫烏の棟梁である雑賀(さいか)孫一(まごいち)であった。

 

 

 

 

 

 

「なるほどねー……こりゃ大変だ」

「此度の騒動は全て警察の落ち度です。故に、そちらに生じた損害等は謹んで警察から補填させて頂きます」

「あー、それは別にいいよ。そんなもん無いし。こっちは金さえ貰えれば文句は無いさ」

 

 美沙が頭を下げて孫一に警察側の対応を話すと、孫一は別に興味もなさそうに返していた。既に報酬は貰っているので、後は割とどうでも良いのだろう。そういう女である。仮に著しい損害が生じれば請求もしただろうが、外道兵達の掃討に手こずったわけでもない今回では取るものも取れないというのもあるだろうが。

 

 時雨は初めて会った時、雑賀孫一が女であるという事実に少し驚いた記憶がある。何故なら、基本的に知られている孫一という人物は専ら男であったから。だが、本人に話を聞いてみると、

 

「まあ、本願寺で重秀(しげひで)が死んでから私が雑賀孫一を襲名したわけだが、下らんヘマやって私も死んじまってねえ。そこで私は家紋の(からす)に取り憑かれ……稀人となってからはのらりくらりと生きていたさあ」

 

 という事情らしい。八咫烏の名こそ雑賀の家紋から取っているらしいが、雑賀衆を名乗っていない辺り、おそらく一族が分離したか、稀人となった事で別の集団にならざるを得なかったか、程度の事は時雨も理解できた。

 

(それにしても……女性ばっかだなあ)

 

 と時雨は思う。この場にいるのは自分を除いて全員女である。なお、この場にはいないが別地点で任務にあたっていた杏火(きょうか)冴凪(さえなぎ)も女だ。八咫烏や第捌機関の構成員に男がいないわけでは無いのだが、比率として女の方が多いのである。

 

(まあ、女性ってのは元来男よりも図太い生き物だしね。僕みたいな男は理屈を超えられないけど、女性はそれを超えてしまう。野生動物でもあらゆる決定権は雌が持つ。本来、女性の方が生物学的に優れてるんだろうって考えると、これも必然的な光景かな)

 

 警察の落ち度である外道兵の件が片付いた今、鴉祓(アバライ)討伐の件で事務的な報告を行う時雨は頭の片隅で思考を躍らせる。粗方報告が終わり時雨と美沙は解放され、美沙は「ではまた任務にて」と言って帰っていった。

 

 時雨達が出ていった後、孫一は遠隔通話を起動させてとある人物に繋げる。

 

『あら、こんな時間に何の用かしら、孫一さん』

 

 その人物とは美沙の所属する第捌機関の長である牧之原(まきのはら)黎子(れいこ)だ。美沙のような異能者でもなく、孫一や時雨のような稀人でもない普通の人間でありながら、警察内最強とも言われている第捌機関を束ねる或る意味で妖怪じみた女。

 

だが、孫一が通話をするのは彼女のパーソナリティに関心があるわけではなく、今回の件に関して個人的な興味があるからだ。

 

「単刀直入に聞くけど、今回の警察の暴走はアンタの計画の内かい?」

『やっぱりそれを聞いてきたわね。でも、今回の事は全くの想定外だわ。確かに警察内における第捌機関の地位は上昇したけど、警察そのものの人数が大幅に減ってしまったわ。おかげで貴方達の仕事は増えるでしょうけど、こっちはオーバーワークも良い所よ』

 

 黎子はそう言うと知的な印象を与えるノンフレームの眼鏡を外し、ウェーブのかかった髪を軽く振る。その様子を見ると、孫一は頬杖をついて呆れたように口を開く。

 

「ふん、もうこの状況を利用したとはねえ。手が早い事だよ」

『機を見るに敏……という奴ね。貴女のように強力な力を持たない私は、好機を見逃すわけにはいかないの』

 

〝異能や武器なんて無くても、人は殺せるわ〟

 

 そう嘯く黎子の過去の所業を孫一は思い返し、『どこまで本当なんだか』とは思いつつも今回に関しては本当にウンザリしているような表情をしている黎子の様子に口を閉じた。

 

「まあ、私は報酬さえ貰えれば文句は無いさ……」

『そうね。貴女はそういう人だわ』

 

 それから、少し間を置いて黎子は眼鏡を掛け直した。

 

『〝敵〟の狙いは、そもそも存在するかも分からないけれど、近いうちに戦局が大きく動くかもしれないわ』

「へえ? まあ、敏腕長官様の勘だ。何も無いという事はないだろうねえ」

『ふふ、貴女達〝八咫烏〟、そして私達〝第捌機関〟、共に新たなる秩序のため、仲良くしましょう?』

「だから私は金さえ貰えればそれでいいって」

『もう……こういう時くらい空気読みなさいよ』

 

 黎子のほうは不満げながらもこの通話は終了した。誰もいなくなった執務室で孫一は書類整理で凝った肩を自分でほぐすとポツリと呟く。

 

「久々に大暴れする時が来るかねえ……」

 




色々情報が出てきました。序盤はただでさえ書くこと多くて頭の整理が大変である。まあ初っ端から二つも味方組織出て来ちゃってるから、書くこと多いのは当然かもしれない。

備忘録

雑賀孫一:皆さんご存じ……かどうかは知らないが歴史上の人物である。伝説の鉄砲使いであり、石山本願寺にて雑賀衆を率いて信長軍を苦しめた。今作での組織名『八咫烏』は雑賀の家紋から。本人曰く「家紋の烏が取り憑いた」らしいが、脚が三本あったりするわけではない。

牧之原黎子:第捌機関の長官。異能者でも稀人でもない普通の人間だが、魑魅魍魎が跋扈するこの世界の警察内で権力を伸ばし続けている。曰く、「異能も武器もなく人を殺せる」。孫一の記憶によるとかなり黒い事もしていそうである。

時雨の息:気を抜くと冷たくなる。以上
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