「最近のB小町はどうですか? 星野さん」
「超良い感じ! ライブのキャパも増えてきてるし、CDもめっちゃ売れた! 良い感じに忙しくやらせて貰ってますよ〜。カミキくんは?」
「僕もまぁボチボチです。最近主役をやらせていただくことにもなりました。もしよかったら見にきてください」
「うん! 時間があったら見にいくね!」
ぐちゃっ…!! 飲み終わったペットボトルを握り潰し、楽屋へと戻る。あのまま2人の──アイさんとカミキヒカルの会話を聞いていたら、嫉妬と憎悪で頭がおかしくなりそうになるからだ。
「…ハァ…俺…なんてめんどくさい性格してんだよ」
カミキさんとアイさんはそんな関係じゃない。ただアイさんがデビューした時に世話になった事務所にいて、歳が近かったこともあり仲良くなっただけの仕事仲間である。分かっている。理屈じゃわかっているのだ。だけどアイさんは女の子で、カミキヒカルは男(しかも超絶美形)だ。
もしかしたら…アイさんが取られてしまうのではないかと、そう考えてしまう。
「はは、そんなわけないだろ」
楽屋に入り、一人沈黙の時間が流れる。
(本当に?)
やめろ。考えるな。
「ハッ…ハッ…ハッ…」
恐怖で震えが止まらない。呼吸が浅くなる。ダメだ。もっと息を吸い込め。
(捨てられる?)
考えるな。アイさんは俺を捨てたりなんかしない。だって結婚するって約束したんだ。
(俺は…いらなくなる? また…ひとりぼっちに…)
全身が寒い。上手く呼吸が出来ない。
自分が立ってるのか座ってるのかが分からなくなってくる。
何も考えられない。頭が真っ白になる。嫌だ。一人は嫌だ。アイさんに捨てられるのなんて絶対に──
「アラタくん!?」
直後、とても暖かいものが全身を包みこんだ。
「ハッ…カヒュッ…ヒュッ…」
「落ち着いて。ね? 何かあったの? 怖いことでもあった? 大丈夫。私がついてるからね」
「ヒュッ…ハッ…ハッ…ァ…ィ…さん?」
真っ白な思考と真っ黒になりかけていた視界が元に戻って周囲を確認すると、アイさんが俺の事を抱きしめていた。
「うん。アラタくんの恋人で、婚約者のアイだよ」
「ぁ…よかっ…たぁ…」
もっと温もりを感じるために、自分はここにいても良いんだと確かめる為に、半ば本能的にアイさんに抱きついてしまう。
「よしよし。良い子良い子。アラタくんが満足するまでたくさん甘えて良いからね」
あぁ…声を聞いて安心する。抱きしめられて安堵する。
俺は──ここにいて良いんだ。
「すみません…お見苦しいところを…」
「全然! 寧ろ弱ってるアラタくんを見れるとか役得! 需要しかないよ!!」
「ハハッ…何ですかそれ…」
俺の弱ってる姿もアイさんを喜ばせる材料って、もう何でもありなんじゃないか?
「それで、何があったの? 怖いことでもあった?」
「……カミキさんと話をしているのを見て…思ったんです。アイさんがいつか、俺を捨てて他の男性とお付き合いするんじゃないかって…」
「は?」
「そう思ったらとても怖かった…っずっ!?」
突如、肩に強烈な痛みが走る。 理由はすぐに分かった。アイさんが俺の肩を噛んでいるからだ。
「うっ…いだ…! アイさっ…! いたぃ…!」
痛い。痛い。痛い。 今にも離してほしいのに、痛いのに。 何故か──とても気持ちが良かった。
「フゥ…取り敢えずこの辺かな。はい、じゃあ次はアラタくんが私の肩噛んで♡」
アイさんはシャツをはだけさせて、女の子らしい真っ白な肩を出す。その姿に見惚れて一瞬どきりとしたが、今からやれと指定されたことに困惑する。
「噛む…んですか?」
「うん♡アラタくんは私が他の男に取られるのが不安なんだよね♡だったらさ、マーキングしちゃおうよ♡」
「マー…キング…」
「そ♡アラタくんは私のモノで、私はアラタくんのモノだって跡を付けて残すの♡肩出しの衣装とか水着とかは着れなくなっちゃうけど──まぁそんなのどうでもいいよね♡」
ドクン、ドクン、ドクン。 心臓の音がより近くに感じる。傷を付けるんだ。B小町不動のセンター、星野アイに──俺が、俺のモノだという証を刻みこむんだ。
「かぷっ」
「あっ♡♡」
誰にも渡さない。アイさんは俺だけのモノだ。俺はアイさんのモノだ。絶対に、絶対に絶対に絶対に誰にも渡さない。
「良いよアラタくん♡♡もっと噛んで♡」
俺は口の中に軽く血の味がするくらい強く、1ヶ月はくっきりと跡が残るような力で、アイさんの肩を噛んだ。