レズビアン
それは女性の同性愛のことであり、近年性の多様性として重要視されているLGBTQのうちの一つだ
今でこそ社会にも受け入れられつつあるものだが、少し前までは異常として迫害されることも多々あった
わたしは・・なにしてたんだっけ・・?
そんなことを考えていたとき、脳内でその瞬間がフラッシュバックする
目のまえに車が迫り、私の体を吹き飛ばしたその瞬間
「・・・いやっ!」
思わず私は飛び起きた
さっきまで目のまえには車がいたはずなのに、そこは白い部屋だった
下にはふかふかした感触、これはベットかな?
「・・・あ」
すると横から声が聞こえる
そちらに目をやると看護師らしき人がいた
「先生!夏咲さん、目を覚ましました!」
その人は大きな声で先生?呼んだ
するとその先生と呼ばれた人が部屋の中に入ってくる
「夏咲さん、体の調子はどうですか?」
「体・・・?いったい何が・・」
「あなたは五日前、交差点で車に撥ね飛ばされたんです」
「自動車を運転していた方は自首していて、今は留置所にいます」
「幸い、近くにいた方が通報してくださったおかげで一命をとりとめました」
「しかし、あれから五日間眠ったままでしたので不安でしたが、意識が戻ったようですね」
「御家族にも連絡しましたのでもうすぐいらっしゃると思います」
「そう・・だったんですか」
そのとき、廊下からバタバタと走る音が聞こえてくる
そして思いきり部屋の扉が開かれる
そこにあったのはよく見慣れた顔だった
「・・・ママ」
「・・・・れもん!!」
私がそう呼ぶと、ママは私に抱きつき泣き出した
「よかった・・・生きてて本当に良かった」
「ママ、ごめんね、不安させて」
「私はもう大丈夫だから・・・ね?」
そう言って私はベットから降り、立ち上がろうとする
・・・・・あれ?
足が・・動かない
このとき私の頭の中にある言葉がうかんだ
だけど私はそれを信じたくなくて
受け入れたくなくて
勘違いだと信じたくて
何が何だかわからないように問いかけた
「ねえ・・ママ、なんだか変だよ」
「・・・さっきから、足が動かない」
するとママは目をそらしてしまう
「ねえ・・・ママ?」
私がもう一度尋ねると、代わりに先生が答えた
「夏咲れもんさん、非常に申し上げにくいのですが」
「命は助かったものの・・・」
「・・・・下半身不随となってしまいました」
「・・・・あ・・あ・・あああああああ!」
先生の口から告げられたその言葉は私が考えていたものとまったく同じで
下半身がもう動かないという事実は
まるで私を壊し、弄び、嘲笑うかのように、頭の中を埋め尽くした
私の足は動かなくなった
昔から好きだった散歩も、もう自分の足では出来なくなってしまった
私が目を覚ましてから数日が経過した
私を撥ねた運転手との裁判も気が付けば終わっていた
どんな判決が下されたかは覚えていない
だけどそんなことはどうでもいい
どんな判決だったとしても、現状は変わらないのだから
私は事故に遭うまでは、よく明るい子だと言われていた
昔から外で何かをすることが好きで散歩なんかをしていると
よく人と会うため、話しているうちにそう言われるようになった
だけど今となってはその面影は消えてしまった
こんな姿を人に見られるのが嫌で、部屋からでなくなってしまった
病院の先生からは「少し外に出てみないか」と言われるが断り続けている
しかし、その日は健康状態を確認するために、部屋からでなければいけなくなった
そうなってしまえば従うしかなく、部屋を出ることとなった
・・・ああ、車いすに乗ってる
あの日までは、自分で歩けてたのに・・
惨めだなあ・・・
「・・・・うう」
私が車いすで運ばれていたときに廊下でおばあさんがうずくまっていた
「橘さん!大丈夫ですか?!」
「夏咲さん、ちょっとここで待っててね」
車いすをおしていた看護師さんは私にそう言うと
人の集まるホールのような場所に車いすをとめるとおばあさんに駆け寄っていく
急なことで仕方ないけど、もし人に会っちゃったら嫌だな・・・
そんなことを考えたとき声を掛けられた
「ねえ君、こんな隅でどうしたの?」
ここには人がいないと思っていたから、突然声を掛けられて驚いてしまう
顔を少し上げるとその声の主が目に入った
その人スラっとした体型に艶のある髪をした女性で
その左腕には包帯を巻いている
きっと誰が見ても綺麗だと答えるような
そんな人に話しかけられた
私が説明すると、その女性はなるほどと頷き、こう言った
「それじゃあ、少し私と話そうよ」
「・・・え?でも・・」
「いいからいいから」
「私は白雲梓、好きな風に呼んでね」
「〇〇高校の二年生だよ」
「あなたは?」
「夏咲れもん・・・中学二年・・です」
「れもんちゃんか、可愛い名前だね」
「れーちゃんって呼んでもいい?」
「・・・いいですよ」
「れーちゃんは普段何してるの?」
「・・・なにもしてないです」
「それって・・車いすだからなにもできないの・・・?」
梓がそう言うと私の中で何かがぐるぐるとまわるのを感じる
「・・・・ああ」
「・・・いやっ、やだ、やだやだやだ」
「あああああああああ」
「いやだいやだいやだあああ」
「見ないで・・・みないで・・」
そしてその何かが溢れだすと同時に私は叫んでしまった
顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃになり上手く話せなくなってしまう
心臓の鼓動は益々早くなっていき、呼吸も乱れていく
そんな私をみた梓はそっと私を抱きしめて頭を撫でてくれた
「ごめんね、聞かれたくないこと聞いちゃったね」
「大丈夫だよ、話さなくていいからね」
「少し落ち着こう、ね?」
そうして梓はしばらくの間、それを続けてくれた
次第に私も落ち着いていき、話せるようになった
「ゴメンね、落ち着いた」
「・・うん、もう平気・・・です」
「そっか、よかった」
「でも、やっぱり話すのは難しいよね」
「それじゃあ、私の話しようかな」
「私ね、見たら分かると思うんだけど腕折れてるんだよね」
「遊んでたら転んでこんな怪我しちゃったってわけ」
「しかも利き手だからめっちゃ不便」
「でもそのおかげで勉強しなくていいからラッキー、なんて」
「あはは、凄い」
「・・・私、もっと・・・梓さんの話、聞きたいです」
「ホント?それじゃあ・・・」
「ごめんなさい、夏咲さん、大丈夫でしたか?」
梓が話そうとしたとき、看護師さんが戻ってきた
それで私はもう時間なんだと思い、少し落胆してしまう
「あ、もう行くんだね、バイバイ!」
看護師さんにおされていく私に梓は手を振ってくれた
私は後ろを振り向き、彼女に向けて手を振り返す
「夏咲さん、なんだか少し元気になりましたね」
「・・・え?・・そうですか?」
「はい、なんだかさっきよりも楽しそうです」
「さっきの子と何かあったんですか?」
「少し話しててね、とってもおもしろかったんだ」
「それに・・・実は少し泣いちゃって」
「そしたらあの子優しく撫でてくれて・・えへへ」
「また会いたいな」
「確かあの子、白雲さんでしたか?」
「よくあの場所にいるのを見かけますし」
「行ったら会えるかもしれないですよ」
「本当?」
「あの、明日も・・あそこに連れていってもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ」
==次の日==
今日も私はあの場所に来ていた
到着して辺りを見回すと、昨日話した女の子を見つける
「・・・梓さん」
私が彼女の名前を呼ぶと、少し驚いたようにこちらを振り向く
そしてその表情は柔らかくなり
「れーちゃん!」
と、言ってこちらに駆け寄ってくる
「今日も来たんだね」
「うん・・もっと話したくて」
「そっか、私もお話したかったよ!」
そうして今日も雑談を交わし、気が付けば日が暮れかけていた
「わあ、もうこんな時間だ」
「そろそろ部屋に戻らないと」
「ねえ、もしよかったら明日も話さない」
「うん!いいよ」
そうしてまた、一日が終わった
それから私たちは毎日会うようになった
そんなある日、梓からある提案をされる
「ねえ、少し外に出てみない?」
「・・・・・え?」
それはまったく予想していなかったことで
私がずっと嫌がっていたことだった
「・・・・えっと」
私は断ろうとして梓の目を見た
するとその瞳は透き通っていて
見ているうちに心が吸い込まれていった
そして断るはずが
「・・・行ってみたい」
と、言ってしまった
私は外に出てきていた
外に出たのはいつぶりだろう
あの日からずっと出たことはなかった
気づかないうちにもう葉は赤く色づいていた
「わあ・・・・綺麗」
「でしょ、とっても綺麗だったから見てほしかったんだ」
私が紅葉を眺めていると梓は少し寂しそうに口を開いた
「実は私さ、明日退院するんだ」
「・・・・え?」
突然のことで頭が真っ白になる
今までそんなこと一言も言っていなかったのに
いや、だけどそう思えることはあった
今、私の乗っている車いすは、梓がおしてくれている
どうやら腕はほとんど治っていたらしい
仕方ないことだし、治るのはいいことだ
だけどそれ以上に、寂しかった
別れるのが嫌だった
気が付けば目からは涙が零れていた
大きな水の一粒一粒は私の服を濡らしていく
「やだ・・・やだ・・」
小さな声を震わせながら、何度も同じ言葉を繰り返す
そんな私を梓はそっと撫でてくれた
そして目にたまった雫をすくうと優しい声音で言葉を続けた
「泣かないで、私は退院しても会いに来るよ」
「それにれーちゃんは強いんだから」
「きっと大丈夫だよ」
「・・・だけど」
「それじゃあ、これ」
「私の連絡先、何かあったらいつでもかけてね」
「そしたら私、いつでも駆けつけちゃうから」
「・・・・・ほんと?」
「もちろん!約束する」
そう言って梓は小指を立てた手を出す
それに答えるように私も、震わせながら手を出した
二人の小指が絡み合う
「「・・・約束!」」
「大好きだよ、れーちゃん」
「約束」の言葉の後に梓は小さな声で囁いた
その声は小さかったけれど
私の耳にはしっかりと聞こえていた
その「好き」はどういった意味の「好き」なのかは分からなかった
けれどその言葉で私の顔は
紅く染め上げられてしまった・・・
続くのかな・・・??