貞々☨夢想   作:カツヲ武士

11 / 37
オリ設定・オリ展開・アンチヘイト
継続中


11話。許されるはずもない曹操love

「文若殿。これからは曹操殿に代わって俺が問おう」

 

「な、なによ! アンタなんかに答えることなんて……」

 

「いや、目の前で見て、そして聞いていただろう? 俺が貴殿への対応を曹操殿に一任されたことを。つまり俺の問いは曹操殿の問いである。そうですね?」

 

「……えぇ。そうね。この場に限ってはその通りよ」

 

「だ、そうだ」

 

「くっ」

 

当事者全員が認めたところで再開しようか。

 

「先ほどからの話を纏めると、貴殿は己の価値を曹操殿に知ってもらいたかった。その方法として直接献策する場を得るため、あえて今回用意する物資を減らすよう書簡に細工をしたのだな?」

 

言っていて意味が分からんが、そういうことだよな?

 

「……その通りよ」

 

「なるほど。では次だ。貴殿はその行いが罪になることを理解しているか?」

 

今も昔も公文書の偽造は犯罪である。

それが軍の進退に関わることとなれば、その罪はいかほどのことか。

 

これで誤魔化すようなら如何に名家の試しという名目があっても処罰をしなければならないが……。

 

「……えぇ。理解していたわ」

 

誤魔化しはなし、か。

 

「素直でよろしい」

 

本当は全然よくないが、曹操も一度は「それが自分を試すための所業だったらしょうがない」と認めたからな。

俺が混ぜ返す必要はない。

その上で文若も罪を認めた以上、あとは曹操と彼女の問題だ。

 

だから聞きたいのはそこではない。

 

「では詳細について問おう。先ほどの供述では『己の価値を知ってもらうため』今回の儀に及んだとのことだったが……曹操殿の器に不足がないとわかっていたのであれば普通に仕官したあとで献策でもなんでもすれば良かったのではないか? 何故そこに策を弄する必要があったのだ?」

 

「……そうよ。なんで普通にこないのよ」

 

曹操がボソッと言ったが。これが全てである。

 

荀文若が仕官しにきたと知れば、曹操は普通に迎え入れたはずだ。

それなのに曹操と会う前にこんな犯罪まがいのことをしていたら評価が落ちるだけではないか。

それも曹操だけではなく、今回迷惑をこうむることになった全員の評価が。

 

「……」

 

実際踏み台にされた夏侯淵は殺意を込めた目で見ているしな。

少なくともこの時点で相当マイナスだぞ。

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

なんだ? 嘘は吐くなよ? 

俺はともかく、他がヤバいからな。

 

「そ、曹操様には荀家の人間だからどうこうではなく、私個人の能力を見て欲しかったのよ!」

 

「子供か」

 

いや、子供だったわ。

 

「なんですって!?」

 

思わず呟いた言葉に噛みつかれてしまったが、そうとしか言えんよ。

 

「宗家の跡継ぎが家の価値を否定してどうする。それも含めて荀文若という人間の価値ではないか」

 

「うっ」

 

「だいたいだな。貴殿が曹操殿の下に仕えることになった場合、ただでさえ文官に乏しいことを自覚している曹操殿は、貴殿が持つ能力はもとより荀家が積み重ねてきたその人脈も宛にするだろう。もし人材を斡旋して欲しいと頼まれたら貴殿はどうするつもりだ? まさか『私を荀家の人間として見ないでください』と言って人材の斡旋を断るつもりか?」

 

「私が曹操様のお願いを断るはずないじゃない!」

 

「だろうな」

 

文若個人の思惑はさておくとして。

人材の斡旋とは、紹介される側だけでなく紹介する側にも得があるものだ。

 

まして紹介されるのが、現時点でさえ徳政で以て名を挙げつつある勝ち馬候補こと曹操である。

 

曹操は人材を得てホクホク。

紹介された人材は曹操の下で働けてホクホク。

荀家は曹操に感謝された上で、紹介した人間から紹介料やら何やらを貰ってホクホク。

まさしく三方良し。

 

名家とはそうやって勢力を拡大してきたのだし、文若とてその恩恵を受けてきた人間だ。

 

まして彼女は曹操に認められたいと言っている。

で、あればこそ彼女が荀家の力を使わないなんてことはありえないのだ。

 

そのことをどこまで理解しているのやら。

 

それだけではない。

 

「そもそもの話、元々曹操殿は献策の内容を重視する人物であって、献策した相手の家柄を重視するような人物ではないぞ?」

 

「その通りよ! もっと言ってやって!」

 

俺の影から小声で叫んでいる様からは想像できないかもしれないが、彼女はこの時代には珍しく『誰が言ったか』ではなく『何を言ったか』を重視する人物なのだ。

 

なんならその辺でうろついている賊の意見であっても、そこに理があると判断すれば採用するだろう。

 

それくらいの器は有しているのである。

 

もちろん現実問題として、そう簡単に賊の意見が曹操の耳に入ることはない。

それで言えば一文官であっても同じだろう。

 

よって、もし文若が荀家の人間ではなくその辺にいる文官でしかなかったのであれば、今回のような小細工をする意味はある。

 

相当な無理をしなければ、一介の文官が出陣を控えた曹操に献策をするなんてことはできないからだ。

 

だが荀文若であれば話は違う。

 

荀文若からの献策であれば、その策を採用するかどうかは別として曹操は必ずやその献策に耳を傾ける。

 

だから文若はそこで策の内容の評価をしてもらえばよかったのだ。

 

普通のルートで普通に献策できるだけの立場を有しているのだから、わざわざ小細工を弄して他人に迷惑をかける必要はないのである。

 

それともう一つ。献策ということだったが、俺が知る限り彼女は……。

 

「ねぇ司馬朗」

 

完全に再起動を果たした曹操が動き出した。

 

「なんでしょう」

 

「彼女は献策したいって言っていたわよね? 貴方から見て彼女の能力はどうなのかしら?」

 

それな。

 

「私が知る限り、彼女は政略向きの人間です。人脈を駆使した宮廷工作や、都市の管理などであれば十分以上の力を発揮できるでしょう」

 

さっき話していた土地の開発なんかであればかなり役に立つはずだ。

 

「軍才は?」

 

それな。

 

「……彼女は軍を率いた経験はありません。成功の経験も失敗の経験もしていない人間の能力を論ずる術を私は持ちません」

 

「それは、駄目ってことかしら?」

 

誤魔化しは許さないってことか。

正直こういうのは曹操自身に判別して欲しかったのだが、仕方あるまい。

 

「……向いていないと思います」

 

「んな!?」

 

そうなのだ。俺が見たところ文若は確かに優秀な文官だが、その能力は政略向きであって軍事には、特に戦術的指揮官や戦術補佐官としての能力は低いと思っている。

 

無論、その辺の賊相手であれば策に嵌めることはできるだろう。だが、それだけだ。

本物の軍師を相手にしたら軽く捻られるのではなかろうか。

 

それだけではない。

彼女には致命的な欠陥がある。

 

「あら。彼女は軍を率いた経験はないのでしょう? それなのになぜそう断言できるのかしら?」

 

「そうよ! 曹操様の前で勝手なこと言わないで!」

 

お前はもう少し自分の立場を弁えろ。 

というか、何故自分に軍事的な才覚があると思っているんだ?

 

逆だ。お前を軍事に関わらせたら軍が崩壊するぞ。

 

「能力がどうこう以前の問題ですよ。なにせ彼女は極度の男嫌いであると同時に、男性への差別意識が強く、その態度を隠すことができないという、軍師としては致命的な欠点を持っているのですから」

 

「はぁ!? それの何処が欠点なのよ!」

 

「自覚がないのが最大の問題だな」

 

「なんですって!?」

 

軍師が感情的になってどうする。

そういうところだぞ。

 

「いいか文若殿。将はともかく、兵の8割は男だぞ。それなのに男を差別するような人間が軍師になったらどうなると思う?」

 

曹操たちとの違いは、曹操たちは男を軽んじてはいるものの、差別はしていないというところだな。

 

少なくとも夏侯惇や夏侯淵より強い男はいないのは事実だし、曹操や夏侯淵はそれを理由に兵士を無駄に殺すような真似をしていない。

 

夏侯惇に至っては先陣を切って突っ込むからな。

あれで「男を殺そうとしている」という悪評を立てることはできまいよ。

そしてそれは曹操や夏侯淵も同じだ。

 

だが戦場に出ない荀文若は違う。

 

「どうなるって、別に……」

 

「あぁなるほど。そういうことね。それなら確かに彼女は軍師には向いていないわね」

 

「曹操様!?」

 

さすがに曹操は気付いたようだな。

 

「いいか文若殿。兵の大半が男である以上、死傷する兵の大半もまた男となる」

 

「そんなの当たり前じゃない! 馬鹿にしているの!?」

 

半分はそうだな。まだ気付かないお前を馬鹿にしているよ。

 

「では聞こう。軍の内部で『男の被害が多いのは軍師の荀文若がわざとそうなるように仕向けたからだ』という噂が立ったらどうなると思う?」

 

「はぁ? そんなのただの讒言でしょ!」

 

「その通り。だが、噂を否定することもできない。何故なら男女比だけで見れば男性の方が死傷者が多いというのは紛れもない事実だし、貴殿が普段から男性を邪魔者扱いしているのもまた事実なのだからな」

 

「ぐっ!」

 

火のないところに煙は立たない。どころの話ではない。

しっかり燃焼させているのだ、この猫耳は。

 

「噂を払拭できない以上、兵の不信感を解消することはできない。そのうち更なる戦が発生し、男の兵に被害が出れば噂の信憑性が増す。そうして不信感は積もり続ける。そうなれば貴殿の立場はどうなると思う?」

 

「どうってそれは……」

 

兵からの恨みを一身に背負う軍師とか最低だろう。

それを使う主君もな。

 

「立場が悪くなるのは貴殿だけではないぞ。兵の不信感は、文若殿を軍師として使っている曹操殿にも向く」

 

「でしょうね。その時点で印象は最悪。もしかしたら暗殺されるかもしれないわね」

 

「そんな!?」

 

「かといって、曹操殿とて事実無根の噂話を理由に文若殿を解任することはできぬ」

 

あくまで結果的に男が死んでいるだけで、意図的に男を殺そうとしているわけではないからな。

 

それを知りつつ罰を下せば、荀家を始めとした名家たちからの反発は必定。

そうである以上、曹操は文若を罰することはできない。

 

だが文若を使い続ける限り悪評は止まないわけで。

 

「そうね。でも噂を払拭できない以上、兵の不信感は拭えない。兵の信頼を失った将がどんな末路を辿るのかは論ずるまでもない、か」

 

「そういうことです。覇道を歩むのは結構なことですが、末路まで項羽に倣う必要はありません。故に曹操殿には彼女を軍師として使うべきではないと進言します」

 

政務官として使う分には良いと思うがな。

 

李下に冠を正さずというが、彼女の場合はまさしくそれだ。

普段の態度が悪すぎて、そこにいるだけで悪意を疑われるのである。

 

悔い改めろ。

 

もちろん悪評が広まる前に態度を改めることができれば話は違うが、正直無理だと思う。

三つ子の魂百までというし。

 

「なるほど。納得しかないわね」

 

「そんなぁ……」

 

曹操の言葉を受けて絶望したような表情を浮かべる文若。

だがまぁ、自業自得だと思うぞ。

 

あと、早めに夏侯淵に謝っておけよ。

自分はこんな奴のせいで信用を損ねたのか……って感じで怒り狂っているからな。

 

つーか夏侯淵、目つき悪っ!

 

殺気が篭りすぎて変態紳士を見るような目になっているじゃないか。

 

 

 

……この後、一応彼女が考えていた策とやらを聞いてみたのだが、はっきりいって策士としてはグダグダであって事を追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。