夏侯惇への情操教育については後で考えることとして、とりあえず戦闘が行われていると思しき所に向かったところ、そこでは確かに戦闘が行われていた。
ただし戦っていたのは、数十人の賊とたった一人の子供だが。
「賊は出ていけぇぇぇ!」
「くそっ! 強えぇ!」
「強ぇえが所詮はガキ一匹だ!」
「そうだ! 囲め! 囲んでぶったたけ!」
「「おぉぉ!」」
「負けるかぁぁぁ!」
戦闘は一進一退。というか微妙に子供が押しているようだ。
「ふむ。僅か数十人の賊を倒せぬ子供が未熟なのか、それとも僅か数十人で超人を抑えている賊が優秀なのか」
子供が現時点でもそこそこ強い超人なのは見れば分かる。
きちんとした師が鍛えれば今以上に強くなるだろう。
それはいい。問題はその超人である子供を抑えている賊の方だ。
子供がトゲ付きの鉄球を振る度に人が飛んでいるのだが、そんな中でも士気が挫けていないのは異常の一言。
なにが彼らを駆り立てているのやら。
それとも勝算があるのだろうか。
「見た感じ勝ち目なんざなさそうだが……」
いかに相手が子供であっても超人は超人である。
一般人がそれに勝つのであればそれなりの能力や手段が必要だと思うのだが、そういったものの気配はない。
というか、普通に怖くないのか? トゲ付きの鉄球だぞ? 俺が超人じゃなかったら一目散に逃げるぞ。
いや、もしかして彼らはああいう武器を相手にするのに慣れている? もしくは対超人用の技能を積んでいるのか?
「ふむ」
もしそんな技能があるのであれば、是非配下に修得させたいものだ。
夏侯惇クラスとまでは言わないが、超人を僅か数十人で抑えることができる集団が配下にいれば、今後の戦闘がどれだけ楽になることか想像に難くないのだからして。
「問題はあれがただの賊なのか、それとも何かしらの訓練を積んだ特殊部隊なのか、だな」
後者ならまだいい。
だが前者であれば、ただの賊が対超人用の技能を有していることになる。
「……侮れんな」
「そんなことを言っている場合か! 子供が一人で戦っているのだぞ! すぐに助けねば!」
「おいおい」
そう言って駆け出していく夏侯惇だが、世間一般の価値観からすれば彼女もまだ子供である。
発育は良いが、まだ子供なのだ。
だからこそ俺は大人に任せておけと思いつつ夏侯惇に並びかける勢いで馬を走らせる。
そう、大人の義務なのだ。
決して夏侯惇に前を走られると中腰になったケツを見せつけられることになってちん〇が痛くなるのが嫌だから全力で駆けだしたわけではない。
「うぉぉぉぉぉ!」
「なっ! 新手だと!?」
「そこだぁぁぁ!」
「「「うわぁぁぁぁ!!」」」
如何に特殊な訓練を積んでいるとはいえ、超人に挟まれた賊に勝ち目などあろうはずもなく。
「こんなものか! 他愛もない!」
「……とりあえず生きているのを捕えろ。アジトの位置や賊の数を確認する」
「「「はっ」」」
夏侯惇が鎧袖一触で蹴散らした賊の中で生きているのを尋問用に捕まえた。
このうち半数は連中の眼の前で〇して、残りの半数を調べる感じでいいと思う。
「賊についてはこんなところだな。で、そこの少女に問いたい」
「は、はい! なんでしょうか?」
「そこまで畏まる必要はない。我は陳留太守曹孟徳旗下の遠征軍に所属する司馬伯達という。君の名は何という?」
「そ、曹孟徳さまですか! 聞いたことあります! 山の向こうの太守さまで、僕たちのところの太守と違って民に優しい政をしている人だって!」
「ふむ」
隣の郡にもそう言った噂が立っているとは驚きだ。
いや、だからこそ難民が流入してくるのだろうか。
しかしこの少女。曹操には様付けなのに、自分のところの太守には敬称をつけないのな。
これが極々自然に行われているのだから、どれだけ民心が離れているのかが分かろうというものだ。
曹操の政が認められるのは良いことだが、他の太守との差が如実に出てしまっているのは問題かもしれん。
小人の嫉妬ほど面倒ものはないからな。
今回の遠征もその一端と思えば何とかした方がよさそうだが、はてさてどうしたものか。
つーか名前を聞いたんだから名乗って欲しいのだが。
「私の政が褒められるのは嬉しいわね。それもこんな可愛い子に」
「ふぇ!?」
これからのことや少女の名前を考えていたらいつの間にか曹操がきていた。
機嫌が良さそうなのは、言葉通り政を褒められたからなのか、それとも優秀な人材を見つけたからなのか。
ともかく、少女の相手は曹操に任せておけば問題あるまい。
懸念があるとすれば少女を気に入った曹操が閨に連れ込むことだが、まぁ如何に曹操でも他領の子供に手を付けることはあるまいよ。
……しかしアレだな。
あの少女もあの年で立派な痴女だったな。
見せパンかどうか知らんが、あんな形で下着を見せていたらあの年代の子供が好きな紳士を誘うようなモノだろうに。
もちろん俺の息子は反応しなかったが。
あぁ、もしかしてアレか?
賊が戦い続けていられたのは連中がそういう連中だったからか?
……この国、終わってるな。色んな意味で。
とりあえず尋問するか。
―――
「春蘭。貴女ねぇ。何のために司馬朗を先行させたのか理解していなかったのかしら?」
「申し訳ございません。その、つい……」
「つい、じゃないわよ」
まったく。司馬朗の憂さ晴らしに丁度いいと思って賊と戦わせたはずなのに、そのほとんどを春蘭が倒してどうするの。
賊を尋問したことですっきりしたのか微妙に機嫌が直っていたから良かったものを、もし機嫌が悪いままだったらどうするつもりだったの?
彼の天幕に送り付けて欲しいのかしら?
「まぁいいわ。次から気を付けなさい」
「はっ」
最初の目的であった彼の怒りが鎮まったことは偶然だったけど、それ以外は立派に務めを果たしたからね。
なにせ賊の情報を得るだけでなく、有能な人材を得たんだもの。
多少の誤算は呑み込みましょう。
それにしても許緒、いえ、季衣ほどの人材を放置しているだなんて、やっぱりここの領主は無能ね。
他にも人材がいないかどうか調べた方がいいかしら?
あぁ、いや。今は賊の討伐を優先しなきゃ。
「それで、尋問の結果わかったことを確認するわ。賊の数はおよそ3000。最初からこの数だったわけではなく方々から賊が寄せ集まってできた集団。頭目はいるものの絶対権力者というわけではなく、発言力を持つ幹部が複数存在する。拠点はここから少し離れたところにある古い砦。基本兵装は剣。鎧はほとんどなし。食糧などの備蓄もあまりない。こんなところかしら」
「そのようだ」
「信憑性は?」
「虚偽の可能性もあるが、尋問した5人が5人とも打ち合わせもなしに口裏を合わせるのは難しいだろう。故に全員の意見が一致している情報は正しいと考えて良いかと」
「なるほどね」
しかもその尋問が、目の前で仲間を殺した後にやったのであればなおさら嘘は吐けないでしょうね。
「ではその情報を念頭において策を練るとしましょう。司馬朗からは何かあるかしら?」
「策、と言ってもな。現時点ではなんともいえん。というか、策が必要な場面か?」
「……言わんとしていることはわかるわ」
実際、相手が寄せ集めの賊と分かった時点で策もなにもないのよね。
あ、そうだわ。
「桂花からは何かあるかしら?」
私に仕える前から『賊如き完璧に処理できる』と豪語していた桂花なら何か凄い策があるかもしれない。
「申し訳ございません。実際にその砦を見てみないことには……」
「でしょうね」
そうなるわよね。えぇ、知っていたわ。
というか、ここに至って砦も見ずに賢しらに策を立てていたら殺されていたわよ。司馬朗に。
とは言え成長の片鱗が見えたことは良いことだわ。
やっぱり現場を知ることは大事ね。
これで今後は桂花も無茶な献策はしなくなることでしょうし。
うん。必要な情報は得た。思わぬ人材も得た。桂花に経験も積ませた。あとは勝つだけ。
「では全軍で向かいましょうか。その砦とやらに」
ここの太守が手も足も出なかった賊を一方的に滅ぼして、この曹操の名を確かなものにするのよ。
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