「あ、司馬朗様! お帰りなさい!」
「あぁ、許緒か。ありがとう。ところでその、横にいる子は友人か?」
賊どもを殲滅し、彼らが辿って来た経路を確認して必要と思われる場所に罠を設置したあとで見張りを残して帰還してきた俺を出迎えたのは、ピンクの見せパンがトレードマークの許緒と、スパッツが特徴的な緑髪の少女であった。
なんだこれ。
その恰好は大丈夫なのか?
「はい! 幼馴染の流琉……じゃなくて、典韋って言います! 流琉、こちらは司馬朗様。とってもお強いだけじゃなく、曹操軍の軍師をしているくらい頭も良いんだよ! そして横のお姉さんが徐晃様! とっても強いんだから!」
いや、軍師はしていないぞ。友達に嘘を教えるんじゃない。
「司馬朗様に徐晃様ですね! 私は典韋です! このたび曹操様にお仕えすることになりましたので、季衣共々よろしくお願いします!」
「そうか。司馬伯達だ。よろしく頼む」
「ふむん」
それと徐晃。お姉さん扱いされて嬉しいのはわかるが、胸を張るな。
そこの二人より無いのがばれるぞ。
というか、典韋よ。
スパッツがあるのは今更だからあえて突っ込まんが、その下にちゃんと履いているように見えんのだが……本当に大丈夫か?
このさい紐でもなんでも良いから何かしら履いてあることを示唆するようなナニカを装備したほうがいいと思うぞ。
後ろ向いたら確実に半ケツだろうし。
いや、幼女の半ケツに欲情するほどアレではないが、勘違いするやつは絶対でてくるからな。
見せパンと生スパッツの幼女コンビとか。
……兵士の性癖がどんどん壊されていくような気がしてならん。
話を聞けば、典韋は料理が上手なのだとか。
その上で許緒並みに力もあるので、曹操を護る親衛隊に所属することになったらしい。
指揮能力がない超人の使い方としては正しいと思う。
幼女なのが難点だが、このご時世子供だからと言って楽ができるわけではない。
邑で農作業をさせるくらいなら使った方がいいわな。
だからそこについては問題ない。
問題はこの子たちの将来が気になりすぎるということだ。
「とりあえず、そうだな。曹操殿に報告を上げるついでに君たちに服を用意してもらうよう陳情しておこう」
「「え?」」
彼女らはまだ子供だ。だからまだ間に合う……と思いたい。
―――
「南陽と潁川に向かった官軍が、負けた?」
「あぁ。諸侯には隠しているようだが、宮中では結構な騒ぎになっているらしい」
「ちっ」
洛陽の連中め。己の失態を隠したいというのはわからないではないけど、直接的な被害が出る可能性が高い近隣の諸侯にまで情報を隠すなんて何を考えているの?
あぁいや。連中が近隣に分散すればその分立て直しの時間が稼げるし、何より立て直した官軍が再戦する際に賊が分散している方が数が減って楽だとでも考えたのか。
連中ならありえない話ではないわね。
でもそれは、現時点で官軍には各地に分散して略奪を働こうとしている賊を止める手段がないということ。
つまり……。
「前回秋蘭が遭遇した賊はそいつらってこと?」
「その通り。潁川方面から流れてきた連中だった」
なるほど。それならあの規模の賊がいきなり現れたことの説明もつくわね。
「差し詰め潁川で略奪し過ぎて獲るモノがなくなったから裕福な陳留を狙ってきたってところかしら?」
「そのようだな」
「はぁ。賊ごときが舐めた真似をしてくれたわねっ」
重大な情報を隠蔽した洛陽の連中も問題だけど、それ以上に問題なのは賊が簡単に私たちから略奪できると勘違いしていることよ。
連中には分からせる必要があるようね。
分際というものを。
「そこで、不甲斐ない官軍と調子に乗っている賊の存在に怒りを覚えている曹操殿に奏上したい」
「えぇ。聞きましょう」
この状況で行う奏上なんて一つしかない。
そうよね?
「潁川で展開している大規模な賊を根絶やしにすれば陳留は安泰となる。よって官軍の再編成が終わり次第になるが、彼らが賊と再戦するのに合わせてこちらも討伐軍を派遣しては如何?」
「ふむ」
元を絶たなければ混乱が続くというのであれば、元を絶てばいい。
今まではその『元』が何処なのかはっきりしていなかったけど、今その情報を得た。
数に差がある以上、私たちが単独であたるのではなく官軍と合わせる必要があるから少し時間がかかるのが難点だけど、そこは諦めるしかない。
実際問題官軍が居なければ物量で押しきられてしまう可能性もあるからね。
このまま官軍が勝つのを待つのもいいかもしれないけど、それで官軍が負けたら話にならない。
だったら私たちが介入して官軍を勝たせればいい。
そんなところかしら。
「別に我々が敵を倒す必要はないぞ」
「あら、そうなの?」
どういうことかしら?
「なに、戦闘は官軍に任せて我々は物資を集積している拠点を落とせば我々の勝利となる。それだけの話さ」
「それは向こうだって考えているでしょう? 当然それなりの備えをして……あぁ、だから官軍か。彼らを餌にするのね?」
「そうだ。向こうの本隊が官軍に釣られたところを叩く」
なるほど。確かにそれなら私たちだけでもいけるかもしれないわね。
「物資がなければ大軍は大軍足りえない。略奪して補給しようにも、すでに潁川では略奪できるものがない。そのうえ前方には官軍が展開、後方に私たちがいることになるわ」
「うむ。そうなれば連中は戦闘を継続することが困難になるだろう。多少抵抗はするかもしれないが、大半は逃げるだろうな」
「でしょうね」
逃げる先はもちろん南陽。
でも南陽方面でも官軍が再編成されるだろうから、最終的に賊は洛陽方面からくる官軍と、潁川方面から来る官軍に挟まれることになる。
さすがにそんな状況になったら賊も終わりよね。
最悪勝てなくても囲んでいるだけで賊は餓死することになるんだし。
で、私たちは陳留に流入してくる賊の芽を根絶した上で、官軍の勝利に貢献したとして武名を高めることができる、と。
うん。悪くないわ。
一郡の太守風情がこの規模の戦の勝敗に寄与しようとするなんて、洛陽の連中からすれば誇大妄想に聞こえるかもしれないけど、私たちにはそれだけの力がある。
少なくとも司馬朗はそう判断している。
なら私がすべきことは一つしかない。
「良いでしょう。すぐに潁川方面へ向かう軍勢の編成をするわ。それで、遠征にあたって何か必要なことはあるかしら?」
「潁川の出である文若殿に地元の有力者と連絡をとってもらうことと、早いうちから官軍の将に協力を申し出ておくことが重要だと思う」
「桂花はわかるけど、官軍の将にも連絡をするの?」
わざわざ手柄を横取りすると告知するつもりかしら?
「新たに潁川方面の将となるのは朱儁殿だ。あの方は体裁よりも実を取る。であればこそ必要と判断すれば官軍の矜持などほっぽりなげて周辺の太守に対して軍を派遣するよう命じるだろう」
あぁ、そういうことか。
「向こうから言われる前にこちらから申し入れることで二心が無いことを示すのね?」
「ご明察」
どうせ命令が出たら出兵を拒否できないんですもの。
だったら割り切った方が良い。
こちらは命令が出る前に動くことで準備の良さと有能さを示す。
さらに手柄を横取りすることになる以上、少しでも心証を良くしておく必要があるってことでしょう。
正直この辺の根回しは私の苦手としている分野だし、春蘭も秋蘭もこういうところまで気は回らないから、こうして指摘してもらえるのは助かるわ。
「わかったわ。桂花にもすぐに準備させましょう。疲れているとこを悪いけど、貴方も働いてもらうわよ。もちろん今からではなく、明日からだけど」
「問題ない。では失礼する」
「えぇ。今日だけでもゆっくり休んで頂戴」
これでよし、と。
春蘭と秋蘭を呼んで遠征の準備をさせましょうか。
……そういえば、彼ってなんだかんだで最近は私の前では怒気を発しなくなったわよね。
これは私を主として認めている、と思っても良いのかしら?
いえ、真名はまだ預けて貰えていないのだから自惚れることはできないのだけれども。
それでも少しづつ距離が縮まっているのは実感しているわ。
「ふふっ。貴方はいつになったら私に真名を預けてくれるのかしらね?」
司馬朗さんは子供相手には怒らないので、怒られたことがない許緒は司馬朗に対して苦手意識を持っていません。
曹操? まぁ、その、ね。
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