貞々☨夢想   作:カツヲ武士

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26話。未知との遭遇①

招聘した人材の評価や確保に関しては帰還してからにすることにして。

 

当座は勅命を果たすことを優先することにした曹操は、即座に冀州へ向けて進軍を開始した。

ちなみに留守居役は曹洪と陳珪親子である。

本音を言えば文官仕事ができる曹洪も従軍させたかったところだが、勅令とはいえ州牧である曹操が州の外に出る以上一門の人間を残さないと問題が発生した時に色々困るということで、泣く泣く彼女に留守を任せている。

純粋な武官である曹仁には無理だし、妹の曹純も曹仁と離れ離れにすると情緒不安定になるからこの配置は仕方ないのだ。

 

陳珪母娘? 豫州沛国の相が兗州の州牧に忠誠を誓ってるのを見られたら困るだろう? だから留守番である。

幸い二人とも書類仕事を苦にしないタイプの人間なので、曹洪とも仲良くやれているはずだ。

 

別に、母親の方が俺の息子の情操教育に悪いという理由で置いてきたわけではないのである。

 

それはそれとして。

 

「……ここ周辺は河が入り乱れているわね。この地形であれば大軍を用意しても満足に展開できない。だから、籠城する場としては最も適しているでしょう。問題は反撃手段だけど」

 

「兵糧だろう。短期決戦を望むのであれば本格的なものを造る必要はないが、長期戦をする覚悟があれば河を渡った先に集積場を造る必要がある」

 

「大軍の弱点は物資の消耗が激しいこと、か。物資を補充するにしても、その都度河を渡った先から運ぶのは労力がかかり過ぎるものね。故に河を渡った先に集積場を造るというのは尤もな意見だわ。それを狙えというのもね」

 

「うむ」

 

基本中の基本だな。だからこそ相手も警戒しているだろうし、細かい兵数や展開具合もわからないのでこれ以上は細かいことは言えない。

だがまぁ、現在敵が目の前にいるわけでもなし。今行っているのは飽くまでシミュレーションなので、妄想を膨らませても何の問題もないのである。

むしろ妄想を膨らませるのが仕事と言っても良いかもしれない。

 

ある意味一番楽しい時間だな。

 

「で、私たちが官渡に城塞を築いたとして、麗羽が物資の集積地として選ぶのはどの辺だと思う?」

 

「曹孟徳を最大限警戒するのであれば主戦場から離れた地、白馬の近くに分散するだろう。中程度の警戒であれば陽武か延津周辺。警戒が少ないのであれば南阪周辺だろう」

 

「いくらなんでも南阪はないわね。いや、麗羽ならありえないとは言い切れないのだけれど、部下が全員アレなはずがないもの。だから延津周辺が怪しいわ」

 

「その辺の判断は任せる」

 

なにせ俺は袁紹と直接接したことがないからな。

為人を知っている曹操の判断を信用するしかないわけで。

 

「桂花、聞いていたわね?」

 

「はっ! これより陽武と延津周辺の地図を作成させます!」

 

「よろしい。それと別に急ぎではないから、早く終わらせるよりもより精密なものを作成するよう命じなさい」

 

「御意!」

 

文若にも仕事が与えられてなによりである。

 

そんなこんなで、陳留を出た軍勢はそのまま東郡へ入りつつ、戦場となるであろう官渡・白馬・延津などをつぶさに確認した後に黄河を渡り、冀州は魏郡・黎陽に上陸。

 

「ここが魏郡……」

 

ここから北へ行けば魏郡、いや、冀州最大の都市である鄴県がある。

我々が鄴まで到達しているということは即ち袁家との戦いにも勝利しているということなので、今の我々が見るべきは鄴ではなく鄴に至るまでの道、つまり今進軍しているこの周辺こそ最も力を入れて探るべき場所なのだが……どうも曹操が浮かれているように見えるなくもない。

 

なんだ? と思って考えてみれば、心当たりが一つだけあった。

 

それは以前『もし自分が国を興すとすれば、その国の名は魏にしようとしていた』なんて感じのことを言っていたような言っていなかったような気がするというものだ。

 

当時は『そう言えば三国志って魏と呉と蜀だったな』とか『戦国七雄の一角ではあるものの、結構序盤の方で秦によって滅ぼされた国の名を使うことになにか意味があるのだろうか?』などと思ったものの『漢に滅ぼされた国の名を名乗るよりはずっと穏当だ』と思っていたから国名に関しては口を挟もうとは思わなかったのだが、今の曹操の様子を伺うに本人的には結構大事なことだったようだ。

 

魏について曹操がその身に宿す情動については後で聞いてみるとして、だ。

そろそろ現実を見ようか?

 

「華琳様! 前方にて砂塵が上がっているのが見えました! おそらく数千単位の軍勢がぶつかっているものと思われます!」

 

夏侯淵も捉えたか。中々いい眼をしている。

 

「……へぇ?」

 

なにやら『せっかくいい気分に浸っていたのによくも邪魔をしてくれたわね』なんて副音声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

 

―――

 

まったく、賊か何か知らないけど、せっかくいい気分に浸っていたのによくも邪魔をしてくれたわね!

 

とは言っても、ここ魏郡は洛陽の連中が『賊の本拠地がある』と名指ししていた鉅鹿郡に隣接している土地だから、向こうからしてみれば私たちが邪魔をしにきた感じなんでしょうけど。

 

まぁ賊徒の気持ちなんてどうでもいいわ。

 

「お互いが数千規模となれば戦っているのは官軍と黄巾の賊でしょう。もし官軍が苦戦しているようだったり賊の規模が大きかった場合は助勢する必要があるわね」

 

「はっ!」

 

規模からすれば刺史ではなく県令か郡太守が率いる軍勢だと思うけど、数千単位の賊に勝てるのかしら?

もし官軍側が不利だった場合、見殺しにしたら文句を言われるわよね。

もし官軍側が勝っていたら、向こうから『功績を掠め取るつもりか?』なんて邪推されるでしょう。

 

でも、散り散りに逃げる賊を全滅させるのは容易いことではない。

また連携訓練をしていない相手と連携するくらいなら各自で動いたほうが効率は良い。

 

つまり我々がすべきことは、直接賊とぶつかることではなく、賊の逃げ道をふさぐことよね。

 

「秋蘭」

 

「はっ!」

 

「五千の兵と共に先行して賊徒の背後に展開。逃げてくる連中を片付けなさい。捕虜はいらないわ。副将として凪と沙和。移動の際は連中から捕捉されない距離を保って弧を描くように移動すること」

 

「はっ」

「了解しました!」

「了解なの!」

 

秋蘭であれば細かく指示を出さなくても自分で最も適した場所を見つけられるでしょう。

これで退路は絶った。

 

次は正面。

 

「春蘭」

 

「はっ!」

 

「貴女は五千の兵と共に本陣の前に展開。副将は華侖と真桜。もし連中がこちら側に来た場合は容赦なく擂り潰すからそのつもりでいて頂戴」

 

「御意!」

「気合入れるっすよー!」

「了解や!」

 

これで最低限の備えはできたわね。

あとは取りこぼしがないようにしておこうかしら。

 

「柳琳」

 

「は、はい!」

 

「貴女は二千の騎兵と共に秋蘭の後方に布陣して。敵が散り散りに逃げたところを追ってもらうわ」

 

「はい!」

 

これでよし。残りは本陣ね。

 

「季衣と流琉は私の護衛よ。桂花と司馬朗は向こうの将との交渉に付き合ってもらうわ」

 

向こうの素性がわからないものね。

都尉や県令なら州牧である私の方が上位だからそれで良いのだけれど、もし相手が洛陽と繋がりが強い名家の人間であった場合、指揮権を奪われる可能性がある。

 

故に同じ洛陽に繋がりを持つ桂花と司馬朗に同行してもらうのよ。

 

「「はい!」」

「わかりました!」

「承った」

 

徐晃は言うまでもなく司馬朗の護衛をするからこのままでよし、と。

 

「こんなものかしら」

 

あとは戦場の風向き次第。

賊が勝つようなら横槍を入れる。

官軍が勝つなら後詰に入る。

 

どちらに転んでも私たちにとっては良い経験となるわ。

なんなら見ているだけでもいい勉強になるのよね。

数千単位の軍勢のぶつかり合いなんて早々見学できるものではないし。

 

「さぁ、見せてもらうわよ。私たちの前方で戦っている連中の手並みってやつを、ね」

 

 

 




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