貞々☨夢想   作:カツヲ武士

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誰得天の御遣い視点。


28話。未知との遭遇③

公孫賛のところで義勇軍を募って、黄巾賊と戦うことはや数か月。

 

黄巾賊の首領である張角が冀州にいて、それを討伐するために官軍が集まると聞いた俺たちは、冀州に入り張角の居場所を探していた。

 

その途中で賊の大軍に遭遇したので戦っていたのだが、いくらこっちに関羽(愛紗)張飛(鈴々)という猛将がいて孔明(朱里)龐統(雛里)という軍師が指揮を執っていたとしても数の差ってのは大きいもので、こちらよりも数が多かった賊を鎧袖一触で蹴散らすというわけにはいかなかった。

 

結局、申し訳なさそうな顔をした雛里から『戦いを優勢に進めてはいますけど、彼らを討伐するにはもう少し時間が掛かりそうです』と告げられることになった。

時間はかかるけど負けるわけではないとのことだったので、俺は『関羽とか孔明がいてもそういうもんなのか』と思いながら戦場を眺めているだけだった。

 

兵の指揮を雛里に任せ、敵に援軍などがこないことを確認していた朱里が声を上げたのはそんなときだった。

 

「はわっ! ご主人様! 桃香様! 向こうに官軍が展開しています! 援軍です!」

 

ちなみに桃香ってのは劉備のことだ。

俺には北郷一刀って名前があるんだけど、何故かご主人様と呼ばれている。

 

いや、何故か、ではない。

なんでも俺は彼女らのいう【天の御遣い】ってやつらしく、以前から結構な噂になっていたんだとか。

その有名になった名前を最大限利用するため、桃香たちは日本から来たばかりで右も左もわからぬ俺を主君として仰ぐことにしたのである。

 

これだけ聞けば桃香たちの性格が悪いように聞こえるが、そんなことはない。

 

彼女たちは桃香の夢である【みんなが笑って過ごせる国】を造るために、利用できるものはなんでも利用すると決めただけなのだ。

 

俺だって彼女らの夢に共感したからこそ、こうして彼女らに担ぎ上げられることを認めているしな。

 

だから桃香たちの性格が悪いなんてことはない。

武官である愛紗と軍師である朱里の仲が微妙なところはあるが、それだけだ。

 

まぁ、彼女らの仲については時間が解決してくれるだろうから、今は目の前の戦に目を向けよう。

 

援軍と言っていたよな? 確か官軍ってのは正規軍のことだったはず。

それなら確かに賊と戦っている俺たちの味方だ。

 

だから朱里も正体不明の軍勢を援軍と断定できたんだろう。

 

「やった! これで勝ちは決まったね!」

 

「はい。でも……」

 

「どうしたの雛里ちゃん?」

 

「所属を示すのは陳留や兗州の旗。そして将旗は蒼地に黒の曹。あの旗は賊滅で名高い陳留太守曹操様の旗です。これでは賊討伐の手柄は全部向こうに流れてしまいます」

 

「えぇ!?」

 

「そ、曹操だって!?」

 

曹操と言えば三国志の英雄にして劉備のライバルじゃないか!

この世界の人間関係はわからないけど、もし向こうが劉備を敵視したらここで殺されちゃうんじゃないか? 

 

手柄云々よりもそっちの方が問題だぞ!

 

「ご主人様は曹操様のことを御存知……あ、天の知恵ですか?」

 

「あぁ、そうだ。俺が知る限り、曹操ってのは桃香にとって最大最強の敵だった人物だぞ!」

 

「えぇ!? 私の最大最強の敵!?」

 

「間違いない」

 

向こうがどう思っていたかは知らないが、少なくとも劉備にとって曹操は最大最強の敵だった。

 

「しゅ、朱里ちゃん。その、曹操さんってどんな人なの?」

 

「えぇっとですね。私が聞いた限りでは賊には一切容赦しない人ですけど、民には徳政を敷く人物と聞いています」

 

「あ、民に優しい人なの? なら……」

 

「で、でも桃香様。曹操様の苛烈さは、桃香様が想像しているようなものではないんです」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。【曹操の前に賊はなく、曹操の後ろにも賊はない。曹操が率いる軍勢にとって賊は遊具。笑って殺し、殺した数を競う】【先陣切って賊を両断するは大剣担いだ夏侯惇。夏侯惇が切り開いた道を拡げて均すは夏侯淵。その両者が積み上げし賊の頸を前に嗤うは曹孟徳】なんて詩が広がるくらい容赦のない人なんです」

 

「そんな!」

 

「大げさ……ではないだろうな」

 

俺が知る曹操ならそれくらいはやりそうだ。

やっぱり民草を大事にする桃香とは反りが合わないだろうな。

 

「でもでもご主人様。曹操様は賊にとっては悪鬼そのものですが、民からすれば紛れもない英雄なんですよ!」

 

なにやら曹操に嫌悪感を抱いていそうな朱里とは違って、雛里は曹操を悪い人とは考えていないみたいだ。

確かに、民からすれば、曹操は自分たちを苦しめている賊を率先して討伐してくれている人物だもんな。

それに後世曹操は英雄と言われるだけのことをしているのだから、雛里の言い分も間違った評価ではないのだろう。

 

賊の側からすれば悪鬼。

民の側からすれば英雄。

両極端だが、それもこれも『治世の能吏、乱世の奸雄』と謳われた曹操の評価としては正しいものなのかもしれない。

 

「それと、曹操様の下にはたくさんの英傑が揃っています。そのことも無視するべきではないかと」

 

「あ~確かに、曹操の四天王と言えば夏侯惇と夏侯淵以外にも曹仁と曹洪もいるよな」

 

四天王なのに四人しかいないってのがネタにされてたけど、確かその下に張遼とか徐晃とか楽進とか李典とか于禁の5人がいるんだよな。

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「曹仁様に曹洪様、ですか?」

「お名前からすると一門の方でしょうか?」

 

「あれ? 違うのか?」

 

朱里も雛里も知らない?

もしかしてまだ有名じゃないのかな。

 

「えっと、ご主人様が持つ天の知恵にその名があるのであれば、きっとそのお二人も優秀な将なんだと思いますけど」

「でも私たちが言いたいのはそのお二人ではありません」

 

「四天王より優秀? そんな人材が曹操のところにいたのか?」

 

曹操の初期メンバーと考えればその四人だと思うんだけど。

 

「はい。私たちの師である水鏡先生は彼のことを『竜も鳳も射殺す羿(げい)』と評していました」

 

「彼ってことは男なのか? ん、いや、ちょっ、ちょっと待って」

 

「はい?」

 

「そ、その人って、ゲ、ゲイ……なの? 本当に?」

 

竜も鳳凰も殺すゲイって、相当ヤバいだろ。

いや、個人の趣味に文句をいうつもりはないけど、そういうのは俺の知らないところでヤってほしい。

 

「そうですね。だから水鏡先生は私たちに『彼とは絶対に敵対してはいけない。もし敵対することになったのであれば、絶対に戦場にて顔を合わせないよう、戦場以外の場所で戦うように』と強く戒められました」

 

「いや、戦場どころか日常でも会いたくないんだけど」

 

戦場で捕虜になったら大変なことになりそうだし。

日常で出会っていきなり目を付けられても大変なことになりそうだから普通に嫌なんだけど。

 

「あ、でも、天の知恵を持つご主人様であれば、もしかしたら彼にとっての逢蒙(ほうもう)になれるかもしれませんよ!」

 

「確かに。古来より【羿を殺すのは逢蒙】とも言います。桃香様の下に逢蒙たるご主人様がいて、ご主人様がいう桃香様の最大最強の敵である曹操様の下には羿たる彼がいる……もしかしたらこれは運命なのかもしれませんね」

 

「いや、おれはホモじゃないぞ」

 

なんなら普通に女の子が好きだけど。

っていうか君らもそのことはわかっているよね?

 

あとゲイとホモの違いってなんだよ。

別に詳しく知りたいわけじゃないけど。

 

それと個人の趣味嗜好に口を挟む気はないが、掛け算とかゲイとホモが運命で繋がっているとかみたいな腐った思想の押し付けはやめて欲しい。

 

「あくまで例えですから……」

 

例えにしたって物騒すぎるわ。

 

そう言い募ろうとしたら、向こうの陣を眺めていた朱里が顔をしかめている。

 

「……どうやら向こうから使者が来るようです。これには私が応対しますけど、おそらく後から桃香様とご主人様を交えての会談を行う必要があると思います」

 

「こ、断れないかな?」

 

桃香と曹操の相性も気になるけど、向こうにいるっていうゲイの人が怖すぎる。

 

せめて覚悟を決める時間がほしい。

 

「ご主人様の懸念は御尤もなのですが、今回は断れないと思います」

 

「え? そうなの?」

 

「はい。官軍である曹操様からすれば、私たちは黄巾の賊ではないだけで正体不明の軍勢であることに違いはありませんので」

 

「あ、あぁ。そうか。義勇軍なんて、向こうからすれば不正規に集まった怪しい集団だもんな」

 

治安を担っている立場からすれば怖い存在だよな。

そりゃどんな集団で、どんな人間が率いているのかを確認するのも当然だよ。

 

「そ、そんな! 私たちはみんなの為に戦っているのに!」

 

「それを確かめるために来るんだよ。そうだろ、朱里?」

 

「はい。その通りです。本当はご主人様だけでも隠れて頂きたいのですが、ここで隠すと逆に警戒されてしまいますので……」

 

下手に隠しても兵士さんたちに聞けば俺のことは分かるからな。

会談を断ったら賊として追い立てられる可能性があるし、変に誤魔化せば曹操からの印象が悪化することは否めない、か。

 

もう職務質問だと思って諦めるしかないな。

 

……ゲイの人だけは何とかして欲しいけど。

あ、そうだ。

 

「朱里。さっき言っていたゲイの人の名前はわかるか?」

 

ゲイな時点であれだけど、曹操四天王より有名って相当ヤバいからな。

俺が知っている人なら何かしらの準備ができるかもしれないし。

 

「あ、そうでした。まだお名前を言っていませんでしたね」

 

うん。ゲイのインパクトが強すぎたからね。

 

「ご主人様にとっての羿となるかもしれないその御方」

 

うん。その言い方はやめようか。

 

「……その名は司馬伯達様。憤怒の将と呼ばれ、恐れられている御方です」

 

「な、なんだってー!?」

 

曹操の配下で司馬って、司馬懿!? 孔明のライバルの司馬懿!?

なんでこの時期に司馬懿が曹操の配下になっているんだ!?

 

い、いや、この時期に孔明と龐統が劉備の仲間なんだから司馬懿が曹操の配下でもおかしくはないかもしれないけど、司馬懿がゲイってのはおかしいだろ!

 

そんなのと相対しないといけないって拷問じゃないか!

 

……やばい。会談に行きたくない。

後で怒られてもいいから、体調不良ってことでなんとかならないかな?




【悲報?】天の御遣い、司馬朗を知らない【残当?】
作者のような、そこそこ三国志を嗜んでいる人からすれば司馬防・司馬朗・司馬懿・司馬孚まではメジャーな人物なのですが、三国志に詳しくない人からすると司馬懿以外はマイナー武将らしい。

朱霊? 知らない子ですね。

いやしかし、マイナーとメジャーの区切りは誰なんでしょうねぇ? 

閲覧ありがとうございました。
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