貞々☨夢想   作:カツヲ武士

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29話。未知との遭遇④

あの後行われた殲滅戦に関しては特にいうことはない。

そもそも、三〇〇〇の兵に勝てなかった上に俺たちの存在を知って士気が崩壊した賊を四倍以上の兵で包囲していたんだ。

これで苦戦するようならその方が問題だからな。

 

故に、問題があるとすれば仮称義勇軍との接触だと思っていたのだが、俺の考えは半分正しく、半分間違っていた。

なにせ連中を率いていたのが噂の【天の御遣い】と【劉備玄徳】だったのだ。問題どころの話ではなかった。

こんなん想定すらしていなかったわい。

 

劉備といえば、魏と呉と蜀が争った三国志に於ける蜀の主で、漫画とかだと主人公みたいな感じのやつだったはず。

 

ちなみに劉備が主人公の場合、曹操がライバルみたいな感じになっていた、と思う。

 

正直前の前のことはよく覚えていないんだよな。

前世ではそれどころじゃなかったし。

 

そもそも俺が知る限り曹操は男だったはずだ。

この時点でもう色々と違うから、たとえ俺が三国志のことに詳しくてもあまり参考にはならなかったと思う。

 

いや、まて。前の世界にもモンゴルがあった以上、歴史を辿れば三国志っぽいのもあったのかもしれん。

というか、もしかしてこの世界って前世の過去だったりしないか?

女性優位だし、歴史上の有名人物が女性だし。

このまま数百年くらい経ったら男女比がおかしくなったりしないか?

 

で、こちらにユエ殿の故郷だったフェイロンとかいう国ができて、向こうに神聖グステン帝国やアンハルトやヴィレンドルフのような国が興るのでは?

 

それを考えれば、東西の歴史を学んでいればこの後のことも予想できたかもしれんな。 

まぁ今更言ってもしょうがないことなのだが。

 

……いやいや。まてまて。

もしそうなら凄いことを思いだしたぞ。

 

この時代、向こうはローマだよな?

今って十字教が国教になるかどうかの時期じゃないか?

贖罪主はさすがにいないだろう。だが、原点に近い新世紀贖罪主伝説が残っているのではないか?

 

「……掘り下げて調べる必要があるやもしれん」

 

無論今の俺はポリドロ領の領主でもなければケルン派の信徒でもない。

そもそもこの時代にケルン派があるかどうかは分からん。

だが彼らの思想と行動は万民にとって正しく、そして尊いものであったことに違いはない。

 

故に、もしケルン派の祖となった方やそれに近い方がいるのであれば話を聞いてみたいと思うし、弾圧されていたら援助したいと思うのだ。

 

宗教戦争とかに巻き込まれたくないので、助けるのはあくまでケルン派だけだがな。

 

―――

 

「……掘り下げて調べる必要があるやもしれん」

 

義勇軍と思しき連中に接触し、向こうの情報を携えて帰ってきた使者から話を聞いたところ、真っ先に反応したのは司馬朗だった。

 

私としても同意見よ。

 

義勇軍だと思っていた連中が【天の御遣い】を奉じている集団だなんて思いもしなかったもの。

 

しかも簡単に確認したところ【天の御遣い】は天の国から降りてきた人間であって、洛陽から遣わされた人物ではないらしい。

 

つまり連中は【天】を僭称する賊。

漢の被官たる私からすれば即時討伐すべき対象なのよね。

 

漢を救う人物を殺すのか? と言われるかもしれないけど、それだけなら特に問題はない。

たとえ漢の乱れを正す存在と噂されようと、所詮は噂。

現在進行形で罪を犯している者を裁いたところで不都合はないもの。

 

むしろ噂に肖って【天の御遣い】を僭称した賊を討伐したことにすれば功績にすらなるでしょう。

 

でも、ことはそんなに簡単ではない。

 

何故か。【天の御遣い】を奉じているのが一般の諸侯ではなく【劉備】とかいう属尽だったからだ。

 

属尽は皇族や宗室のような権力はもたないものの、劉氏の一族であることに違いはない。

 

もし私が彼女を裁いたら、各地に散らばる劉氏が黙っていないわ。

少なくとも私の足を引っ張りたいと思っている俗物どもは劉氏に働きかけを行うでしょう。

結果、私は劉氏とその関係者の手によってあらゆる方面で邪魔を受けることになる。

 

有象無象が集まったところで……と言いたいところだけど、連中に裏でコソコソ動かれたら足を掬われかねないわ。

 

では取り込めばとうかという話になるのだけれども、これも駄目。

 

【天の御遣い】を僭称する賊を取り込めば、私も賊とされかねないもの。

あれは、向こうが属尽だからこそ、劉氏だからこそ抱え込むことが赦されているのよ。

 

故に、アレを裁けるのはアレと同じ劉氏しかいない。

 

罪を鳴らしても駄目。抱え込んでも駄目。そういった事情があったからこそ白蓮は【天の御遣い】を抱え込むことをせずに放逐したのでしょうね。

 

尤も、その代償として、ただでさえ人口が少ない幽州で義勇軍として三〇〇〇人もの働き盛りの人間を引き抜かれたのはどうかと思うけど。

 

白蓮の放逐の仕方が悪かったのか、それとも漢を救うとか謳っておきながら幽州の政を崩壊させるような真似をする連中が外道なのかはわからない。

だけど、少なくとも【劉備】や【天の御遣い】は幽州の政よりも己の功名心、もしくは野心を優先させる人物だということがわかる。

 

そんな野心を持つ彼女らが目指す先がどこなのか。

それによっては私と敵対することもあるでしょう。

 

司馬朗がいう『掘り下げる』のはここの部分よね。

 

それと、水鏡女学院の伏竜と鳳雛の狙いもわからない。

 

……私の率直な意見としては、あの二人はあの集団にふさわしいとは思わない。

才能と労力の無駄遣いでしかないと思っているわ。

 

もし洛陽に出仕したくないと言うのであれば、白蓮の下で研鑽を積みつつ彼女を幽州の州牧に出世させるなりなんなりすれば良い。

 

これから訪れるであろう乱世に於いて、幽州の精鋭の価値は限りなく高いものになるでしょう。

それを知っているならば、白蓮から恨みを買うような引き抜きなんて絶対にしないし、できない。

いえ、白蓮の性格であれば恨んだりしないと思うけど、彼女の配下の心証は最悪になっているはず。

 

そんなことくらいは理解しているでしょう? 

そうであるにも拘わらず、連中は引き抜きを行った。

 

それは何故?

 

確かに、白蓮たちにとって働きざかりの三〇〇〇人は大きいでしょう。

 

でもその程度の民を引き抜いたところで、戦場でできることはたかが知れているわ。

 

事実、彼女らは五〇〇〇の賊を相手に有利には進めていたものの、彼女たちだけでは賊を殲滅させることはできなかった。

 

彼女らにできるのはその程度のことでしかないのよ。

 

でも、伏竜・鳳雛と謳われる知恵者が【劉氏】と【天の御遣い】を奉じておきながらそれしかできない。なんてことはないと思うのよね。

 

故に、彼女らはナニカを企んでいることは確実。

 

これから行われる会談で向こうの狙いがなんなのかを探るつもりだけど、それだけでは足りないわ。

 

「桂花」

 

「はっ!」

 

「これまで連中が歩んできた足跡を追いなさい。それと洛陽に報告と調査の依頼を出して頂戴」

 

「はっ! 報告する内容は【天の御遣い】を名乗る賊の扱いについて。調査は【劉備】を名乗る属尽の素性についてでよろしいでしょうか?」

 

「えぇ。それでいいわ。無論、洛陽の連中とは別に、独自に連中の調査をすることも忘れないでね」

 

「はっ!」

 

これで幽州の属尽が【天の御遣い】を手中に収めて何かをしようとしていることが洛陽にも伝わるでしょう。

 

その結果、討伐命令が出ればそれに従って討伐すればいい。

何も命令が出ないのであれば放置の一択。

どちらにせよ【劉氏】とのいざこざは回避できる。

 

今の私ができることはこれくらいだと思うのだけれども。

 

「司馬朗はどう思う?」

 

「……ん? あぁ。まぁ、それでいいんじゃないか?」

 

……妙に軽いわね? 

まぁ今のところこれ以上できることがあるわけでもないし、反対意見がないのであればそれでいいわ。

 

「では顔合わせといきましょうか」

 

【天の御遣い】は【天】を僭称する賊なのか、それとも本当に漢を救う英雄なのか。

見定めさせてもらうわよ。

 




次回顔合わせ。



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