「曹太守様におかれましては、お初にお目にかかります! 私が義勇軍を率いる劉玄徳と申します! そしてこちらが私と志を共にする仲間の……」
「……関雲長です」
「張翼徳なのだ!」
「諸葛孔明でしゅ!」
「龐士元でしゅ!」
「ほ、北郷一刀だ。よろしく頼む」
「……兗州牧、曹孟徳よ」
「「「州牧様!?」」」
「「州牧?」」
(ま、まさかご主人様曰く桃香様の最大最強の敵である曹操様がすでに州牧になっていたとは……)
(これでは桃香様との差が……)
(州牧ってなんなのだ?)
(太守よりは偉いんだろうな)
義勇軍の幹部連中がきて挨拶を交わしたんだけど、なんというか、うん。
率直に言って幻滅したわ。
特に伏竜と鳳雛。
私が州牧になったことを知らないのはまだしも、それを表に出すのはどうなの?
主席と次席がこの程度では、水鏡女学院とやらの質もたかが知れていると言わざるを得ないわ。
いやまぁ、伏竜は文字通り未だ伏せている竜で、鳳雛は今だ羽も揃っていない鳳の雛のことですものね。
水鏡は二人が未熟であることを前提として、その将来性を高く評価したのかもしれないけど、そんなものに意味はない。
敵は貴女たちの成長を待ってくれないのだから。
たとえ子供であっても戦場に立つ以上は一人の軍師。
戦場の指揮をみれば全く使えないというわけではなさそうだけど、交渉の場でこの様ではね。
誰よりも冷静でなければならない軍師が狼狽することの意味を理解していないのは問題でしかない。
……そう言えば、ウチの軍師になろうとしていた荀家の神童さんも感情的な人間だったわね。
感情豊かな人間の方が優秀だとでも言いたいの?
詩ならそうだけど、それ以外では感情を表に出さないのが正解でしょうに。
まったく、儒家の評価ってどうなっているのかしら?
神童も伏竜も鳳雛もそうだけど、そもそも二龍とか三君とか八俊とか八顧とか八及とか八廚とかさぁ。
大げさすぎない?
八俊の関係者である桂花の前では言わないけど、もう少し客観性を持って単純明快な評価をして欲しいものだわ。
司馬の鬼とか憤怒の化身みたいに、ね。
周囲が勝手につけた評価についてはさておくとして。
密かに注目していた伏竜と鳳雛が未熟なのを理解した以上、私が見るべきは義勇軍を率いている属尽の劉備と、それが奉戴する【天の御遣い】よね。
御遣いが男であることについては今更驚きはしないけど、この男が纏っている空気というか、雰囲気がおかしい。
農業従事者のような泥臭さもなければ、兵士のような血の臭いもしない。
かと言って名家の子供や商人の子でさえ持つ警戒心すら薄いのはどういうこと?
農民でもなければ商人でもない。
文官でもなければ武官でもない。
強いていうなら、特権に胡坐をかいている劉氏に近い存在かしら?
天の国から降りてきたと聞いたときは戯言かと思ったけど、ここまで不可思議な存在ならそう言われるのも納得できる。
最大の問題は、その不可思議な存在がどうこの国を救うのかってことなんだけどね。
何を以て救いとするのか。
何を以て救いを成すのか。
手持ちの戦力は、属尽である劉備とそれを支える武人が二人。さらに、荊州に強い影響力を持つ水鏡女学院出身の二人と、幽州で募った三〇〇〇の義勇兵のみ。
さて、御遣いはこれでどうやってこの国を救うつもりなのかしら?
私なら強者の庇護下に入って内側から改革を促すけど、彼女たちは白蓮の下を去っているのよね。
そのうえ伏竜と鳳雛にとっても強い地盤があるはずの荊州にも赴いていない。
つまり彼女たちは他者の下で改革を成すのではなく、己の手でナニカを成そうとしていると見て良いでしょう。
もしかして天の国が有する知識や技術を濫用して国家を建て直すつもり?
光武帝がそうだったように、過程はともかくとして、最終的に劉氏が皇帝になればその国は漢と言えなくもないのは認めるけど、それで新生した国は天の国の属国と何が違うのかしら?
あと、この御遣い。妙に司馬朗を怖がっているように見えるのよね。
なんならこの私よりも警戒しているかもしれない。
それは何故?
普通に考えて、司馬朗の実力を知らない人間が男である司馬朗を恐れる理由はない。
それが憤怒の将と謳われる男であっても、男というだけで警戒に値しない。
実際、武人である関雲長と張翼徳は司馬朗よりも春蘭や秋蘭を警戒しているもの。
でも御遣いは春蘭や秋蘭よりも司馬朗を警戒している。
もしかして御遣いは司馬朗の本当の武力を知っているのかしら?
そうだとしたらどこでそれを知った?
水鏡女学院を運営する司馬徽が伏龍や鳳雛に漏らした?
そうだとしても、所詮は伝聞。実力は実際にその戦いを見ないことには実感できないはず。
それこそ私たちがそうだったように、ね。
でも御遣いの警戒は本物だわ。
そうなると、御遣いは司馬朗の実力を知っているということになる。
さて、御遣いはどこで司馬朗の実力を知ったのかしら?
司馬朗は司馬朗で無言で顔を顰めているし。
まぁこっちは会談の前から劉備の陣営とは合わないと公言していたから、彼女らの話を聞いて怒らないよう自分を抑えているのでしょうけど。
「華琳様?」
「……桂花?」
「熟慮中恐れ入ります。ですが、その、彼女らが……」
あぁ。他勢力の面々を前に考え込み過ぎたか。
「ごめんなさい、少し考えごとをしていたわ。客人を前にしてすることではなかったわね」
「い、いえ! お構いなく!」
うん。考え込むのは後でもできる。
まずは聞きましょう。
彼らの目的と、これからの予定を。
「最初に聞かせてもらいたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「は、はい!」
「では問いましょう。貴女たち、ここで何をしているの?」
「え?」
「質問の意図がわからなかったのなら言い直しましょうか。貴女たちは何故幽州から出て、ここ冀州にいるのかしら?」
―――
だから、ちん〇が痛いねんて。
戦闘後劉備軍を呼び出してみれば、我々の前に現れたのは、ミニスカとプルプルが二人にスパッツの幼女が一人とミニスカ幼女が二人。さらに白い服を着た男が一人というなんともアンバランスな一行であった。
傍から見ればハーレムパーティか! と言いたくなるところだが、それを言えばそのまま俺に返ってくるので無言を貫くのは間違っていないだろう。
しかし男が増えたとは言え、女の比率が多すぎる。
ただでさえ戦闘の後で昂っている中で、この甘ったるい匂いに包まれるのは拷問以外のなにものでもない。
ち〇こがいたくなるから本当に勘弁してほしい。
話に集中することで息子を抑えるしかない。
……そんなことを思っている中でも会談は進む。
「わ、私たちはこの乱を一刻も早く終わらせて皆が笑って暮らせる世の中にしようって思って!」
ふむ。一念発起する理由としてはありがちな理由ではある。
だが、それはあくまで彼女らが起った理由であって、冀州にいる理由ではないんだよなぁ。
「義勇軍ならそういうこともあるでしょうね。で、私の質問に答えてもらえるかしら? 貴女たちはどうして冀州にいるの?」
「う……」
なんいうか、単刀直入というか、誤魔化しようのない質問だ。
だが曹操がそう問いたくなるのもわかる。
実際三〇〇〇という数は、義勇軍として見ればかなりの大所帯だが、軍勢として見た場合はそうではない。
もちろん、先ほど戦っていたように五〇〇〇程度の賊ならば相手にできるのだろう。
だが、数万を超える賊を相手には無力だ。
それと勘違いしそうになるが、彼女の目的は『乱を終わらせること』だけではない『皆が笑える世の中を創ること』でもある。
この乱は漢の腐敗が生み出したモノ。
ならば彼女の目的には漢の腐敗を正すことも加わる。
故に、彼女たちが目的を叶えるためには、大樹に寄って内側から世を変えるか、己が大樹になって外側から世を変えるしかない。
しかし彼女たちは公孫賛という大樹の下を離れている。
ならば彼女たちの目的は己が大樹となることとなる。
義勇軍である彼女たちが大樹になるためにはそれ相応の武功を立てて権力者に認められる必要がある。
その武功が黄巾の首であり、その場が我々が合流しようとしている討伐軍と考えれば、なるほど彼女たちがここにいる理由としては理解できる。
とはいえ、まさか水鏡女学院の主席と次席がいて、三〇〇〇程度の義勇軍で黄巾賊の主力に勝てるとは考えてはいないだろう。
即ち連中の狙いは。
「き、冀州に黄巾賊の頭目がいるって聞いたので!」
「それを討伐しにきた。いえ違うわね。討伐軍に加わることで名声を稼ぎにきたってところかしら? 加えて、あわよくば私たち官軍を出し抜いて武功を立てるつもりね?」
まぁそうなるわな。
己の武功を稼ぐために幽州から三〇〇〇もの人間を引き抜いた外道働きを咎めるべきか、それとも根無し草の属尽が三〇〇〇もの人間を連れ回すことに成功していることを褒めるべきか。
「め、名声や武功を得ようなんて考えていません! 私たちはただ一刻も早くこの乱を終わらせたいだけです!」
劉備がそう叫ぶが、まぁ彼女の立場ではそういうしかないわな。
なにせ曹操の言を認めるということは、自分たちは官軍のおこぼれを貰う……どころか、官軍を出し抜こうとしていると認めるようなものだし。
いや、もしかしたら劉備は本気でそう考えているのかもしれない。
ぱっと見た感じただの小娘だからな。
だが集団とは小娘の幻想で動くものではない。
「あら、そうなの? 伏竜と鳳雛の考えは違うみたいだけど?」
「「っ!」」
容赦がない。いや、これは表情に出した二人が悪いな。
ただ、この二人の気持ちもわかる。
主君に功績を立てさせるために必死になって考えているのに、それを当の主君に全否定されたんだ。
しかも本心から。そりゃ面白くはないだろう。
表情に出るのも無理はない。
それを曹操が見逃すかどうかは別問題だが。
部下の心を理解できない主君と、その主君の為に尽くす部下、か。なんとも歪な関係だ。
「ふむ。とりあえず貴女たちの目的は理解したわ。その上で告げましょう。さっさと幽州に帰りなさい」
「「「えぇ!?」」」
「そんなに驚くことかしら?」
「そ、それは、だって!」
「何か問題でも? 貴女の目的は黄巾の賊を討伐することなのでしょう? なら貴女たちがいなくとも討伐は成るわよ。なんなら私たちを出し抜こうとする貴女たちがいない方が指揮系統の乱れが無い分、戦いは円滑に進むわ」
曹操の言い分は正しい。今更三〇〇〇程度の義勇軍が加わったところで戦力にはならない。むしろ邪魔だ。
「みんなが笑って暮らせる世の中にしたいのでしょう? ならばなおさら貴女が集めた民はすぐに幽州へ返してあげるべきよ」
だよな。
「え?」
「ねぇ劉備。三〇〇〇もの働き手がいなくなった今、誰が田畑を耕すの? 誰が田畑から収穫をするの? 誰が田畑を守るの?」
「……」
「皆が笑って暮らせるような世の中にしたい? とても素晴らしい志ね。で、貴女に働き手や守り手を奪われた幽州の民は笑っているのかしら?」
「そ、それは……」
自覚もなし、か。これは相当ヤバいな。
「貴女たちがこれまでどうやって食糧を得てきたかは知らないわ。でも真っ当な手段ではないのでしょうね」
「そんなことはありません! お願いしたらみんな快く譲ってくれました!」
おいおい。それはないだろう。
「快く、ね。それはそうでしょうとも。だって彼らは、そうしないと邑が滅ぼされると思ったんですもの」
「……え?」
「考えてもみなさいな。いきなり武装した三〇〇〇もの義勇軍が来て、食料を援助してくれと言ってきた。それを断れる邑があると思って?」
「あ」
「そんなお願いはね、脅迫というのよ」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」
それは主君としては絶対に言ってはならんやつやぞ。
「どんなつもりでも結果は結果。貴女の行動は、皆を笑顔にしたいといいつつ、これまで接してきた邑や街の住民を絶望に叩き落してきたのよ。それを自覚なさいな」
「そ、そんな……」
「桃香様!?」
「お姉ちゃん!」
「桃香!」
こいつら、なんで被害者面してんだ?
「民を脅して得た食糧によって維持した義勇軍を率いて討伐軍に参加し、官軍を出し抜いて武功と名声を得る。なるほど、水鏡女学院の主席と次席は随分と下劣な策を講じることができるのね」
策士としては誉め言葉だな。諸葛亮と龐統がどう思うかはしらんが。
「「っ!」」
「しゅ、朱里ちゃんと雛里ちゃんを悪く言わないでください!」
「そうね。悪いのは、結果に責任を取るのは策を採用した主君、つまり貴女ですもの」
「あっ!?」
あっ! ではないだろう。
これが劉備? 第一印象で見たまんまのただの小娘ではないか。
この時代の人間として見れば甘すぎる。
もしかしたらその甘さが周囲の人間にも夢を見せるのかもしれんが、今は夢で飯が食える時代ではない。
現実主義の曹操とは絶対に合わんな。
「もういいわ。これ以上貴女たちと関われば、私も略奪者の関係者だと疑われてしまう。いえ、もう手遅れね」
まぁそうだ。こうして会話をした以上、何かしらの手を打たねばなるまいよ。
「桂花。私が彼女らとは違うということを証明するために必要なことはなにかしら?」
「……この連中を処刑する。もしくはこの連中が巻き上げてきた食糧を補填すること、でしょうか」
「そう。ならば調査の上で彼女たちが奪った食糧を補填するよう手配しなさい」
「……はっ」
凄い嫌そうな顔だな。まぁわからんでもないが。
なんでこいつらの為に労力を割いたうえで物資まで放出しなきゃならんのかって話だよ。
殺した方が早いし、俺としても今のうちに劉備を殺せればそれに越したことはないと思うが、かといって今の曹操が属尽である劉備を殺すのはまずいというのもわかる。
各地方にいる属尽たちが反発するのが目に見えているからな。
邑や街を脅迫して食糧を奪った罪人として裁くにしても、こいつらが脅迫してきたのは幽州と冀州の邑や街なので、そもそも兗州の州牧でしかない曹操にはその権限が無い。
ならば、ここで劉備を捕らえて劉氏に敵対したと思われるよりは、劉氏のフォローをしたという実績にしたほうが良いというわけだな。
なんとも面倒なことだが、これも政治。
少しでも損失を取り戻せるよう動くべきだろうよ。
「とりあえずこんなところね。劉備」
「……はい」
「聞いていたでしょう? 貴女たちの尻拭いは私たちがやるわ。だから貴女はできるだけ早く彼らを幽州に帰還させてあげなさい」
「……はい」
うむ。さっさと帰れといえば反発されるから、民を帰還させろって感じにしたんですね。わかります。
実際いいように言いくるめられて悔しいのか諸葛亮がなにか言いたげにしているが、何も言えていないし。
結局彼女たちの決起は無駄骨に終わったが、曹操が尻拭いをしたおかげで連中は罪人として裁かれるのではなくただの民として帰れるのだから、感謝して欲しいくらいなんだがな。
というか、天の御遣いが妙に俺を警戒しているように見えるんだが……俺、なにかしたか?
今まで秘密にしていましたが……実は作者、恋姫の劉備が嫌いなんですよね。(史実の劉備が好きとは言っていない)
閲覧ありがとうございました。