貞々☨夢想   作:カツヲ武士

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オリ展開とアンチ・ヘイトが準備運動を始めました


7話。乱世の予兆

最近仕事が忙しい。

 

夏侯惇が書類仕事をするようになったおかげで夏侯淵に余裕ができたにも拘わらず、書類の量は減るどころか増える一方だ。

 

夏侯淵に余裕ができていなければどれだけ仕事が増えていたことか。想像するだけで億劫になる。

 

そんなわけで陳留から出ない俺と比べて外を回ることが多い徐晃にナニカ心当たりがないかと聞いてみたところ、面白い話が聞けた。

 

「最近賊が増えているらしいです」

 

「そうなのか?」

 

初耳だな。

 

「はい。この辺では見ませんけど、他だと結構いるみたいです」

 

「何故この辺にはいないのだ?」

 

「司馬朗様が見回りしてますから」

 

「む?」

 

確かに市中の発展具合や警備の状況を確認をするため度々見回っているが、見回りなんざ俺以外も曹操や夏侯姉妹もやっているだろう? 

そこまで効果があるものか?

 

「大剣を担いでいる司馬朗様の前で狼藉を働く馬鹿はいません」

 

「まぁ、それは、な」

 

納得しかない。

 

いや、俺とて自分の外見がどれだけ厳ついかは理解しているのだ。

 

人間第一印象が八割と言われるように、視覚から齎されるモノは大きい。

 

それに鑑みれば、美少女が三人で見回りをするよりも、2メートルを超す大男が大剣を担ぎながら抜き打ちで見回りをした方が犯罪者に対する抑止効果は高いだろう。

それはわかる。だがなぁ。

 

「俺が見回ることで効果があるのはあくまで陳留県のみ。陳留郡全域の治安に影響を及ぼすものではあるまい?」

 

いずれ行こうと思っていたが、結局陳留以外の都市には行ったことないからな。

 

それもこれも、俺に時間的な余裕ができそうになるとどこからともなく夏侯惇や曹仁が現れて鍛錬に誘ってくるからだ。

 

最近は仕事の前か、自分の仕事をこなした後で誘ってくるようになったから断り辛いんだよな。

 

おかげで他の都市の見回りや風俗事情の確認ができていない。

 

目の前でプルプルを見せつけられる息子は毎日元気そのものだがな。

 

結局常に刺激を与えられ続けていることで発生している息子のストレスは、朝と夜に行われる自家発電と鍛錬で吐き出しているのが実情である。

 

というか、俺もまだまだ成長しているせいか、はたまた常時筋トレしているようなものだからだろうか、貞操帯がきつくなってきた。

 

最近はずっとち〇こが痛い。

 

本当にいい加減にして欲しい。

 

「司馬朗様のお陰で陳留の治安がいいので、本来陳留の警備に当てるはずの人員と予算が浮いたんです」

 

あぁ、そういえば治安の話だったな。

 

「なるほど。その浮いた分を他の県の治安維持に当てたのか」

 

「はい」

 

それなら納得だ。

 

ついでに最近仕事が増えてきた理由もわかった。

 

「陳留郡全体の治安が際立って良いという噂が流れた結果、余所から民が流入してきているんだな?」

 

「はい」

 

難民か。面倒なことだが、曹操は己を頼って避難してきた人間を無下にはすまい。

 

だが、無制限に受け入れることもできない。

 

物資は有限であるからして。

 

「追加で報告があります」

 

「どうした?」

 

「余所で暴れている賊には共通の特徴があるそうです」

 

「ふむ」

 

陳留の外、つまりは兗州一帯で暴れている賊に共通の特徴とな?

 

一つの州を荒らすとは、相当大規模な一団だな。

 

「その賊たちは、体の一部に黄色い布を巻いてあるそうです」

 

……。

 

「黄色い布?」

 

「はい」

 

幸せの黄色いハンカチ。

ではないな。うん。

 

知っている。俺はその集団を知っているぞ。

 

それは三国志と呼ばれる物語の序盤において、漢帝国全土で起こった農民反乱に参加した者たちが付けていたとされるトレードマーク。

 

「そうか」

 

始まるのか。

 

「……急がねばならんな」

 

「?」

 

反乱運動が本格化する前に動かねばならん。

 

なにより陳留に流れてきた難民がその乱に参加する前に処置をしなければならないだろう。

 

 

―――

 

「この状況をなんとかできる手がある、ですって?」

 

「そうだ。曹太守とて最近激増している難民の扱いに頭を悩ませているだろう?」

 

「まぁ、そうね」

 

最近方々から流入してくる民をどう扱うかということに頭を悩ませていたのは事実。

 

私を頼ってきた民を見捨てるわけにはいかない。

けれど、できることは限られている。

だからと言って放置すれば治安が悪化する。

さらに無制限に受け入れてしまえば政が破綻してしまう。

 

現に栄華も「そろそろ限界です」なんて言ってきたからね。

 

いい加減抜本的な対策を練る必要があると思っていたのだけれど、まさか普段から一歩引いた仕事しかしてこなかった司馬朗から改善の提案をしてくるなんて、率直に言って意外だわ。

 

逆に言えば『司馬朗ほどの人間でも今のうちに手を打たないと拙いと判断した』とも取れるけどね。

 

それはそれとして、この男がどんな提案をするか興味がないと言えば嘘になる。

 

「で、貴方はどのような方策を私に提案するつもりなのかしら?」

 

まずは聞こう。すべてはそれからよ。

 

「屯田だ」

 

「とんでん?」

 

どういう意味かしら。

 

「簡単に言えば難民たちに自分で食う分を自分で作らせるということだ。幸い、土地は余っているしな」

 

「いえ、余ってはいないわよ」

 

もし余っているように見えているところがあったとしても、それは邑や街の有力者の土地であって、私であっても好きにできるモノではないわ。

 

そんなことは司馬朗だってわかっているはずよね?

 

「現時点で開発がなされている邑や街に余裕はなくとも、まったく開発されていない土地ならば話は違うだろう?」

 

「まったく開発されていない土地? そんなのどこにあるというの?」

 

「あるだろう。そこら中に」

 

「はい?」

 

「一見すればただの荒野。されど荒野とは見方を変えれば未開発の土地である」

 

「……ふむ」

 

「今では邑だの街だの県だのとなっている場所とて、元は荒野に過ぎなかった。違うか?」

 

「極論ではあるけれど、まぁ否定はしないわ」

 

そうか。司馬朗は難民たちに本当にまっさらな土地を開発させるつもりなのね。

 

「元々ここ陳留郡にはたくさんの河が流れているから水に不足することはない。開墾など人手と水さえあれば大体はなんとかなる。だから河沿いに新たな邑を造らせればいい。最初は陳留と雍丘の間なんてどうだろう」

 

「……悪くないわね」

 

場所は問題ない。陳留に近いから警備もそれほど難しくはない。

でもそれはそれで問題が発生するのよね。

 

「水の量はともかく、水利の問題はどうするの? 下流になる土地では絶対に反発する人間が出るでしょう? 武力で以て無理やり従えることもできなくはないけど、その場合は既存の民から恨みを買うわよ?」

 

それが怖いから開発しない。なんて弱音を吐くつもりはないけれど、平地に乱を起こされても困るわ。

 

「そういう輩には『農奴に田園地帯を造らせる。ここで取れた作物は優先的かつ値引きをした上で回す』と言えば文句はでまい」

 

「……なるほど」

 

新しく来た難民を保護するために邑を造る。

そのために優先的に労力を割く。

馬鹿正直にそういえば結果的に軽んじられることとなる民が不満に思うかもしれない。

 

だけど難民を農奴として使うことや、その農奴が造った作物を安く手に入れることができるとわかれば、不満は抑えられるでしょう。

既存の民は農奴が作った作物のおかげで腹が膨れる上に、自分より下がいるという優越感も得られる形になる。

 

さらに割安で作物を得ることができれば、有力者はそれを使って利益を上げることができるわ。

 

こうなれば有力者の方から率先して協力しくれるようになるかもしれない。

 

難民に仕事と立場と食糧を与えることで治安の悪化も防げる。

 

本当に悪くないわね。

 

「ここが上手くいけば同じように開発させればいい。難民たちも最初は農奴扱いされることに不満を抱くだろうが、そこは曹太守の腕の見せ所だな」

 

「下流の県に住む民を納得させるだけでなく、難民にも一時的に農奴扱いされることを認めさせろってことよね?」

 

「できんか?」

 

「そんなわけないでしょう。できるわよ」

 

その程度のことができないで何が王か。

 

「その意気や良し。なに、人間やる気があれば古ぼけた農具と使い古した器とボロボロの書物と沢山の種苗があればいかようにもなるものだ」

 

司馬朗が告げたその言葉は、とても実感の篭った言葉だった。

 

「我らは無条件の施しをしない。だが労働に対しては正しく報いよう。普段から正規の軍人に警備をしてもらえるようにしよう。何かあれば曹太守に使者を走らせることができるようにしよう。着の身着のまま逃げてきた者たちに着る服を与えよう。住みかを追われた者たちに家を与えよう。収穫までもつだけの食糧を用意しよう。そんな恵まれた環境で働くことを嫌がるような者は守るべき民ではない。討伐すべき盗人だ」

 

多少行き過ぎているように思えるけど、民を無条件で甘やかすことはないという司馬朗の主張はとても納得ができるもので。

 

「彼らが開発をなし遂げたとき、陳留の国力は倍増しているだろう。故にそのときは曹太守が彼らに告げてやれ。『誇れ。お前たちこそが曹孟徳の覇業を支える民である』と」

 

背筋が、震えた。

 

そうか。今がそうなのか。

 

陳留郡の太守ごときが唱える覇業。

洛陽の老人が聞けば鼻で笑うでしょう。

麗羽が聞けば哀れみの眼を向けてくるでしょう。

 

だが、違う。

 

今この時に唱えなければ成しえない。

今この時を逃せば成しえない。

 

何も理解していない連中が何もしていない今だからこそできること。

 

それは私だけができること。

 

やらねばならない。やり遂げなければならない。

 

なればこそ、それを気付かせてくれた男の力が必要だわ。

 

「……司馬朗」

 

「はっ」

 

「貴方に我が真名を預けます。我が真名は華琳。貴方の力を貸しなさい」

 

「御意」

 

我が覇業、ここから始めましょう。

 

 




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