貞々☨夢想   作:カツヲ武士

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オリ展開、オリ設定、アンチ・ヘイト。
今スタートです。


9話。動き出す猫耳Silhouette

生足と紐から導き出される答えに前屈みになりそうなところを必死に耐えて向かった先にいたのは、一見冷静なように見えてその実怒り狂っているのが明白な曹操だった。

 

あの顔、まるで鬼みてぇだな。

こいつはやるかもしれねぇ……。

 

「……あんなに怒っている華琳様を見たのは初めてです」

 

あからさまに不機嫌な曹操を前にした曹洪が思わず俺の腕に縋りついてきた。

柔らかいのがふにょんとなってちん〇が痛くなるのでやめて欲しい。

 

「仕事中呼び出したことは謝罪するわ。でもどうしても貴方たちに聞きたいことがあったのよ」

 

「ふむ?」

 

「見てもらった方が早いわね。これを見てどう思うか聞かせてもらえないかしら?」

 

「どう思うか?」

 

「えぇ、忌憚のない意見を聞かせて頂戴。まずは司馬朗、貴方から」

 

そう言いながら曹操が差し出してきたのは、先ほどまで曹洪と話をしていた今回の遠征に伴い用意された物資に関する書簡であった。

 

正直に言えば、言いたいことも聞きたいこともある。

だがこの場でそれを聞くことは武官である夏侯淵の面目を潰すことになりかねない。

 

ついでに言えば、遠征に参加しない俺には関係のないことだ。

 

「……一介の内政官でしかない私に口を挟む資格があるとは思えん。意見が聞きたいなら私より先に曹洪殿に聞くべきではないか?」

 

「いやいやいやいやいやいやいや」

 

そう言って曹洪に視線を向けると、曹洪は凄い速さで手と頭を振っていた。

残像か。気の無駄遣いだな。

 

「私は貴方の意見を聞きたいのよ」

 

「ふむ。しかしだな」

 

「もしかしてわからない。なんて言わないわよね? それとも司馬家では軍学は教えて貰えなかったのかしら?」

 

「……ほう。よかろう」

 

これが挑発なのはわかっている。

だが我が家の名を出されて黙るわけにはいかん。

 

「で? どう思ったのかしら?」

 

谷間を強調しながらジト目を向けてくる曹操にどのような意図があるのかはわからんが、忌憚のない意見がお望みならその通りにしてやろうではないか。

 

「少ないな。この規模の軍勢を動かすのであれば、最低でもこの倍は用意するべきだ」

 

 

―――

 

 

「少ないな。この規模の軍勢を動かすのであれば、最低でもこの倍は用意するべきだ」

 

よかった。彼はマトモだった。

 

栄華との打ち合わせ中に呼び出したことが不満だったのか、それともわかり切ったことを聞かれたことが不満だったのかはわからないけど、司馬朗はいつもと同様に憮然とした態度を取りつつも、私が望んでいた言葉を言ってくれた。

 

でもここで安心してはいけない。

 

「では、貴方はそれを知りながらこの量の物資しか用意しなかった、ということかしら?」

 

自分でも捻くれていると思う。

でも一番信頼していた秋蘭がアレだったのだ。

今だけはわかり切った質問を繰り返すことを許してほしい。

 

「我々は文官だ。用意して欲しいと言われた分を用意するのが仕事であって、その多寡についてを論じる立場にない。必要量を算出するのは夏侯淵殿と曹操殿の仕事だからな」

 

そうね。その通り。

理想としてはそこからもう一歩踏み込んで欲しかったというのはあるけれど、それはさすがに求めすぎでしょう。

 

っていうか、今気付いたんだけど私、彼に真名を預けたわよね? 

それも結構イイ感じで預けたと思うんだけど、なんで呼んでくれないのかしら。

 

いや、曹太守殿から曹操殿になったと考えれば進歩したと言えるかもしれないけど。

いやいや、そういえば彼から真名を預かってないわ。

 

え? なに? もしかして私は真名を交換するに値しない……ってこと?

 

どうしましょう。

書簡の内容云々よりもそっちの方が気になって仕方がないんだけど。

 

「この量では最短距離を最速で駆け抜け、討伐対象の賊を一撃で片付けた挙句、一切の無駄なく戦後処理を行い、最速で帰還する必要がある。できるかどうかでいえばできる。不可能ではない。だがあまりにも切り詰めすぎているため不測の事態が発生したときに対処ができない。軍事的に言えば狂気の沙汰だ。だからこそ……曹操殿?」

 

「あ、え、えぇ。そうね。その通りよ」

 

危ない危ない。聞き流すところだったわ。

 

もしここで『ゴメン。真名について考えていたわ』なんて言ったら容赦なく蹴り飛ばされそうね。

 

尤も、怒りで顔を歪ませているところを見れば気が逸れていたことには勘付かれたと思うけど。

 

この場で指摘してこなかったのは、私に対するせめてもの温情、よね。

 

よし。切り替えましょう。

 

「だからこそ私は、曹操殿が別の解決方法を用意していたのではないかと推察していた」

 

「別の解決方法ねぇ。具体的には?」

 

「向こうの太守に用意させることだな」

 

なるほど。道理だわ。

 

「元々向こうからの依頼。故に向こうに必要な経費や物資を用意させるのは当たり前のこと。そういうことかしら」

 

「その通りだ。だがその言い様では違うのだろう?」

 

「えぇ。その通りよ。少なくとも向こうの太守は、自分の腹を痛めてまで私たちの為に物資を提供しようとは思っていないわ。中央に自分の都合の良いように奏上して、中央から出た褒美の一部を私たちへの報酬として支払うつもりみたいね」

 

「兵も出さず、金も出さず、か。随分とお上品なことだな」

 

「そうね。彼らにとっては兵も金も穢れたモノですもの。故に自分の領地で賊が生まれ、暴れ回ろうと関係ない。賊なんて己が手を汚す価値はない。私のような小娘に回せばいい。報酬を払ってやるだけありがたく思え。本気でそう考えているのでしょう」

 

豚が。いつまでも生きていられると思わないことね。

 

「では次点の現地調達だが、これも違うな」

 

「もちろん違うわ」

 

確かに孫子は現地調達を是としている。

でもそれは飽くまで調達する場所が【敵地】だからよ。

 

いくら豚とはいえ、立場上は同じ漢に仕える郡太守。

畢竟、その豚が治める土地は敵地ではない。

で、あればこそ現地での調達は不可能。

 

賊から分捕る? どれだけ備蓄しているかさえわからないのに?

そんなあやふやなものに全軍の命運を委ねるなんてありえないわ。

 

「向こうで用意しない。現地で調達もしない。こちらでも用意しない。お手上げだ。俺には解決方法が思いつかん」

 

素直で結構。

虚勢を張らないところは好感が持てるわね。

 

「栄華はどうかしら?」

 

「わ、私も華琳お姉様がどのような秘策をお考えなのかさっぱり思い浮かびませんでした!」

 

栄華も、か。

でも今回に関しては思考の放棄、とは言えないわね。

 

「栄華に見抜けないのも当然だわ。だって秘策なんてないんだもの」

 

「「は?」」

 

「あら。珍しい」

 

常に顔を顰めている司馬朗が怒るのを忘れて呆然とするなんて珍しいじゃない。

 

でもこれで分かった。

栄華にも司馬朗にも悪意はない。

ただ指示された物資を集めただけ。

 

そこに多少の不安はあれども、結局は二人とも「私が何かしらの策を用意しているだろう」と考えていたからこそ何も言わずに用意した、ということだもの。

 

これは信頼、なのかしら?

 

まぁ、いいわ。

 

少なくとも二人には罰を与える必要はないということがわかったのは朗報。

 

……その分、秋蘭への罰が重くなるのだけれど、ね。

 

「そもそも私はこの書簡に記されている倍の量を用意するよう指示をだしたのよ」

 

「……では、なにか? 今回の件は、何者かが意図的に我々に提出する指示書の内容を改竄した、と?」

 

「そうなるわね」

 

「曹操殿が指示を出した相手は?」

 

「そこで項垂れている夏侯妙才よ」

 

「あぁ、それで……」

 

秋蘭を見て何とも言えない表情をしている司馬朗。

貴方、そんな顔もできたのね?

 

「とはいえ、夏侯淵殿が内容を書き換えたわけではないのだろう?」

 

「そうみたいね」

 

指摘したら愕然としていたし。

そもそも私の足を引っ張るつもりなら、馬鹿正直に『半分しか用意しなかった』なんて書く必要がないわ。

 

何も知らない振りをして『準備万端整っています』と報告しておけばいい。

 

そうすれば実際に物資を見ているわけではない私は、出陣するまで物資が足りないことに気付けないのだから。

 

尤も、気付いた時点で陳留から物資を運ばせるよう指示を出すから、大事には至らなかったでしょうけれど。

 

結局今回の件を目論んだ者の目的はなんなのかしら?

 

遠征軍の足止め?

予定した日数で到着しなければその分被害は拡大する。

そうなれば向こうの太守から嫌味を言われるわね。

 

私の面子を潰すために仕組んだ?

でもこの時点で気付かれたら意味がないわ。

 

犯人は私を騙そうとしていながら、謀があることを隠そうともしていない。

 

でも、どれだけ忙しくとも最低限の確認をしてから書簡を提出してくるはずの秋蘭に気付かれない程度には巧妙に隠蔽をしている。

 

それはつまり私に……。

 

「……いや、そういうことか」

 

「む?」

 

この書簡を提出した者は私の足を引っ張るために細工をしたんじゃない。

この時点で私が気付くかどうかを試したのだ。

 

「舐めた真似を……」

 

どんなつもりで私を試したのかは知らないけど、ただで済むとは思わないことね!

 

「……っ」

 

「あー。曹操殿? 夏侯淵殿が自責の念で死にそうになっているのだが」

 

え? あぁ。私が秋蘭に対して怒りを抱いたと勘違いをさせたかしら?

 

怒りはないわ。 

多少失望したけれど。

 

それはそれとして。

 

「夏侯妙才。己が失態を悔いる気持ちがあるのなら今すぐ貴女にこの書簡を提出した担当官を捕縛して私の前に連れてきなさい」

 

「は……はっ! 直ちに!」

 

「殺しては駄目よ。会話ができる状態で連れてきなさい」

 

「はっ!」

 

一介の文官風情が一体どういうつもりで私を試したのか。

しっかり確認させてもらいましょう。

 

その意図によっては……ふふふ。

 

「……華琳お姉様が怖いんですけど」

 

「あー。話が終わったなら我々はもう帰ってもいいかね?」

 

「駄目よ」

 

逃がすわけないでしょ。

 

っていうか、なんで栄華は司馬朗に密着しているのよ。

貴女、男が嫌いなんじゃなかった?




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