『へっへっへ。俺達の事を覚えていてくれたのか。ロックマンのオペレーターよぉ……』
ウインドウに現れたのは、炎のような赤いロングヘアの、目つきの悪い顎髭をたくわえた男だ。
彼はロックマンの姿を見ると、獲物を見つけたかのようにニヤついていた。
『この水道騒ぎもお前の仕業か!水を元に戻せ!』
『別にいいぜ?俺のファイアマンなら、この程度の氷、溶かすのはワケねぇからな』
「なんなら、今すぐにでもやってもいいぜ」
威嚇するように片手からバチバチと火花を散らせ、頭の炎も勢いよく燃え上がる。
それを見たロックマンとスラーは臨戦態勢を取り始めた。
ヒノケンとファイアマンの言っていることに間違いはない。特に、戦ったことのある熱斗とロックマンは既にファイアマンの高火力を知っている。その気になれば、灰にすることだってできるだろう。
『やめなさい!今給水プログラムを復旧したら、汚染された水が流れるかもしれないのよ!』
『あぁ。んな事は百も承知だぜ。長い時間、この混乱のせいで水を1滴も飲んでいない人間が大勢いるんだ。そんな中、汚染水を垂れ流したら……どうなると思う?』
『お前!!』
「まずいですね。そうなったら、乾きに耐えきれなくなった人は汚染された水だろうがお構い無しに飲み始めるでしょう」
『そして、我慢出来ずに飲んだ連中はそのままぶっ倒れ、俺達ワールドスリーは快適に終末戦争の鍵を探せるってわけさ!』
ハハハハ!勝ちを確信したヒノケンは面白いように大笑い。
ワールドスリーは泣く子も黙る、天下の犯罪組織だ。一般人が10人や100人犠牲になったところで、だからどうしたという話だ。
ファイアプログラムを得る過程でやったレンジ発火事件についても、心を痛めるわけが無い。子供たちを洗脳したところで、心が痛むわけが無い。
悪役特有の高笑いをしたヒノケンは、今度は重い溜息を吐いて口を開く。
『1番良かったのは、バンダナのガキが自らの手で給水プログラムを復旧する事だったが……。まさか、教師がいるとはな。あと一歩の所で踏みとどまりやがって』
「……!!なんで僕達が水道局にいる事を知っているんだ!?」
『はっ!テメェらは1度この俺に勝ったんだ!だったら、観察するのは当然じゃねえのか?』
この件は、この場にいる者しか知らない事だ。オフィシャルの伊集院炎山も先程知ったが、アレは仕事中に鉢合わせした結果という意味合いが強い。
職員も受付も知らないはず。唯一知っていそうなのは、エレベーター近くの受付のみだが、熱斗達は門前払いを受けた立場だ。まさか、全員が退社している時にプラグインするなんて、1ミリも思ってもいないだろう。
「つまり、既に潜入している人間からのリーク……というのが自然ですね」
『どういう事なの?スラー』
内通者からの連絡。シンプルだが、信ぴょう性の高い話だ。
電脳世界や施設内の構造を理解していれば、その分作業は容易になる。
監視カメラの場所を把握していれば、死角の場所を調べ、そこを通る。プラグイン出来れば、証拠を隠滅すればOKだ。
それは、施設を利用する客としては難しい事だが、職員となれば簡単だ。怪しまれずに堂々と出来るのだから。
間違いなく、あの化粧の厚い派手な女性だろう。と、スラーは予想している。
警戒を緩めるために、我が子を褒めちぎるとは……!なんてわかってる……ゲフンゲフン!有効的な手段を……!!
「そういう事だ。ロックマンは、俺達ワールドスリーの計画を尽く台無しにした、A級賞金首だからな!そこにいる白いのもな!」
『白いナビのパワーは、ボンバーマンの1件でワイリー様も警戒している。だからこそ、俺のファイアマンは遥かにパワーアップしている!』
「レンジの電脳で戦った俺達とは思わねぇ事だな!」
ファイアマンの闘志に反応したのか、炎がボウボウと燃え盛っている。
こんな所で戦われたら面倒だ。給水プログラムの氷が溶けてしまう。
ましてや、今は水が出ないから、我が子の命に関わる。汚染水など出してしまえば、尚更だ。
「ええ。私にとっては誤差レベルです。一瞬で終わらせます」
故に、速攻あるのみ。
ブルース以上の踏み込みの速さで、ファイアマンの目の前に移動。
あまりの出来事に反応出来なかったようだ。ボンバーマンの時と違う所は、オペレーターがいた事か。慌てた様子でチップを送っている。
「ガイア・ブレイカー」
パワーを右手に集中させ思いっきりファイアマンへと振り下ろす。
その瞬間、電脳世界にけたたましい轟音が鳴り響き、電脳世界全体が揺れた。
ファイアマンがいた地点は陥没し、小さなクレーターみたいになっている。
煙が立ち込め、相手の姿は見えないが、間違いなくやられているだろう。
「あ……危なかった……。あと一歩、発動が遅れていれば即死だったぜ……」
「フレイムオーラですか……。手間をかけてくれますね」
煙が晴れ、姿が確認できたファイアマンの身体は、なんと無傷。
だが、ファイアマンは息も絶え絶え。人間ならば、冷や汗が滝のように流れていただろう。
『さ……流石はワイリー様が最大級警戒しているナビだ。パワーが違ぇ……』
「当然です。私といい勝負が出来るのはただ1人、フォルテだけです。それ以外は眼中にありません」
さらりと言ってのける地球外ネットナビ。何気に指が1本だけ立てられている。アピールしているのだろうか。その言葉に、ヒノケンは震え上がった。
フォルテと言えば、都市伝説として囁かれている究極のナビだ。
だが、所詮は都市伝説。実在するかも怪しいそのネットナビを、目の前にいる白いナビはさも存在は当然のように言ってのけた。
最も、レイチェル達は『ふぉるて?』となにも知らない様子だったが。
「ど、どうやら、あのパワーを見る限りだとハッタリと考える方がおかしいみてぇだな……」
「そういう事です。防がれはしましたが、今度はフレイムオーラを貫通するパワーを溜めればいいだけのこと。一瞬で終わらせます」
そう言うと再びパワーを溜め始めた。
こうなってくると、フレイムオーラでもダメかもしれない。一撃でやられてしまう。何の成果も得られないままやられてしまう。
「お前なんかとまともに戦ってられるか!コレでも喰らいな!!フレイムサークル!!」
『撤退するぞ、ファイアマン!急いでワイリー様に報告だ!!』
「待て!ファイアマン!」
スラーの圧倒的なパワーをフレイムオーラ越しとはいえ、その身に食らったのだ。そしてヒノケンは1度ロックマンに敗れている。
ロックマン相手に2度後れを取るとは思わないが、あの白いナビまで含めるとなると負けは確定。伝説のナビと同等だと言った上で、そのパワーまで見せつけてきたのだから。
ワールドスリーの戦力を総動員した上、全員をV3以上にしないと土俵にすら立てないだろう。そう判断したヒノケンの行動は早かった。
ファイアマンのガスバーナーのような両手から、最大火力のファイアアーム。勢いよく燃える炎が、ロックマンとスラーを囲むように燃え盛る。
それを知った事か。とばかりに、炎の渦を突っ切るスラーだったが、その先は既にもぬけの殻。ファイアマンはいなかった。
「……逃げられてしまいましたか」
思わず舌打ちをしてしまう。水道騒ぎの重要参考人を発見できたにもかかわらず、この結果だ。
後ろにいるロックマンは水属性チップを使い、消火作業をしているようだ。
給水プログラムの方も、ちょっと溶けているだけで稼働している様子はない。汚染水が流される心配はないだろう。
『どうしよう……また初めからになっちゃったけど』
『後はオフィシャルに任せて、私達は家に帰りましょう。皆んな疲れてるでしょ?ね?』
『ちぇー、折角解決出来たと思ったのになー』
『しょうがないよ。パパ、プラグアウトするよ』
こうして、熱斗達による第1回水道調査は、中断の運びになった。
各々プラグアウトして施設から退出。自宅へと足を運んだ。
「……なるほどなぁ……これは使えるねぇ……」
『ナイスアイデアよ。ヒノケン♪』
スラー達がプラグアウトする直前、物陰からこっそり見ていた、玉に乗っている道化師のようなネットナビは、悪巧みを思いついたかのようにニヤついた視線で給水プログラムを見ていたのだった。
・フレイムオーラ
ドリームオーラの副産物。ダメージが40以下の攻撃を完全に防ぐ炎のバリア。
・火野ケンイチ
ロックマンエグゼ皆勤賞ならずの炎の男。ゲーム版、鷹岬版、アニメ版に登場。
エグゼ1と3ではワールドスリーとして活躍。初登場の1ではネットワーク防犯協会として各家庭のメンテナンスをしていたが、それはフェイク。ファイアプログラムを奪うためにデンサンシティ中の家を虱潰しに探していた(のであろう)団員。
ファイアマンが倒されてからも作戦会議には参加し、2でも続投していた為、この時点では捕まっていないと思われる。
アニメ版は初期は悪役だが、ゴスペル編になると利害の一致から熱斗達と協力関係になり、最終的には味方へ。カレー屋では出前担当になったようだ。
鷹岬版ではアニメ版とは反対に、終始敵。序盤に多く登場し、なんと熱斗をワールドスリーに仮加入させてた程の交渉力を持つ。その時の熱斗のナビはベータ版のナビだが、普通にファイアマンと連携が取れていた為、熱斗のテクニックの高さが分かる回となっている。
フォルテGS編では実体化したファイアマンと共に登場。熱斗に、今更ファイアマンなんて敵じゃないと言われたが、ファイアマンをスタイルチェンジしてフレイムマンに変身。圧倒的な力の差を見せつけた。その時の「同じじゃねぇんだ!同じじゃなぁァァァァァッ!!」は必見。
サイトスタイルを吸収し、ロックマンを追い詰めるものの、その場にいたトラキチとキングマンに敗北。それ以降出番なし。フルシンクロの後遺症に苦しんでいるのか?
・汚水垂れ流し擦り付け事件
まり子先生のせいで未遂に終わった。早い話が3の科学省炎上事件の前借り。ワールドスリー時代のゲーム版ヒノケンならやりかねないという謎の信頼感から。
・「私といい勝負ができるのはフォルテだけ」
単なる強がり。リベンジ戦ではボロ負けしたが、ロックマン達が4人がかりで全力で戦っても圧倒していた為嘘は言ってない。
・あっさり撤退したヒノケン達
本来ならウイルスで時間稼ぎをしてその間にロックマンと戦う展開をイメージしてたのですが、書いていく内に『アレ?ナンバーマンと違ってヒノケン、そこまで切羽詰まってないし、3ではフレイムマン倒された時に撤退してるしで以外と引き際わかってるんじゃね?』って思ったので急遽変更。
ちなみに給水プログラムを作動させる事をすっかり忘れていた模様。
・物陰から一部始終を見てたネットナビ
一体ナニードマンなんだ……