ワールドスリーによる、突然の停電。空調システムの掌握。この2つにより、会場は大パニックだ。
科学発展のきっかけを生み出す為の、楽しいインキュベーションパーティーが阿鼻叫喚の地獄に早変わり。このまま何もしなかったら、空気が無くなってあの世行きだ。
(……なぜ、エレキ伯爵はワールドスリーに?)
プライド王女は軽くショックを受けていた。
キングランドとの外交中、たまたま関係を持った間柄だ。取引先の会社と交渉中に、その子会社とたまたま仲良くなってしまったような関係。それがプライド王女とエレキテル家との交流の始まりだった。
その仲は決して悪いものではなかった。エレキテル家の人たちは人柄の激しい人が多かったが、同時にとてもいい人だったからだ。
レイチェルの誕生日に送られてくるカップケーキも、今は隠居しているエレキ伯爵の義母からの贈り物だ。とても美味しい。
「あんのクソボケ老人共か……!この事態を引き起こしたのは……!!」
PETでの通信をしていたのだろうか。冷静な炎山はこの上なくブチギレていた。PETを力強く握っているのか、手がプルプルと震えている。
ブルースが慌てたように宥めているが、炎山の腹の虫は収まらない。
『どういう事?』
「オフィシャルの無能共が、功を焦ったが為にここにあるエレキプログラムをエサにしたんだよ!」
『何それ!?それがオフィシャルのやる事!?』
『気持ちはわかりますが、今は抑えなさい。更にパニックになりかねません。……全権代行者としてこの件が終わったら正式に出るとこ出てやりましょうか』
炎山が普通の声量でブチギレるという器用な事をやっている。いや、もしかしたらヒソヒソ話程度の声量かもしれない。現にその音量で声を上げたおかげか、会場のパニックにかき消されているようだ。
炎山も、最初は壇上に立っていたエレキ伯爵がワールドスリーと判明してから直ぐに拘束しようと思っていた。
オフィシャルとして、御曹司として、もしもの時のための護身術は習ってある。ネット犯罪が主流のこの時代、リアルファイトに持ち込む者はそうそういない。ネットナビに大暴れさせた方が、手軽に被害の規模を広げることができるからだ。
いざ拘束しようと、持っていたスチール缶を投げようと思っていたその時。そこに急にかかってきた、上層部の老人達の独断による手引きと発電施設を乗っ取られた事。
特に、発電施設を乗っ取られたのがヤバい。もし、あの場で拘束していたら、エレキ伯爵のナビは暴れ回って道連れを選んでいただろう。
ネット犯罪は、主犯のネットナビを無力化して初めて安全に犯人を拘束出来る。ナビの方を野放しにしていればひたすらに大暴れ。被害が拡大するからだ。
「今は非常事態だ。オフィシャルだの一般人だの言っている場合じゃなくなった。手を貸せ!」
『当然だよ!こんな事件、早く解決しないとみんなが危ないんだから!』
『姫。エレキ伯爵の事が気がかりなのは分かりますが、今は会場の人たちの安全が第一でしょう』
「え……ええ。その通りですね」
炎山が珍しく立場を気にしなくなり、レイチェルが奮起し、プライド王女が立ち直る。
3人とも、事件を解決するという目的は1つだ。最優先すべきは、参加者の安全確保。その為には空調システムの奪還が最優先となる。
「エレベーターが止まってる以上、ダストシュートで下の階にある発電施設に行くしか方法はない」
『じゃあ、ママも一緒に……』
『それは不可能です。ダストシュートは子供が通れる程度の広さしかありません。大人が入れば確実に詰まります』
「……では、レイチェル。貴方は伊集院炎山と協力して、地下の発電施設を復旧しに行きなさい。私は参加者のパニックを抑え、状況が収まり次第ナイトマンを送りますわ」
『うん!』
やるべきことは決まった。レイチェルはいそいそと着ぐるみから降り、レバーを引いて全身を光らせた。
これで明かり問題は解決だ。このパニックの原因は、空調システムもそうだが、明かりが消えた事も大きい。
プライド王女は念の為にとレイチェルにバトルチップ、アンダーシャツとナイトマンSPを渡した。
ワールドスリーが引き起こした、大規模な停電だ。電脳世界の電気も通っていないだろう。そうなれば、PETの自動修復プログラムは作動しない。
スラーというぶっ壊れナビなら余程のことがない限り大丈夫だとは思うが、それでも万が一ということがある。
それに、今日は嫌な予感が止まらない。残りの究極プログラムが奪われようとしているせいだろうか。終末戦争が近づいてきているせいだろうか。
レイチェルの肩に両手を置き、必ず無事に帰るように念を押した。スラーとナイトマンからは「心配しすぎです」と言われたが、愛する我が子を死地へと送るようなものだ。心配の一つや二つするのは当たり前だろう。
炎山とレイチェルは着ぐるみから幾つかバッテリーを取り出してダストシュートに向かった。
プライド王女はパニックを抑えるため、着ぐるみに搭乗して会場の参加者全員に呼びかける。
ーーーーー
炎山とレイチェルはダストシュートから発電施設に向かい、コントロールルームへと足を運んだ。
水道局と同じ規模の大きさと広さ。こんな状況でなければ、水道局の見学の時と同じようにはしゃいでいたであろうが、そうもいかない。
「熱斗くんだ!」
「レイチェル!……と、伊集院炎山もいるのかよ……」
「ふん。俺が居たら何かまずいことでもあるのか?」
『レイチェルちゃん!ここにプラグイン出来そうだよ!』
コントロールパネルのひとつに、見覚えのあるバンダナの少年が居た。光熱斗だ。
レイチェルと同様、オフィシャルに名が通っているネットバトラー。そういえばこいつもいたか。と炎山は人手が増えた事に少し安堵していた。
炎山とブルースは、オフィシャルでもひと握りのSランクネットバトラーだ。幾つもの難事件をクリアした経験を持ち、オペレーションの腕もネットナビの性能もとても高い水準にある。
光熱斗とロックマンはレンジ事件を初め、ワールドスリーの事件を数多く解決しているネットバトラーだ。このコンビの息のあったオペレートは炎山と比較しても引けを取らない程に。
レイチェルとスラー。この2人はオペレーターの能力が低めとはいえ、ネットナビの性能が段違いだ。本気のブルースを一蹴出来るほどのぶっ壊れ性能。オペレート練習をしている事からレイチェルの能力は炎山と熱斗よりも下だが、文字通り9年を共に過ごした仲だ。互いの意思は伝わっている。
「行くぞ、ブルース」
『はい。炎山様』
「頼んだぜ、ロックマン!」
『うん!熱斗くん、オペレートお願い!』
「お願い、スラー!」
『ええ。私達を敵に回した事を後悔させましょう』
3人はそれぞれPETを構え、プラグインの姿勢に入る。
この電脳にいる、エレキ伯爵のナビを倒してシステムを復旧させる。それがメインミッションだ。
「ちょっと待ったー!!」
そんな3人に、隣で復旧作業をしていた科学者の男に止められた。物凄い形相だ。
「君たち!ナビをデリートさせたいのか!こんな危険な状況でプラグインするなんて、自殺行為だぞ!」
とんでもないやらかしを慌てて止めるように、科学者の男は説明する。
「いいかい?今、この発電所はすべての機能が停止している状態だ。恐らく、電脳世界の電気も通っていないだろう。そんな時にナビを電脳世界に送り込むと、猛烈な勢いでPETのバッテリーは消費される!そして、もしもプラグインしている時にバッテリーが切れてしまったら……ナビに送られるエネルギーは遮断され、PETの機能がすべて使えなくなってしまうだろう。そうなってしまえば……ナビがウイルスにやられてしまうのは時間の問題という事だ」
「ホントですか!?……じゃあ、どうすればいいんだ……」
その言葉を聞いて、熱斗は躊躇ってしまった。
PETが使えなくなる。つまり、チップも、自動修復プログラムも、プラグアウトも出来なくなってしまう。
もし、バッテリーが切れてロックマンが電脳世界に置き去りになってしまったら……。そうなってしまうと、ロックマンと一生会えなくなってしまう。
それはレイチェルも同じだ。9年間、一緒に過ごした父が電脳世界に置き去りになってしまったら。そう考えるだけで頭が真っ白になってしまう。
「……俺の見込み違いだったか。その程度でプラグインを躊躇うとはな」
「なんだと!?お前、ブルースがデリートされてもいいのかよ!」
それでも、炎山は躊躇わなかった。 否、躊躇う必要が無いという事だろうか。
ネットナビは疑似人格プログラムにより、オペレーターとの意思疎通を可能にしている。
だが、所詮はプログラムだ。人間ではない。たかがプログラムの為に躊躇った結果、最悪の事態が起こってしまう。ならば、躊躇う必要は皆無だろう。
それに、炎山はブルースを構成しているプログラムは全て頭に叩き込んである。もしデリートされても直ぐに復元することが可能だ。
対して熱斗とレイチェルは、ネットナビを友達、家族として大切に思っている。共に過ごし、共に笑い、共に苦楽を過ごした仲だ。躊躇うなというのは酷だろう。現に熱斗と炎山が喧嘩をしているようだ。それを見てレイチェルはオロオロしている。
『……行こう。熱斗くん』
2人の喧嘩を断ち切ったのは、ロックマンだ。
こんな所で喧嘩をしても、埒が明かない。無駄に体力を消耗するだけだ。
この言葉に、熱斗は反対した。もしもデリートされてしまったら……。そう考えるだけで身体が震えてしまうのだ。
ネットバトルやウイルスバスティングで負けるのとは違う、完全な外的要因によるデリートに。
『熱斗くん!今、こうしている間にも、熱斗くんのママやレイチェルちゃんのママ……会場のみんなの命が危ないんだ!それに…僕は熱斗くんのオペレート、信じてるから!』
ーーーロックマンのそういうところがズルい。そう言われたら、何も言い返せないじゃないか。
隣の炎山も、ブルースに宥められて落ち着きを取り戻している。レイチェルもスラーに宥められ、持てる分だけ持ってきたたくさんのバッテリーを取り出した。準備は万端だ。
『覚悟は決まったようですね』
「ああ!もう迷わない!さっさとワールドスリーのナビを倒して、皆を助けようぜ!」
「うん!スラー、今度こそ行くよ!」
改めて、3人はそれぞれPETを構え……
「プラグイン!ロックマンEXE、トランスミッション!」
「プラグイン!スラー、トランスミッション!」
「プラグイン!ブルース、トランスミッション!」
電脳世界にそれぞれのネットナビを送り込んだ。
その際、ワールドスリーが仕掛けたプロテクトがそれを阻んだが、ロックマンとスラーは無事に突破。ブルースは少々手こずっているようだ。
やむを得ず、ロックマンとスラーの2人で電脳世界の攻略を始めていく。
・発電所の電脳
画面内にPETの充電値が表示され、それが無くなるまでにエレキマンを倒すのがクリア条件。
なのだが、サイバー電池とかいう運ゲーにめんどくさいウイルス、時間制限という数多のキッズのトラウマのひとつとして名高い激ムズステージ。
6のエレキマンイベントはこれのオマージュなのだろうか。
・クリームランドでのスラーの立ち位置
プライド王女の代理。留守中はスラーが指揮していた。
・エグゼ世界でリアルファイトが少ない理由
そりゃあネットナビを暴れさせれば大規模な事件を簡単に起こせるんだからリアルファイトよりも効率いいよねって感じ。アニメ1期のヒノケンの決闘回だけを見ても明らかだろう。
リアルファイトはあくまでも「ターゲットから直接荷物全部奪う(2)」や、「気に入らない相手を集団リンチしてボッコボコにする(6)」位しかやらない。というよりもネット犯罪が重要視され続けたおかげでリアルファイト事態が思考から外れているのだろう。6で「コイツ、ネットバトル強いから忘れてたけど、そういや小学生だったんだよな」って入道が言ってるから灯台もと暗し的な意味合いもありそう。
・今回の炎山
原作では炎山が手引きしている描写が強いが、こんな大失態をやらかして普段通り強気の調査出来ていることを考えると、オフィシャル上層部が関わっているのは間違いない。「お前はワールドスリーだな!?ちょっと着いてきてもらおうか!」
今作ではプライド王女がいる為、炎山は国際問題云々で反対していた立場だが、老人たちはクリームランドを昔と同じだと思い込んでいる為このような暴挙に出た。これには炎山は激おこ。ついでにレイチェルとスラーも激おこ。
「余計なことしてこの世界を拗らせやがって!」
・3人が発電施設の電脳へプラグインしてる時のプライド王女
レイチェルの開発した着ぐるみに乗り込んで壇上の上に立ち、皆を安心させた。炎山のネームバリューは伊達ではない。
真っ暗闇の中、全身が光っていたのでめっちゃ目立っている。
・ロックマンとスラーのバックアップ
ロックマンは特別なナビのため、デリートされたら即終了。二度と蘇らない、正真正銘のワンオフナビ。それが明かされるのは1の最終決戦前。
漫画やアニメではゲームのような特別なナビではなく、熱斗のパパが高性能カスタマイズを施したナビになっているため特別な方法が必要だが復元は可能。
スラーの場合、全てが未知のプログラムで構成されているため、現代の科学力では解析が充分に出来ていないのでバックアップが取れない。出来てせいぜいスラーの皮を被ったノーマルナビが出来る程度。
・プロテクト
ロックマンがちょっと驚きつつも突破し、ブルースはロックマンがエレキマンを倒すまで手間取っていた事からブルースは遅刻します。仕方ないね。