もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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皆さま、非常に申し訳ありませんでした!!

6月当初の台風により仕事が忙しくなったことと、体調を崩したことと、筆がなかなか進まなかったことで遅くなってしまいました!

しかも、大分オリジナル要素も突っ込んだので訳分からないってなるでしょうが、できるだけ後書とかで説明しますのでご容赦ください。

時間飛んだりと急いで書いたので色々とボロが出てる所があると思いますが、ご容赦ください。


マッチの独白・後編

 ライズを連れて装甲車が襲われた場所へたどり着き、その惨状に思わず表情が歪んだ。

 衝突でひしゃげた装甲車の荷台に大きい穴が空いて中の積み荷が荒らされて中身が全て奪われている。

 食料を奪われたことに歯噛みしながら状況を少しでも確認する。

 

 少しでも猛獣の情報を探れれば対策も立てられるというライズの狙いも叶えられなかった。

 

「こりゃひでえ」

「だが、人死にが出なかったのは不幸中の幸いだった」

 

 ライズの一言に同意しながら少し震える体を抑える。

 オレとてここまでの惨状を作り出せるほどの猛獣とやり合ったことはない。

 今日ここで死ぬかもしれない……何とか恐怖を押し殺して闘志を研ぎ澄ませる。

 

 とりあえず、このまま手当たり次第に探し回るしかない。

 オレたちは猛獣を探し回った。

 

 もちろん、アテもなく探し回っている訳じゃない。

 ライズ曰く、この猛獣はグルメ度が高い……つまりは舌が肥えているとのことだ。

 街周りの猛獣でも歯が立たないような装甲車を破壊して食材を奪える実力があるなら、ここらの猛獣も食料として狩られてもおかしくない。

 

 だが、一通り見て回っても猛獣が襲われたような形跡がない。

 移送されてくる食材はここらの猛獣や食材より上等なものだから、見向きもされていないとも考えられる。

 

 なら、どうするかと言われれば答えはシンプル。

 美食屋気取りの猛獣には食事でおびき寄せる。

 

 猛獣の中にも美味い食材に味を占めてから上質な食材を執拗に狙うようになる個体がいる。

 グルメ界の猛獣とは少し違うが、人間界に攻めてこない理屈と今回のケースはもしかしたら同じかもしれない。

 

 ライズが折りたたみ式の簡易調理台で簡単に料理を作り、その香りを辺りへ漂わせる。

 その際に原生している猛獣たちが釣れたが、目的の奴らじゃなかったからある程度はオレが仕留め、残りは追い払った。

 実際に試した結果だが、お察しの通りだった。

 

 そこから色々と試した。

 一品だけで足りなかったからと料理を少しずつ増やしたり、色んなスパイスを使って匂いを強めたりと。

 

 考え得る手を尽くしてもそれらしい猛獣は出てこない。

 作った料理も多くなり、余計に釣れた猛獣を追い払うのも億劫になってきた。

 猛獣が目に見える範囲から消えたと判断したとき、ライズが串に刺した肉をオレに手渡した。

 

「そろそろ休憩にしよう。これじゃあ本番前にバテちまう」

「こんなところで気ぃ抜けるか。まだ余裕だ」

「そう思っても実際は疲労も溜まってるもんだ。こまめに休んで本番に備えるのも大事だぞ? こっちはもうやることやったから見張りくらいできる」

「……分かった」

 

 ライズの言うことに一理あるため、串焼きを頬張った。

 香ばしく焼けた肉からあふれ出る肉汁が汗水流し切った体の栄養となっていく感じがする。

 程よい歯ごたえを堪能し、かみ砕いて胃に流してもなお肉と香草の香りが鼻につきあがってくる。

 ただ串に刺して味付けて焼くだけでは説明できない旨味が体を悦ばせてくれる。

 

 この肉は輸送車で運ばれてくるような上質な食材じゃない、ここらで討伐して食える猛獣の肉だ。

 オレたちが捕まえて食べるときとは味や肉質、旨味と感じる喜びも全てが違う。

 初日の頃と比べても明らかに料理のレベルが上がっている。

 

 認めた奴が前へ進んでいることへの喜びと同時に――これほど美味い飯でもスラム民は希望を持てないでいるのを思い出した。

 

 劣悪な環境、周りからの差別、絶え間ない縄張り間の抗争、グルメ時代において食を堪能できないことへの劣等感

 その全てがあいつ等の希望を根こそぎ奪い、心を閉ざす原因となっていることは分かっている。

 あいつらの魂は既に擦り切れ、考えることを止めてしまっている。

 

 あいつらは未来を、恐れるようになってしまった。

 

 絶望に吞まれるくらいなら、希望なんて持たない方がいい。

 何も考えず、運命に流されるだけの、責任も喜びもない人生に甘んじてしまっている。

 

 そんな奴らに飯を分け与え、何が変わるのだろうか。

 闇に飲まれた奴らが飯で変われるのか――おとぎ話に出てくるGODという伝説の食材がなければ何もできないのか。

 ネルグ街を立て直すオレの夢が少しだけ揺らいだ――その時だった。

 

「マッチぃ!!」

「!?」

 

 突然、ライズがオレに体当たりの勢いで服を掴んで弾き飛ばした。

 勢いあまってライズと勢いよく転げまわる視界の中で確かに見た。

 

 オレが立っていた場所へ空から勢いよく何かが飛来し、激突した。

 地面が勢いよく砕けた感じからして、直撃したらバラバラになった地面と同じ末路を辿っていただろう。

 

 転がっていた体を勢いよく起こして離さなかった刀を抜いて謎の飛来物へ向けて構える。

 ライズも素早く起きてオレより後ろへ下がる。

 

 巻きあがる砂煙の中から巨大な影が蠢いている。

 

 徐々に煙が晴れてくると、その正体が露になった。

 

 

 人間の歪んだ顔のような頭を持つ嘴のない鳥

 鳥にしてはあまりに異質な存在に思えてしまう見た目に沿うような悪辣な戦法を取る猛獣

 

 ――コアアアアアァァァァ!

 

 

 大量の料理を食い散らす怪鳥ルバンダが姿を現した。

 

「こいつは……っ!?」

「ルバンダだ! 捕獲レベル30の奴がなんで!?」

 

 醜悪ともとれる見た目もそうだが、この辺りでは見かけることもない狂暴な猛獣に戦慄が走る。

 想定したよりも強力な猛獣に一瞬だけ気が揺らぐ。

 だが、先に動揺から立ち直ったのはライズだった。

 

 猛獣との戦いにおいて経験しているライズの方がオレより心の持ちようが違う。

 しかも、ライズは既に手を打っていた。

 

戦闘味付・盾(バトルテイスト・タンク)

 

 道中でも言っていた、ライズの技か。

 特殊な調理法で作った料理を自分で食うことで自身の防御性能を飛躍的に上げる。

 それと同時に、猛獣たちにとって美味、もしくは興奮させる匂いを漂わせることで攻撃を一手に集中させるとのことだ。

 

 厄介な体質のせいで無暗な殺生ができねえ代わりにあいつなりの戦い方を模索していたらしい。

 仲間を護る力、これほど心強いものはねえ。

 

 ――カアアァァァァァ!

 

 効果があったのか、ライズの飯を食っていたルバンダは即座に格下と言えるライズへ興奮した状態で向かっていった。

 巨体に似合わない速度で飛び掛かってくるルバンダをライズは冷静に攻撃を見据えて回避する。

 ただの料理人とは思えない身のこなしでルバンダのツメや体当たりをいなしている。

 

 その間にオレが刀で奴の身体を別方向から切りつける。

 ルバンダの身体に切り傷ができてくるも、そのほとんどは致命傷に至らない。

 猛獣の頑強さはもちろん、オレがまだまだ未熟だからというのが最大の原因だ。

 

 リュウさんから習っている居合切りが完成してさえいれば一撃必殺にもなりえたが、今はないものねだりしても仕方がない。

 

 やはり、首か頭、急所に全力で刃を突き立てるしかない。

 仕留め方を決めた時、ライズを執拗に狙っていたルバンダがオレに標的を変えた。

 どうやら、ライズよりヘイトを集めすぎたらしい。

 

 だが、それも想定済みだ。

 オレはルバンダの牙を刃で受け止め、拮抗状態に持ち込む。

 猛獣相手に力比べは圧倒的に不利。

 

 相手が誰だろうと、勝負は一瞬で終わらせるつもりだった。

 

「今だ! やれ!」

 

 きしむ筋肉の痛みを我慢しながら叫ぶ。

 その時には既にライズがルバンダの背中に飛び移り、ショルダーバッグから取り出したものを突き刺した。

 

 ――コアァッ!?

 

 ルバンダが苦悶の声とともに苦痛の表情を浮かべて痙攣する。

 咥えていた刃を離し、千鳥足となってよろめく。

 

「よし、入った!」

 

 ライズはルバンダに打ち込んだもの、ノッキングガンを持った手でガッツポーズを取っていた。

 

 ライズは世にも珍しい『戦闘アレルギー』を患っており、相手を傷つける行為や意思を持つことでアレルギーを発症させ、膨大な体力を奪われる。

 だが、護身やサポート目的での攻撃ならアレルギーは発症しないと既に分かっている。

 

 相手を傷つけずに再起不能にする技術、ノッキングはまさにライズにはうってつけの技だった。

 

 オレが付けた切り傷からノッキングを打ち込んでいるため、頑強な体にノッキングガンが弾かれるという懸念もクリアした。

 

 いける、オレはそう思ってよろめいて項垂れるルバンダの首目掛けて刀を構え、振り下ろした。

 

 「しっ!」

 

 気合と共に振り下ろした刀がスローモーションのように遅く動いているような感覚に陥った。

 刀の行先は寸分違わず首へ吸い込まれている。

 

 

 

 ライズとオレの作戦勝ち、最初はどうなるかと思ったが、うまくいった。

 これでまたガキ共に飯を食わせてやれる。

 

 

 

 飯を食わせたら、討ち取ったコイツ(ルバンダ)を見せてやろう。

 同じスラム出身のオレが捕獲レベル30台の猛獣を討ち取った、誰にだって可能性はあるって教えてやれる。

 

 

 

 そうだ、今は不貞腐れているかもしれねえが、生きていれば希望の一つや二つだって生まれる。

 あいつらは、負け犬なんかじゃねえ。

 そうしたら、ゾンゲの野郎を見返してやろう……そして、仲直りしよう。

 

 

 あれ?

 オレはまだ首を切り落としてなかったのか?

 

 いやに刀を振り下ろす速度が遅い。

 頭もこんなに回るのは今までの中で初めてじゃないか?

 

 

 

 いや、前にもあったなこんなこと。

 

 

 

 あれはたしか、ヤクザ間の抗争の時

 

 

 油断したオレが敵に銃を向けられた時だっけ――

 

 

 

「マッチィィ!」

 

 爆発したかのような怒号と共にオレの身体は横から何かに弾かれ、地面に転げまわった。

 予期せぬ事態に受け身も取れず、転げまわったダメージに数秒だけ悶え、顔を上げた。

 

「っ!?」

 

 そして、頭から思考が抜けた。

 目の前が真っ白になった錯覚さえ覚えた。

 

「あっ……がっ……」

 

 そこには、胴体をルバンダに嚙みつかれ、苦悶の表情を浮かべるライズが大量の血を垂れ流していた。

 

「ライズゥっ!!」

 

 痛む体に鞭を打ってルバンダに刀を振るうが、ライズを加えた状態で羽ばたき、軽快に逃げる。

 

「お”っ……かはっ……」

 

 ルバンダの少しの動きだけでライズの出血量が多くなる。

 動くたびに牙が突き刺さるのだろう。

 

 だが、そんなこと考えてる暇はなかった。

 ノッキングが効いていたと思ったルバンダはライズの身体を咥えた状態でオレを油断なく見据えている。

 何が起こってるか判らねえが、早くライズを救出せねばならないことだけは分かる。

 

 だが、いい手が思いつかない。

 頼みのライズの持ってきたバッグは踏みつけられたのか、中身から飛び出たノッキングガンやカートリッジが壊されている。

 

 何かいい手はないかと考えてると、オレを観察していたルバンダが羽を広げて別の方向へ向いた。

 砂煙を舞わせて何度も羽ばたく姿にオレは心底肝を冷やした。

 

「ふざけんな!! 逃げんじゃねえっ!!」

 

 それは考え得る限りの最悪な一手だ。

 ルバンダは既に獲物を確保したとばかりに、その巨体を宙に浮かせ始める。

 オレが爆発的に全力で向かっていく様子を一瞥し、奴はとうとう飛び立った。

 

 オレの伸ばす手がルバンダを捉えられずに宙を切る。

 

 腹から着地したときの痛みも感じないほどにオレは焦った。

 連れ去られたライズが空中から血を流して項垂れている。

 

 ドッドッと心臓の鼓動が強く感じられる。

 最悪の結果を予想して手が震えていた時、ルバンダの横で不思議な光景が浮かんだ。

 

 

 

 それは特大の宙に浮かぶスプーンだった。

 

 なぜ、ここにスプーンが?

 余りに場違いな光景に体が硬直させていた時、空中からライズの必死な声が響いた。

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉ!! スプーーーーーーン!!」

 

 命を振り絞るような声と共に力なく垂れていた腕が大きく弧を描いて振るわれた瞬間、そのスプーンはライズの動きに合わせてルバンダに迫る。

 その時、スプーンの中から大量の粉が溢れ、ルバンダの顔に直撃した。

 

 

 ――ギィッ!

 

 突然の不意打ちにルバンダは頭を振って粉を必死に振り払う。

 ライズはその一瞬のスキを突き、牙が突き刺さるのも躊躇わず、力の限り両手で口をこじ開けて脱出した。

 すでに飛び立っていたルバンダの拘束を抜けたライズは重力に従って落ちていき、地面に墜落した。

 

「ライズ!!」

 

 何が起こったか分からないが、オレは一心不乱に駆け寄って絶句した。

 奴の牙によって引き裂かれた腹からおびただしい量の血があふれ、無理やり皮膚を破ったような傷がとても悲惨で痛々しい。

 

「お……ご……」

「おい! しっかりしろ! 傷は浅いぞ!!」

 

 気休めかもしれないが、ここで傷がひどいことを伝えるとライズの気力が切れてしまうんじゃないかと思って嘘を吐いた。

 来ていた上着で傷口を縛ると血の赤色で瞬く間に染まっていく。

 

 そこからはもう反撃とか、次の一手だとか考える余裕すらなかった。

 ただ、この場から一刻も早く逃げなければ、としか思えなかった。

 

 力が入ってないライズは既に虫の息だった。

 実質、無傷とはいえライズの腕を肩に回して体を引きずるように引っ張るが、まともに逃げられる速さじゃない。

 

 それでも出せる限りの速度で逃げていた時、周りの景色が霧に包まれたように霞んでいく。

 一瞬、意識が朦朧とした感覚を覚えて倒れそうになるも、踏ん張って耐える。

 

 なんだ、そう思った瞬間に鈍い衝撃がオレの背中を貫いた。

 

「ぐはっ!」

 

 肺の中の空気が吐血と共に吐き出され、地面を無様に転げまわる。

 すぐに起きて刀を構えると、オレがいた場所には片足を構えたルバンダの姿が。

 思わずライズを落としてしまったが、まだ息があることを確認した後、ルバンダに切りかかる。

 

 全力で振った刀によける素振りすら見せず、奴の身体はオレの一振りで真っ二つになった。

 だが、刀から伝わるはずの肉を切り裂く感覚が伝わってこない。

 

「これは……グハっ!」

 

 切り裂いた身体が消えたと思った瞬間、靄の中からルバンダがオレの腹部に頭突きを食らわせる。

 猛スピードで繰り出される突進に血反吐を吐き、吹き飛ばされる。

 地面を数メートル抉ったところで止まり、痛む体を起こすと、そこには数体のルバンダがオレを見据えていた。

 

「これは……群れがいやがったのか……っ!」

「違う……こいつ、は……幻覚、だ」

「!? 幻覚……それは一体……!?」

「ルバンダは幻覚作用のある吐息で獲物を惑わせ、弱らせたところを捕食する……騙しは奴の十八番……ノッキングにかかったフリも……一杯食わされたって訳だ……」

 

 ライズは地面に横たわり、苦し気にしながらも奴の情報を口にする。

 幻覚作用とはまた厄介な猛獣がいるものだ。

 ただでさえ地力で負けてるのに、狡猾で小賢しいとここまで手が付けられねえのか。

 

 今でも増えては消えるルバンダの分身を相手に、オレは腹を括る。

 幻覚作用のある靄が既に自分たちを覆い囲っている以上、このまま逃げるのは不可能に近い。

 そもそも、ここまでダメージを重ねすぎて体力的に逃げ切れる自信もない。

 

 万事休す、とはこのことか。

 

 だが、不思議と恐怖は感じていない。

 感じているとすれば、勝手やって周りを巻き込んだ自分の身勝手さと弱さに対する怒り。

 そして、ライズだけは逃がしてやるという決意だった。

 

 す~っ、と深呼吸しながら刀を構えながらライズの前に立つ。

 最悪、刺し違えることも視野に入れながら、このまま逃がしてやるつもりもなさそうなルバンダを見据える。

 

 「上等だ……」

 

 何としてもライズは絶対に逃がさねばならない。

 決意したと同時にルバンダの幻覚が一斉に襲い掛かってきた。

 精神を研ぎ澄まし、ダメージ覚悟で迎え撃とうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 「ゾンゲスマーーシュッ!!!」

 

 妙に聞き覚えのある情けない叫びと共に靄の中から見覚えのある斧が飛んできた。

 

「どわぁ!?」

 

 回転した斧がオレ目掛けて飛んできたのを慌てて避ける。

 本当に当たるかと思ったと肝を冷やした時、信じがたいことが起きた。

 

 ――ゴアァ!?

「えぇ!?」

 

 靄の中に隠れ、オレの背後から忍び寄っていたルバンダに斧が当たり、のけ反った。

 まさかの事態に目を見開くと、靄の中から人影が現れてオレと倒れていたライズを脇に抱えてルバンダから逃げた。

 

 オレたちを拾った人影――ゾンゲは恐怖に錯乱しながら一心不乱に逃げる。

 

「ぎゃああああぁぁ!? 何だあいつキモいキモいキモいいいいぃぃぃぃ!」

 

 靄の中をパニック状態に陥りながら一心不乱に走り続け、適当な岩場の影に滑り込むように隠れた。

 

「な、何でここに?」

「んなこといいからお前ら一発殴らせろ!」

 

 オレの疑問も他所に声を潜めながら拳を振り上げて怒るゾンゲの迫力に少しだけ引いてしまった。

 

 冷静に考えれば、勝手に誰にも何も言わずに出て行った挙句に勝手に死にかけたのだから、この怒りはもっともだった。

 かなり気まずく思っていると、少し落ち着いてきたゾンゲはため息を大きく吐いた。

 

「……ガキの一人がお前らが街を出たって言ったからよぉ」

「なるほど……それで探してくれたのか……」

「ふん、最強戦力のオレ無しであんなバケモノ倒せるわけねえだろ」

 

 いつもの調子で大口叩くこいつに安心感を抱く日が来るとはな……

 状況は最悪なのに、こいつが来た瞬間に絶望的な状況が少しだけ軽くなった気がした。

 

「って、わああぁぁぁ! ライズーー!? お前、これ死んだのか!?」

「死んでねえよ、ってか今気づいたのか」

「おうそうか、そりゃよかった! よし、ここから逃げるぞ! アイツなんかキモい!!」

「できればそうしてる……できれば、な」

 

 ゾンゲは血まみれになっていたライズを見て仰天していた。

 ライズも血まみれになった見かけでもさっきよりは息も整っており、余裕さえ見える。

 大分持ち直したことに胸を撫で下ろすが、状況は変わっていない。

 

「この靄の中じゃあ帰る方向が分からねえ。オレたちの場所も靄のせいで分からねえしな」

「奴らは靄の幻覚作用に対する抵抗も持ってるし、この靄の動きや匂いの変化で敵の位置を割り出してる……どっちにしてもこのままじゃあ逃げる以前に全員食われる」

「じゃあどうすんだよ!」

 

 ゾンゲが加わっても状況は晴れない。

 投げた斧はルバンダに当てた後、そのまま置いてきたから戦えるのは得物を持ったオレだけだった。

 既に負けたオレでどうにかなるものじゃない。

 

 どうすれば打破できる、この状況を

 

 そう思っていた時、ライズが寝転がりながら指を立てた。

 

「一つ、策がある」

「本当か!?」

「よーし、それでこそオレの舎弟だ!! で、どうすんだよ!」

 

 この土壇場で何か思いついたらしい。

 今の状況をどうにかする可能性があるなら、オレは何でもやる。

 オレに着いて来てくれたライズとオレたちを助けてくれたゾンゲのことを信じる。

 そう強く決めているとライズは続ける。

 

「マッチはルバンダの相手をして引き付けてくれ。とどめを刺すよりも俺たちから注意を外すように」

「あぁ、任せろ」

「で、ゾンゲ様なんだけど……」

「ま、まあオレならどんな役割だろうとVRゲームで予習したから余裕だぜ! どんと来やがれ!」

 

 声と足を震わせながら強がるゾンゲにライズは呆れたような笑みを浮かべて告げた。

 

 

 

「お前はひたすら屁だけこいてろ」

「お前、オレをなんだと思ってやがる!!」

 

 あまりにもあんまりな内容にこの時だけは怒るゾンゲに同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 三人で作戦会議を終え、それぞれの役割を頭に入れた後にルバンダを探し回った。

 正確には奴に見つけてもらうために徘徊していた。

 この靄がある限り、こっちがルバンダを捕捉するのは不可能だから、おびき寄せるって寸法だ。

 

 そもそも、今回の作戦はまず、奴にとって有利な今の状況を崩すことが重要だ。

 

 そのために今回のオレは引付役となるんだが、正直言って不安しかない。

 何せ、作戦内容があまりにもふざけているからだ。

 最初に聞いたときは正気を疑ったが、奴らも割とまじめだったから絶句した。

 

 ただ、考えても他に方法もないからあいつらを信用してオレは役割に徹する。

 

 内心で愚痴を吐きながら気配に集中していると、不意に感じた。

 

 

 身体から冷や汗が溢れる。

 強者から静かなる殺気を向けられる感覚。

 目で、気配で、音で周りを探っても靄で霞みがかった景色しかない。

 

 いつ、どこから出てくるか分からない姿なき敵の前で探るのを辞めた。

 その代わり、完全な受けの体勢に入る。

 どこから襲われても対応できるように構える。

 

 周りから音が消え、自分にだけ向けられる殺気だけが存在する。

 

 足音が周りから聞こえる。

 

 影が靄の中で複数体蠢く。

 

 

 

 一筋の風が吹いた。

 

「スプーンシールド!」

 

 その瞬間、息をひそめていたライズがオレの背後に巨大スプーンを構えた。

 直後、ルバンダの牙がスプーンによって防がれた。

 

 ここまではライズの展開通りだ。

 今のオレの実力じゃあ騙し討ちに長けたルバンダの一撃を防ぐのは実質無理だった。

 だから、ライズは姿を隠してオレの死角を見張っていたのだ。

 

 途中でライズが見つかる恐れもあったが、そこはライズの料理で条件をクリアした。

 最初にライズが敵を引き付ける目的で作った料理をオレがあらかじめ食っていた。

 その結果、奴はオレに意識が集中し、気配を隠しきったライズを探ることを失念させたのだ。

 

「よし、任せろ!」

「じゃあ少し耐えてくれ!」

 

 それと同時にルバンダが噛みついていたスプーンが簡単に砕け散った。

 それも予定通り、間髪入れずにオレは刀を奴の頭部に振るい、ライズは再び姿と気配を消す。

 普通ならライズを追いかけるだろうが、ライズの料理のおかげでオレに奴の意識がくぎ付けになっている。

 

 刀を牙で阻まれ、奴に強引に地面に抑え込まれた。

 

「うぐっ!」

 

 背中を強打され、肺の空気を吐き出されるが、痛みをこらえてルバンダとの力比べに集中する。

 抑えられているオレは押しつぶされるように追い詰められていく。

 追い詰められるオレと対照的にルバンダの顔が愉悦に浸ったような笑みになっていく。

 顔が人面である分、奴の心情がよく分かる。

 

 ――コアアアァァァ……

 

 これで終わりだ、そう言わんばかりに高らかに鳴く。

 勝利の雄たけびを上げて奴の牙がオレの身体に触れる寸前のところまで近付き――

 

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁ!?」

 ――ゴアッ!?

 

 靄から飛び出してきたゾンゲがルバンダの顔面に飛びついた。

 突然のことに混乱したルバンダは驚きにオレからのけ反って離れた。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁ! こいつキモいよおおおぉぉぉ!」

 

 顔面にしがみついたゾンゲは恐怖のあまり泣き喚いていると、オレにまで届くほどの悪臭を身体から発していた。

 思わず鼻を塞いでも表情が歪むが、それを眼前に食らったルバンダの反応はもっと顕著だった。

 

 ――ゴエエェ!? キャアアアアアァァァァァ!!

「ああああぁぁぁぁぁ! 死ぬ、死ぬううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 悪臭に悶えて頭を振ったり身体を転げさせてゾンゲを引き離そうとするが、ゾンゲは泣き言を言いながらしっかり耐えている。

 ボロボロになりながらもしがみついて悪臭を身体から発し続けている。

 

「もう我慢できねえええぇぇぇぇぇ! 早くしてくれえええぇぇぇ!」

「あぁ、もう全部出しちまえ!! スプーンロック!!」

 

 ライズが姿を現し、両手で飛んでいる虫を包んで捕まえるような仕草をすると、それに呼応するように巨大なスプーンが二つ現れた。

 ゾンゲが張り付いているルバンダの両サイドのスプーンがゾンゲ諸共ルバンダを閉じ込めた。

 

「うおおおおぉぉぉ! 数カ月も溜めたオレの必殺技を食らいやがれええぇぇぇぇ!」

 

 スプーンの中でドタドタと暴れる爆音と共にヤケクソなゾンゲの叫び、そのすぐ後にマヌケな音が響いた。

 

 

 

ボッブブブブブ、ブビィ

 

 

 特大級の音が聞こえた後、小気味のいい汚い音が続けてスプーンから響いてきた。

 その後に暴れていた音が次第に静かになっていき、やがては消えていった。

 

「おい……これ、本当に大丈夫か?」

「でなきゃこんな作戦しないっての……とりあえずゾンゲ様を回収するか」

 

 さっきまで必死に暴れていた爆音が静かになったことにオレたちは不安になってゾンゲに声をかけるが、返事がない。

 状況を見たいが、スプーンの拘束を解くのも危険がある。

 

 だが、ゾンゲの安否状況を確かめるためにもやむを得ずライズのスプーンを解除して中身を見る。

 すると、そこには白目を剥いて倒れるゾンゲとルバンダが一緒に倒れていた。

 

「これは、酷い……くっさ!?」

「目と鼻が痛えっ!? どんだけくせえ屁だよこれ……」

 

 スプーン内に凝熟された強烈な匂い……ゾンゲがここに来て数か月間も溜めていた濃縮した屁の威力に戦慄を覚えた。

 ルバンダが至近距離で濃縮された屁を嗅がされたからか、大量の鼻水と涙を流してできた巨大な水たまりの中で気を失っている。

 まさか、ここまで作戦通りの結果になるとは思っていなかった。

 

 

 そもそも話、作戦内容は「ゾンゲの屁でルバンダを弱体化させ、討ち取る」といった内容だった。

 実力的に三人が集まってもまともにやり合って勝てないのは分かっていたからゾンゲの屁……もとい毒ガスが作戦のカギとなった。

 ゾンゲの屁はスカンクのように催涙効果があると聞いていたため、それなりに期待はしていた。

 

 ただ、ゾンゲの屁が予想以上に効果があったのは驚いた。

 少しでも怯ませてくれればいいとくらいにしか思っていなかったが、まさか気絶させられるとは思っていなかった。

 さっきまでオレたちを追い詰めていたルバンダが涙と鼻水の水たまりの中に沈んでいる姿に戦慄すら覚えた。

 

 ルバンダの用心深い性格故にゾンゲに幻術を破られたことでオレたちを警戒し、幻術で弱らせるのでなく確実に殺しに来るだろうと予想したライズの先読み能力と知識量、そして戦えないというハンデを克服するほどの戦闘技術には驚愕させられた。

 

「今回はこいつの屁に救われたな」

「本当は靄を屁で吹っ飛ばす方法もあったけど、実力に任せて直接襲い掛かってきてくれてよかったなホント」

「……大した奴らだよ、お前ら」

「いやぁ、もうこんな分の悪い賭けみたいなことはしたくない……下手したら俺たちが屁で死んでたかもしれないし

 

 ライズがゾンゲを回収しながら何か言ってるようだが、気にしない。

 あいつもこの戦いで思うことがあるのだろう。

 

 この戦いでもし、オレ一人で動いていたら確実に死んでいた。

 ライズが一緒に来ていなければ、ゾンゲがオレたちを見つけていなければ……そう思わずにはいられない。

 

 全て運に救われたようなものだった。

 誰かひとりでも欠けていればこの化物を倒すことはできなかった。

 

 だから、オレはまだ強くならなければならない。

 本当に護りたいものを護れるようになるために。

 

 ――コオォォォ……

 

 大事なことに気付かせてくれたルバンダにほんの少しの感謝を込め、動かなくなり、無防備になった首へ刀を構える。

 

 

 「悪いが……オレたちも生きたいんだ」

 

 

 せめて最期は苦しまないようにと、感謝と敬意を込めて刀を振り下ろした。

 

 




トリコのようにキャラ毎の過去編がほとんどない作品の過去編を安易に書いて自分の首を絞めた作者です。

それでは前書きに書いたようにオリジナル要素を解説していきます。

戦闘味付・盾(バトルテイスト・タンク):自分が戦えないと知った時から生存能力を高めるために開発した料理。食べると防御力が上がるだけの技だったが、調理によっては敵を引き付けることができる。

・スプーンとノッキング:自分が戦えないと分かった時から原作知識を頼りに必死に特訓した。現時点ではスプーンの強度は弱く、大きさもルバンダを閉じ込めるサイズを作るだけで体力のほとんどを持っていかれる。ノッキングは節乃からの教育とイメトレだけでしか練習してないので成功率が低い。

・ゾンゲの屁:本来は催涙ガスのように悪臭によって目と鼻をマヒさせるだけの技。しかし、屁を我慢して匂いの強い食材を食べていれば体の中でガスが熟成され、強力なガスを作ることができる。本人はもちろん、ライズもその性質に気が付いていたため普段から匂いの強い食事を取らされていた。今回は数カ月の熟成によって涙と鼻水を大量に出させるといった副作用を出したのは主人公も誤算だった。そこぞの殺人花を連想したことも含めて恐ろしい技である。

・マッチ:刀を使っているが、原作のような技はまだ使えない。組の中でも若手の部類なので、今回の独断専行は普通に怒られる。



オリジナルで過去話は作者の乏しい文才では無謀だったと自覚させられた一カ月でした。
そろそろ原作に入りたいので、次回から過去話は日記のダイジェストでサッと流していきます。

誤字脱字指摘してくれる方も感想・評価してくれる方にもお礼申し上げます。

それでは、また次回にお会いしましょう。
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