もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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最近、ネルグ街の意気消沈しているスラム民に対するヘイトが思いのほか高くて困惑している作者です。
前書きの場を借りて弁明をさせてください。

まず、ネルグ街の住民があまりにも無気力すぎて読者たちのヘイトを集めまくっていますが、あれは作者が個人的に考えたトリコ世界の社会問題的に考えてます。
トリコ世界は食事や食材が中心に回っている、ある意味歪んだ世界観なので、もしかしたらこういう社会問題がトリコが出てくる前にあったかもしれない、というフィクションとして書いてます。
原作では書かれなかったトリコが台頭する前の世界ということで目を瞑っていただければ幸いです。


気に食わない点や作者の穴だらけな筋書きで申し訳ありませんが、とりあえず、このまま私が考えていた脚本通り進めていこうと思います。
それでも楽しんでくれれば幸いです。



八日目

 〇月〇日

 

 こうやって日記を書くのも久しぶりな気がする。

 見慣れない建物のベッドの上で目覚め、体中に包帯やらギブス、腹には針を縫われた痕もあるのに気づいたばかり。

 起きたばかりで覚醒していない頭で、どうしてこんなことになったかを思い返しても何も思い出せない。

 覚えているとすれば、ルバンダを倒して解体し、食材として持って行き、ネルグ街に戻ってきたあたりまでだ。

 どんなに頑張っても思い出せない、同時に頭痛がひどかったので辛くなって寝た。

 

 この日はそのまま昼から次の朝になるまで寝ていた。

 

 

 〇月〇日

 

 ほぼ一日寝たから疲れは取れたけど身体が固くなって痛い。

 腹には傷があったが、既に塞がりかけており、歩く分にも問題はなさそうだ。

 こういう時、グルメ細胞の恩恵を強く感じる。

 

 そんな時、看護師が様子を見に来てくれたので、今の状況を聞いてみた。

 

 俺が目を覚ましたこの場所はネルグ街から少し離れた病院であり、ルバンダと戦って帰ってきた直後に運ばれたらしい。

 運ばれた当初は腹の傷や全身打撲もあったけど、一番深刻だったのは過労だった。

 腹の傷は運ばれた時点で既に治癒されていたため簡単な処置で済んだが、どういう訳か大量のカロリーを消費しており、オートファジーが起こりかけていた。

 その場は高カロリー点滴でどうにかなったが、体力低下が祟って昏睡状態に陥ったという。

 

 ルバンダ戦から既に一週間は経過したという。

 

 一週間寝るほどの疲労……心当たりは独学で編み出した「スプーン」だった。

 原作知識があった俺は自分が戦えない体質であると知った時からノッキングを始めとした直接戦うことを避けるような技術を模索していた。

 簡単なノッキングは節ばあから教わっていたが、他にも自衛手段が欲しかった俺が行きついたのが珍師範の使っていたスプーンだった。

 

 原作でも出番が少なかったスプーンだったが、食林寺の炎を掬い取り、空を飛び、攻撃を防いだり敵を閉じ込めるといった応用が利く技として魅力的なものだった。

 何より、防御系の技は俺と相性が良かったのかイメトレや実際に猛獣相手に試してみたが、およそ2週間くらいで出せるようになった。

 急ごしらえだったため強度は低く、現実でもルバンダに簡単にかみ砕かれていたのだから珍師範と比べると天と地の差くらいはあるだろう。

 しかもエネルギーを具現化させる技は思いのほか体力を持っていかれるのだ。

 たった一回使うだけで大量のカロリーを消費して身体が重くなるのだ。

 

 今回の戦いでそんなスプーンを3回、しかも最後はルバンダを包めるくらいのを2つ出したためカロリーの消耗度はけた違いだった。

 それが過労の原因だろうと思う。

 

 その他にもマッチやゾンゲも少し検査入院をしていたが、比較的早めに退院しており、総合的に見ると俺が一番重傷だったらしい。

 とりあえず二人が軽傷で済んだことに一安心。

 看護師からはしばらく入院しながら様子を見るのだが、見た感じ治癒も早いため退院も一週間以内にできそうとのことだ。

 グルメヤクザからは検査入院についても許可が出ているため、ゆっくり休めそうだ。

 

 ここ最近、ルバンダの件とは別に働き詰めだったから今回の休暇はありがたい。

 退院後はまた大変そうだからとにかく寝て休むことにした。

 

 

 〇月〇日

 

 病院食にも慣れ、少しずつ体も動かせるようになってきた今日この頃。

 マッチたちが配慮しているからなのか、ネルグ街の情報が入ってこないし、看護師も治療に専念させるということで教えてくれない。

 

 ネルグ街のことも気になるが、体力回復に専念して比較的穏やかに過ごしてきたから色々と考えるようになった。

 

 まず、このトリコ世界は俺が思っていた以上に食材や食事の意味が大きかった。

 原作では特に描かれていなかったが、トリコが台頭して多くのグルメ食材の発見による料理文化の発展……グルメ時代到来以前の時期はまさに混沌としている。

 

 原作ではトリコが6000種の食材を発見したとあるが、言い換えればその前は原作時より6000種も食材が少ないこととなっている。

 今のネルグ街がまさにそれであり、食える食材が限定されている現状では食事にありつける者と食事にありつけられない者との格差があまりに大きい。

 これを世間では「グルメ格差」と呼び、社会問題となっている。

 

 たしかに原作でも人間界がメテオスパイスで荒れた時は犯罪はもちろん、指を失ってでも生の食材を食べたいという食欲が狂気的に描かれていた。

 もちろん、今はそこまで酷くはないが、食材の有無で不登校の子供が学校に行くようになったりするような世界だった。

 つまるところ、この世界を実質支配しているのは主人公(トリコ)ではなく食材、料理なのだ。

 

 だからこそ、今のネルグ街の有様の原因は貧困や周囲から受ける差別や敵意、そしてまともな食事を食べられないことによる絶望なのかもしれない。

 そうなると、俺にできることは何なのかと考える。

 

 俺が住んでいた所では料理は日々の生活を潤すための、いわば人生のスパイス程度のものだったからこの世界の人間と根本的な価値観が合ってないのかもしれない。

 生まれ故郷を変えて静かに過ごすにしても、人々の生活に欠かせない「食事」の習慣がある限り不安や絶望も一生付いて回る。

 

 俺がここに来た意味は何なのか……この自己問答は疲れて寝るまで続いた。

 

 〇月〇日

 

 この日はマッチが来た。

 ようやく見舞いも可能になり、来てくれたのだと言う。

 

 見舞いの品を持って来ながら俺の回復を喜んでくれた。

 かくいう俺もマッチには色々と無茶を言ったから、特に大きい怪我もなく絆創膏と包帯だけで処置が済んでいるマッチに一息ついた。

 

 そこで、入院中はついぞ教えてもらえなかったネルグ街の現状を聞いてみた。

 マッチはかなり驚いた表情をし、「覚えてねえのか……じゃああれは……」と意味深に思案した後、教えてくれた。

 

 まず、軽い話題からということでゾンゲと和解したことから始まった。

 

 あの後、色々あったらしく、マッチとゾンゲは先に、両者で和解し、今では互いに組手するくらいに関係も進展している。

 やっぱり、極限の状況下で協力したのが大きかったらしい。

 水と油のように思えた二人が仲良くなったのはいいニュースだった。

 

 なんやかんやあったけど、あそこまでタイミングよく助けに来てくれたときは感動しちゃったね。

 危機一髪だったのも、やっぱり食運だったのだろう。

 

 改めてゾンゲの絶大な食運に救われたと感謝している中、マッチが微かに震えていた。

 どうしたのかと聞こうとした時、マッチは勢いよくオレの両手を強くつかんでこう言った。

 

 

 

 

「突然のことだが、驚かないで聞いてほしい」

 

 

「つい最近、過激派との抗争がついに終息に向かおうとしている」

 

 

「街の皆も少しずつではあるが、前を向くようになり始めてきたんだ」

 

 

「それもこれも全部、お前の料理のおかげだ。お前の料理が、皆を変えてくれた」

 

 

「ありがとう、それ以上の言葉が見つからない」

 

 

 言いたいこと言った後、すっきりした顔で早歩きで「じゃあな」と言いながら病室を出て行った。

 多分、柄にもないこと言って恥ずかしくなったのだろう。

 マッチにもああいう面があるとは驚いた。

 

 うんうん、と友人の新たな一面を感慨深く思い出しながらベッドに横になる。

 

 で、何の話してたんマジで?

 

 

 

 

 

 

 

 ネルグ街から少し離れた場所で一人の男が酒を瓶ごと一口で飲み干し、心地よい酔いに身を任せている。

 白髪のリーゼントが目立つ老人は新しい酒を開ける。

 酔いで震える手で電話をかけ、最近、目の当たりにした「奇跡」を伝える。

 

 

「セっちゃんが目ぇ付けてる子、見てきたよぉ」

 

「猛獣相手に瀕死な状態で意識も朦朧とし、今にも死にかけていた」

 

 

「それでも彼は包丁を握り、始まっていた抗争も関係ないとばかりに料理を始めた時……ワシはたまげたよ」

 

 

「彼の料理は食欲を……魂を震わせた」

 

 

「絶望に染まった人々の魂を震わせ」

 

 

 

「ヤクザたちの狂気を料理からほとばしる旨味でねじ伏せた」

 

 

 

「誰もかれもが抗争のど真ん中に現れた若き料理人の作った料理に夢中になり、『戦争を止めた』」

 

 

「まるで、どこかで聞いた話だと思わんかのう……あの伝説の食材みたいな、のう……」

 

 

 

 そうとだけ言って電話を切り、サマーウイスキーを瓶で飲み、つまみを食った。

 

「セっちゃんがワシに護衛を依頼したのも、ようやく腑に落ちたわい」

 

 その視線は未だ顔を合わせたことのない、偉業を成し遂げた料理人へと向けられる。

 

「料理人としての矜持か、ライズ君自身の意地か、それとも一瞬だけ出てきたグルメ細胞(・・・・・)の意思、はたまたそれら全てに突き動かされたか……どちらにせよ面白い子じゃ」

 

 ノッキングマスターと呼ばれるようになってから長い時間が過ぎた。

 輝かしい過去を振り返りながら、酒を天に掲げる。

 

「ほんのコンマ数秒だけ、世界が歓喜した」

 

 それはまるで、新たな時代を作るだろう次の世代を祝福する乾杯のように。

 

 

 

 

 

 

 

 場所が変わり、隣国ジダル王国

 ライズがルバンダと戦い、搬送される少し前のこと。

 

 そこに、世界に起きた小さな変化を感じ取った者がいた。

 

 その者は厨房で調理していた。

 かつて、神の料理人に使用されていた包丁を振るい、不意に手を止めた。

 

 

「ほう」

 

 料理中に手を止める……料理人にとって致命的なミスとも取れる行動に料理人は不思議と自分の失態を恥じることはしなかった。

 調理していた料理が一瞬だけ輝きを見せ、一瞬だけ聞こえた「食材の声」がいつもと違うことに興味を示す。

 この場の、否、世界の食材が震え、「誰か」を祝福した。

 

「世界中の食材が「祝福の声」を上げた……シンクロニシティですか」

 

 今すぐにでも確かめに行こうか……食材の祝福の声が最初に聞こえてきた場所の元へ目を向ける。

 食材の声を辿り、真相を確かめようか……そう思うも、この場は静観を決める。

 

「今はやることがある……しばらくは食運の赴くままに任せてみましょう。それに……

 

 

 焦らずとも、食運がいずれ私たちを引き合わせるでしょう」

 

 男は再び調理作業に戻る。

 食の理想郷へ赴くための準備に比べれば全ては些事に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 時同じくしてグルメ界で「彼ら」はいち早く察知した。

 

 常に群雄割拠のグルメ界の頂点に君臨する八種類の王たちは意図せずして「同じ方向」を見据えた。

 それは、今まで直面してきた生物絶滅の危機とはまるで違う。

 

 地球上の生命――己を含めた全ての命が僅かに歓喜した(・・・・)

 

 この世に生まれてきてから王として君臨し、各大陸を支配してきた王たちに去来した刹那の間の「安らぎ」

 その時間は0.01秒にすら満たない一瞬の出来事だけでしかなく、わずかな安息の時間に浸ることはなかった。

 

 しかし、八王は理解した。

 

 今、この瞬間に、大いなる者が生まれたのだと。




ここまで長かったですが、あと3話ほどで原作に突入予定です。
それまでは早めに書いていきたいと思っています。


実は今回の演出のためにネルグ街の人たちをあそこまで無気力にしていました。
それが思いのほかヘイトを集めていたのは、ある意味では成功だったのかと感じました。
とりあえず大筋は変えずにこのまま進めていきますので生暖かく見守ってください。

返信が難しいですが、感想や評価も引き続きお願いします。
それと、誤字脱字の指摘もありがとうございます。
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