もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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今回は1時間毎に3話連投です。


九日目

 〇月〇日

 マッチによる爆弾投入により混乱に陥った日から数日が経った。

 既に怪我が全快し、体力も回復している。

 

 既に医者からは退院の許可を頂き、問題のネルグ街へ真っ先に向かう。

 どんなに思い出そうとしても全然思い出せないため、入院中はずっと気になっていた。

 俺の知るネルグ街のスラム民は生きる気力も何もない、失礼を承知でいうが、生きる屍のようなものだった。

 

 それが前向きになり、敵対していた過激派ヤクザとの和解の話すら出てきたという。

 

 な、何が起こったんだ? 意味が分からんぞ!?

 

 入院中にも思ったけど、はっきり言って俺じゃあその問題はどうにもならないとさえ思うようになってきたというのに。

 というよりルバンダ戦後の死にかけのオレがどうも、鬼気迫る表情で料理を作り、その料理を食った奴らが泣き出したという。

 

 マッチから聞いた客観的な説明だけでは要領を得ないため、とりあえずネルグ街に行こう。

 行けば何か思い出すかもしれない。

 

 

 

 ネルグ街に到着したとき、俺は愕然とした。

 道路に溢れていたスラム民の大人、子供関係なく支給された食事を笑顔で食べていた。

 何を食べても死んでるかのように何も言わなかったスラム民が、だ。

 

 実際に現場に行けば何か分かるかも、そう思っていたが逆に余計に分からなくなった。

 料理もグルメヤクザが簡単に調理した料理を配膳し、スラム民に配っている光景全てに生気が宿っていた。

 夢を見ているかのように呆然としていると、一人のスラム民が俺を見つけると駆け寄ってくる。

 

 大声で俺の名を呼ぶものだからスラム民全員が俺の存在に気付き、全員が集まってくる。

 何故か俺を囲むと退院祝い、そして食への喜びを目覚めさせてくれたことに礼を言ってくる。

 ルバンダと戦う前では到底考えられない光景に固まっていると、そこへゾンゲが割って入って来た。

 

「オレ様のコンビに何してんだー!」と叫ぶと民衆たちは見事な連携で散っていった。

「毒ガス撒かれるぞー!」「臭いー!」と逃げていく民衆にゾンゲは「なんだとコノヤロー!」と突っ込んでいた。

 

 そこには失意に満ちていたスラム民に憤りを見せていた姿などなかった。

 冗談とユーモアを交えるくらいに気を許し、住民からも一目置かれ、互いに認め合う姿があった。

 君らそんなに仲が進展したの?

 

 マッチの言う通り、状況は良くなっているが、普通に怖い!

 オレだけ別の世界に飛ばされたんじゃないかと言うくらいに状況が変わってて怖い!

 

 とりあえずゾンゲに声をかける。

 その時に一瞬だけ気まずそうにしていたが、少し迷ったように視線を右往左往させて小さく「悪かった」と一言。

 一瞬だけ何事かと思ったが、すぐに理解できた。

 ルバンダ戦で普通に共闘したが、あの時は絶賛絶交中だったな。

 

 今となっては状況もよくなったからいい機会と言うことで謝ってくれたのだろう。

 オレとしても曲がりにもコンビとして嫌な思いさせたということも自覚していたため、オレも謝ってこの場は解決した。

 

 最大の懸念が解決したところでゾンゲに聞いてみた。

 何がどうなったら、死人同然のスラム民がああなったのかと。

 そう聞いてみると、ゾンゲの頭おかしい奴を見るような顔で「はぁ?」と言われたので腹が立った。

 

 そこから詳しい話を聞くと、ルバンダ戦が終わった後の状況はこうだった。

 

 

 

 

 ・ルバンダ倒して帰ってきたらヤクザ同士の抗争が始まっていた。

 

 ・それを見て血まみれの俺が遂にキれた。

 

 ・キれて料理を作った後、抗争中のヤクザたちの真ん中に立って「俺の飯を食えー」と大激怒

 

 ・料理の匂いを嗅いだ瞬間、頭を殴られたかのような強烈な旨味に全員が手を止めた。

 

 ・食欲に抗えないその場の全員が用意された食事を食べると急に泣き出した。

 

 ・抗争が終了した。

 

 

 

 う~ん、何だこれ。

 まとめてみても全く状況が分からない。

 分からないが、そういえば確かに俺もキれたな。

 

 俺たちが死にかけてルバンダ倒してきたというのに、そんな事情も無視して抗争する両者に俺はウンザリしていたのだ。

 今までは我慢していたが、死にかけていたということで俺の理性は容易く本能的な怒りに呑まれたんだっけか。

 

 そうだ、その後に料理を作らなきゃならないという謎の使命感が湧いてきて、厨房に立ったんだっけ。

 

 

 そう、あの時、俺は確かに感じていた。

 自分の命が消える瀬戸際の中、俺の命が死に抗おうと強く、輝きを増していた。

 自分の命を強く感じると同時に、他人の命も感じていた。

 

 

 

 殺し合うヤクザたちの命

 

 絶望に沈み、死を待つ絶望した命

 

 血濡れになって意識を失っても調理を止めない俺を必死に止めるマッチとゾンゲの命

 

 

 遠くから静かにこちらを見守るひと際大きく強く感じる命

 

 

 もっと輝きたい、と訴えかけてくる食材の命を感じていた。

  

 あぁ、そうだ、確か、朦朧とする意識の中でスープを作って鍋をかき混ぜている中、こう思ってたんだっけ。

 

 

 

 

 腹立たしい、あぁ、腹立たしい。

 

 なぜ、誰も俺の料理を食っても満足しない?

 

 満たされない、絶望しかしてない?

 

 そうやって一生腐ってるつもりか?

 

 人に飯恵んでもらって、全てを恐れて感情すらも捨てて何が楽しい?

 

 俺の飯よりただ暴れてたいだけなのか?

 

 くそ、くそ、くそっ!

 

 今まで我慢してきた、全ては自分のためだと信じて。

 

 もうこうなったらどうでもいい、俺は好きにやらせてもらう。

 

 どうせ死にたいって思ってるなら、その命、俺の好きにさせてもらう。

 

 

 

 謎の使命感、否、反骨精神が俺を突き動かした。

 血を流したためにマグマのように燃える心とは裏腹に頭の中は余計な情報が抜けてクリアとなる。

 学んだ覚えのない料理術が頭の中に溢れてきた。

 

 

 食材の質、味付けなど関係ない。

 

 

 命を、この世の魂を震わせる料理に必要なのは神羅万象の命を感じること。

 

 今起きているヤクザたちの狂気や絶望を、「旨味」で捻じ伏せる。

 

 圧倒的な「旨味」で、命を震わせろ。

 

 

 

 

 確かに俺はそう思っていたのだ。

 俺ではない、誰かの意思が入り込んだかのように

 

 

 ◆◇◆

 

 生まれた時から自分たちは社会の底辺でしかなかった。

 そう思っていた。

 

 その現場に居合わせていた当時のストリートチルドレン───ラムは後にこう語る。

 

「あの時のオレは人生で一番腐っていた。自分は不幸で、負け犬で、時代(グルメ)にありつけない負け犬だって」

 

「当時のマッチさんやゾンゲさん……ライズさんには迷惑かけたし、今でもあんな態度を取り続けていたことが恥ずかしくて仕方ねえ」

 

「だけど、あの日、過激派のヤクザたちが攻めてきてヤクザもカタギも関係ないほどに抗争は激しかった」

 

「あぁ、オレたちはやっぱりクズだったんだ。ここで死ぬしかない、美味いもの食っても満足できない、グルメ時代の残飯だって思っていた」

 

「そんな時だったよ、銃弾飛び交う抗争のど真ん中に一人の料理人が飯を持ってきた」

 

 

 今でも思い出す。

 血でエプロンやコック帽を紅く染め、全身ボロボロで目の焦点もあってない。

 足元に原始人のような風貌のコンビが縋り付いているが、よほど力が強いのか引きずられている。

 

 今にも倒れそうな料理人は臆せず戦場の中に立ち、数多の銃弾に襲われる。

 体を穴だらけにされて撃ち抜かれる、その予想は裏切られた。

 

 避けるすき間すら埋め尽くすほどの銃弾は何故かその料理人たちはおろか、手に持っている料理にすら一発も当たらなかった。

 

「今でもありえねえと思うさ。だが、確かに当たらなかった。ライズさんたちが避けたでもなく、弾が外れたわけでもねえ」

 

 

「まるで、目に見えねえ何かに護られたって感じだった」

 

「そんな危機的状況の中でもライズさんは、クローシュだっけ? その蓋を開けて料理を戦場の中で披露した」

 

 

「その瞬間、世界が光に満ちたかのように眩しく感じたんだ」

 

「あれは夢でも、幻でもないと確信していた。当時は気にしてなかったけど、ライズさんの料理を見た……いや、匂いを嗅いだ瞬間に全員の手が止まった」

 

「一人の料理人が作った料理で、殺し合いが止まったんだ」

 

「特別なメニューでも食材でもない、いつもオレたちに食わせてくれたいつものスープだった」

 

 

「匂いだけで涎が止まらなくなってた。皆が澱んだ目を輝かせて、そのスープに釘付けになった」

 

「その後、マッチさんが大鍋に入ったスープを持ってきて配膳してくれたんだ。マッチさんもあの状況で何で飯を配ろうとしたのか分からねえんだと。面白いだろ?」

 

「敵味方、老若男女問わず皆が武器を捨て、スープとスプーンを手にして一口すすった」

 

 

 

 

「美味かったよ。味とかそんなんじゃない、この時初めて、胸の中の何かが満ちた気がしたんだ」

 

「美味かった……あぁ、本当に美味かったんだ。いつも食べさせてもらっていた味だったけど、何故かこの時はより一層美味しく感じたんだ……泣けるくらいに、美味かったんだ……っ!!」

 

 

 

 

「悪い、見苦しい所を見せた……その後は、そうだな、気が付けばスープを飲んだ皆が泣いていた」

 

「それからだ。胸の中のつかえが取れて、腐ってる場合じゃないって思うようになったのは」

 

 

「そこから皆も変わっていったよ。あのスープを飲んだ連中の目は生き返り、活気に溢れるようになった」

 

「オレは情熱のままに突き進んでいたら、いつのまにかグルメヤクザだ」

 

「人生って何があるのか分からねえな。料理一つで人はここまで変わっちまうんだから」

 

「戦争を止めた食材の王様……そんなおとぎ話より、ライズさんの料理の方がよっぽど夢があると思うけどな」

 

 

 

 遠い過去の日、時代の闇に埋もれ、不貞腐れていた少年はもういない。

 

 食事にありつけないという絶望を打ち消したのは、結局のところ、食事だったのだ。

 

 そして、この事実は一部の者たちしか知らない。

 

 

 死にかけの料理人が料理を衆目に披露したその瞬間

 

 

 

 世界の食材がほんの一瞬だけ歓喜したことに。




最後のラムのシーンはバキのインタビューシーンをモデルにしました。
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