もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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下積み時代これで最後です!
次回以降から原作突入と食事シーンを積極的に入れていく予定です!


十日目

 〇月〇日

 

 あれから俺は自分の力について考えた。

 断片的に自分が何を想い、どんな気持ちで料理をしていたかは思い出し、考えた末に思いつくことがあった。

 

 自分が自分でないとなると、グルメ細胞が顔を出した可能性がある。

 

 はっきり言って何の確信も無いし、証拠もない。

 唯一の証拠と言えるスープは既に全部飲まれて残っていないから確かめようもない。

 あれから何回も何回も同じスープを作ってみても、その時の「奇跡のスープ」が作り出せない。

 

 ちなみに、奇跡のスープとは俺が無意識的に作り、抗争を止めた物としてスラム民からそう呼ばれている。

 

 スラム民やその場に居合わせていたグルメヤクザたちから当時の話を聞いても再現できなきゃどうしようもない。

 

 やっぱり原作でやっていたフローゼみたいな料理術が無ければ無理なのだろう。

 

 くそ~、口惜しい。

 その時のことをもう少しはっきり覚えてさえいれば再現できたかもしれない。

 俺の細胞は、ありとあらゆる記憶の保管、そして学習して再現することに長けているのだから。

 

 今日まで料理を繰り返し、何万回も料理の出来を味見してきていれば自分のことも分かってくる。

 舌が肥えてくると同時に味覚も洗練され、嗅覚もトリコほどではないが食材の熟成具合も何となく分かってきた程度だ。

 ここでの経験は料理人としての成長を加速させてくれた。

 

 そして何より、大きく変わったのはスラム民だ。

 

 老若男女問わず食事をし、腹を満たして心も満たされる。

 そして「美味かった」と言葉で、仕草で、表情で表現してくれるのだから作りがいが出てきた。

 

 その様子に何故か上機嫌になって威張るゾンゲの姿などつい最近の光景からすれば想像もつかない。

 

 それに、マッチ曰く一緒に奇跡のスープを飲んだ過激派のヤクザたちも今でこそリュウさんが帰って来て大人しく監視下に置かれている状況である。

 云わば捕虜の状態だ。

 

 もちろん、捕虜に飯を食わせないのは不味いので飯を食わすのだが、何も言わなくても料理をガツガツ食ってくれる姿は見ていてやりがいを感じる。

 

 こうしてみると、とことんこの世界が「トリコ」なんだと実感させられる。

 

 何が言いたいかと言うと、この世界は結局食材、料理を中心に回っているということ。

 社会問題だろうが絶望だろうが、大概のことは料理で何とかなってしまうのだ。

 

 〇月〇日

 

 数カ月も続いたネルグ街での人道支援も遂に終わりが見えてきた。

 節ばあが迎えに来た。

 

 突然のこと、とは言わない。

 節ばあのことだからどこかで監視してるんじゃないかと思っていた。

 そして、ゾンゲと並んで対面すると、「良い目になったの」と一言。

 

 そこから節ばあが俺たちをネルグ街へ送った意図を教えてくれた。

 

 曰く、グルメ時代の闇というのを見せた上で、料理人としてやっていくかどうか確かめたかったのだという。

 今や食事、料理が中心となっている現代で料理人を目指すものは少なくない。

 美食屋もそうだが、まさに料理人飽和時代ともいえる。

 

 そんな中で様々な理由で挫折する料理人は星の数ほどいる。

 大成できず、一獲千金の夢を捨てて平凡な料理人になるのならそれでもいい。

 

 だが、俺には図らずも料理人として最高峰の才能が有るらしい。

 このまま順調に研鑽し、成長していくのなら料理人上位ランカーになるのも決して夢ではないとのこと。

 だからこそ、その料理の腕が悪しき道へ進むのか、人々の希望となるのか確かめる必要があったのだとか。

 

 素晴らしい才能だからこそ、盲目的にすべてを教えることは危険なのだ、と。

 たとえ挫折させることになっても、間違った道へ進ませないために必要だったのだと。

 節ばあが村に来た初日にいきなり上の世界を見せて挫折させると危惧した時とは事情が違う、と付け加えて。

 

 それはゾンゲにも言えることであり、ゾンゲの食運やグルメ細胞の力は節ばあから見ても非常に強力らしい。

 美食屋として人々と食を分かち合えるのか、試したかったのだとか。

 

 

 それを最後まで聞いた俺たちは「苦労をかけさせてすまんかった」と静かに頭を下げる節ばあの姿にため息を吐いた。

 まさかの節ばあからのお詫びに先に反応したのはゾンゲだった。

 

 珍しく謝ってきた節ばあに「気味悪いから止めろ」と憎まれ口叩きながらも胸に抱いていた心情を初めて吐露した。

 

 最初はスラム民に対していい感情を持っていなかった。

 俺たちが用意した食材や食事に反応も見せず、死んだような顔を見るたびに気が滅入ったのだと。

 特に、自他ともに認める俺の料理を食っても何も思わないことが一番悔しかったのだと。

 だからこそ、俺が最後の最後に料理で皆が変わったことが一番スカっとしたらしい。

 

 そこから、今までは自分さえ美味いもの食えればそれでよかったと思っていた。

 だけど、コンビの俺が認められ、俺が立ち直らせた皆の元気になった姿を見て心が軽くなったと感じたのだと。

 そして、見たくなったのだ……泣く子も笑わせる、命を震わせるフルコースを作りたくなったのだと。

 湿気た顔を漏れなく笑わせてやる……それがゾンゲの夢となった。

 

 それを聞いたとき、ある意味でゾンゲらしいと思った。

 こいつは楽観的でお調子者であるのだが、その性格故に人の悲劇や絶望など受け入れられる性格じゃない。

 何気に泣く子や困っている人に対して悪態吐きながら手を貸す場面をよく目にしたことがあった。

 お調子者故に悪人になれないお人好し……原作では見られなかったゾンゲの本質だ。

 

 いや、だからこそ強大な食運が備わったのだろう……今となってはそう思う。

 

 

 そして、コンビがここまで漢見せたのだから、俺も語らなければ不作法と言うもの。

 

 俺も最初はスラム民のことを料理のステップアップとしてしか見てなかった。

 何が何でもスラム民を認めさせることしか考えずに周りを巻き込み、人のことも考えなかった。

 事実、俺だって本当はスラム民に対しては内心で腹が立っていた。

 苦労して作った料理に感謝もされず、何も変えられないのだと現実を見せられたような気がしたから。

 

 でも、そんな失意の底に沈んだスラム民が今では美味い、美味いと料理の感想まで言ってくれるのだ。

 自分には覚えなんてないけど、俺の料理がスラム民の心の支えになったのだとマッチたちから認められた時、報われた気がした。

 皆を感動させられたのは俺の実力じゃないかもしれない、偶然起きた食運かもしれないし、グルメ細胞の気まぐれかもしれない。

 

 でも、俺の手で作ったものだから俺の意思で、技術で再び作れる可能性は0じゃない。

 そして、作ってみたくなった。

 皆の不安や絶望、憎悪をぶっ殺す旨味を……幸せの料理を

 

 思いの丈を全て言い切った時、節ばあは呆然とした後、爆笑した。

 今まで見たこともない姿に俺たちは面を食らうも、すぐにいつもの様子に戻る。

 

 数日後、戻ったら修行はより一層厳しくする。

 

 

 その前に、英気を養うために料理を作り、存分に堪能するがええ。

 

 皆と一緒に。

 

 その言葉の真意を正しく受け取った俺たちは顔を見合わせ、何も言わず同時にネルグ街へと飛び出す。

 

 

 これから宴会の準備だ。

 

 

 

 〇月〇日

 

 マッチたちグルメヤクザたちの手を借り、俺たちの給仕期間の終了と送別会を兼ねた宴会をネルグ街で開いた。

 夜中にも関わらず、ほとんどの人たちが集まり、用意された食事に舌鼓を打つ。

 

 俺たちにストリートチルドレンやスラム民が集まってきた。

 

 美味しいもの作ってくれてありがとう。

 

 あんなに美味しいスープは初めてだった。

 

 世の中にはあんなに美味しいものがあるって初めて知った。

 

 食事の喜びを、「美味しい」を教えてくれてありがとう。

 

 

 

 そんな温かい言葉に俺は耐えたが、ゾンゲは我慢できずに泣き出した。

「うるせえ! お前ら全員大好きだよバカヤロー!!」などと言いながら興奮して体臭をまき散らしていた。

 

 人々に揉まれていると、グルメヤクザの面々やリュウさん、それにマッチが集まって来て全員から肩組まれたり酒飲めともみくちゃに絡まれた。

 マッチとはゾンゲも交えてバッカ酒で友情の杯を酌み交わした。

 

 酒を飲みながら、星空を眺めながらふと思った。

 ここに来た当初はこんな宴会ができるなんて夢にも思っていなかった。

 

 こうして皆で食事を楽しむまでの道は遠く、厳しいものだった。

 

 紆余曲折はあったものの、ここで俺たちは大切なことを学んだ。

 料理を口にして笑顔になる人たちを見ると可笑しくてたまらない。

 この気持ちも、ここで教わったことだ。

 

 料理は愛情……基本にして真理をネルグ街が教えてくれた。

 

 だから、ここはトリコに倣ってあえてこの言葉を送る。

 

 ありがとう、さようなら、ネルグ街……街のみんな

 

 この日の宴会は朝日が昇るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 ネルグ街に別れを告げ、リムジンクラゲで帰郷中のライズは肩を震わせていた。

 別れに悲しんでいるわけではない、その答えは彼の見ている紙に書かれた内容にあった。

 

「……」

「なんじゃ? 街の人たちとの別れが今になって悲しくなったんかぇ?」

「……何すか? これ」

「? 今後の修行内容じゃけど、それがどうしたかの?」

「……グルメタウンの全店舗踏破と猛獣の知識を深める、その他一般教養、気候化学などの専門知識や身を護るための戦闘を見据えた狩りは分かるんすよ……美食屋とのコンビとして必要だと分かるんすよ? でもさ、この講師たちがどこかで聞いたことのあるような人ばっかなんだけど……」

「あぁ、それな。お主のことを知り合いに話したら興味持った連中が実力を見たいと言い出しての。覚えもいいことじゃし、OKしといたじょ」

「何故ぇ!? 特にこのノッキングマスターとか絶対に扱きキツそうなんだけど!?」

「そりゃジロちゃんの時間を使うんじゃ。生半可な教え方するはずがないじゃろうて。もちろん、あたしゃも同じじゃよ。ここにきて弟子を取るとは思わなんだ……ふふ、本格的な修行じゃからの、血が滾るわい」

「ふええぇぇぇぇ……老人がしていい顔じゃない……」

「その他にもあたしゃのコネを使って経験できることは何でもさせていくつもりじゃ……ここまで講師に恵まれた料理人はそういないじょ。これも食運の成せる業じゃの。うっふっふ……」

 

 本当に楽しそうに笑う節乃(恐ろしい妖怪)を前に、呑気に寝転がるゾンゲを尻目にライズは身体を震わせる。

 覚悟はしていた、だが、これから起こる修行(地獄すら生ぬるい拷問)にさっきまでの晴れ晴れとした気持ちは見事に打ち砕かれた。

 スラムに放り込まれ、猛獣との戦いで死にかけ、抗争のど真ん中で自殺紛いの料理を披露させられ、ライズの精神は疲労の絶頂を迎えていた。

 

 ライズとゾンゲ二人分の食運の爆弾コンビの引き寄せた縁が彼ら二人を地獄へといざなうのだった。

 

「もう食運なんてコリゴリだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




1時間後の本日最後の投降をします。

次回から原作突入です。
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