ゲームのイベント目白押しなのが悪いんや……
ココは焦っていた。
トリコと共にデビル大蛇と死闘を繰り広げ、からくも勝利をもぎ取ったまではいい。
ただ一つ、懸念があるとすれば何者かに連れ去られた小松の安否である。
「急げトリコ!
「でもその間に他の獣に肉取られたらショッキングじゃね?」
「大丈夫だよボクの毒入ってるから!」
小松と出会ってからそう時間は経っていない。
だが、彼が優しい人だと気づくのにそう時間はかからなかった。
そんな彼が危機に瀕している事態に焦燥にかられる。
だが、そんな事態にも関わらず食い気優先のトリコの態度に憤慨する。
そんなココの心情を読み取ってかトリコは余裕を崩さない。
「心配すんな。あいつにはとっておきの兵器を渡しておいた。万が一の時は音で分かる」
「だけど……!」
「それに、覚えのある匂いも出てきたからな」
「……!? この電磁波……誰だ!?」
トリコは嗅覚で、ココは電磁波で遅れて気づいた。
小松の傍に颯爽と現れた第三者の存在に。
トリコは全幅の信頼を込めながら小松の下へ急ぐ。
「頼もしい奴らだ」
「作戦を伝えよう! ゾンゲが奴を引き付け、俺は小松さんを連れて逃げる! ヨシ!!」
「何言ってんだ。ここはお互いの役割を全うしようぜ。大人になれよ。オレ様は小僧を安全な場所に隠すからお前が引き付けろ。タンクとはそういうものだろ?」
「遠慮すんなよ回避タンク」
「いやお前が」
「どうぞどうぞ」
「そっちこそ遠慮なさらず」
「いやいや」
「まあまあ」
「いや、何してるんですかお二人とも!?」
小松は今度こそ本気で終わったと感じた。
デビル大蛇を前にしてお互いにデビル大蛇の相手役を擦り付け合っている姿に思わずツッコんでしまった。
その行動自体、自分を助けるためだとしてもこの絶望的な状況下でふざけないでほしい。
今にもデビル大蛇が睨みを利かせて襲い掛かろうとしているこんな時に小松のSAN値はギリギリだった。
ただ、そんな茶番を猛獣たちが待つ義理などない。
脅威がないと分かるとすぐに腕を伸ばして三人に襲い掛かってきた。
「ぎょわー! こっち来たー!」
「オレのとこに来たー!?」
「よし! 今回は任せた!」
「畜生! 早くしろよ!?」
最初に視界に入ったのだろうか、真っ先にゾンゲが狙われ、ライズは小松を連れて崖の上にまで避難した。
難を逃れた小松は暗い崖の下から聞こえてくるゾンゲの悲鳴を聞いて鬼気迫る表情でライズに迫る。
「ライズさん! ゾンゲさんが! 早く助けなきゃ!」
「とは言うが、この暗さは元より、デビル大蛇相手じゃあ実力的に敵わない。俺が降りたら事態はもっとややこしくなるぞ」
「そんなっ! ボクを助けるために…」
悲嘆に暮れる小松。
自分が捕まりさえしなければ、そう思っているとライズがそれを否定する。
「確かにあいつは戦闘力こそないが、生存能力に関しては誰にも負けねえ。だから今はあいつを信じて俺たちのやるべきことをやるんだ」
「ボクたちのやるべきことって……」
「料理人のできることはいつだって決まってるんだぜ?」
ライズは小松と目を合わせ、笑った。
「飯作ろう」
「……え?」
「ただの飯じゃない、とびっきり美味いものだ」
「えぇ!?」
仲間が襲われている状況で出てくると思っていなかった言葉に小松は驚愕を隠せなかった。
ここでゾンゲの話をしよう。
彼は基本的に斧を使って猛獣を相手にするのだが、悲しいかな、彼に戦闘のセンスがなかった。
故に武器を十全に使うことができず、力押しの戦法が通じるのははるか格下だけだった。
彼はライズほど手先が器用でもなければ頭を巡らせるタイプでもない。
基本は行き当たりばったりで立ち回ることが多い。
ただ、彼には秀でた才能があった。
それは、危険から遠ざかる能力だった。
ゾンゲは基本的に危機察知能力が高く、普段の傲慢ともいえる尊大な態度とは裏腹に自分の力量を弁えている。
無理だと感じたら目標がすぐ傍にまであっても諦められる潔さがある。
それを臆病だと嘲笑う輩が多いのは事実だが、臆病と潔いとは根本的に違う。
事実、嘲笑う連中ほど引き際を誤って犠牲になっていった。
そのゾンゲの根幹にあるのは鋭い危機察知能力と食運だった。
これは本人が知らないことだが、原作を知るライズは考えた。
その
流石にジョアのようにグルメラックを意図的に連発して攻撃を回避するには細胞レベルが低すぎる。
なら、食運を使わざるを得ない状況下に置いたらどうなるか。
そう思っていた矢先、ゾンゲは節乃の伝手で紹介された第0ビオトープ職員の下で修業を付けられた。
もちろん、ライズも一緒に(道連れに引き込まれたわけでは断じてない)修行を行い、教えを会得したが、ゾンゲは修行初日で会得してしまった。
「オレよりボーっとしてる奴初めて見た。ぎゃっはっは! 変な顔だ!」
「自分の顔鏡で見てみろコラァ!」
危機察知能力と食運、そして三途の道にいるグルメ番長さえも驚愕させた「考えなしの才能」を開花させたとき……
何人たりともゾンゲに触れることすらできなくなった。
「……」
ゾンゲは一寸先も見えない闇の中を疾走していた。
光も出口も無ければ安全な逃げ場も見えない、地獄へ通じる道をひたすら突き進む気分である。
そんな中をゾンゲは何も考えず、ただ直感に身を委ねて走り続けた。
さっきまで上げていた悲鳴を上げるのももはや億劫となり、ただ流れに身を任せるだけの感覚が今は心地よかった。
デビル大蛇は目の前の獲物が理解できなかった。
さっきまで悲鳴を上げて逃げまどっていた小さい弱者だと思っていた。
それは間違いない。
デビル大蛇の戦いの経験からして敵の危険度を本能的に察知することは基本であった。
故に、目の前で逃げまどっているゾンゲを叩き潰して食らうなど訳ないはずだった。
しかし、いくら手を尽くしても捕まらない。
毒を四方に飛ばしても、手を複製して増やしてもゾンゲはそれらを苦も無く避けきっていく。
たまに捕らえたと思った瞬間、横から別の獣が邪魔したり、洞窟が崩れて落石に阻まれたりと不運が連続する。
通常ではありえないような不運がデビル大蛇に降りかかり、幸運がゾンゲをデビル大蛇の魔の手から救い出す。
この獲物、何かがおかしい。
まるで、見えない何かがこの弱い生き物を生かしているような気がした。
さっきまではゾンゲを捕まえて食うことしかなかった本能の中に芽生えたわずかな疑念。
戦いの中に生まれた雑念による1秒程度の動きの鈍りを見逃さなかった者がいた。
「
白銀の鹿のような風貌の化け物がデビル大蛇の口の中にスプーンで食事を放り込む。
それがデビル大蛇の意識が闇に沈む直前に見た最後の光景だった。
「おいおい、これは一体どういうことだ?」
「小松くん、ここで一体何が……」
「トリコさーん! ココさーん!」
トリコたちは小松の匂いと電磁波を辿り、たどり着いた。
だが、小松がいたその場で見た光景はトリコたちの予想をはるかに超えていた。
小松は助けに来たトリコたちの姿を見た瞬間に堰を切ったかのように駆け寄ってきた。
小松の無事を二人は安堵しつつも、それ以上に意識が別の方向に向いていた。
「あ、やっぱり来たかトリコ。しばらくぶり」
「よう、また会ったな」
「あぁ、お前等も元気そうじゃねえか。ライズ、ゾンゲ」
「トリコ、彼らとは知り合いか?」
ライズたちと面識のあるトリコは軽快に挨拶を交わす。
変わってライズたちと初対面のココはライズたちのことをトリコに尋ねる。
「ほら、お前ん家で話したろ。会長が偶に話した面白いコンビ」
「あぁ、そんなことも言ってたな。そうか、彼らが例の……」
ココはおぼろげに覚えていた記憶を掘り起こしていると、小松が代わるようにライズたちを紹介する。
「この人たちがボクを助けてくれたんです。彼らがいなかったらボクはきっとデビル大蛇に……」
「そうだったのか。ボクはてっきりノッキングマスター次郎が助けてくれたのだと……」
「「え”!? あのじいさんここにいんの!?」」
「な、なんだよ、嫌そうな顔して……ここに来る途中で出会ったんだが、もう帰ったんじゃねえか? 大漁のフグ鯨を持ってたし」
次郎の名を聞いた瞬間に微妙な顔をするライズとゾンゲにトリコはギョッとするも、フグ鯨を持って出口へ向かったことを聞くと安堵の息を吐いた。
その様子にココは自己紹介も交えて気になっていることを聞いてみた。
「初めまして。ボクはココと言うんだが、君たちがライズとゾンゲのコンビでいいのかな?」
「あ、これはご丁寧に。俺がライズです。四天王ココという有名人に会えるとは運がいいな」
「オレの名を知っているとは見どころあるなお前。そう、オレこそがグルメ時代に輝く希望の星「止めろ初対面の人に恥ずかしい」いてっ!」
大袈裟に名乗るゾンゲの後頭部にゲンコツを入れるライズの姿に苦笑が漏れる。
再びギャーギャー騒ぐ二人が喧嘩し始めると、トリコは呆れ、小松は仲裁に入る。
だが、ココはそんな二人の姿を眩しいものを見るかのように目を細めて見つめる。
(お互いに信頼していることが伝わってくる。ここまで穏やかな電磁波は初めてかもしれない)
かつてココの毒を目当てに多くの人間から追われた経験のあるココにとってライズとゾンゲの電磁波はとても心地よく、優しく見えた。
喧嘩していても、決してその信頼が崩れないという表れでもあった。
ココが二人への評価を上げていると、小松から攫われてからの話を聞いたトリコが二人へ礼を言っていた。
「小松が世話になったな。ありがとよ」
「それはいいんだけどよ。このクラッカーはないんじゃねーの? これ、軽傷でも鼓膜はやられるぞ?」
「うっ……そりゃ火薬は倍にしたし、耳栓持たせるのも忘れてたのは悪かったと思ってるよ」
「たくっ、そんなんでコンビが務まんのかよ。こりゃオレ様が教えてやらねえとなぁ」
「小松とコンビ組んだ覚えはねえよ! 適当なこと言ってんじゃねえ!」
「これ、そんなに危険なものだったんですか!? 何てもの持たせるんですかボクに!」
「それをオレに向けんな!」
ここが危険な場所と思わせないくらいに和やかな雰囲気で楽し気な空気に水を差すのは悪いとは思うが、そうも言ってられない。
それに、ココたちは確認しなければならないことがあった。
「お楽しみのところ悪いけど、ここも危険だ。先に進む前に気になっていることがあるから教えてほしいな」
「? 答えられるなら」
「じゃあ聞くけど、
指さす方向にいたのはデビル大蛇だった。
だが、その様子はトリコたちが交戦したような危険な猛獣としての姿はない。
地面に巨体を横たわらせ、どこか恍惚とした表情を浮かべて幸せそうにヘソ天状態で寝転がっている。
危険な魔獣があられもない姿で寝転がる姿にトリコたちは何とも言えない表情になる。
「あぁ、まぁ、何と言うか、美味いもん食わせたら満足して寝ちゃった、としか言えないわけで……」
「信じられないかもしれませんが、そうとしか言えないとボクも思います。一緒にデビル大蛇用の料理をつくりましたので」
「マジか!? デビル大蛇を手懐けるって、どんな美味え料理なんだ? 食ってみてえ!」
「食わせろって言われても、今回作ったエサはデビル大蛇の味覚に合うように作っただけだから口に合わないだろうな。作るのも事前にかなりの研究が必要だし……依頼じゃなかったらやる気はなかったよ。あのハゲ」
「?」
小さく愚痴を言うライズが最後に何か言ったようだが、よく聞こえなかった。
今のトリコにとって重要なのはフグ鯨だった。
「食えねえなら仕方ねーな。腹も減ったし、先進もうぜ」
「へ? このデビル大蛇、このままでいいんですか?」
「邪魔されなきゃ問題ねえ。別のデビル大蛇から肉も取ったし、こいつを殺す理由はねえな」
「それなら、早くここを離れよう。また別の個体と鉢合わせたら面倒だ」
デビル大蛇との戦闘でトリコとココも体力が減っていることもあり、ココは先を進むように促すと全員が同意した。
その場を離れて先を進むのだった。
「ちゃんとやっとるようで何よりじゃ……得体の知れない奴が近づいてるが、大丈夫じゃろ。弟子たちと仲良くしてくれてることも列車でもらった酒の恩もまた次の機会に取っておくかの」
5人がいなくなった場所の岩陰で巨大な老人が一人、弟子の成長を肴に無毒化したフグ鯨の酒を呷ったことに誰も気づかなかった。
次郎……帰るふりして弟子の戦いを陰から見ていた。弟子たちとの酒盛りのためにトリコたちから原作同様に酒を恵んでもらっている。
ライズ……防御力特化のタンクだが、今回はバッファー担当となった。デビル大蛇に対する入念な研究を重ね、デビル大蛇専用の「桃太郎印の〇びだんご」的なものを作ってデビル大蛇に食の悦びを叩きこんだ。
ゾンゲ……今回のMVP。どこかの番長から直感を習ったことで逃げる時に限り食運をフルに活用する術を身に着けたことでデバッファー兼、究極の回避型タンクとして覚醒した。マンサム、茂松、リッキーとタイマン張られても無傷で逃げ回る程度の戦績。
次回はフグ鯨の捕獲と料理、食事回となります。
お楽しみください!