もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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長らくお待たせしてすいませんでした!
仕事の激化や里帰りで執筆が遅れました!

モチベは下がってないので、完結までマイペースにこれからも書いていきます!
今回は気づけば1万字以上になりました。

いつものことながら、誤字脱字の指摘や添削にはほんっとうに助けられてます!



フグ鯨 後編 お茶漬け

 デビル大蛇を退けた5人は洞窟の砂浜を目指した。

 再びデビル大蛇と遭遇することも覚悟していたが、特に問題なく進んでいくことができた。

 トリコたちから匂うデビル大蛇の血の匂いがデビル大蛇、及びその他の猛獣を遠ざけたのだ。

 

 そんなわけで障害もほとんどなく、トリコたちは目的地へようやく辿り着いた。

 

 「おぉ! ここが洞窟の砂浜か!?」

 「うわ~キレイですね!」

 

 トリコは目当てのフグ鯨が取れる場所に辿り着いたということで。

 小松は幻想的な光景に感動を見せる。

 

 だが、ライズたちは別の意味で感慨にふけっていた。

 

 「いやぁ、あの爺さん無しでも俺たちだけで来れたな」

 「へへ、だから言ったじゃねえか。オレらだけでもやれるって」

 

 修業時代に洞窟の砂浜に連れてこられた時のことを思い返していると、トリコは砂浜に残っている足跡を発見した。

 

 「お、どうやら先客がいるみたいだな」

 「正確にはいた、ってとこだな。これは恐らく……」

 「あぁ、ノッキングマスター次郎だな。さっき出会った時と同じ匂いだ」

 「え、あの人に会ったのか? トリコの方が?」

 「あぁ、小松のもとへ向かう時にな。なんだ、知ってんのか?」

 「まあ、ちょっとな……」

 「?」

 

 トリコとココとの会話にライズがトリコに次郎と出会ったことに驚く。

 原作とは違う展開に思わず会話に入ってしまったが、トリコは普通に答える。

 ただ、ライズが次郎の名に対して親しそうに聞くものだから知り合いなのかと聞いてみると、珍しくゾンゲは言葉を濁す。

 ライズも目を合わせないようにしていて煮え切らない様子にトリコは首を傾げる。

 その様子を察したココは話題を変えることも兼ねて本来の目的を皆に伝える。

 

 「トリコ、とりあえず今はフグ鯨だ。早めに多くの数を確保しておきたい」

 「そうだな。フグ鯨は極めて繊細な魚、毒化させずに捕獲数を稼ぐにはすぐにでも入るしかねえ」

 「それじゃあトリコさん! フグ鯨の捕獲、お願いします!」

 「否! それは自分で捕れ!」

 「そ、そんな……」

 

 善は急げ、そう言わんばかりにトリコは勢いよく上着を脱ぐ。

 小松もどさくさに紛れて捕獲を依頼するが、トリコは勢いよくこれを拒否。

 今の時点では小松は何もしていないため、トリコとしては甘い汁だけ啜らせないようにしているのだろう。

 

 その証拠にライズたちコンビに対しての返答は違った。

 

 「ライズたちは小松を助けてもらったことと、虹の実の件で借りがあるからな。オレが代わりに捕ってきてやる」

 「えぇ!? ライズさんたちだけずるいですよ!」

 「お前は何もしてねえだろうが。苦労せず高級食材にありつけると思うなよ」

 

 まっとうな意見に小松は何も言えなくなってしまうが、ライズは少し考えてトリコの提案を拒否した。

 

 「いや、その借りはまた別の機会にするよ。自分の力で捕まえて、この場で調理して食うまでを自分たちの力でやりたいのさ」

 「オレ様たちにかかれば余裕だぜ」

 「じゃあ、オレ達がとってきたフグ鯨のいくらかは分けるから、料理食わせてくんね?」

 「トリコ、意地汚いぞ」

 

 簡単に言ってのける二人にトリコは「調理」のワードから、前みたいにこの場で料理を作ってくれるのではないかと期待して取引を持ち掛ける。

 流石に他人とコンビを組んでいる料理人に料理を作ってくれとせがむトリコのマナーにココが口をはさむ。

 

 だが、ゾンゲはどう解釈したか知らないが、気をよくして上機嫌になる。

 

 「なんだ、そんなにオレのコンビの料理がいいのか?」

 「気に入った気に入った~、だからオレたちにも恵んでくれよぉゾンゲ様~」

 「そうかそうか、いやぁ、そこまで頼まれちゃあ断るのも気の毒ってもんかもなぁ……」

 

 既にゾンゲの性格を知り尽くしたトリコは分かりやすくおだてる。

 基本的にゾンゲをおだてれば料理にありつけると理解されているほどにゾンゲは分かりやすい。

 おだてるトリコと天狗になるゾンゲとの茶番にココは呆れて眺めていると、ライズは笑いながら答える。

 

 「今日作るものも手間はかからないし、簡単だから構やしないよ。ココも小松さんも食っていきな」

 「いいのかい? かなり図々しいとは思うんだけど」

 「ボクもいいんですか!? 今日はライズさんたちに助けられてばっかりなのに、そこまでしていいただくのは……」

 「大丈夫。ここで四天王に恩を売っておくのもいいと思っただけさ。小松さんについても恩を売れるならこれくらい、安い出費だ」

 

 その言葉にココは薄く微笑んだ。

 ライズとゾンゲの電磁波から、彼ら二人が善人だとすでに把握している。

 合理的な理由を口に出しているが、気を遣っていることくらい電磁波で分かっていた。

 

 ここまでお膳立てされたとあっては、その好意を拒否するのは逆に失礼だと思いなおした。

 

 「それならお言葉に甘えようかな。小松くんも」

 「は、はい! またライズさんの料理が食べられるなんて感激です~!」

 

 ココと小松も食べることを確認し、ライズは未だに調子に乗ってるゾンゲに向き直る。

 

 「いつまでもやってないでフグ鯨捕ってこい! フグ鯨が逃げちまうよ!」

 「焦らなくても逃げねえっつーの。うるせえ奴だな」

 「ライズに作ってもらう分とオレたちが食う分、しめて10匹はいるか?」

 「毒袋除去の成功率は10%だからもう少し多めに捕ってくれ」

 「じゃあボクはライズさんと調理をしてます」

 

 ゾンゲ、トリコ、ココはフグ鯨の捕獲に向かう。

 それとは別にライズと小松は料理の準備と捕獲班と調理班に分かれる。

 

 三人が海に入るのを見届けたライズたちは荷物から調理器具や小瓶に詰めた食材を取り出した。

 

 「わ、すごい。 のり虫や栗ゴマを砕いたものですね? すごくいい食材ばかりだぁ」

 「一目でこれらを見抜くとは。調理っていっても今日は簡単な料理だからやることは少ないけどな。俺たちにとっての本番はフグ鯨の解毒だ」

 「そうですよね……でも、ココさんもそうですけど、ライズさんならフグ鯨の解体ってできたりは……」

 「うん。一応できる。セツ……師匠と爺さんから相当やらされたしな」

 「じゃ、じゃあフグ鯨の解体、見せてもらってもいいですか!?」

 「ふっふっふ。存分に見ていくといい。今日の目的はそれもあるからな」

 「?」

 

 小松は意味深な言葉に首を傾げるも、それ以上にフグ鯨のことが楽しみすぎたので特に言及することはなかった。

 

 

 

 「待たせたな。フグ鯨、捕ってきたぜ!」

 「うわあぁ! こんなに大量のフグ鯨が見れるなんて!」

 

 しばらく経ち、トリコたちはフグ鯨を網に入れて浜に戻ってきた。

 疲労が見られるものの、両足で立っているトリコとココに比べて後から這い上がってきたゾンゲはどざえもんのようだった。

 

 「どざえもん?」

 「必死に取ってきたコンビにかける言葉か!? それが!」

 「冗談だよ。まさか10匹も捕ってこれるとは思ってなかった」

 

 そう言いながらゾンゲの手を取って助け起こしながらゾンゲが持つ網の中にいる10匹のフグ鯨に舌を巻く。

 

 「四天王が二人掛かりで10匹なのは、情けねえな」

 「ボクらと違ってゾンゲは環境に溶け込む技量に優れてるからね。そこで差がついたな」

 

 事実、トリコたちは意図的に気配を消しながらフグ鯨にノッキングしているのだ。

 高度で緻密な技術を水中で、呼吸もせずに行ったのだから、一度くらいは綻んで失敗するのも無理はない。

 事実、数匹はミスして毒化させてしまったのだから。

 

 しかし、今回の狩猟条件はゾンゲに有利に働いた。

 

 ゾンゲは周囲の海水を取り込むことで自身の汗腺から洞窟の砂浜の海水を放出した。

 それによって周囲の環境に溶け込み、フグ鯨にゾンゲを環境の一部として認識させた。

 それに加え、直感のみで動いているため、敵意も雑念も感じさせることなく最適なノッキングを行えたのだ。

 それに食運も働き、毒袋の位置が邪魔にならない個体と、警戒心が比較的弱い個体を無意識的に選んでいたことも大きい。

 事実、正確に難易度の低いフグ鯨を選んでいたことでココに驚愕されていたことを本人は知らない。

 

 唯一、欠点があるとすればトリコたちよりも肺活量を含めた身体能力が低かったため、息継ぎが多くなってしまったことだ。

 

 それでも10匹捕らえた技量を低いと思う輩はこの場にはいない。

 トリコとココはゾンゲへの評価をかなり上げていた。

 

 「オレたちの10匹とゾンゲが10匹、そして、ゾンゲとオレたちで協力して捕らえた10匹の総勢30匹か、予定よりも多く捕れたな」

 「体力が尽きかけていたゾンゲがボクたちのカモフラージュをしてくれたおかげで更に追加で捕獲できたんだ。ありがとう」

 「ふん、お前らの腕は認めてやるぜ」

 

 最後の10匹はトリコたちとの共同戦線で捕獲したため、トリコはもちろん、初対面のココもゾンゲとの距離が近くなっているのを感じた。

 ゾンゲも基本的には偉そうだが、根は甘いのとチョロいこともあるので良好な関係を築けている。

 

 その様子にライズは心の中でガッツポーズしながら、フグ鯨の一匹をまな板に載せる。

 

 「ここからは料理人の仕事だ。念のために聞くけど、この中でフグ鯨の解体できる人は?」

 「無理だ」

 「だからお前にやらせてんだろうが」

 「ある程度はできるけど、成功率は10%くらいだ」

 「すいません。ボクもフグ鯨の調理は経験ないんです」

 「把握した。じゃあ、今回は俺にやらせてもらっても?」

 「成功率は?」

 「今のところは7、8割程度。休憩挟んでじっくりやらせてもらえるなら10割いけるかも」

 「なら、決まりだな」

 

 満場一致でライズが調理役に任命された。

 その中でゾンゲはあらかじめ食べていたハーブなど気持ちを落ち着かせる匂いを辺りに漂わせることでライズの集中力を保っている。

 これがライズとゾンゲのコンビの通常スタイルなのだ。

 

 ただ、今回はいつもと違ってライズには別の目的があった。

 それは、小松の成長を早めることだった。

 

 「小松さんは、料理人の役割って何だと思う?」

 「役割、ですか? 食材を選んで、それを美味しく調理することだと思っているんですが」

 

 突然の問答に小松だけでなく全員が会話に興味を持つ。

 ライズが見据える先はフグ鯨だが、真に見ている先がもっと別のものだと錯覚するほどに目つきが変わっていた。

 

 「俺も最初はそう思っていたけど、師曰く、俺たち料理人は食材に選ばれているんだと」

 「食材に……」

 「それを聞いた時、どこかで聞いた話を思い出したよ。例えば、石の彫刻を作るとき、削る石は既に持つべき形があるのだと」

 「興味深いね。まるで占いみたいな話だ」

 

 ライズの問答を真っ先に理解したのはココだった。

 それは美食屋としてではなく、第六感を用いる占い師としての彼だからこそこの中で早く理解したのだろう。

 首を傾げる周りに分かりやすいよう適当な岩を指さす。

 

 「えっと、どういうことですか?」

 「つまり、芸術品というのは人が作るのではなく、使った材料が本来の形を取り戻した形だということさ。例えば、あの岩が綺麗な球体の姿になりたいと願っているとしよう。芸術家がそれを見抜いて球体の形に削り出した時、初めてあの大岩は芸術品となる、でいいんだろうか?」

 「あ、はい。なんであれだけで理解できたのか驚いたけど、言いたいことはそういうこと。さっきの話で例えると、あの大岩を人の形に削ったところで、それは人の心には響かない。人に感動を与えられるのは球体に削った時だけってこと」

 「人はそれを、運命という」

 「運命……」

 

 小松はその言葉をかみしめた。

 そのまま聞く分には興味深い話で終わっていたかもしれない。

 

 でもなぜだろうか、それが他人事とは思えなかった。

 小松の中の『料理人としての魂』が反応している、そんな気がした。

 

 「それは料理でも同じこと。食材には命があり、常に料理人に語り掛けている。『この人に調理されたい』、『こんな感じで調理されたい』みたいに。さっきの問いに戻って考えてくれ。料理人の役割を」

 

 小松は少し考えこみ、一つの答えを出す。

 それは頭で考えたものでなく、心のままに導いたものだった。

 

 「食材の声を聞き、本当の姿、味を形にすること……」

 

 その答えに満足し、ライズはフグ鯨に包丁の切っ先を向ける。

 

 「フグ鯨のような特殊調理食材こそ料理人に強く語り掛けてくる。その語り掛けてくる声に耳を傾けることができるか否かが、料理人としての腕の差となる」

 

 フグ鯨に包丁を入れた瞬間、包丁の動きが見えなくなった。

 ココでなければ目で追えない速度で、正確に捌いていく。

 まるで毒袋がどこにあるのか、どこをどう捌けば安全かの答えが分かっているように。

 

 皆が驚く暇も与えられない間にフグ鯨の毒袋は。

 

 既にライズの手の中に握られていた。

 

 突然の出来事にトリコたちは反応に遅れていたが、時間が進むにつれて事態を把握していく。

 一瞬遅れ、ようやくトリコたちの頭が現実に追いついた。

 

 「なにいいいぃぃ~!? フグ鯨の無毒化に成功したぁ!?」

 「あんな短時間に、正確な包丁さばき……なんて技量なんだ……!」

 

 トリコたちは目の前で見せられた技量に驚き、目を見開く。

 個体によって毒袋の位置が異なり、捌き方が変わるのがフグ鯨の捕獲レベルが高い由縁である。

 その最大の懸念を物ともせずに捌き切った衝撃はトリコたちにとって大きいものだった。

 

 「……」

 

 特に大きく衝撃を受けた者は、同じ料理人である小松だった。

 目を見開き、目の前で起きた光景を目に焼き付けたまま動かない小松にトリコは疑問に思い、声をかけようとした時だった。

 

 毒袋を抜かれたフグ鯨が光り輝いたのだった。

 

 「おおおおぉぉぉ!」

 「これは……!」

 「毒袋が取れたフグ鯨が輝きだした!」

 

 突然の現象に目を奪われる中、ライズは小松に声をかける。

 

 「さっきの話も含めて、小松さんには食材の声について知ってほしかった。このことを忘れなければ料理人として大きく成長できるから」

 「……初めて会った時から随分と小松のことを高く評価してるんだな」

 

 トリコはライズに対する疑問を改めて聞いてみた。

 ライズが悪しき者でないことは分かっているが、小松に対する態度がずっと気になっていた。

 自分よりも実力の低い小松に何を感じたのか、自分よりも高みに至っているであろう料理人にその真意を問う。

 

 それに対してライズは深く息を吐いた。

 

 「自分でも漠然としているが、強いて言えば小松さんは食材に愛されているから、かな」

 「ボクが、ですか?」

 「同じ料理人としての勘に近いんだが、小松さんにはとんでもない何かがあると感じたからかな、小松さんが成長したとき、どんな料理を作ってくれるのか気になったのさ」

 

 まさかの評価に小松本人は言葉に詰まる。

 自分がそこまで評価されていることに嬉しく思いながら、何か別の感情に頭が追い付けずにいた。

 

 いつもだったら大慌てで謙遜する彼が、今回に限っては何も言えずにいる。

 そんな様子にトリコは声をかけようとするも、ココはそれを手で制して首を横に振る。

 

 小松は何を思ったのか、ライズに頭を下げる。

 

 「すいません。ボクはライズさんにそこまで期待されるような料理人になれるとは思えません。期待していただけるのは嬉しいのですが、同時に心苦しく思ってしまいます」

 「いや、こっちこそ変なことを言って申し訳ない。俺が勝手に思っていることだから、小松さんはありのままの姿でいてほしい。できれば、今後も期待とかそんなの関係なく、友人でいたいと思っているんだが……」

 「そ、それはもちろんです! こんなことで敬遠するなんてあり得ませんよ! あ、でもお願いがありまして、できればフグ鯨の調理を間近で見せていただいても……」

 「あぁ、構わない。この際だからいろいろレクチャーしながらじっくり捌いていこう。ただ、解体したフグ鯨から出汁を取りたいんだが」

 「はい! そちらの方はボクでやっておきます! ボクも何かしないと!」

 

 ライズが次のフグ鯨を用意する中、小松は既に調理されたフグ鯨の背ビレや尾ヒレなど部位ごとに切り分けていく。

 その様子にトリコは二人の間で決着したと判断し、小松に声をかける。

 

 「小松ー! もう熱燗の用意はできてるけど、当然ヒレ酒もあるよな?」

 「いつ準備してたんですか……そちらもちゃんと献立にあるので心配しないでください」

 「で、今日は何作ってくれんだ?」

 「はい。とりあえずトリコさんたちの取ってきたフグ鯨で皆さんにフグ鯨の刺身を振舞おうと思います。そのあと、皆さんも疲れてるでしょうから、お茶漬けで堪能しようかと」

 

 その言葉にトリコたち美食屋組は思わず表情が緩む。

 

 「刺身とお茶漬け!? うっまそ~!!」

 「疲れてるときに凝ったものではなく、シンプルで食べやすい調理にしてくれるのはありがたいね」

 「多少物足りねえが、美味そうじゃねえか」

 

 三人からの反応は悪くないため、小松も一息吐いた。

 

 その後、ライズのフグ鯨解体作業を見るために小松は料理の下拵えに取り掛かった。

 

 

 

 

 ライズによってトリコとココ、ゾンゲが採ってきたフグ鯨のほとんどを使い、調理をすべて終えた。

 胡坐をかいた5人の円陣の真ん中には持参した皿の上に綺麗に盛り付けられたフグ鯨の刺身が積み重なっている。

 

 「うひょ~、こんなに食えるなんて思ってなかったぜ!」

 「予定通りボクがやってたらこんなに食べられなかっただろうね」

 「なんだっていいじゃねえか! 早く食っちまおうぜ!」

 「あはは……それじゃあいただきましょうか」

 

 上質な脂身で光り輝くフグ鯨の刺身の盛り合わせにトリコとゾンゲは今にも食らいつきたそうによだれを垂らす。

 その様子にココは内心で品がない、と呆れつつも食べなくとも伝わってくる旨味に胸が高鳴っている。

 美食屋組が限界なのを察してか小松がライズに窺い、ライズが頷く。

 それを見たトリコは姿勢を正し、両手を合わせる。

 

 「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」

 『いただきます!』

 

 この旅に同行してくれたココやフグ鯨を捕まえてくれたゾンゲ、フグ鯨を調理してくれたライズと小松に感謝しながらフグ鯨の刺身を大量に、一気に掬い取って頬張る。

 普通の人が見れば羨ましがるような豪快な食べ方で堪能したフグ鯨の旨味が口の中で爆発した。

 

(肉は甘みが大きく、大トロみたいに口の中でとろけるわけではない、フグの身みたいにしっかりとした歯ごたえを感じる。嚙んでも嚙んでも旨味が溢れ出して止まらねえ)

 

 刺身を堪能し、小休止といわんばかりに焙ったヒレを入れた熱燗で流し込む。

 

(辛口の熱燗でヒレの甘みが一層際立っている……でも、刺身の余韻が舌からほとんど洗い流されたようだ)

 

 ヒレ酒とフグ鯨の刺身を一緒に食べたことで味だけでなく、体をも歓喜に震えた。

 筋肉が躍動し、疲労物質が洗い流されたかのように疲れも消えたことを感じた。

 

(すげえ、あまりの旨さに体が喜んで疲労も消えた! これがフグ鯨……滋養強壮の効果は予想以上だ)

 

 これらの反応にトリコはより一層期待する。

 調理していないフグ鯨だけで至福の極みを味わったというのに、次に出てくる料理ではどうなってしまうのか。

 

 フグ鯨のように旨味の存在感が強い食材の調理は困難を極めるが、ライズの腕をすっかり信じている。

 トリコはフグ鯨を堪能した興奮を衰えることなく、次の料理を今かと待つのだった。

 

 

 

 ボクはライズさんのことを尊敬している。

 美食人間国宝節乃さまの下で修業を積んでいたというのも納得できるほどに料理の腕が高い。

 それこそ、料理人ランキングにランクインされていないことが不思議なくらいに。

 そんな人と知り合い、料理もいただき、友人になっていただいたことを誇りにすら思っている。

 

 だから、ボクは不安だった。

 全てが劣るボクがライズさんの友人になり得るのか、と。

 今までは何となく聞いてみたけど、ボクがいい人だからということではぐらかされてきた。

 

 だからこそ、今日初めてライズさんの真意を聞くことができた。

 ボクにはライズさんが一目置くような何かがあるのだと聞いたときは凄く嬉しくなった。

 それと同時に、申し訳なくなった。

 

 「小松くん」

 「え? どうしました? ココさん」

 「いや、どこか心ここにあらずって感じだったから」

 「あ、あはは、すいません。フグ鯨があまりに美味しくって……」

 「現地に赴き、苦労して味わう食材の味は絶品だからな。分かるぜその気持ち」

 

 ココさんに心配されて咄嗟に誤魔化してしまった。

 もちろん、口から出た言葉が嘘ではなかったため、ココさんもトリコさんも納得してくれた。

 

 そんな中、ライズさんが大きな鍋といくつかの薬味を持ってきた。

 鍋から漂ってくる濃厚な香りに頬が緩んでしまう。

 鰹節のように優しい香りでありながら、力強い風味の主張が伝わってくる。

 

 「これは、フグ鯨の背ビレからとった出汁か?」

 「あぁ、甘みが強いフグ鯨の身の旨味を活かすためにはフグ鯨の背ビレがいいと思ってな」

 「いい匂いだ……フグ鯨の旨味がしっかりと利いてるのが分かるぜ」

 「強い余韻を残しながらも、気持ちが安らぐような優しい風味……これは美味そうだ」

 

 トリコさんとココさんは既に出汁の香りからお茶漬けに期待を寄せている。

 ボクも同じく、これから味わうであろう至福の時間に内心では興奮している。

 

 そうしている内に出来上がった炊き立てのご飯が皆に配られると、ゾンゲさんが先に動いた。

 

 「よっしゃ! 一番乗り!」

 「あ、ずりい! オレも!」

 「行儀が悪いぞ二人とも。ボクらの分も残せよ」

 

 残ったフグ鯨の刺身をこれでもかと程よく冷えたご飯の上に乗せ、刺身の山盛りを作っていた。

 ココさんが二人の姿に呆れながら注意する姿に苦笑いしてしまった。

 

 ライズさんも苦笑しながら薬味を持ってきた。

 種類は2種類で、梅干しとわさびだった。

 

 「旨味の強い梅の梅ぇ紫ー蘇ーで作った梅干しとわびさびワサビと、変わり種で用意した力強い辛みが特徴のワサビートルも今回使ってみよう」

 「うまそー! こりゃ楽しみだ!」

 

 フグ鯨の味と風味を最大限に残しつつ、フグ鯨の旨味と相性がいい食材のチョイスからライズさんのレベルの高さと食材に対するリスペクトの高さを感じる。

 今回の主役はフグ鯨なのだが、ライズさんは使う食材を全て主役として扱っている。

 薬味はフグ鯨の味を引き出すわき役としてではなく、フグ鯨の旨味と薬味の旨味を互いに引き出し合うように計算している。

 

 そう思いながら熱々の出汁をフグ鯨の身が乗ったご飯にかけ、少しかき混ぜて味を浸透させる。

 程よい温度を保ったお茶漬けをサラサラと流し込む。

 

 美味い

 

 あっさりとした甘みのあるフグ鯨の身と出汁が調和し、さっきまで味わったものとは別の旨味が口の中で広がっていく。

 この味だけでも最後まで堪能できるけど、全て食べ終わる前に梅干しを乗せて一緒に食べる。

 

 言わずもがな、これも美味い。

 

 強い甘みが特徴の出汁と梅干しの酸味が合わさり、食欲が湧いてくる。

 甘酸っぱいお茶漬けが唾液の分泌を促し、食欲を掻き立てる。

 

 「疲れた体に浸透するような酸味と甘みが心地いいね。いくらでも入りそうだ」

 

 ココさんからの梅干しの薬味の評価は高い。

 安らいだような表情から満足度を測るのも野暮だとわかる。

 

 「ん~……わびさびワサビの鼻を突くような辛みと優し気なまろやかさがフグ鯨の甘みとよく合うな」

 「か~! ワサビートルが辛くて鼻がいてえ! でも、この辛みがフグ鯨の甘みをより一層際立たせるからうめえ!」

 

 トリコさんとゾンゲさんはわさびを薬味に使い、そのどれもが好評だった。

 ボクも試しに食べてみたら、予想以上に美味しかった。

 感想はお二人と同じである。

 

 そこからは気に入った薬味でお茶漬けを堪能し、皆が食べ終わるまでお茶漬けを堪能していた。

 

 

 

 

 食べている最中、ボクはライズさんの言っていた話を思い出していた。

 

 料理人とは、食材の声を聞き、食材が望む形を作るものだと。

 

 今日聞いた話はボクにとって衝撃的な内容だった。

 まさか、料理人が食材を選んでいたのではなく、食材によって選ばれていたのだと。

 

 最初は思わず疑ってしまったけど、今にして思えば、それはあり得ないことではないと思うようになった。

 

 何故なら、過去にボクも似たような感覚が起こっていたのだ。

 

 まだ、竹ちゃんと梅ちゃんと下積み時代を送っていた時に特殊な食材の下拵えを夜通し行ったこともあった。

 今思えば、あの時、ボクは何かに導かれるように手が勝手に動いていた。

 それこそ、何かの声を聞き、その通りに調理したとすれば、ライズさんの言うことが絵空事でないと言えるかもしれない。

 

 だからこそ、ボクは知りたい。

 ライズさんが料理に対してどんな思いを抱いているのか。

 ライズさんが見えている景色はどんなものなんだろう、と。

 

 底知れず湧いてくるような興味は止まることなく、気づけばボクの意識は食べ終わったフグ鯨の余韻を呆気なく消していた。

 

 自分でも不思議だった。

 ボクはこんな気持ちになるなんて思いもしなかった。

 

 もしかしたら、これがライズさんがボクに想っている同じ気持ちかもしれないと己惚れているかもしれない。

 でも、ライズさんの料理はボクの気持ちを高ぶらせる。

 

 こんな気持ち、竹ちゃんや梅ちゃんにも抱いたことはない。

 

 「フグ鯨……噂に違わぬ旨さだった」

 「今日、ここに来てよかったな! 小松!」

 「あ、はい! とても美味しか……」

 

 ボクの熱くなる気持ちを落ち着かせたのはトリコさんだった。

 その声に反応してトリコさんに向き直った時。

 

 巨大なデビル大蛇の姿が入り込んだ。

 

 「グオウ?」

 

 一瞬、何が起こったのか分からなかったが、次第に状況を把握していったとき、ボクの精神が臨界点を超えた。

 

 「ぎえええええぇぇぇ!? デビル大蛇いいぃぃぃ!?」

 「あん? 今気づいたのか? さっきからオレらと飯食ってただろ?」

 「いたんですか!? いつから!?」

 「お茶漬け食べてた時に現れたんだ。洞窟でライズの料理に魅了された個体が正気に戻って追いかけてきたんだよ」

 「まったく、鈍い小僧だぜ」

 

 トリコさんとココさん、ゾンゲさんと何も言わないけど普通にデビル大蛇にフグ鯨の料理を振舞うライズさんの様子にボクは混乱してしまった。

 なんでそんなに平然としてるんですか!?

 伝説の魔獣の前ですよ!?

 

 「大丈夫だろ。こいつから殺気は感じねーよ」

 「電磁波の様子からしてもボクらよりライズの料理の方を気に入ったらしい。あのデビル大蛇を手なずけるとは大したものだよ。占いによれば敵対する確率は極めて低い」

 「がはは。伝説の魔獣を子分にするのも箔が付きそうだ。このまま迎え入れてやろう」

 「いやぁ、まさかこんな結果になるとは……マジでこいつどうしよう」

 

 無駄な殺生はしないトリコさんと占いで無害と認識したココさん、深く考えていないゾンゲさんはデビル大蛇に対して友好的であり、手なずけた本人のライズさんは予想してなかったことに頭を抱えていた。

 

 「わっはっは。人間だろうと獣だろうと、美味いもん食えば皆同じってこった」

 「そういう問題ですか。これ……」

 

 トリコさんは上機嫌に酒をあおる姿にボクはため息を漏らした。

 

 でも、この一騒動でさっきまで落ち着かなかったボクの気持ちもどこかすっきりしていた。

 ボクも初めて自覚したこの気持ち、ちゃんと考えていこう。

 

 この旅でボクは変わったかもしれない。

 それがいいことか、悪いことかと聞かれれば、迷ってしまう。

 

 それでも、ボクは料理人として成長できたことは確かだった。

 

 

 ライズさんはボクを一流の料理人にしようとしてくれている。

 ボクが行き着く先が見たい、そう言ってくれた。

 

 ボクも、この人の行き着く先を見たい。

 

 

 そのためにも、ボクはライズさんに負けたくない。

 

 この日以降、ボクの目標はライズさんとなった。

 

 




・トリコ……原作より取れた大量のフグ鯨にホクホク顔。今回初のゾンゲとのタッグで信頼度アップ

・ココ……フグ鯨を代わりにさばいてもらい、ホッとしている。ライズとゾンゲに対して好印象

・小松……原作より早く食材の声に耳を傾けるようになった。ライズに対し一流の料理人と思う一方、無意識的にライズに何かを感じ、良き師匠、友人、そして絶対に負けたくないライバルと思い始める。今作で最も化けそうな存在となり、作者もヒヤヒヤ。

・ゾンゲ……ビックリアップルの他にもフグ鯨捕獲というアドバンテージを得た男。今思うけど有能になりすぎて扱いに悩み始めた。

・ライズ……小松の師匠面をかまして悦に浸るボンクラ。目標の中に、「あいつは俺が育てた」とどこかでドやることを夢見ている。フグ鯨調理の際は食儀を使ったが、体を光らせた方が旨いということで少し手を抜いた。

・デビル大蛇……今作のペット枠。グルメ細胞の化け物の同じ種族である「デビル」だから弱いわけないだろ! いい加減にしろ!


・梅ぇ……オリジナル食材。梅と美味いをかけたもの。言葉通りの旨さがあり、梅ぇから作られた梅酒、梅干しは絶品

・紫ー蘇ー……シーソーのような形の葉っぱ。調理の際に対となる二枚の葉っぱそれぞれに均等な調理を行わないと旨味とえぐみのバランスが崩れて味が劣化する。

・わびさびワサビ……辛くもあり、まろやかな甘みも備えるワサビ。辛いのが苦手な子供でも食べられることから、ワサビ初心者によく食べられている。

・ワサビートル……カブトムシの形のワサビ。角が立派な見た目のものほど辛みが強い。辛みが強すぎて食べる際は注意喚起されるが、辛い物好きの客からは根深い人気を誇る。
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