一日目
〇月〇日
俺の話をしよう。
結論から言えば、何の前触れもなくこの世界に飛ばされてしまった転生者だ。
ただ単に事故に巻き込まれて死んでしまい、気が付いたら顔も変わった知らない子供になっていた。最初は病院かと思ったけど、小汚い小屋の中という時点で既におかしい。小屋を出るとご老人や俺と同じくらいの子供たちが集まって心配してきたかのように声をかけてきた。
何が何やら全く分からずに戸惑っていると、突如として髭面のおっさんが子分たちを連れて集まっていた人だかりをどかしながらこっちへ近づいてきた。強面というより妖怪じみた強烈な顔面に圧倒されていると、ニマァと笑って俺の肩を叩いてきた。
思わず悲鳴を漏らしてしまったが、そんなのお構いなしに俺の肩をバンバン叩いて俺の容態が治ったことを喜んでいる。
喜んでくれるのはいいが、力強いので肩が痛い。いい加減やめろっつーの。
思わず声に出してしまったが、全然話を聞いてくれず、俺のことを舎弟とか何とか言って話も聞かずにそのまま立ち去って行った。
始終マイペースなことと体格差で圧倒されてポカンとしていたが、周りの人たちはゾンゲだから仕方ない、と諦めた風で呟いていた。
ゾンゲ……聞いたことのある名前だ……何かがおかしい。
荒くれものの名前を聞いた時から頭の中に何かが引っ掛かり、遂にはその日の夜まで疑問が晴れることはなかった。
〇月〇日
衝撃的な事実が判明した。
ここが『トリコ』の世界であることが判明した。
この世界に来た初日から村の外に出たり村の人たちに聞いたり、たまに届く新聞とかで調べてからその予感はあった。
村の外の木に生える肉とか池に湧き上がるジュースとかを目にしてから予感は確信に近づきつつあった。
そして何より、ゾンゲが『あの』ゾンゲだったということが決定的だった。よく考えればかなり個性的だったから、すぐに気づけなかったことが悔やまれる。
登場初期の頃はただのモブだったにも関わらず、その後は登場するたびに類まれなる豪運によって危険地帯を生き抜き、最後には世界を食運で救ってしまった作中最強の存在だ。
『トリコ』の基本的なストーリーは頭に入っているけど、ゾンゲに関しては詳しい情報があまり触れられなかったということもあり、ゾンゲとの出会いは衝撃的だった。
ましてや、俺が既にゾンゲの舎弟にされていたなんて……
ただ、そこで俺は重要なことに気付いた。
これはある意味でチャンスでは?
そう考えると体中の熱が一気に引いたのを感じた。
俺個人としてはトリコは好きだったし、ジュエルミートとか少し……かなり興味はあるけど、それとこれとは別である。
現代で育った貧弱メンタルと最弱フィジカルでこれから起こる大災害(四獣、メテオスパイス、グルメ界最終決戦)とか生き抜けるとは思えない。
ただし、ゾンゲはそんな地獄の真っただ中を無事に生き抜いた猛者なのだ。
それはゾンゲの部下二人にも言えること。奴らは恐らく、ゾンゲからの食運にあやかっていたのだろう。
だから致命傷どころか傷も負うことなくフィナーレを迎えたのだ。
舎弟認定されている。
これは天からの贈り物、いや、食運だ。
この贈り物を無駄にするわけにはいかない。
欲を言えば何とかトリコたちにくっついて美味しいものを食いたいとも思うが、おいしい飯は命あってのものだ。
そうであれば、やることは既に決まった。
俺はゾンゲのコンビとなる!!
そのために必要なのは、何かしらの強みだ!
基本的にゾンゲを持ち上げていれば舎弟として恩恵にあやかれるのだが、それでは足りない。
奴には俺が必要だと確信させる何かしらの強みがいる!
できれば料理がいいが、それは高望みかもしれない。
まずは、俺の素質を調べていこう。
こうして、俺の生き残りをかけた戦いが幕を開けた。
追記
この体の少年の名前はライズとのことだった。
両親はいない天涯孤独の少年で、いつの間にか住み着いていた浮浪者だったとのことだった。
現代で暮らしてきたときと比べて立場の落差が激しいが、とりあえず村の周りには食材があるから多分大丈夫だろう。
村人たちのライズへの反応
「特に珍しくもない、スラムから落ち延びてきた少年としか知らないな。この村にはそういうの多いから」
「猛獣に襲われた所をゾンゲに助けられた不運な少年」
「最近だと雰囲気が変わったな。前は結構寡黙だったけど、今はどこか生き生きしてる」
「性格が変わったのもそうだけど、もっと変わったところがあるだろ」
「ゾンゲはまったく気にしてなかったけどな。鼻頭に引っかき傷があったのに」
「それにしても、いつから髪なんて染めたんだ? 前は普通の黒髪だったのにいつの間にか白、いや、銀髪? になったな」