「ばっはっはっはっは! あいつら、やる気になったのは久しぶりだな! 面白いものが見れるぞ小僧!」
「いや、それどころじゃなくて、助けに行かないと!」
「心配するな! この中でまともにGTロボとやりあって生き残れる確率が高いのはあの二人だ。むしろGTロボがどこまで食い下がれるか楽しみではあるがな」
「でも……」
穴の開いた喉を既に治癒していたマンサムは笑うが、小松は不安だった。
確かに、二人の生存能力が高いのは知っている。
しかし、二人はトリコほど戦闘力が高くないことも理解している。
とてもじゃないが、GTロボを倒せるとは思えない。
そんな小松の不安を察してかマンサムは微塵も心配も抱かずに答える。
「そもそも、あいつらはGTロボを倒そうだなんて考えとらんぞ?」
「え?」
「あの様子を見ると、大方、トリコと交代しようとして失敗したクチだろうな。その後のことも予想できる、ある程度おちょくった後に戦線離脱するだろう。あいつらは強者に弱気で弱者に強気な単純な奴らだからな」
「えぇ……」
友人の負の面を聞かされたようで小松はげんなりする。
なんだか別の心配が生まれてきて、本当に大丈夫なのかと思い始めた。
「それに、ああいう手の内が見れない奴の相手としてあいつ等は適任だ。十分に戦ってGTロボの性能を見極められれば、これからの戦いで大きなアドバンテージになる。トリコもそれを狙ってるのさ」
「そ、そうなんですか……」
「それに、相手がGTロボともなれば、特にライズにとってはやりやすい相手だろうよ。あいつの戦闘アレルギーは生物でもないGTロボには適応されない……それに……」
「それに、何ですか?」
マンサムはニッと笑ってこれから起こるであろう戦いの場に視線を戻す。
「GTロボの生みの親であるあいつが、ロボの弱点を把握してないわけがないからな」
少し昔の話をしよう。
それは節ばあの下での修業を始めてから数年たったころだった。
ある日、俺たちはとある理由で病弱な子と出会い、仲良くなった。
その子は生まれてからというもの、病院の中で過ごし、グルメ時代において美食を味わうことができなかった。
そんな彼の姿に何かしてやりたかったが、何をすればいいか分からなかった。
料理を作ろうにもあらゆる食事も受け付けないほどに弱った体では何もできなかった。
考えても分からなかった俺は駄目もとで節ばあ達原作組に相談したとき、一龍会長が一つの可能性を提示してきた。
それこそ、まさにGTロボの開発プロジェクトへの参加だった。
料理人の俺に持ち掛ける提案じゃないだろうと最初は否定したが、俺の能力において研究職に適しているとのことだった。
俺のグルメ細胞はガチガチの戦闘向きではなく、生存本能や学習能力、環境適応能力に長けている。
そのためか、俺自身の学習能力自体も高く、前世より頭の回転が早いと実感している。
何より、頭脳労働に強いことと、食への関心が強いという点から、料理人としても研究員としても適任だったという。
料理人と研究員、その他諸々の修業を並列に行うことは流石に無茶だし、俺自身も無理だと思っていた。
しかし、そこは一龍会長の計らいで期限付きで研究に専念させてもらった。
そのため、GTロボ開発に必要な知識や研究員として必要な見識を身に着けるためにほぼ寝ずの勉強漬けを3カ月続けた。
僅か3ヶ月で専門知識を身につけられたのはひとえにグルメ細胞のおかげであった。
それからの話は長くなるので省くが、結果的に子供に料理を食べさせることには一応成功させた。
正確に言えば、GTロボの味覚情報伝達システムだけを利用して「美味しい」を伝えることができたのだ。
あの時の子供と両親の嬉しそうな顔は忘れられない。
地獄の勉強漬けの日々が報われたと感じた。
その後に訪れる更なる試練の引き金にもなったのだが、今となってはいい思い出である。
そんなことがあり、俺はGTロボ、いや、GTロボに限らず機械やグルメ技術に対してかなり詳しい。
そんな俺が、素人の操るGTロボに後れを取るのかと聞かれれば、答えなどもはや言うまでもない。
「ピーラーショットォ!!」
ライズが見えない何かを察知して避けると客席が真っ二つに切り裂かれる。
そのまま追撃しようとしたとき、後頭部に強い衝撃を受けた。
「ゾンゲスマーッシュ!!」
「ンゴッ!」
「ぎゃあああ! オレ様の斧がお亡くなりになったー!」
「いつものことだから気にすんな! てか、前見ろ前!」
「おっほぉ!?」
GTロボの後頭部を殴って壊れた斧にゾンゲはいつものようにお悔やみ申し上げた。
そのすきを狙ってGTロボが高速回転したパンチで応戦するが、瓦礫に足を奪われて転び、パンチを避ける。
狙いが外れたゾンゲに追撃を加えようと頭部を開いてレーザー砲台が現れる。
至近距離で体勢を崩した相手には絶対外さないと確信した一撃も横からの妨害に阻まれる。
「まな板シールド!」
「ガッ、コノ野郎!!」
「うわああぁぁ! こいつキメェ!」
エネルギー体でできた巨大なまな板がレーザーで黒焦げになるが、守ったゾンゲは無傷であり、そのままGTロボから全力で逃げる。
頭部を戻したGTロボは怒りを抑えることなくゾンゲたちに激昂する。
「サッキカラチマチマト鬱陶シインダヨ! オ前等ノ攻撃ガ通ル訳ネエダロボケガァァァ!!」
戦闘が始まってから数分、攻防は硬直していた。
攻撃力と身体能力に優れたGTロボは多彩な攻撃方法でライズたちを仕留めようとするも、二人相手に攻めきれずにいた。
ライズとゾンゲは逃げと守りを徹底してGTロボの攻撃を受け切り、避け続けている。
幸いにも攻撃力は低く、たまにライズから遠隔で打撃を食らったりして吹っ飛ばされるもGTロボを破壊されるとは思えないほど弱い。
ゾンゲに至ってはダサい技名を叫んでいるが、プロレス技で関節を決められたりする程度だから強引に振り払っている。
そもそもロボだから意味がない。
明らかに二人は自分に劣る雑魚のはずなのに、二人の回避能力と、何よりコンビネーションが絶妙すぎて満足に攻めきれない。
まるで自分がいいようにされている気分がしていい気分ではない。
「ウゼエウゼエウゼエ!! クソ不味イ生ゴミ共ガ図ニ乗ッテンジャネエ!」
怒りで自分の本来の役割を忘れかけている様子にライズはゾンゲに少し耳打ちする。
僅かな時間だったためGTロボは気づかない。
そもそも、怒りで視野が狭まっているのだった。
そして、GTロボが足を踏み、地面が陥没した。
その瞬間、さっきまでの速度とは比べ物にならないほどの速さでライズたちに突貫してきた。
「!?」
「遅エンダヨノロマ!! ミキサーパンチ!!」
「おご!?」
「どわあぁ!」
高速回転するGTロボ渾身のパンチが咄嗟にゾンゲを庇ったライズの腹部に突き刺さる。
パワーに任せてライズの体を振り回すように浮かせ、ライズの体ごとパンチを床にたたきつけられる。
あまりの破壊力にゾンゲは衝撃の余波で吹っ飛ばされた。
普通ならミキサーのように肉を引きちぎるパンチをもろに食らったなら体に穴が開いているはずだった。
しかし、純粋に腹筋だけでパンチを止めたライズにGTロボは驚愕した。
「ナンテ頑丈ナ野郎ダ……ゴムミテエナ体シヤガッテ。ダガ、捕マエチマエバコッチノモンダ」
「させるかよぉ!」
「……」
「どわぁ!」
依然として腹部を押さえた状態でもがくライズの体を押さえながら頭部を開いてレーザーの準備をする。
その様子に吹っ飛ばされたゾンゲがGTロボの顔面に張り付き、首を無理矢理動かしてレーザーをライズから離す。
だが、GTロボは優位に立ったことで冷静になったのかゾンゲを掴んで雑に投げ捨てた。
パワーで劣るゾンゲはいとも簡単に吹っ飛ばされた。
「ヨウヤクテメエラトノ茶番モ終ワリダ。ココマデ粘ッタ褒美ニ遺言ダケハ聞イテヤルヨ。クケケ」
既に自分の勝ちが揺らいでないと思い込んでいるGTロボは身振り手振りでライズたちを小ばかにする。
変な動きをすれば殺す、あらゆる動きに警戒しながらライズの口から命乞いの言葉が出てくるのを想像して悦に浸る。
下種な思惑をGTロボから感じたライズはため息を一つ。
「じゃあ、最後に一言……この勝負、俺たちの判定勝ちだ」
「……ハ?」
思いもしなかった言葉に一瞬、何を言われたか分からなかった。
死を目前とした獲物の最期を期待していた操縦者の一瞬の隙を見逃すほど暢気ではなかった。
小さい顔面大ほどのスプーンがGTロボの顔面に打撃を加えてレーザーの向きをずらされる。
ただ、視線をずらされるだけの威力も何もない一撃を食らったGTロボの動きは、止まった。
「ナ、何ダ……動キガ……」
正確には動きが止まったのではなく、鈍くなった。
さっきまでスムーズに動いていた体全体が思うように動かせない。
何事かと事態を把握しようと開いていた頭部を戻そうにも、頭部が閉まらない。
レーザー砲台がむき出しのままで戻らなくなったのだ。
「コ、コレハ……ロボノ故障カ!? コノポンコツガァ!」
「機械を上手く扱えないお前の惰弱っぷりを棚に上げるなよ。自分の体の状態を確かめな。圧覚超過を解けば分かりやすいかもな」
動かなくなった体から余裕で抜け出したライズが立ち上がる。
怪訝に思った操縦者が圧覚超過を解き、感覚をつなげた瞬間に全身が不快感に包まれた。
なんだと思いながらわずかに動く指先やらで自分の体をまさぐってみると、ようやく気付いた。
「コレハ、粘液カ!?」
「そうだ。ゴリニラのやばい粘液に限りなく近いトリモチみたいなもんさ。首から下の全てを覆いつくしたから満足に動かせねえだろ」
「コンナモノヲ、イツ……」
「答えてやる義理はねえ」
操縦者からの疑問を一蹴する。
しかし、ライズは思いもよらず両手を上げるゾンゲを見てしまった。
GTロボの体に張り付いた粘液は戦闘が始まった時に既に付着していた。
何を隠そう……これはゾンゲの体液なのだから。
ゾンゲの能力は食事などで食べた任意の物質を体の中で精製し、それを体から出す。
普段はその特徴を活かし、食べさせる物を厳選することで多彩な体臭を出している。
しかし、意外と知られてない、ゾンゲは体臭だけでなく体液も出すことができることを。
これはライズしか知らない記憶の話となる。
未来でテリーの姿に驚き、全身から小便をだしていた。
その時のネタは軽いギャグとして受け取られていたが、実際に考えると、決してギャグだけで存在するものではない。
何が何でもゾンゲとともに最終話まで生き抜くためには知っている知識を最大限活かす過程で思い出したことだった。
それからというもの、ゾンゲに色んなものをひたすら食べさせたことでゾンゲは恐るべき能力を手に入れた。
それが、この粘着性の体液だった。
生物界では毒性の体液をまとうことで自らの身を守る生物がいるが、ゾンゲはその比ではない。
ゾンゲは出された料理は滅多なことがない限り、嫌な顔せず食べる才能がある。
与えられた恵みを分け隔てず受け入れる器量、ゾンゲが食運に恵まれる要因とライズは考えている。
だからこそ、常人なら絶対に食べないようなものも食べるおかげでゾンゲは器用に体液を生成することができる。
今回のように、プロレス技をかけた時に遅効性で粘度が出てくる体液をGTロボに塗っておくなど造作もないことだった。
また、最初はサラサラだった体液を時間経過でドロドロに、やがてカチカチに硬化する体液を作ることも朝飯前だった。
その証拠にGTロボは既に80%ほど無力化されている。
体中の体毛はドロドロの粘液に覆われて飛ばすこと、毛をむしることすらできない。
それどころかトリモチに腕が張り付いたように動かせないため、パンチもノッキングもできない。
そして、頭部は体液がカチカチに硬化したことで頭部が閉じられず、脆い内部がむき出し状態になっている。
無理やりにでも粘液を剝がそうとするが、力づくでは余計に体に張り付いてくる。
それならレーザーで焼き切ろうとするも、硬化した体液のせいで首が思うように動かない。
何もできないGTロボは苛立ちをむき出しにもがいていた。
「クソガッ! コンナ、コンナ下ラネエモンデヤラレル訳ガネエンダヨ!!」
ただ、ゾンゲの体液も無敵ではない。
GTロボの怪力ならいずれ硬化した体液を無理矢理にでも破壊し、トリモチ状の体液をレーザーで溶かすこととなる。
しかし、ライズたちにはGTロボを破壊する攻撃力がないため、拘束した後にできることはない。
それなら、GTロボを破壊できる人物に任せればいいのだ。
「流石だな。ライズ、ゾンゲ。後はオレにま「よっしゃあ、任せた!」「美味しいところはくれてやる! やっちまえ!」かせろって、早いなお前ら!?」
ここに来てバトルウルフを護っていたトリコがGTロボの前に現れ、ライズたちは既にはるか後方に逃げて応援していた。
この逃げ足の速さも、彼らの強さである。
そう無理矢理に納得して気を入れ替えるトリコの登場にGTロボは驚愕する。
「トリコ!?」
「よお、アリクイ面。さっきは舐めた真似してくれたな。こっからはオレが相手してやるよ」
拳を鳴らして近づいてくるトリコに流石のGTロボも不味いと感じてもがくが、何もできない。
「無駄だ。あいつらとの戦闘でお前の手は見尽くした。そんな体じゃあ毛を飛ばすご自慢の皮むき器もおろし金も使えねえ。ミキサーみてえなパンチもな」
「カッ! ダッタラコレナラ……」
「……この単細胞が」
ピーラーショットを使えないGTロボは唯一の攻撃手段であるレーザーのエネルギーをためる。
流石の単純さにトリコはかける言葉もないと言いたげに静かにレーザー砲台を打ち抜いた。
5連アイスピック
分厚いアクリル板を破壊した5連釘パンチに続く集中型の5連は流石に堪えたが、泣き言は言ってられない。
自分が戦っていれば苦戦したであろう、そう思わせるくらいにGTロボの性能は驚異的だった。
だが、そんなGTロボ相手にライズたちは上手く立ち回り、ほとんど無力化させたのだ。
そんな彼らを差し置いて疲れたなど、言えるわけがない。
痺れる右手を眺めながらトリコはライズたちに称賛を、己の未熟さに喝を入れてため息を漏らす。
「もっと強くなんねえとな」
その横で自爆しようとしていたGTロボはコロシアムの防衛システムに撃ち抜かれ、爆散した。