もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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感想を返したいけど時間があまりない今日この頃

毎回のことながら誤字の指摘ありがとうございます!


スタージュンとの邂逅〜反撃のグルメ⚪︎パイザー〜

 

 修業時代、俺は一度だけ自分のグルメ細胞を呪った。

 

 節ばあの地獄の修業を命からがらこなしつつも、あらゆる分野の修業もさせられていた。

 

 次郎さんのノッキング術や猛獣の勉強、果てには開発技術や再生屋など色んな分野の専門知識を合間の時間に叩き込まれてきた。

 普通ならキャパオーバーで挫折する内容であるが、悲しいことに学習と理解、記憶を根本とする俺のグルメ細胞の特性にとって、幅広い知識の吸収は修業として最適だったのだ。

 

 故に、どんなに知識を詰め込んでも一度見たり聞いたりした知識はもちろん、実際に見たり受けたりした実践的な技はすぐに学習できてしまう。

 

 逆を言えば、技を取得するには予め膨大な知識を蓄えていないと、当然ながら物事を理解することができず、技をコピーできない。

 つまり、俺のグルメ細胞は食材と知識を吸収することで強くなっていく変わり種と言える。

 

 その知識を蓄えるにも細胞を常に活性化させる必要があるので、当然疲労もたまる。

 そんな毎日を送っていたのだから、ストレスもたまっていたし、考えるのも億劫だった日もあった。

 

 そんな時、IGO研究所の技術発表なんてやらされたのがいけなかった。

 GTロボの遠距離味覚伝達システムなんてのを開発した功績を認められて*1技術開発部の名誉職員にカウントされた。

 

 そして、なまじ料理の腕も上達していたということで研究職の即戦力となり、マンサムにコキ使われまくった。

 節ばあはグルメ細胞の成長=調理技術の成長ということで研究職の従事を容認したことや、1日の手取りも会社員の年収の数百倍ということもあったこと、何よりこれから生き抜くためにグルメ細胞の強化にうってつけと思って俺もそれなりにのめりこんだ。

 

 だが、それでも疲れてしまうのが人間なわけで、疲労困憊の時に技術開発発表という謎の行事があることを伝えられた。

 名誉職員である俺は断ることもできたが、当時の疲労で判断力が鈍っていた俺は金一封と、入賞すればグルメタウンで永久に使用できる優待グルメパスポートに釣られて参加してしまった。

 年間費無料、グルメタワー上層階への入店を認められる上に料理の追加オプションも付くグルメパスポートの魅力には敵わなかったよ。

 

 そしていざ、題材を考えてみると何も思いつかず、期限の三日前に俺は天啓*2を授かった。

 

 

 もう諦めちゃってもいいさ、と

 

 もう入賞は諦め、形だけでもいいから発表しようとして思いついた*3のがグルメ〇パイザーだった。

 まともな思考さえあれば、こんな手の下位互換が入賞できるわけないが、アニメの件もあるし、1%くらいは努力賞とかないかなと思ってメタリックに作った。

 真剣な場でプラごみを出す勇気はなかった俺だが、クソ真面目にグルメ〇パイザーを徹夜までして作っているときに覚えた虚しさは一生忘れられない。

 

 そして、発表当日にたくさんの研究者が集まる中で一人、ロボットアームを抱えているときのアウェー感はすごかった。

 本番前でさえ恥をかき、その場から逃げたかったが、一龍会長やマンサムの顔を潰すわけにもいかない*4と思って本番を迎えた。

 

 ここからはもうほとんど何も考えずに適当なことをベラベラと熱弁したから何を言ったのかも覚えていない。

 途中でPOM!POM!CRASH!!とかほざいた気がしたけど今となってはどうでもいい。

 そんな感じで乗り切った?俺は戸惑う会場から質問の何もなかったリスナーの前から足早に去った。

 

 その後は誰にも見つからないように閉会式まで身を隠し、閉会式と入賞式の時にはバレないように身を隠していたが、ここで予想外なことが起こった。

 

 マンサムがデザイン賞となんだかでグルメ〇パイザーを高らかに掲げた。

 一気に思考が抜けた俺はマンサムに呼ばれるまま騒めく会場を横切って壇上に登り、握手を交わす。

 ポケットフードプロセッサーという上位互換が存在するため入賞はさせられなかったが、デザインが個人的に気に入っただとかで無理矢理受賞させたのだとか。

 

 こいつ酔ってんのか?と思っていたが、顔を赤くしてアルコール臭がしてたから、やっぱり酔ってた。

 こいつ、飽きて酒飲んでんじゃねえよ!

 

 そんなこんなで、最後は大衆の前でグルメ〇パイザーを持って記念撮影という公開処刑を最後に人生最大の黒歴史の日は終わった。

 

 その後、しばらくはそれで弄られてきたのだが、いつしか苦い思い出は慌しい日常の中へと埋もれていった。

 

 自分の犯した過ちは過去の中に埋もれていく。

 苦しい記憶も、楽しい記憶も関係なく。

 

 

 

 

 

 「つまり、これはフードプロセッサーってことか? 何で手なんだ?」

 「見てくれを重視して一種の(つく)しさはあるが、料理とは一切関係のない不調和さで論外! 見る価値()

 「ライズのってことは調理器具ってことだろ? 小僧なら分かるんじゃねえのか?」

 「え!? う、う~ん……重量はあるし、大きいからかさばるし、そもそも素手でやることをやるってことは、何か重要な意味が……」

 「そこはほら、本人が目の前にいるんだから聞けばいいだけだし。ねえ、なんでこれこの形にしたの?」

 

 「お前ら、人の心踏みにじって楽しいか?」

 

 純粋に勘違いしている小松さん以外の原作組+ゾンゲからの追及に心はもう擦り切れていた。

 設計図も含めた全てを闇に葬ったはずの黒歴史を皆に指摘されて腹の底がぐつぐつと煮えたぎる感覚を覚えている。

 

 ここに誰もいなかったら地面で転げまわっていたであろう羞恥心も今は皆がいるということで自制できている。

 

 それに、内心では皆が割とまともな批評ができていることに安堵していた。

 これでアニメ同様に絶賛していたら本当にどうしようかと思っていたし。

 かと言って、仮にも俺が作った初めての発明品をそこまでボロクソに言わなくても……と、思ってもいた。

 

 「ま、イジリはこのくらいでいいだろう。そろそろ目的地へ向かおうぜ」

 

 やっぱりイジリって言ったよトリコめ。

 その言葉に全員がお開きと言わんばかりにグルメ〇パイザーへの追及を止めた。

 

 美食會との戦いの前に心が折れそうになるが、この後にはGTロボ三体との戦闘があるから気を引き締めなければならない。

 

 あの中ではスタージュンとさえ会わなければどうとでもなる。

 

 サニーは一人で戦いたがるから除外し、トリコはスタージュンと遭遇する。

 でも、スタージュンとの遭遇組の被害がでかすぎるため、そっちに行った方がいいかもしれない。

 最悪、サポートに徹してトリコに任せていれば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に考えていた時期が僕にもありました。

 

 さっきまで楽天的にそう思っていた自分を叱咤してやりたい。

 横でうなるテリーと共に正面に対峙したGTロボを見据える。

 

 原作でもテリーと対峙したGTロボ操縦者は一人しかいない。

 いや、こうして対峙して感じ取れる圧倒的に強大なオーラで誰だか分かってしまう。

 オブサウルスの背中から降りたスタージュンがじっとこっちを見据えている。

 

 

 あ、ありのまま起こったことを説明するぜ!

 グルメ〇パイザーで和気藹々としていたあの後、原作通りにロックドラムの襲撃を受けた。

 そして例によってロックドラムの攻撃でトリコたちは散り散りに吹っ飛ばされたのだが、ここで俺はテリーに救出された。

 

 原作ではテリーは一匹だけのはずだったが、ここでは俺はテリーの背中に乗せられてトリコたちを追っていた。

 徐々に成長して速くなっていくテリーにかかればデビルアスレチックにもすぐに到着した。

 

 だが、そこで想定外なことが起きた。

 トリコたちは既にデビルアスレチックを抜けていたのだ。

 

 本来ならルバンダのところで合流するはずだったが、途中で頬に拳の後をつけて気絶していたルバンダを発見した。

 最初は二度見するほど驚いたが、トリコのところにリンと一緒にゾンゲも吹っ飛んでいたところを見ていたため合点がいった。

 

 ゾンゲは過去にルバンダとの戦闘経験があり、奴との戦い方をトリコに伝授したのだろう。

 また、幻覚を打ち消す成分を体から分泌させれば簡単に無力化させられるだろう。

 そして何より、ゾンゲの食運でデビルアスレチックの最短距離を進むことができたことも考えられる。

 というか、それしか考えられない。

 

 その結果、トリコたちと合流できないままテリーVSスタージュン&オブサウルス戦に同行することとなったのだ。

 

 おい、仕事しろ俺の食運。

 

 少しくらいの現実逃避は許してほしいが、状況が許してはくれない。

 俺としてはこのままやり過ごしたい所だが、横でうなっているテリーのやる気スイッチが既にフルスロットルで稼働中だ。

 

 ここで逃げたらテリーに嫌われるし、どうしようかと思っているとスタージュンが先に口を開いた。

 

 「オ前、私ガ洞窟ノ砂浜ニ来たタ時ニトリコ達ト同行シテイタ料理人ダナ?」

 「……それがどうした?」

 

 俺たちと対峙しているのに世間話をするような余裕を見せる姿に冷や汗が流れる。

 相手が舐めているだけならこの隙に逃げられるかもしれないが、マジで隙が無い。

 でなければとっくにテリーが襲い掛かっている。

 

 こういう時、馬鹿正直に答えると碌なことがないが、GTロボにはサーモグラフィーが付いているため、嘘は見破られる。

 適当にぼかしつつ、世間話で時間稼ぎに徹するとしよう。

 

 そう思っていると、スタージュンはくっくと笑う。

 

 「否定ハシナイノカ……ソウ警戒シテクレルナ。オ前ニハ興味ガアルノダ」

 「名も知れていない料理人に?」

 「……アノ時、トリコ達ガ囲ンデイタフグ鯨ヲ見テ驚イタ。捌イタダケノフグ鯨ニシテハ風味ガ強カッタ」

 

 何だ?

 何が言いたいんだ?

 ただでさえ不気味なのに、相手の意図が分からないことがより一層不気味さを引き立たせる。

 

 「私ガ捌イタダケノフグ鯨デハ決シテ出セナイ風味ト旨味ヲ感ジタ時カラ忘レルコトハナカッタ」

 「さっきから何が言いたい?」

 

 スタージュンの声が弾む。

 言葉では言いしれない不安を抑えながらすぐに動けるよう僅かに構えた時だった。

 

 

 

 

 一つ目の化け物が大口を開けて襲い掛かってきたのを幻視した。

 

 「……っ!?」

 

 テリーは即座に距離を開けて後退した。

 

 そして俺は、持っていたカバンから即座に逃走用に用意していた煙幕玉を炸裂させた。

 同時にブースト用の肉体強化料理を口に放り込みながらテリーにも料理を投げつける。

 

 俺の意図を理解したテリーが投げた料理を一口で食べると、テリーから発せられるオーラがより一層強くなったのを感じた。

 

 「常人ナラ今ノ威嚇デ体ガ硬直スルトコロヲ、オ前ハ戦闘態勢ニ入ル条件トナルノカ……私以上ノ実力者ト戦ッタコトガアルヨウダナ?」

 「生憎、俺より格下ってのは滅多にいないから慣れちまったよ! 強者からの圧にはな!」

 「初手ヲ見誤ッタカ。益々気ニ入ッタ」

 

 煙の中から腕を一振りさせて煙を払い、出てきたスタージュンに持ってきておいた戦闘用の包丁を振るう。

 相手がGTロボである以上、俺も自衛のために攻撃できると分かっていた。

 そのために作った、使い方次第ではGTロボも両断できる一級品の包丁だ。

 俺が食欲のエネルギーで出せるナイフはペティナイフで限界だ。

 

 それに、料理人であるなら実際に包丁を振るう方がしっくりくるのだ。

 

 俺が足止めしている隙にテリーが横からスタージュンを狙うが、俺をはじき返して難なく避ける。

 

 「サッキ、何カヲ食ッタ瞬間ニオ前トバトルウルフの身体能力ガ劇的ニ上ガッタ。ソレガオ前ノ能力ノ秘密カ。単純ナ部下ガ多イ今ノ美食會ニ欲シイ能力ダ……少シナラ問題ハアルマイ」

 

 スタージュンから発せられる圧がより一層強くなった。

 

 独特の構えを取り、次の言葉で俺の心胆を寒からしめた。

 

 

 「オ前ヲ美食會ヘ連レテ行ク。ジュエルミートト共ニナ」

 

 俺の意思とは関係なく、避けられない戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 時間的にはそれほどかかっていないが、感覚的には数時間も経ったような気がしている。

 なにせ、自分より圧倒的に格上の実力者を相手に一進一退の攻防を繰り広げているのだ、もう何回目の走馬灯を見たのかも分からない。

 GTロボの性能では死にはしないけど、美食會に連れていかれたら色んな意味で死んでしまう!

 トミーロッドみたいな倫理観0の奴らしかいないところに放り込まれてたまるか!

 

 捕まったら何もかもが終わるため、俺はいつもより必死になって攻撃をさばいている。

 ただ、流石は副料理長といったところだ。

 まるで逃げる隙が見られない。

 

 たまに逃げようとしてもスタージュンによって阻まれてしまう。

 まるで自分の行動全てを見透かしているように逃がしてくれない。

 

 そして、GTロボの性能をフルに引き出されている現状で全ての攻撃を避け、捌き切ることができずにいた。

 

 「ミキサーパンチ!」

 「ごっ!」

 

 ドリルと化したパンチが腹に入るが、俺は吹っ飛ばされるだけにとどまる。

 これでスタージュンの生身だったら間違いなく死んでいたのだろう。

 GTロボの性能不足を豊富な経験と勘で補っている戦法に俺はただ時間稼ぎに徹するしかなかった。

 

 「人間ノ柔軟サニ昆虫ノヨウナ頑強サデ、コノ防御力カ……クク、手強イナ」

 

 どこまでも余裕を崩さない様子に、いかに自分と実力がかけ離れているかを突き付けられる。

 テリーは早々にスタージュンの一撃を掠めた程度ではあるが、食らってしまった。

 息絶え絶えに倒れることなくスタージュンの隙を虎視眈々と窺っている。

 俺の指示に従ってくれていることに安堵するが、安心できない。

 

 オブサウルスはスタージュンからの指示からか、全く動かない。

 

 その余裕を見せている隙を見定め、時間を稼ごう。

 スタージュンさえこの場に縛っておけば、トリコは難なくジュエルミートを手に入れ、パワーアップするはずだ。

 

 それで助けに来てくれたならスタージュンを撃退してくれるだろう。

 それなら、ここで少しでもスタージュンに何かしらのダメージを与える必要がある。

 

 そう思った俺はすぐに作戦を実行する。

 スタージュンからのビームを紙一重で避け、カバンから煙幕を出して再び視界を遮る。

 俺を中心に広い範囲で煙が立ち込めるが、煙幕が通用する相手じゃない。

 

 スタージュンが再び払おうとしたとき、煙の中から息を整えていたテリーが飛び出してきた。

 

 「!?」

 「ウオウ!」

 

 スタージュンの頭部を前足で殴り倒し、再び煙の中へ消える。

 そして、別方向から飛び出してスタージュンへ攻撃していく。

 テリーの驚異的なスピードと視界を塞ぐ煙で少しだけ翻弄されているように見える。

 

 俺、何も言ってないのに絶妙なタイミングで来てくれたな。

 これがイケメン、いや、イケワンか。

 

 テリーのナイスプレイもブラフにして準備を始める。

 持ってきた全ての道具を使い、反撃の一手を企てる。

 

 今回はGTロボを倒す物ではなく、GTロボの性能を低下させる物を重点的に持ってきた。

 

 GTロボの弱点は、五感を生身の時と同じように感じることができること。

 それはつまり、刺激物に弱いことを意味する。

 

 もちろん、GTロボには操縦者の安全を考慮して一定以上の刺激を与えられればその部分の感覚を遮断する機能がある。

 それはつまり、GTロボの弱体化となるのだ。

 

 そのために持ってきた超危険な刺激物。

 それが、指定危険食材のデッドホットチリペッパーという香辛料だ。

 

 人間界に現存する食材の中でかなり危険な部類に相当する食材であり、ちゃんとした調理をしなければ食べた瞬間に舌の感覚を壊死させるほどの劇物だ。

 ちゃんと調理を施せば辛党の心を一瞬で掴む超高級香辛料となる食材を今回は武器として使わせてもらう。

 

 圧力をかければ破裂する袋の中に香辛料を突っ込み、それをグル〇スパイザーに突っ込む。

 

 あらかたの準備を終えてテリーに引っ込むよう手でサインを送ると、それを見たテリーは素直に後ろへ下がった。

 この世界の猛獣、やっぱり知能指数高すぎへん?

 野生の勘で俺のやろうとしていることを理解している節もあるし、スペックが高すぎる。

 

 テリーの機転の良さに感謝しつつ、スタージュンのいる場所へグル〇スパイザーを投げつけた。

 投げたグル〇スパイザーはまるでロケットパンチのようにスタージュンの顔面に飛んでいく。

 なんか、これが正しい使い方の気がした。

 

 「!? コレハ……何ダ?」

 

 スタージュンは突然出てきた手を咄嗟に捕まえた。

 そりゃそうだよなぁ?

 人の腕の形してたら、俺の腕と勘違いして捕まえちまうよなぁ?

 

 ニチャアと擬音が出るような嫌らしい笑みを浮かべてしまうほどいい笑顔が出たと思う。

 

 理解不能な何かに遭遇して困惑しているスタージュンの下へ駆け出し、思いっきり飛んでグル〇スパイザーのピストンを思いっきり蹴って押し出す。

 グル〇スパイザーの手が開き、驚愕しているであろうスタージュンの顔面にデッドホットチリペッパーがかけられた。

 

 「視界ガ!?」

 

 やっぱり圧覚超過をつけていたのだろう。

 調理せずに触れば皮膚さえも爛れる劇物食材を顔にかけられて無事で済むはずがない。

 そして、言葉から視覚センサーが馬鹿になったのだろう、視界を奪うことに成功した。

 

 本当は嗅覚も奪っておきたかったが、わずかに顔を逸らされて避けられた。

 

 それでも視界を奪うことに成功した俺は今がチャンスだと感じ、巨大なスプーンを顕現させる。

 このまま奴をデビルアスレチックの崖から突き落としてやろうと、スプーンを怯むスタージュンに振りかぶり、ぶつけた。

 

 「グッ!」

 

 相手が苦悶の声を上げたことに、俺は手ごたえを感じ、より一層力を入れてスプーンを振りかぶろうとして

 

 

 全く動かなくなった。

 

 「な!?」

 「……ドウヤラ、片手間デ相手デキルホド甘クナカッタヨウダ」

 

 スタージュンは片手で止めていたスプーンを弾き、俺に急接近、間髪入れずに俺の腕を掴んで投げ飛ばした。

 空中に飛ばされて回る視界の中から見える光景をヒントに俺が投げ出された先が崖であることに気付いた。

 

 やべ、落ちる!

 デビルアスレチックの谷に放り出された!

 

 今の俺じゃあ原作のようにスプーンで空を飛んだりする力はないため、放り出された今、何もできない。

 落ちても体が頑丈であるがゆえに死ぬことはないが、すぐに動けるようになるかはわからない。

 

 最後の最後に深追いし、致命的なミスをしてしまった!

 

 心の中で絶賛、パニックに陥っていると、スタージュンは落ちている俺に向かって静かに告げた。

 

 「マタドコカデ会オウ……ソノ時コソ、オ前ヲ美食會へ連レテ行ク時ダ」

 

 その言葉を最後に、俺は数秒後、背中からの衝撃を受けて意識を失った。

 

 

 

 

 ライズが崖の底に消えたことを確認したスタージュンは内心で安堵した。

 

(あのままやっていたら、どんな結末を迎えたか分からない。奴の戦闘力では負けることは万が一にもないが、勝つことも困難を極めただろう。トリコの前にGTロボの片目の視界を奪われるとは)

 

 想定外のダメージに自分の迂闊さを責めた。

 自分の好奇心を最優先した結果がこれだ、自身の油断が招いた致命的なミスに他ならない。

 

(奴は防御力に加え、生存能力も高く、回避能力もずば抜けていた。それに、暗殺者を彷彿とさせるような獲物の刹那の隙も見逃さない観察眼……ベイが敵わんわけだ。支部長クラスでも捕らえられるかどうか)

 

 地面に落ちていた謎の手の形をしたガジェットを勢いよく踏みつぶして破壊する。

 その後に油断なく構えるテリーを見据えて静かに称賛する。

 

 普段の自分であれば、テリーからも目を離さず、あそこまでいいようにされることはなかった。

 思えば、料理人が何かを食べた時から視線をくぎ付けにされたような気分だった。

 

(奴は細胞を活性化させ、存在感を増すことで獲物の注意を引き付けるのが役割なのだろう。それに、一時的に細胞を活性化させる食材を食べたとはいえ、あの上がり具合は異常だった……あの時のフグ鯨といい、奴は食材のランクを意図的に上げることができるということか)

 

 野放しにするには危険すぎる能力だと改めて思い、ここで捕まえられなかったことを歯がゆく思う。

 しかし、ここで時間を食ってしまえばジュエルミートを先に奪われる恐れがある。

 

 リーガルマンモス捕獲に向かったメンバーの内、支部長のセドルがいるが、トリコたちも侮れない。

 なにより、トリコがジュエルミートを食べて細胞が進化したらGTロボでは手に負えなくなる可能性もある。

 

 己の未熟さと実戦離れして弛んでいた己に喝を入れつつ、スタージュンは気持ちを入れ替えて任務を再開する。

 テリーは自分を無視してトリコたちの下へ向かおうとするスタージュンに襲い掛かる。

 しかし、スタージュンの気持ちは揺るがない。

 

 「コレ以上、オ前タチノ時間稼ギ二付キ合ウツモリハナイ……後ハ頼ンダゾ。オブサウルス」

 

 行く手を遮るオブサウルスとテリーの睨み合いにも興味を示さず、スタージュンは既に任務遂行のことしか考えていなかった。

*1
目をつけられた

*2
疲労と焦りで鈍った思考能力による

*3
気の迷い

*4
グルメ〇パイザーの件でも結局恥をかく




今回のまとめ

スタージュン:ライズのフグ鯨を見てから捌いた料理人を探してきたが、ようやく見つけて勧誘するも、あえなく失敗。ライズをあきらめてジュエルミートを優先する。

グルメ〇パイザー:正しい使用法によりスタージュンに手傷を負わせたが、その後、スタージュンによりご臨終なされた。

テリー:トリコの次にライズには母親の件で特別な感情を抱いている。ライズが崖に落ちた際にはライズの生命力を考慮し、そのまま崖の下にいた方が安全だと判断した今回のMVP

デッドホットチリペッパー:オリジナル食材。正しく調理しなければ触っただけで皮膚を激痛と共に爛れさせる法律で制限された食材。名前の由来はレッドホットチリペッパーズ

次回でジュエルミート編はジュエルミート実食とわちゃわちゃして終わりです。
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