ネルグ街での仕事を終えてから数日が経った。
子供たちには案の定、大好評だったジュエルミートのシチューをさらに改良させようとしていたことを嗅ぎつけたトリコが家にまで押しかけて来たり、再びトリコがせがんでくるのを見越して小松さんにレシピを渡したりとそれなりに忙しかった。
最近ではネルグ街のスラムの状況が改善されつつあることと、昔と比べてネルグから都心部へ留学したいという子供も増えてきたということで、少しずつではあるが、治安はよくなりつつある。
そんな状況にIGOは試験的にネルグ街を加盟国ほどではないが、少しずつ配給を公に行ったり、税収の2%ほどを支援に回せるようになってきた。
役員たちからの反発の声はまだまだあれど、昔のように堂々と支援できなかったころと比べると大分良くなってきているだろう。
そんなこともあり、一龍会長から個人的にネルグ街の支援を行ってきた俺とゾンゲに報奨金をもらったり、ゾンゲと珍しい食材を採りに行ったりと充実した日々を送っていた。
そんな日常の中で、俺はトリコから断続的にある依頼を受けていた。
「テリーの断食生活はどれくらい続いているんだ?」
「今日で3日目ってとこかな……」
所変わり、俺はトリコと一緒にフライアダックを調理している。
というのも、今日は原作と同じくご飯を食べないテリーをトリコが心配しているのだが、何故か俺の作る料理だけ食が進むらしく、普通に食ってくれる。
グルメ界の食材にしか興味を示さないテリーのお眼鏡にかなったのは嬉しいことだが、気に入った理由が未だに分かっていない。
使ってる食材は基本的に人間界でしか取れないから普通は食べるはずがない。
料理すればいいのかと思って小松さんの料理も与えてみたのだが、駄目だった。
テリーにそっぽ向かれて小松さんはショックを受けていた。
何とかテリーに食べさせたいトリコと特定のものしか食べたくないテリーとの静かな戦いが日夜続いている。
「俺が作ったものはなんでも食べるから好き嫌いって感じじゃないよな」
「というよりお前の食事以外じゃ食指が動かないって感じで見向きすらしねえ」
「……母親の件で恩を感じてるアレ的な?」
「いや、ああ見えても誇り高さは親譲りだ。そういった半端な慰めはしねえ……ちと優しすぎるところが気にかかるがな」
そう言いながらトリコの目線を追うと、そこには我が家から連れてきたデイビーとテリーが互いに激しく戦い合っている。
とても生後数か月の子供とは思えない動きに思わず舌を巻いた。
「大分強くなったな。バトルウルフといえど子供の動きじゃねえな」
「そういうデイビーも初めて会った時より強くなってるな。細胞も活性化してるし、いいモン食わせてるみてえだ」
「今ではもう捕獲レベル35ってところかな」
トリコの読み通り、デイビーには俺やゾンゲと同じ料理を食べさせてるし、ジュエルミートも食わせてる。
また、ゾンゲとの狩りにも同行させてるから細胞の活性化と共に実戦経験も積ませてるから確実に強くなっている。
そんなデイビーとまともにやり合っているテリーのポテンシャルの凄さがより際立つからこそトリコが不安に思うのもよくわかる。
「ただでさえ成長期だってのに、あんな運動量で絶食なんてしたら結構まずいだろうなぁ」
「あぁ、このままじゃあ栄養失調で衰弱しちまう。何か、あいつの食欲を増進させるものを食わせられればいいんだが」
「いつも俺が料理を賄ってやれるってわけでもないからな……」
「「う~ん……」」
二人で頭を悩ませているが、実のところ答えを俺は知っている。
だが、それを先に言っても信じてもらえそうにないので、ここは原作の流れに任せることにした。
そうしている内にセットしていたタイマーが鳴り、フライアダックの調理が完了したことを知らせるものだった。
考え込んでいたトリコと俺は思考を中断して目の前の料理に興味を注ぐ。
焚火にかけられた巨大な鍋の中から巨大な葉っぱに包んだフライアダックを取り出す。
包んでいた葉っぱを解くと、一緒に入れていた香草のスパイシーな香りが辺りに立ち込める。
「うっまそ~! 食欲を直撃するこの香り、たまんね~!」
「どれどれ……うん、中もじっくりと熱が通ってるな。これで完成だ! フライアダックのサラダチキン!」
「いただきま~す!」
「はええよ!?」
できたと知るや間髪入れずに巨大なサラダチキンにかぶりつく。
その瞬間、トリコが恍惚に満ちた顔でチキンを堪能した。
「うみゃ~い……フライアダックの淡白な肉質の中からあふれ出る脂がジュースィーで最高だ~」
相変わらずの食レポに俺もたまらずあふれ出る唾を飲み込み、自前の包丁で切り身を切り取って食べる。
その瞬間、香草の香りが染み込んだ肉汁が口いっぱいに広がり、舌の上で油が溶け、溶けてしまいそうな柔らかい肉に顔がほころぶ。
霜降り肉のような柔らかさでありながら、鶏肉のタンパクな食べ応えを両立させた味は絶品で、美味い。
「おあ~……一仕事終えた体に染みる~……」
「そのまま焼いて外はカリカリ、中はジューシーに仕上げるのもいいが、低温調理で中も外もしっとりさせた方が肉も柔らかくて味も染み込んでて美味え~!」
「フライアダックは油と非常に相性抜群だからな。部位によって色んな油を塗ったから味わいも変わり、飽きさせることなく最後まで美味しい特典つきだ」
「ここはベリーオリーブのオリーブオイルの風味がするな。それに、栗ゴマのゴマ油とミネラルココナッツのココナッツオイルまでがフライアダックの油によく溶け込んでて
トリコの食レポはレベルが高いから食わせ甲斐があるんだよな。
ゾンゲは何食わせても美味く食べるからそれもいいのだが、やっぱりこういうプロ目線からの賛辞も嬉しいものだ。
テリーたちの分は別に残し、骨だけが残った。
そして、原作でも見た旨そうな骨の油揚げ!
個人的トリコの食べてみたい食材にランクインしたものだ。
鍋に入っていたお湯を捨てて油を注ぐ。
それを高温にまで熱し満を持して骨を投入。
骨の水分や空気でジュワーっと油が跳ねるも、それはすぐに収まる。
フライアダックの骨は油と親和性が高いから短時間でカラカラと揚げる音が変わり、食べ頃を迎える。
そうしてできた2品目はフライアダック、骨の唐揚げだ。
鳥の出汁を抽出することなく調理したから風味が濃く出て香ばしい。
「ん〜、食後のデザートならぬ、食後の軽食にピッタリだ」
自分より大きい骨に怯むことなくかぶりつくと、パリッと煎餅を噛み砕くような音がした。
俺は骨の一部を砕き、チップス状にした後で口に頬張る。
すると、口の中に強いブイヨンの風味が弾け飛ぶ。
濃いコンソメスープのスナックをそのまま食べてる感じだ。
特に香りもない油で揚げ、香りを過剰に加えなかったのは正解だった。
「いや〜、美味い」
思わず出てきた一言以上に言葉はいらない。
これもテリーたちの分を一部残し、残りは俺とトリコで平らげた。
「なんか、デザートも食いたくならね?」
「そりゃあればな〜……何かあるのか?」
「この近くにホワイトアップルの匂いがする。それ食おうぜ」
フライアダック丸々一羽食べ尽くした後にも関わらず、興味が湧いて、提案に乗る。
この世界に来てからというもの、俺もだいぶ食べるようになったな。
これがグルメ食材の効果だというのか……など考えても仕方ないのでとりあえず食べよう。
トリコに導かれた先に一本のホワイトアップルの木が立っており、実も多く実っている。
これなら、持ってきたあり合わせのもので一品作れそうだ。
思案していると、トリコは既にホワイトアップルを収穫しており、ジュースにしようと言っているが、それに待ったをかける。
「これだけ量があるなら、アップルパイにしよう」
「いいね〜……でも、材料持ってんのか?」
「大丈夫、誰でも簡単に作れるようになる便利な物がある」
持ってきた荷物の中から耐温の葉とパイ生地仕様のお菓子のクラッカーを取り出す。
なぜ持ってるのか? 食運です。
まず、ホワイトアップルを空中に投げて包丁を入れ、細かく小さいサイコロ状にカットし、2枚のクラッカーで挟む。
それを、耐温の葉という火を点けても完全に燃え尽きない葉っぱで包む。
包んだ葉っぱに火を付けて丸焼き状態でいい時間まで放置する。
この葉っぱは火に強いため、表面は燃えても中のクラッカーには70度くらいの熱波しか伝わらない。
さしずめ、簡易オーブンのような物だ。
焼いている間にこれまた運良く持ち合わせていた紅茶のティーパックとミルクをトリコに用意してもらった木彫り製のコップの中に入れてお湯を注ぐ。
そうしている内に焼いた葉っぱから甘い匂いが漂ってきたので、いい頃合いと判断して火を消し、葉っぱを取って完成だ。
手のひらサイズのホワイトアップルパイ
そして、これまた運良く持ち合わせていた栗の控えめな風味を含んだシナモン、シナモンブランのパウダーを別容器に入れて横に添える。
だから、なんで都合よく持ってるかって? 食運です。
「おほー、美味そう!」
「このシナモンブランをたっっぷりかけて甘さ控えめのミルクティーを味わうのが病みつきだ。それじゃあ早速」
「「いただきまーす」」
二人で声を合わせ、同時に頬張った。
サクッと生地の香ばしさと熱したホワイトアップルの蜜が口の中に広がって甘さが広がる。
水分が抜けて純粋な甘みとシナモンブランのシナモンと栗の風味が気分を落ち着かせてくれる。
口の中に残った糖分をミルク多めの砂糖少なめミルクティーで流し込む。
酸味と甘みがリセットされ、次のアップルパイに手が伸びる無限ループが今ここに爆誕した。
うま〜……
「は〜うめ〜……こりゃ最高だな〜」
トリコも蕩けた表情でシナモンブランをかけながらアップルパイとミルクティーを次々に頬張っていく。
あっちは味を楽しみ、こっちは枯れ木と落ち葉の中でノスタルジックに味と雰囲気を堪能している。
これもまた、至高の贅沢っ!
例によってアップルパイもテリーたちの分も残して全て平らげたところで、自主訓練を終えたであろうテリーが仕留めたチーズラビットを咥えてやって来た。
その後ろではデイビーがチーズラビットを3匹まとめて丸呑みにしている。
うーん……品性の差か。
それとも飼い主の教育に影響したのか……そう思ったが、トリコを見てその可能性を排除した。
「? 人の顔見てどうした?」
「いや、何も?」
特に疑問も抱かなかったトリコはテリーにチーズラビットを狩ったのはテリーだからと原作と同じやり取りを行う。
その後、チーズラビットを仕方なしに自分のものにしたテリーと食い意地の張ったデイビーは俺の料理にがっついていた。
こうしてみるとテリーも満悦の表情を浮かべているが、いつまでもこの調子でいられない気持ちもわかる。
何でもかんでも食うデイビーみたいだったらトリコも不安に思うこともなかったろうに。
まあ、これは二人の成り行きに任せれば大丈夫だろう。
余談だが、ちゃんとお留守番していたオブサウルスにも料理を食わせたらやっぱり絶賛していた。
時は大きく進み、現在ウージャングルに来ている。
メンバーはトリコとテリー、そしてゾンゲとデイビーと俺だ。
何でこうなったか、原因は単純だった。
原作通り、テリーのためにBBコーンを取りに行くことになったのだが、トリコはゾンゲを誘っていたのだ。
ゾンゲもBBコーンに釣られてトリコの誘いに乗り、連鎖的に俺を誘ったのだという。
誘われたというより、有無を言わさずに連れてこられたというべきか。
その時までBBコーンを取りに行くなど知らなかったのだ。
そして、デイビーを連れてきたのはトリコからの提案だった。
トリコ曰く、バトルウルフとデビル大蛇が覇を競い合っていた遺伝子の記憶がデイビーと行動することでテリーの野生を解放してくれるのだとか。
そう簡単にいくか分からないが、いい経験だと思って連れてきた。
そんな感じでメンバーは変わったが、基本は原作と同じだった。
変わったことと言えば、デイビーは元から野生生物だったから、基本的に自分の命優先だったからトリコを庇ったテリーがトリコから暗にデイビーを見習えというお叱りを受けてゴブリンプラントと戦ったくらいだ。
その後、色々あってBBコーンをゲットした俺たちはウール火山へ直行して早速BBコーンの調理を始めた。
「「
「気ぃ抜ける声出すな! お前、そんなんでBBコーンの調理大丈夫なんだろうな!?」
「ッハッハッハ……っ!」
「ギュイ~……」
全員で仲良くマグマラットの毛皮を敷いて調理の最終段階……もっとも高温な場所でBBコーンを焼いている。
これまでで失敗はしていないが、長丁場に入っており、既に夜が明けた。
ていうか、こんな場所で小松さん連れてきても体力的に無謀だっただろう。
故に、俺とゾンゲがここに来たのが最大の食運なのかもしれない。
テリーとデイビーも我慢して最初から最後まで付いてきているため、何としても食わせてやりたい。
そんな願いが通じたのか、BBコーンが俺に
「来る……」
「なに?」
「コーンが呼んでる……弾けるぞ!」
「本当か!? 弾けろ!」
「来い!」
「ウォウ!」
「グアアアアァァァ!」
全員からのエールを受けたかのようにBBコーンは弾け、俺たちは歓喜の祝福を上げた。
ウール火山の大地を覆いつくすほどの量のBBコーンを場所を移して試食会としゃれこむ。
「すげぇ……これがBBコーンか」
「揚げたてのコロッケみたいで美味そ~……」
実際に手に取ってみると、サイズのわりに羽のように軽く、シルクのような心地よい手触り……繊細な見た目と裏腹に力強い旨そうな香りを漂わせる。
そして、ポップコーンを食べ、無心で飲み込んだ。
味は分かっていた、それでも味わおうとしていたのに体からのBBコーンを食べたいという欲求が理性を上回った。
次こそはと、軽くかじって飲み込みたい欲求を抑えてよく味わう。
う、美味い。
まさに貴族がおやつにしていたとされるポップコーンだ。
噛めば噛むほど風味が増し、手が止まらなくなる。
それでいて喉に引っかからないほどにきめ細やかだから抵抗なくスッと体に入ってくる。
まさしく、トリコの食レポに違わない逸品だ。
これもまた、後でより美味く調理して見せよう。
今回の旅の報酬としてBBコーンをいくつか融通してくれるのだ。
隣ではゾンゲとデイビーが無心で食っている。
食欲増進に呑まれて心を持っていかれたな。
「当て身」
「うっ……オレ様は何を……」
「グオウ……」
当て身で二人を正気に戻していると、その横でトリコとテリーはポップコーンを取るまでの経緯を振り返り、感動していた。
えぇ話やで。
そして、予定通りBBコーンはトリコのフルコースの
それに対してゾンゲと俺は手を叩いて祝福の拍手を送る。
Congratulations
Congratulation
そんな感動的なシーンで予定通り、グリンパーチがBBコーンを全て平らげて登場。
これに関しては最初から分かっていたが、俺たちの輪の中にまで気配なく忍び込んだ時点で圧倒的格上だ。
「次は、そいつら吸っていい?」
その瞬間、俺は咄嗟に硬直しているトリコ以外の目を付けられたメンバー全員をスプーンで掬い取り、その場を全力で逃げた。
だが、逃げている最中にグリンパーチの吸い込みに体が引き寄せられる。
もちろん、それも想定していたので近くの岩石に巨大な食欲のエネルギーで作ったおろし金を引っかける。
前回のジュエルミートでレベルアップした俺はスプーンとまな板の他に新たな調理器具を形成できるようになったのだ。
不本意ながら巨大グルメ〇パイザーもその一つだ。
おろし金で引き寄せられることは防げたが、岩石がおろし金に負けて削り取られている上に、スプーンで一人と2匹を抱えているからカロリー消費量も大きい。
硬直状態も時間の問題だが、これも想定済みだ。
なんたって、その後にトリコが救出する
そして、予定通りトリコがストローを攻撃して俺たちは助かった。
その後は予定通り、GODの語りとトリコとグリンパーチの一騎打ち、そしてジャックエレファントに乗って退場。
その間、俺たちは気配を殺してグリンパーチが消えるまで姿を消した。
ポップコーンは全て食われたが、命は助かったのでヨシ!
途中でテリーたちはオブサウルスと合流し、BBコーンを手土産に帰ったのだった。
「あ、
ジャックエレファントの上でスターから言われていた料理人のことを思い出したが、スター個人からの依頼だったということで面倒になって引き返すのを止めて美食會アジトへと帰っていった。
次回はついにアイスヘル編前の導入編!
これもまたさっと終わらせる予定です。