先月から仕事が加速的に忙しくなり、気温も急に変わって体調を崩すなど色々ありました。
その間にも誤字脱字の指摘ありがとうございます!
アイスヘル編
それは原作トリコにおいて色んな転換期を迎えたといっても過言ではない名作編であると断言する。
トリコと美食會副料理長トミーロッドの戦いは戦力差がでかすぎて明確に左腕を欠損するという絶望感がよく演出されていた。
あの時、トリコどうするんだと思っていたが、まさか再生医療が可能だったと知って驚いた。
そして、小松さんが本当の意味で覚醒を果たしたきっかけとなるセンチュリースープの調理が個人的なビッグイベントである。
この回を見終わった後のトリコ世界は更に広くなったと錯覚させる名作ではあるが、その分、俺たちに降りかかる困難は今日まで生きてきた中で比にならないかもしれない。
前は他の美食屋のことを心配していたが、もとよりそんな余裕はない。
主にトミーロッドとかのせいで明日は我が身といった状態なのだ。
この世界で昔の倫理観を保持して美食屋稼業やってることがいかに危険かなんてとうの昔に知っている。
しかし、ふとしたことで昔の感性が戻ってくるときがあるのだ。
昔よりもそういった衝動は減ったのだが、まだ完全に克服したとは言えない。
これについてはまだまだ時間をかけるしかない。
さて、話を戻すが、俺とゾンゲは鉄平とチームを組んでアイスヘルに行くこととなった。
元は与作からの依頼なのだが、俺はそれよりも前に節ばあから連絡を受けてセンチュリスープ争奪戦が既に決定されていた。
『久しいのうライズや。あまりにも顔を見せてくれないもんだから来ちゃった(はあと)』
『いや、それ大分古いネタ……いや、まあお久しぶりです。ここのところ大分忙しくて……』
『その割にはののには会っとるようじゃのう……なのに、わしゃに会わんとはどういう了見じゃワレぇ!』
『すんません! 会うと昔の修業時代がフラッシュバックするんすよ! もう完全にトラウマなんですってば!』
『は~……まあ、当時は厳しすぎたのも確かじゃのう。その点については悪かったから偶には顔を見せんかい』
『正直、そこまで引きずってるわけでもないんで気にしなくてもいいっすよ……で、今日は何用で?』
『うむ、わざわざ連絡を入れたのは他でもない……センチュリースープが湧く時期が分かったんじゃ』
『えっ!? もうそんな時期!?』
『主には既にスープを飲ませたじゃろ? 後は実際のスープを飲んで味を覚えればスープも作れるじゃろ?』
『いやいやいや! できるわけねえよこんなん! あんたが何十年もかけてる料理を俺が作るなんて……!』
『うっふっふ。もし不安ならお主のお気に入りの小松くんと一緒に挑戦してみるとええ。わしゃの一番弟子ならこれくらいのことはやってみせい。それじゃ、伝えたからの?』
『え、いや、まだやるなんて……ちょっと、話聞いて!?』
珍しくあっちから連絡してきたと思ったら、まさかのセンチュリースープを完成させろという依頼だった。
いや、確かに昔に節ばあの裏メニューのセンチュリースープを飲んだこともあったが、そこから無茶ぶりさせられるとは思っていなかった。
センチュリースープを完成させるのは俺じゃなくて小松さんなのだから俺の出る幕がない。
かと言って何の成果もあげずにいると節ばあから折檻とは言わずとも何かよからぬことをされるのも目に見えている。
ていうか、センチュリースープの素となるグルメショーウィンドウが死んでいるのだから、そういう事情で見逃してくれたりはしないだろうか?
そんなこんなでやることも課題も多いセンチュリースープ編での身の振り方を考えているとゾンゲが話しかけてきた。
「なんだ? 腹でもいてえのか?」
「いや、この旅も苦労しそうだと思ってな……気が重くなっただけだ」
「か~! 旅の前に辛気臭えこと考えやがって! 少しはシャンとしやがれ!」
「そうしたいのは山々なんだがよぉ……」
おそらくひどい顔をしていたのであろう、ゾンゲが肩組んでくるが、そんな気分にはなれない。
再生屋としての仕事と節ばあからの課題、どんな結末を迎えるかは知っているが、そこに辿り着くまでにどんな苦難が待ち構えているかと思うと旅前に疲れてくる。
本当は傍観者に徹したいところだが、俺の食運はどうにも俺を原作へ引っ張り込もうとするから嫌でも関わってしまうと覚悟した方がいい。
そんな風に気分が晴れない俺に、既に合流していた鉄平が俺に話しかける。
「ゾンゲの言うことももっともだぜ。旅前からありもしねえことに気を向けてたらいざという時にバテるぞ……節ばあが絡んでるとなると気持ちは分かるけどな」
鉄平も頷いて俺の心境を代弁する。
普通に大御所からの依頼だというだけで緊張するのに、今回は特殊な事情もあるからプレッシャーがより一層重くなる。
精神的に板挟みにあっていると、ゾンゲは手を叩いて肩を組む。
「あーもう、ウジウジすんじゃねえ! 腹減ってるからそんなネガティブになんだよ! どうせグルメタウンに行くんだからうめえモン食いに行くぞ!」
「お、いいねー! いただきまーすゾンゲ先輩!」
「なに奢ってもらおうとしてんだオメー! ま、まぁ……臨時収入があったから、景気よくパーッと使ってやってもいいがな」
「おいおい、また無駄遣いしやがって……」
ゾンゲの提案に鉄平は乗り気で奢ってもらう気満々だが、最近仕事で予想以上に収入が入ったとか言ってたから、それを思いっきり散財する気だな。
とは言っても、今回のゾンゲからの提案はありがたい。
こういう気分が沈んだときは食って食って食いまくるのが一番。
それに、久々にグルメタウンに行くんだから食いたいものはたくさんある。
集合場所となっている美食屋の集まる酒場・ヘビーロッジでの集合時間もまだあることだし、アイスヘル前に英気を養おう。
「まあ、アイスヘル前に英気を養うのもいいかもな」
「よっしゃ決まりだ! 明日からアイスヘルへ向かうから、ここで食える最後の晩餐といこうぜお前ら!」
「最後なの!?」
ゾンゲに突っ込む鉄平と三人で並んでこれから向かうグルメタウンの美食に心を躍らせる。
さっきまで感じていた重い気分はいつの間にか消えていた。
グルメタウン
星の数ほどいる料理人の中でも実力派が世界中から集まり、しのぎを削る料理人の激戦区とも料理人の聖地ともいわれる場所である。
料理を愛する一般人や美食屋にとっては未知の味に出会える夢の国ともいえる。
そして、料理人にとっては聖地であり、憧れの場所であり、現実を突きつけられる場所でもある。
長年の修業の末に大成して店を持つことができるか、自分の限界に気付かされてこの場で去るか
の二者に篩をかけられる場でもある。
料理人にとっての戦場ともいえる場所でライズは
「「「うめ~~~!!」」」
美食に舌鼓を打って堪能していた。
グルメタウンの寿司屋で表情を崩して鉄平、ゾンゲと共に寿司を食べている。
醤油に付けて食べたり、寿司塩で食してみたりしながら熱燗を呷ったり
「「「乾杯~~!」」」
焼き肉屋やホルモン焼き、ラーメン屋などはしごしたりとグルメ横丁や大通りの料理を制覇すると言わんばかりの勢いで料理を堪能する。
トリコほど大食漢でもないため一軒入ると出費は数十万程度とそれなりに蓄えもあるため、三人はノリノリではしごを続ける。
それは三人が満足し、ヘビーロッジでの集合時間間近になるまで続いた。
気の赴くままに飲み食いし続け、既に日が沈んでいた。
店の光が夜のグルメタウンを満遍なく照らす。
そんな夜道を三人は腹をさすりながら進む。
「いや~、食った食った。こんなに食ったのはいつぶりだ?」
「最近はいい食材が手に入るようになったから、レシピ開発ばっかで食ってなかったな」
「節ばあから聞いたけど、最近はトリコや四天王とよくつるんでるんだって? そりゃあいい食材とも出会えるわけだな」
鉄平の耳には既に俺たちの近況が入ってたらしい。
別に隠すことでもないから頷いて答える。
「まあ、センチュリースープの状態とトリコたちの出方次第では一戦やり合う覚悟はした方がいいな。オレたちはあくまでセンチュリースープの再生、もしくは保護が目的だからな」
「俺たちも美食屋稼業が本業なんだけど……」
「昔からの馴染みっつーことで、今回はこっちを優先してくれって頼むよ」
「まあ、与作からの直々の依頼だからいいけどな」
「ふん。今回はそれでいいが、問題なかったらスープは俺たちがいただくぜ」
「あぁ、それで構わねえ」
鉄平も美食屋稼業を邪魔する気はないようだが、センチュリースープの状態次第では行動も変わるのだろう、鉄平の行動には要チェックや。
そう思っていると、目的のヘビーロッジにいつの間にか着いていた。
「そんじゃ、ここから移動中はお互いノータッチでいこう」
「は? 何でだよ?」
鉄平がここから俺たちと極力関わらないようにくぎを刺したことにゾンゲが疑問を口にしたため、それに答える。
「再生屋と美食屋は基本的に相容れないからな。バレたらお前らもやりづれえだろ……というか、万が一にもばれたら最悪、追い出そうと暴動も起こるかもしれねえ」
「そうならないように俺たちは無関係を装いながらさりげなくフォローするんだ。というか、鉄平にもしものことが有ったら俺たちが代わりに依頼をこなすことになってんだ」
「な、何だよお前ら……そういう大事なことは言えよ!」
「「言ったよ」」
「え”!?……そうだっけ?」
前にアイスヘルについての打ち合わせをしたと思うのだが、案の定忘れていたか。
やっぱり確認作業って大事だわ。
ていうか、重要なことを忘れる癖はいい加減に直せ。
目が点になるゾンゲをジト目で見ていると、鉄平は既に全身タイツ型のマスクで素性を隠す格好になっていた。
「じゃ、合流は現地に着いてからってことで」
「って、さっき別行動って言ったよな!?」
「あくまで移動中って時だけだ。アイスヘルに着いたら誰も他人を気にかける余裕なんてなくなる」
「そういうこった。じゃ、そっちは頑張れよ」
「そっちもボロ出すなよ。鉄平、そういうとこあるからな」
「るっせ」
最後に軽口をたたき合い、先に鉄平が店に入っていった。
関係者と匂わせないように少し時間が経った後に俺たちも店の中へ乗り込む。
「じゃ、俺たちも行こう」
「おうよ」
さてさて、今回はどんな旅になるのやら……気を引き締めていこう。
カウンターで賑わう店内を食器を磨きながらヘビーロッジの店主・モリ爺は憂いていた。
普段は仕事を求める数多くの美食屋に仕事を斡旋してきた。
得意の目利きで美食屋のレベルを判断し、そのレベルに合わせた難易度の仕事を回すのが彼の主な役割である。
しかし、今夜ここに集まっている美食屋たちは共通の依頼に引き寄せられてきた。
たとえ、実力が明らかに不足しているものが大量に紛れていても彼らを止める権利など自分にはない。
今の時点でそれなりに強者はいるにはいるのだが、それ以外はとても今回の旅で生きて帰ってこれるとは思えない。
死ぬと分かって警告しても、報酬と未知の美食がある限り彼らを止めることはできない。
せめて、食運あれ、とひそやかに祈ることしかしてやれない。
もっと素質のある者はいないのか……そう思っていた時、入口の戸が開いた。
また美食屋か、そう思って入ってきた人影を見た時、全身が震えたかのような感覚を覚えた。
「!?」
モリ爺は無意識に震えた体を一瞬で抑え、周りに悟られないよう平静を装う。
しかし、その胸中は穏やかではなかった。
(なんだ!? 一瞬、この中の空気が変わったかと思った! こんな衝撃、初めてだ!)
食器を磨く手を止めないで、深く深呼吸し、気を落ち着かせる。
まず、横にいるパートナーと思わしき大柄の男を見る。
(この男はどこに行っても生き残れるような強かさがある。この男はどんな困難も難なく乗り切るだろう)
ここに集まっている美食屋の中では印象的な感覚を覚える。
トリコほどではないにしろ、まだまだ可能性を秘めている。
この男にならどんな困難な依頼を出しても何だかんだで達成してくれそうだと思えてしまう。
ゾンゲの目利きを終え、問題の人物を意を決して見定める。
白髪で鼻頭に傷のようなあざを持つ小柄な青年だった。
第一印象としては周りの美食屋と比べたら幼い印象を受ける。
先ほどの正体不明の衝撃はなかったが、その青年の雰囲気は今までの美食屋と比べれば明らかに異質だった。
(何故だろうか、この子はここに来るべくして来たと感じる……それでいて、何か大きいことをしてくれる、この先の行く末を思わず見てみたいと思ってしまう)
特に目立っている訳でもないのに、無意識でも目線で追ってしまう。
こんなことは長年、数多の人物を見定めてきた経験の中でも初めてのことだった。
残念ながらこの感覚を具体的に表現することができない。
久しぶりに自分の心がとらわれたような感覚を覚えた。
彼らがどんな人物なのか知りたい、話をしてみたい。
そう思った次の瞬間にはグラスにエナミルビールを二杯分注ぎ、席を探している二人に声をかけた。
「お前らはここ初めてだろう? そんなルーキー限定で今回は店のおごりだ」
普段はそんなことしないような公平の立場だが、そんな線引きも今日だけは取っ払うことにして自分の目の前のカウンター席に二人を招くのだった。
鉄平……美食屋たちに気付かれぬよう隠密行動中
モリ爺……久しぶりの宝石の原石とも言いえる素質に出会ったことで興味が湧いてウキウキ
今回はあまり進みませんでしたが、次回は端折って物語は進みます。
原作でもゾンゲ目線ではトリコよか困難もなく辿り着けていたので、内容も薄いかもしれません。
師走の時期でより一層忙しくなりますが、このまま執筆も続けます。
それでは次回にお会いしましょう!
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