〇月〇日
あれから自分に何ができるか、それを色々調べてみたけど自分の強みを見つけることができなかった。
というのも、行動圏内の村周辺でやれることに限りがあり、やれることがない。
そもそも日々を生きていくのに精一杯なため、できることが限られる。
幸いにも周りは食用の実のなる木や複数人でもかかれば倒せるような猛獣しかいないので食うには困らない。
だからと言って生活が豊かという訳ではなく、このまま漠然と生きているとままではゾンゲのコンビなど夢のまた夢だ。
もう悠長に適性がどうとか言ってられない。
そもそも考えてみたらゾンゲのコンビになるのに高い技術は必要なく、あったらいいなくらいので構わないのではないか?
そう思ってからというもの、とりあえず適当に採った木の実や魚、猛獣の肉などを調理してみる。
ガスや電気代が怖いからさっと手早く切って茹でたり炒めたりして塩コショウなど味付けをするだけで最初は済ませてみた。
適当に調理したとはいえ少し簡単すぎたか、と思って記念すべき調理した逸品を食べてみる。
食事を口に含んだ瞬間、衝撃が走った。
美味い、普通にじゃなくてマジで美味い。
今までは何気なく食べたり適当に焼いて食ってただけで前世で食っていた食事と変わらないと思っていたが、ちゃんと焼き方にこだわり、調味料の量や入れるタイミングを変えるだけで風味と旨味がまるで違う。
それから茹でたり叩いてみたりすり潰してみたりと色んな工程を取り入れてみたら、その都度味が変わり、風味もまるで変ってくる。
同じ食材なのに踏む工程を変えるだけでここまで違うものか、と内心で楽しくなってきた。
もっとも、これがトリコ世界の食材の能力なのかもしれない。
まだまだ俺は異世界に圧倒されて冷静じゃなかったのかもしれない。
これがグルメ食材……これが異世界。
あったらいいな……そんな心構えで生き残れるほどここは甘くない。
適性がどうとかはもう関係ない、これからは料理一筋のつもりで褌を締めていこう。
ダメだったらダメで、その時の経験を肥やしに別の方法で成り上がってやると心に誓うのだった。
〇月〇日
料理に本腰を入れたその日から、俺は料理のスキルアップとバイトを兼ねて村の住民相手に家政婦業を行っていた。
朝から出稼ぎに行く家の家事全般と炊事を一日中やっていた。
炊事については作った料理はまかないとして食べてもいいという条件で賃金は安くしてもらうことで雇ってもらう頻度を多くしてもらった。
料理に失敗して不味くしたり、焦がした時はただ働きという条件もあったが、生活のことを考えると破格の条件と言えた。
とにかく今は料理技術を磨く必要があるのだから。
少し、いやかなり身体がしんどいと感じるが、食べて寝るとすんなりと体力が回復するのだからやっていけそうで良かった。
これもグルメ食材の効果なのか、いや、もしかしたらこの世界の人間の体質かもしれない。
マッチとか滝丸とかは明言されてないから分からないが、グルメ細胞が無くても普通に強かったし、案外そうかもしれない。
とりあえずこのまま頑張っていこう。
〇月〇日
今日は運悪くバイトにありつけなかったので、バイト先で贔屓してもらっている家から使わなくなった料理本をもらい、それを読んでいる。
経験に勝るものはないというが、ちゃんとした知識もないとプロの料理人にはなれないのだ。
きしむベッドの上で本を読んでいると、ゾンゲがズカズカと家に入ってきて川に行こうと誘ってきた。
何でも見たこともない魚が川を泳いでいたのだとか。
今日まで過ごしてきてゾンゲとの関係が分かってきたのだが、こいつはガキ大将みたいな感じで大人しい俺に絡んでいただけだったらしい。
ただ、ゾンゲもゾンゲで情が深く身内に甘いのか俺のことを守ってやらなきゃならない舎弟だとでも思うようになったらしい。
ある日、少年が高熱を出して2,3日も家から出て来なくなった後、久しぶりに姿を見せた俺の外見が大きく変わってびっくりしたのだとか。
多分、俺が転生した時なのだろう。
ゾンゲはゾンゲで俺の性格と髪の色と鼻頭にできた傷をイメチェンの類だと自分で納得していた。
この都合のいい性格はこういう時、すごく助かると思いながらも、未来のコンビ(予定)に対してはマジかよこいつ、とも思った。そこは気にしろよ。
もしかしたら、これが救世の器なのかもしれない。そう思うことにしよう。
話は戻り、普段なら無視するところなのだが、見たこともない魚と聞かされて興味が出ない訳がない。
そいつが危険生物かどうかはさておき、新しい発見というものはいつでも心が震わされる。
その時ばかりは二の句も告げずに例の川の方へと全力で急いだ。
問題の川に行ってみると、普段からみられるカワトビウオとは別に、でかくてカラフルな大きい魚が川の主のごとく堂々と泳いでいた。
これはゾンゲも騒ぐわけだ。この魚だけ違和感というより存在感がまるで違う。
お世辞にも奇麗とは言えない川の中でも日光の光だけで体を光り輝かせられる身体から生命エネルギーを強く感じる。
それに、これを見ているとよだれが自然に出てきて、昼食を食べたばっかなのに腹が減ってきそうだ。胃の中が急速に消化され、目の前の魚を捕食しろと言わんばかりだ。
そんな俺の気も知らずに、ゾンゲは俺が最近になって料理を極めようとしていることを知っていたため、こいつを調理してもらう腹積もりだったとのことだ。
完全に俺をコキ使うつもりのようだが、今回ばかりはグッジョブと言わざる得ない。
もしかしたら毒魚かもしれないと頭では少し警戒しているが、それよりも強い本能が『こいつを食らえ!』と問いかけてくるように頭から警戒が空腹に負けるのだ。
観察してみても、特に危険な肉食魚というわけではなさそうなので、そっと後ろから捕まえようとした時だった。
後ろから老人が俺たちに声をかけてきた。
見つかったか!?
何も悪いことしていないのだが、極上の魚を横取りされるんじゃないかと思って警戒しながら振り向くと、俺の思考が死んだ。
色黒の肌に金髪のオールバック。
口回りに蓄えた立派な髭。
しゃがれ声とは似ても似つかない、筋骨隆々な身体。
何より、その人から感じる生命エネルギーがさっきまでの魚に対する興奮の熱を容赦なく奪っていく。
こんな圧倒されるエネルギーがこんな近くにあって気づかなかったんだけど!?
現IGO会長、全快時には恐らくラスボスをも凌ぐ作中最強の存在。
一龍が何でここにいいいぃぃぃ!?
とりあえずゾンゲ、お前はお前で最強の一龍さんに突っかかるんじゃねえよ黙らすぞこの野郎!
お前、これが猛獣だったら本当に死ぬからな!?
主人公……とりあえず料理人として動き出す、何気に成長途中
ゾンゲ……実はまだ美食屋を目指していない、ただのガキ大将。世界最強に挑もうとするアホ。食運があるとはいえ、人間死ぬときは死ぬことを早く覚えてほしい
カワトビウオ……この作品オリジナル食材、文字通り川に生息するトビウオ、捕獲レベルは1~2
突如現れた謎の一龍……食運は最初からフルスロットル
今日の投稿はここまでにします。
これからは一日一回の投稿を目指したいと思います。