もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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遅くなりましたが今年もよろしくお願いします!
この時期が一番忙しいので執筆が遅れました!

今年はもう少し進行を早められたらなと思います、

そのため色々と省略していくこともあると思いますが、この作品のことをよろしくお願いします!


束の間の休息と迫りくる脅威

 

 大海原を航海する砕氷船が目的地を目指している。

 行く手を阻む流氷を砕く壮大な船の旅を満喫する……ことができずに個室で黄昏るライズの姿があった。

 

 伝説のスープを追い求めて心を躍らせる他の美食屋と違って一躍時の人となったライズは盛大にため息を吐いた。

 

 「この寒さの中で飲む焚火(たきび)ール強火味(つよびあじ)は格別だなぁ! 腹の中から来る燃えるような熱さでちょうどいいぜ! お前も飲めよ!」

 「今、そんな気分じゃねえんだけど……」

 「お前、まだ気にしてんのかよ。これでようやく箔が付いたってもんだろ」

 「俺にそんなつもりはなかったんだよ……」

 

 こうしてライズが辟易しているのはヘビーロッジでトリコが酔って自分の素性を暴露したことにより、周りから注目されてしまったことによる。

 

 元々、料理人ランキングの上位になること自体、ライズにとっては大きなリスクを伴うものだった。

 なにせ、目立てば目立つほど美食會に目を付けられて拉致される確率も高くなるのだから。

 特に節乃の弟子だなんてたとえランキングに入ってなくてもネームバリューで狙われることもあり得るのだ。

 

 美食會に捕まったが最後、三虎の食事を無制限に用意しなければならない上に気に入らなければ半殺しにされる、かもしれない。

 しかも、幹部陣はスタージュンを除いて失敗には厳しく、最悪殺されそうですらある。

 

 そして何より、NEOに襲撃されて壊滅してから支部長クラスの安否すら分からないという悲惨な状況なのだ。

 

 そんなところから目を付けられないよう立ち回っていたのに、それをトリコが台無しにしやがった。

 そういうところだぞトリコォ!!

 

 とりあえず、トリコのやらかしのすぐ後に俺はすぐにその場にいた美食屋たちの口封じを行った。

 

 『今日のことをバラしたら師匠の節ばあが黙ってねえぞオラァ!!』

 『節乃さんの権威で黙らせたーー!?』

 

 普段はこういった権威を振りかざす真似はしないのだが、今回だけは許してほしい。

 まだモッコイというNEOのメンバーもいなかったから急いで口封じをする必要があったのだ。

 

 割と陳腐な脅しだったが、これが割と効果的でその後に詮索とかの類は一切なかった。

 流石に節ばあに逆らう度胸も力もないのもあるし、トリコの知り合いらしいところも見せていたおかげもある。

 誰も好き好んでその界隈で大物のトリコと節ばあと敵対したくないということか。

 

 そして、トリコにはゾンゲの屁を直接かけてやったら凄い顔して転げまわっていた。

 思い知れこの野郎。

 

 トリコへの制裁も済み、今は大海原の中で一先ずの火消しを終えたことに安堵する。

 

 (今は節ばあとのコンタクトよりもスープの方が重要なのかもな)

 

 やはり、この世界の住民は食欲の優先順位が高いなと改めて思っていると、部屋の扉が開いた。

 

 「待たせたな。いいつまみ持ってきたぜ」

 「お、いいじゃねえか。酒が進むぜ」

 

 船に常備されている持ち出し可能な食材を持って幼いころからの付き合いのあるグルメヤクザの若頭であるマッチとその舎弟たちが部屋に入ってきた。

 

 「お前みたいに食材の目利きなんてできねえから適当に持ってきたぜ。気に入らなくても文句言うなよ」

 「充分充分、あんがとさん。悪いな、パシリみたいなまねさせて」

 「構わねえよ。今の船の中でお前らは時の人だからな。変なちょっかいが来るかもしれねえ」

 

 マッチの言う通り、節乃の弟子を名乗るライズという青年の話題で持ちきりなのだ。

 ヘビーロッジにいた時はライズが封じ込めたが、そう簡単に忘れられるような話題ではない。

 

 ライズのあずかり知らぬところだが、実はライズと接触しようとした美食屋が何人かいたのだが、そこは早々にマッチ達がライズたちを囲んで保護していたのだ。

 そんじょそこらの美食屋より実力のあるグルメヤクザの囲いを搔い潜れる美食屋はこの場においてもそうはいない。

 

 それ以外でも鉄平や罪悪感を感じているトリコのサポートもあってライズたちにちょっかいが出せないでいることに本人たちは気づいていない。

 

 「ゾンゲさん。グラスが空いてます」

 「ライズさん何か飲まれますか?」

 「マッチさん。後はオレたちが」

 

 マッチに着いて来たとされるラム、シン、ルイの三人は俺たちの食事を用意する。

 本来ならそういうのは副組長であるマッチにだけやればいいと思うのだが、俺たちもこういう風に来賓みたいに扱われるのはもうずいぶん昔からである。

 

 というのも、昔の、まだネルグ街が一番ひどいときに俺たちの料理を食べて気力を取り戻した当時の子供が彼らである。

 

 そのため、グルメヤクザ内での俺たちの評価は上客であり、恩人でもあるのだ。

 

 「おっとっと、悪いな。お前らも食え」

 「あぁ、こういう場で堅苦しいのは厳禁だ……焚火ール強火味はあったっけ?」

 「おうあるぞ。飲め飲め」

 

 ゾンゲは接待されていることに気をよくしたのかラムたちを座らせて酌に誘う。

 ライズも同様に酌に誘いながらも、どこかヤケクソ的に持ってきた焚火ールの一番強い味をカシュっとあけて勢いよく飲んだ。

 

 ゾンゲはいい飲みっぷりだと乾杯するが、ライズの酒の弱さを知っているマッチはそれを見て慌てる。

 

 「おいおい、そんなに飲んで大丈夫かよ?」

 「ぶはぁ!……今日くらい飲まねえとやってられん! このままアイスヘルに行くまではずっと飲んでやる!」

 「かなりキてんな。まあ、旅はまだまだ長え……気長にいくとしようぜ」

 

 長年の秘密をバラされたライズの荒れた感情を収めるためにアルコールを注入する。

 トリコへの恨み言と共に酔いながらもライズたちは久しぶりに会ったマッチとの会話を楽しんだ。

 

 

 途中でグレイトレッグや海の猛獣に船が襲われることがあったが、ライズは酔っぱらって船室で寝こけていた。

 

 

 外からの爆音で目が覚めたころには酔いも醒めていた。

 船のデッキに出ると、目の前を巨大な氷山が立ちはだかっていた。

 そして、船の両脇に割れた流氷が海に浮かんでいる。

 

 本当にアイスヘル突入直前まで寝てたっぽいな。

 

 「何だ、今更起きたのか寝坊助め」

 「ゾンゲ! お前起きてたのか!?」

 「お前と違って酒は強いんだよ。ってそんなことより、もう行くってよ」

 

 行く……もうアイスヘルに登るということか。

 寝てる間に原作イベントを逃したか。

 

 まあ、やることは変わりないからいいけど。

 

 何はともあれ、ここからがアイスヘルの本番だ。

 ここからは気合を入れないと本当に全てが終わると言っても過言じゃない。

 

 もはや原作云々関わらず、俺が無事に何事もなく旅を終えられるように頑張ろう!

 

 

 気合を入れなおしたところで、氷山を割ったであろうトリコが近づいてきた。

 

 「よう、ようやくお目覚めか」

 「カエレ! オマエキライ!」

 「おぉ、長くコンビ組んできたけど、こんな姿初めて見たぜ……」

 「なんで片言だよ……オレが悪かったからいい加減機嫌直してくれって」

 

 猛獣のようにグルル……とゾンゲの後ろに身を隠して唸る。

 その姿にトリコは辟易しながらも謝る。

 流石に酔っていたとはいえ、人のデリケートな事情を漏らしたことはきっちり反省している様だった。

 

 「すみません! トリコさんにはボクからよく言っておきますので、もう許してやってください!」

 「なんでお前が保護者みてえに言ってんだ!?」

 

 小松が頭を下げる姿に釈然としないものはあるものの、もうそこまで怒りは湧いてこなかった。

 確かに今まで必死に隠してきたが、いずれこういう日が来るのだと覚悟もしていた。

 節ばあ的にはいずれ俺に店を持ってもらうことも考えているようで、そうなると世間の目からは逃げられなくなる。

 

 どっちにしろ世間の目に晒されることは既に決定事項だったと考えて留飲は抑えた。

 ただ、どうせ知られるならアイスヘル以降の方がよかった。

 アイスヘル以降ならしばらく美食會の戦闘もないし、あってもレベルアップしたトリコたちであれば渡り合えるため、その時に助けてもらおうと思っていたのだ。

 

 それが敵わなくなった今、残された道はただ一つ……ひたすらトリコたちと関わってレベルアップしていくこと。

 

 「いずれこうなるだろうと思っていたからもういいよ……」

 「え、じゃあ許してくれんの?」

 「ただしトリコ、テメーは駄目だ」

 「まだ許されないのオレ!?」

 

 俺の人生設計を狂わせた罪は重いぞトリコ。

 許しを請おうと縋るトリコを仲間外れにして俺たちはアイスヘル突入前に小松さんたちへ旅に必要な情報と道具を共有するのだった。

 

 

 

 

 

 

 トリコたちと少し話した後、俺たちは分かれて進むこととなった。

 トリコや、マッチは原作通り第一陣として進み、俺たちは秘かに鉄平と合流して後発の第二陣の班として出発する。

 

 最初はトリコたちに一緒に来ないかと誘われたけど、今回は再生屋として仕事を請けているようなものなので、適当に誤魔化して断った。

 というか、一緒に行くとトミーと鉢合わせになるから絶対に嫌だ。

 

 そういうことで、トリコたちを乗せたヘリが帰ってくるまで船で待機しているのだが、鉄平は別件ということでゾンゲと二人で鉄平の帰りを待っている。

 

 「ていうか、お前はこんな時にも裸かよ」

 「裸じゃねえ! いつも通りのワイルドな姿だ! 他の寒がりとは違うんだよオレ様はぁ!」

 「人間社会にいい加減なじめよ」

 

 これから極寒の地に行くというのに、この男は未だに原始人スタイルである。

 周りも特異なものを見る目でこっちを見ている。

 

 もしかしてだけど、俺に誰も寄り付かなかったのってゾンゲが一緒だったからってこともあるのか?

 確かに、お世辞にも知性があるように見えない格好と言動もそうだから十分にあり得る。

 俺でもそうしたかもしれない。

 

 もしそうだとしたら、コンビの俺はどう見られているのだろうかと気になる反面、今回に限っては助かったと言える。

 無用なトラブルは関わらないに限る。

 

 「まあ、今回は自前の防寒具で済ますかな」

 「全く、この程度の寒さにそんなことじゃあ先が思いやられるぜ」

 「知ってる? 普通の人間は服を着るんだぜ?」

 「オレ様は普通なんて範疇には入らねえ男なんだよ!」

 「無敵かこいつ?」

 

 無敵だったわ。

 装備無しでグルメ界を生き抜いた猛者だ、面構えが違う(マヌケという点で)。

 

 と、本来なら大口叩いてコケるのが本来のゾンゲという男だが、ここのゾンゲは一味も二味も違う。

 

 なにせ、生存能力に長けたゾンゲなら極寒の地どころか、灼熱だろうが重力だろうが、どんな過酷な環境下でも耐えられちまう。

 ジュエルミートやBBコーンで俺たちも(・・・・)レベルアップしているのだ。

 

 今回の旅はその力を存分に試す機会としてうってつけである。

 

 そうしていると、用事を終えたであろう鉄平が戻ってきた。

 

 「遅くなった。それじゃあ俺たちも行こうぜ」

 「おうよ! あ、でもその前にトイレ行ってくる!」

 「そんなもん上に着いてもできるだろ?」

 「お、確かにな」

 

 トイレに行こうとするゾンゲをやんわりとなだめる鉄平が秘かに俺にアイコンタクトをしてきた。

 その意図を察した俺は頷いて、間違ってもゾンゲが船に戻らないよう誘導することにした。

 

 船の中で何が起きているかについては原作で見て分かっているし、鉄平の用事というのもスーツの盗聴器の件だろう。

 鉄平も俺が何か察している程度だと思っているようだし、ここはありがたく乗らせてもらう。

 ていうか、早くいかないとトミー達が追ってくるから早くここを離れたい。

 

 足早に第二陣のヘリに乗り込むと、後に乗ってきた俺たちを見て周りがぎょっとした気がする。

 気のせいだろう。

 

 妙な注目を集める中、俺たちは座席に座る。

 

 「ちなみに聞くけど、支給されたライタースーツは?」

 「いらねえから置いてきた」

(((正気かコイツ!?)))

 「ちなみにライズは?」

 「自前のジャンバーあったからそれ持ってきた」

(((正気かコイツら!?)))

 

 これから極寒地獄に突入するというのに、片や原人ファッション、片やジャンバー一枚だけという自然をなめ切ったスタイルに美食屋たちの気持ちが一つとなった。

 これがあの美食人間国宝の弟子の姿か、そう思わざる得ないほど薄着だった。

 

 それを注意、もしくは絡もうにも原始人と美食人間国宝の弟子と全身フルフェイスの怪しい男の団体に絡む勇気の持ち主はいない。

 端から見れば真っ先に死ぬであろう者たちに肩入れできるほど、今の彼らに余裕はないのだ。

 

 そうこうしている内にヘリは限界高度に達し、そこから自力で残りの崖を登っていく。

 既に突き刺さるような寒さでライタースーツの保温性を突き抜けて冷気に体が冷やされる中、異様の三人組はマイペースを貫く。

 

 アイスヘルにようやく辿り着き、ツンドラドラゴンの死体に戦慄するも、それで怯む美食屋ではない。

 そこから全員で固まって吹雪の中心部へ向かおうとするも、異様の三人組は突如として別行動に走った。

 

 「お前ら、急がば回れって諺があるだろ? 今日はそれを実践しようと思っている」

 「まーたメンドくさいことを……このまま吹雪に向かった方が早いだろうが」

 「分かってねえな……RPGじゃあこういう危険そうな道が実は安全で、隠し要素があるってのが相場なんだよ」

 「おいこら原始人」

 

 流石の鉄平も素でゾンゲに突っ込む。

 普通なら原始人のたわごととして無視されそうなトチ狂った提案も突っぱねそうなものだが、ライズは少し思案し、荷物を抱える。

 

 「そこまで言うなら、方向は決まってるんだろうな?」

 「待ってろ、この『ゾンゲ様レーダー』が火を噴くぜ……あっちだ!」

 「よし、じゃあ行くか。道案内よろしく」

 「任せろ!」

 

 ゲームがどうこう言ってたイカれた主張を真に受けて原始人の後に付いていく件の料理人に皆も戸惑いが隠せない。

 原始人のような男の体から大量の粘液が放出されて全身を包み、料理人はコオオオオォォと白い息が出なくなった奇妙な呼吸音を響かせて吹雪の中へ足を進める。

 

 「ったく、そのゾンゲへの信頼は何なんだよ……まあ、こういう時はいつもあいつの勘が外れたことなかったしな」

 

 仕方ないと言わんばかりに二人の後をついていく全身タイツは一度、こっちを一瞥した。

 

 「オレらは行くけど、あんたらはどうする?」

 「じょ、冗談じゃねえ! あんな根拠もねえ理屈に付き合う気はねえ!」

 「そうか、まああんたらが決めたことならそれでいい。食運を祈るよ」

 

 全身タイツの男がそういうとスープの在り処である吹雪の発生地点とは見当違いの場所へと歩いていき、吹雪の中へ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 トリコが吹雪の中心部を目指して進行してから数時間が経っていた。

 ツンドラドラゴンの死体との遭遇から始まった極寒の地でのサバイバルは既に過酷を迎えていた。

 耐寒性の強いライタースーツを装備しても、その性能にも限界はある。

 防ぎきれない冷気は確実に体を冷やし、保有するカロリーが尽きた瞬間に体の芯まで凍らせる。

 未だアイスヘルの前半だというのに、既に多くの美食屋たちが大自然の餌食となっている。

 

 既に夜を迎え、さらに気温が下がる環境の中で吹雪に当たり続けるのは自殺行為に違いない。

 

 トリコはそんな状況を回避すべくフォークで地面を深く広くえぐり、仮の安全地帯を作った。

 吹雪をしのげる穴場に退避したメンバーは身も心も休ませ、幻のスープ捕獲のために備えている。

 

 「小松さん。温まりますよ」

 「すみません……ありがとうございます……」

 

 他の美食屋の中で最も非力な小松はトリコにおぶってもらって来たにも拘らず、ライタースーツと自前の防寒着にくるまって震えている。

 体調は万全とはいえないものの、ちゃんとスープを飲めている小松の姿に滝丸は安堵する。

 

 「お礼はあのおじさんに言ってあげてください」

 

 そう言って指さした先にいたのは腰を下ろして小松と同じスープを飲んでいるマッチの姿。

 話を振られたと悟ったマッチは小松たちに視線を向ける。

 

 「礼はいらねえよ。オレたちも施しを受けた側だ。それに、小松って料理人のことも気にかけてやってくれって言われてんだ」

 「誰がそんなことを?」

 「ライズだよ」

 「ライズさんが!? ていうか、ライズさんと知り合いだったんですか!?」

 

 グルメヤクザから気にかけられる心当たりがなかった小松はその後に出てきた名前に驚く。

 同時にその人物がグルメヤクザとも関りがあったことも驚きの理由の一つである。

 そして、そのつながりに驚いたのは滝丸も同じだった。

 

 「例の料理人ですか……料理人節乃の弟子ということでしたが」

 「あまり詮索してやるなよ。あいつも色々あるのか、その情報は隠してきたんだ」

 「確かに、そういう所ありましたよね。素晴らしい腕なのにもったいないなぁ……あ、これ美味しい!」

 

 ライズの徹底的な秘密主義に心当たりがあった小松は素晴らしい料理の腕が周知されていないことを残念に思いながらスープに口をつけるとあまりの美味しさに小松の活力が戻った。

 その様子にマッチも当然とばかりに鼻を鳴らした。

 

 「灼熱オレンジとヒートジンジャー*1で体が暖かくなって、生姜の香りで食欲がそそられる~……」

 

 さっきまでとは打って変わって饒舌になってうっとりする小松に滝丸とマッチも苦笑する。

 ライズの能力によりスープの調味料として使われたヒートジンジャーの滋養強壮効果が強化され、如実に効果を発揮していた。

 

 その様子に最初はグルメナイトとして何も食べないようにしていた滝丸も、アイスヘルの極寒を乗り切るのに灼熱オレンジとヒートジンジャーのスープは必須だと感じて飲んだ。

 お湯に溶かして飲めるように加工されていたインスタント食品とは思えないほどの旨味が口の中に広がった。

 

 「あぁ……まだ旅は終わっていないというのに心がこんなにも落ち着くなんて……」

 「あはは、こんな所でこんなに美味しい料理を食べられるなんて思ってませんでしたからね」

 

 気の張っていた緊張を一瞬で解きほぐしてしまうほどの旨味に滝丸は陶酔しかけた意識を強靭な精神で立て直した。

 一息吐き、自分の手の中にある料理のレベルの高さと、それを作り出した料理人のレベルの高さを垣間見た滝丸は確信した。

 彼は本当に国宝節乃の弟子だったと。

 

 マッチは料理に夢中になる二人を一瞥して笑みを浮かべ、氷の壁を登る。

 

 現在、トリコが極寒の地上で見張りをしているからだ。

 昼間は部下をブリザードから助けてもらった恩があるため、仁義を重んじるマッチが見過ごすはずがない。

 

 壁を登ると、体を容赦なく吹雪の冷気が打ち付ける。

 肌が凍り、体温を奪っていく環境の中にいるにも拘らず、吹雪をものともしていないトリコに声をかける。

 

 「交代するぜ。部下を助けてくれた礼だ」

 「お前はグルメヤクザの……フフ、律儀なヤクザだ」

 「まあ、礼ついでにライズの件も一言言ってやろうと思ってな」

 「ラ、ライズか……知り合いなのか……」

 

 握手をしようとしたところでライズの名前が出た瞬間にトリコの顔が歪む。

 その様子から罪悪感から来るバツの悪さが伝わり、言おうと思っていた苦言を飲み込む。

 

 「その様子だと相当に責められたらしいな。部下の恩人ということで何も言わないでやるよ」

 「帰ったら何かしてやんねえとな……にしても、ライズがグルメヤクザと関りがあったなんてな」

 「先に言っておくが、あいつはネルグじゃあすっかり英雄みてえなもんだ。後ろ暗いことをしたわけじゃねえ」

 「ネルグってことは、最近になってあらゆる分野での発展が著しいことで有名じゃねえか。そのことに何か関係してるってことか」

 「話してもいいが、その辺を話すには時間が足りねえ。それよりも今は飯食って英気を養いな」

 「飯……おぉ!? 何か美味そうな匂いがしてるじゃねえか!?」

 「ライズがオレたちにくれたモンだ。お互いに頭が上がらねえな」

 「帰ったらマジで何かしてやらねえとな……それじゃあお言葉に甘えて交代してもらうぜ。えっと……」

 「マッチだ」

 

 そう言って握手を交わし、トリコは穴の中へ戻っていった。

 トリコが着地して地面が揺れてから間もなく、トリコの声が響いた。

 

 美味えぇ! ヒートジンジャーの香りと灼熱オレンジの風味が食欲を掻き立てる! おかわり!

 おかわりできませんよ!?

 あの、それは旅で必要な食糧なのでおかわりはできないかと……

 

 下から響く騒ぎを耳にしたマッチは過酷な環境下にいることも忘れて苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大陸に上陸した美食屋が全員発ったしばらくした後、吹雪の中を三つの影が悠然と歩を進める。

 数多の美食屋を凍死させた過酷な吹雪も物ともしない様子から実力の高さがうかがえる。

 

 「調べたところ、氷山に輝くオーロラを目指せばスープに辿り着けます。トミー様、バリーもすぐに行くぞ」

 

 美食會第5支部 支部長 ボギーウッズ

 

 「分かってるよ。他にも残っている美食屋はどうします?」

 

 美食會第4支部 支部長 バリーガモン

 

 「決まってるでしょ? 皆殺しだよ」

 

 美食會副料理長 トミーロッド

 

 世界を騒がせる犯罪組織、美食會の手練れ三人がアイスヘルに到着した時からセンチュリースープ争奪戦は既に始まっていた。

 そのことを知る、もしくは予感しているものはごくわずかしかいない。

 

 「いや、一人だけ捕獲対象になってますよ。ライズって料理人が」

 「殺しちゃダメですからね」

 

 ボギーとバリーは思わず突っ込むも、トミーは感情の見えない笑みを変えない。

 

 「大丈夫だって。スターやグリンから報告を聞いたでしょ? そいつ、少なくとも副料理長以上でなきゃ死にはしないし、捕まえられないって。なら、殺す気でやるくらいが丁度いいんだよ」

 「それで本当に殺したら制裁が待ってますから、気を付けてくださいよ?」

 「分かってるよしつこいなぁ」

 

 部下からの苦言にトミーは適当に流す。

 

 この三人、前回のジュエルミート失敗を重く見た美食會が本気でセンチュリースープを確保する目的で送られてきた手練れである。

 その本気度はトミーロッドの派遣が雄弁に物語っている。

 

 強者に興味を示すスターや享楽主義のグリンとは違い、昆虫のように感情を排し、目的を愚直に見据えるトミーロッドこそ仕事の正確さは組織の中で頭一つ飛びぬけている。

 そして、トミーの派遣にはもう一つの背景があった。

 

 料理人ライズの拉致である。

 

 「ちなみに例の料理人ですが、どうも国宝節乃の弟子だという噂が船の中で持ちきりでした」

 「マジか!? あの節乃が弟子だと!?」

 「へぇ……それ、本当かい?」

 「あくまで噂程度でしたが、どうも噂の出所がトリコらしくて、信ぴょう性はそれなりにあるかと」

 

 ボギーの報告にバリーは驚き、トミーは興味深そうに声を漏らす。

 

 「なるほど。それならボスが気に入った料理を作り出したことも納得がいく」

 

 今回、トミー達がライズの捕獲を請け負うこととなったきっかけはグリンパーチが持ち帰ってきたBBコーンにあった。

 グリンパーチはトリコたちが作り出したBBコーンを横取りする際、幾つか食べずにくすねていたのだ。

 元からスターからレベルの高い料理人の話を聞いており、聞いていた外見も一致していたので、秘かに興味を持っていた。そして何より、食べたBBコーンの味が想定以上に美味かったのだ。

 

 BBコーンは主に捕獲と調理の難易度で高い捕獲レベルを有しているが、調理法は体力と根気さえあれば、後は焼くだけといたって単純だ。

 それ故に出来上がったポップコーンの味から料理人の技量の差による違いはそれほどでない食材である。

 にも拘らず、グリンパーチは奪ったBBコーンの味、風味、香り全てに深みが増しているのだとすぐに分かった。

 試しにライズの作ったものとスターに調理させた物を食べ比べたところ、本当に同じウールジャングルで採ってきたものかと疑われるほど料理の出来具合に差が生じたのだ。

 

 そして、より美味い……ライズのBBコーンを美食會のボスに献上し、美食會発足以来の大事件が起こった。

 

 ボスが涙を流し、大笑いした。

 

 

 これには総料理長、副料理長、支部長全員が驚愕した。

 美味いものを食べれば自然と頬が緩むのは生ある生き物として当然のこと。

 

 しかし、彼らのボスは今までどんなに美味い食事を口にしても頬一つ動かすこともなく、まるで失ったものは戻ってこないと諦めの感情すら漂わせるのが普通だった。

 

 それがどうだ、その時だけはボスはBBコーンを残すことなく、無心になって食べ尽くした。

 食事が終わった瞬間、まるで遊園地から家に帰り、夢の時間から現実に引き戻された子供のような悲しみの表情すら浮かべていた。

 

 持ってきたグリンですら困惑する事態に誰も、何も言うことができなかったが、しばらくしてボスが口を開いた。

 

 

 これを作った料理人を連れてこい

 

 この瞬間、美食會によるライズの捕獲作戦が急務となった。

 今まではスターの興味だけ向けられていたライズが本格的にターゲットとされたのだから。

 

 「ボスを唸らせる料理を作れる奴ならGODの調理もうまくいくかもしれないしねー」

 「ただ、スター様やグリン様の報告だとこいつの生存能力と防御力、危機回避能力は並外れてるから支部長クラスじゃあ煙に巻かれるだけになるって話なので、必然的にトミー様が対処することになるかと」

 「敵ながら同情するぜ。副料理長以上の幹部に狙われるなんざどうしようもねえ」

 

 バリーはボギーの言葉に嘲笑いながらも心の隅で同情すらする。

 自分なら間違いなく生きていられないだろうから。

 

 「死なないってことは力加減する必要もないから楽で助かるよ。加減ってボクの一番苦手なことだからね」

 

 静かに、それでいて確実に美食屋たちを追う彼らの狂歯がトリコ、そしてライズたちに向けられていた。

*1
捕獲レベル11 普段から焼けるような高温を発し、食べればたちまち体の中から温まるほどの保温効果がある。冬のシーズンに人気のある食材だが、調理法を間違えたり過剰摂取すると発熱で苦しむこととなる。

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