この世界に来て、トリコの世界だと知ってからずっと自分のできることを考えてきた。
トリコの話がこの世界に忠実に再現されるかも分からないが、大まかにこれから起こるであろう大事件のことを考えると備えようと思うのは当然のことだった。
そのために必要なのは、自分の強みを把握し伸ばしていくことだった。
自分の唯一無二の強み、それは転生者故の発想力である。
世界を跨ぎ、現実世界との格差を味わってきたからこそ培ってきた発想力こそが最大の武器。
ただし、その発想が突飛なだけで実現できなければどうしようもない。
だが、グルメ細胞、トリコ世界の食材はどんな突拍子もない力も実現させる。
その力を自由に制御できれば、頭の中に描く力を現実にすることができるかもしれない。
そのために必要なのは、常に自分の望む力を想像し続けること。
グルメ細胞は生きるため、強くなるため、食べるための進化に貪欲だ。
想像するのはいつだって、最強の自分だ。
「並の手合いならさっきの一撃でやられている所だが、驚異的な体力だ」
カツン、と氷の洞窟に響く靴の音と共に眼前にたたずむライズの姿を視界にとらえて足を止める。
アルファロ自身も今の一撃で逃げる体力を奪ったのだと確信していたがゆえに、目の前でこうして立ち上がっていることに驚きを示していた。
ライズの口元から顎にまで伸びる赤い血の跡を見るにダメージを負わせたが、あくまでダメージを与えた程度だったのだろうか。
皿が当たる直前にライズの体表面や筋肉、果ては骨すらも軟化してダメージを吸収していたことは確認していた。
故に、攻撃が効かなかったのかと思ったのもつかの間、天井で消えゆくオーロラの残滓に気付き、全てを察した。
「なるほど、運よくスープを口にして細胞が進化したのか。なら、さっきよりは手加減しなくても問題はなさそうだ」
複腕全てに皿を持ち、構える。
アルファロは決してライズを舐めてかかることはない。
ここでの勝利条件はライズの身柄の確保、敗北条件はライズの逃亡。
実力的にはこの場の誰よりも弱いが、放っておけば何をしでかすか分からない。
現にトミーもトリコだけが相手だったならああも追い詰められることはなかっただろう。
しかし、トミーを相手にまんまと主導権を握り、策を弄し、覆しがたい実力差を覆そうとしていた。
さっきはトミーを確実に仕留めたという僅かコンマ1秒の気の緩みを突いてダメージを与えられた。
それに、細胞の進化で更に厄介になったことも考えると、手を抜くという選択肢が消えるのは必然だった。
殺す気で対処する、ライズを捕らえるにはそれくらいの気構えでなくてはならないと瞬時に判断し、全ての皿を構えたその時だった。
ライズが腰を下ろし、腕をだらんと脱力する。
ゆらゆらと生気の感じない動きから観念したかと気が緩むが、この後に、間違いであると思い知らされる。
コオオオオォォ
ライズが奇妙な呼吸音を響かせながら深呼吸を行っている。
グルメ界の環境を生きていく上で無駄なエネルギーを消費しないように努めるためにエネルギー効率のいい呼吸を身に着けることは必要不可欠。
故に、多少の呼吸の差異など気にするほどではない。
だが、アルファロはその一呼吸、それだけで直感的に気が付いた。
これは自分の知る呼吸ではない、グルメ界で鍛え上げてきた危機回避能力が警鐘を鳴らしている。
これ以上、何もさせるな。
思考よりも早く複腕から皿をライズへ投げ飛ばした。
人間界の猛獣では避けることも、受け切ることもできない圧倒的な速度と威力を秘めた八連撃が迫る。
この1秒後に皿は全てライズの急所を撃ち抜く。
全てを受けてもライズは死なないだろうが、確実に戦闘不能に追い込まれる。
それほどの脅威が目の前に迫ってもライズは微動だにしない。
動かないのは皿の動きを捉えられていないから、それは確かだ。
だが、これで油断していい相手ではない。
避けられようが耐えられようが、追撃の準備を済ませる。
いや、準備などでは遅すぎる……そう思った時には既にアルファロの体はライズへ向かっていた。
爆発的な踏み込みで氷の床が爆ぜる。
今のココの目を以てしてもアルファロが皿を投げた瞬間に姿を消し、その場所が爆発しただけに見えるだろう。
ライズを以てしても直撃を免れない追撃を前にライズは未だ微動だにしない。
一枚の皿がライズの額の皮膚に触れる。
動かない。
回転する皿が皮膚を引っ張る。
動かない。
皿が皮膚の表面を切り裂き、頭部に一部食い込み始めたその時。
0.1秒間だけ、この世からライズの姿が消えた。
この瞬間、アルファロは奇妙な感覚を覚える。
ライズが消えたことに驚き、予想通りだと気を持ち直して追撃を加えようと一本の腕を振るう。
どんなに上手く避けても避けるルートさえ読めていればどうということはない。
絶妙にコントロールされた皿はライズの回避ルートを一つだけに限定した。
回避ルートさえ分かっていればどんな攻撃も当てられる。
ライズがどんな手を使おうともアルファロは打ち砕くことができる、そう思っていた。
「な!?」
しかし、ライズの次の行動にアルファロは驚愕の声を漏らした。
それもそのはず、ライズはアルファロを避けるのではなく、真正面から迎え撃つように向かってきた。
虚を突かれたが、すぐに気を取り直す。
ライズに直接的な攻撃力はない。
こちらへの攻撃ではない以上、考えられるのは虚を突いた隙を掻い潜った戦線からの逃走だろう。
それで逃してやるほど甘くはない。
今のライズが出している速度は確かに人間界であれば敵なしだろう。
捕獲レベルであれば100、いや、200は確実にあるだろう。
だが、グルメ界を闊歩する屈強な猛獣や実力者からすれば捉えられないことはない。
目で見るのではない、第六感に近い感覚でライズを捕らえる。
「終わりだ」
弧を描いて戻ってくる皿の代わりに六腕で一斉にライズの直線上を覆う、まさにその時だった。
アルファロのわき腹に強烈な電撃が叩き込まれた。
「……っ!?」
意識外からの衝撃にアルファロの顔が歪んだ。
声も出せないほどの衝撃を受けてもなお、任務を優先する執念でライズを捕らえようと振るった腕は空を切った。
「なっ!?」
逃がすつもりはなかった、いや、逃げられるはずがなかった。
それでも、ライズは姿を消した。
何が起こったか完全に理解できなくても、この場にとどまるのは悪手だと本能で察知したからかその場から飛び退いた。
その場から離れてようやく、状況を把握した。
アルファロのいた場所にライズが独特の構えのままその場に立っていた。
これを想定していなかったわけじゃない。
センチュリースープを飲んで進化したときに新たな能力が開花したのだろう。
でなければ、あり得ない状況だった。
しかし、進化してもなお自分との実力差は雲泥の差ほどある。
その場しのぎの能力が目覚めたところで敵ではない。
「その程度で凌げるとでも……なに!?」
遅れて戻ってきた皿をキャッチして再び攻めようとした時、数枚の皿を取りこぼした。
背後の氷山を破壊してようやく止まった皿に目もくれず、異変の根源である自分の震えた手を見つめる。
「ノッキング……だと? まさか、ありえん!」
僅かに痺れる程度、放っておいてもいずれ元に戻るであろうノッキングでも、アルファロはその異常さを正しく理解した。
ノッキングは生物の神経、もしくは脳機能を麻痺させて動きを止める技術として知られているが、その奥は深い。
達人であれば食材の鮮度を止めたり遅延させたりと用途は様々である。
ただ一つだけ欠点を言うとしたら、ノッキングは生物の内部へ達していなければ効果はない。
ましてやアルファロのように驚異的な筋力を誇る生物を相手にノッキングをかけるなら、その防御力を突破する必要がある。
ノッキングはあくまで技術であり、腕力よりも技術力を必要とする。
防御が固い相手にノッキングするなら、ノッキングを内部へ通す突破力を持たせるか、より高度な技術力が必要となる。
(獲物を狩る直前の気の緩み、呼吸のタイミング、腕を振りぬいた時に生じる防御の隙間……数多の要素を緻密な計算で以て把握し、ノッキングを叩き込んだというのか!? あの刹那の、死の間際にいるストレス下の状況で!?)
アルファロは戦慄した。
ライズの正確無比な技術力に、その成長速度に。
そして、それらを加味して臨んだと思い込んで、慢心していた自分自身の愚かさに苛立ちを募らせた。
表面上では見せずとも、爆発的な感情の発露に氷山内の猛獣が一斉に逃げ出した。
今のトリコでも死を覚悟するほどの怒気を浴びたライズは再び姿を消した。
「ちぃっ!」
ライズの掌がアルファロの胸元に触れた瞬間、強力な一撃を受けた。
先ほどと同じように鋭い一撃が体を走るが、ダメージを負う訳でも人体を破壊するでもない。
ただ、鈍らせるのみだった。
「さっきより、深い……!」
明らかに体の反応が鈍くなった。
さっきは腕だけで済んだが、今度は体全体にまで及ぶ痺れを感じ始めていた。
間違いなく、ノッキング技術が上がっている。
アルファロは感情が揺れた隙を作ってしまった自分を戒めながらもライズの能力を二回受けたことによってライズの能力の本質を理解した。
「なるほど、これは反射か」
反射
それは生物の意識と関係なく反応を起こす生理現象である。
身近な例でいえば、指先に静電気が当たった時に手を引っ込める動きのことを言うが、ライズのそれはその範疇にとどまらない。
ライズのグルメ細胞がライズの記憶から反射行動を一つの動きへと昇華し、不可避のカウンターをしかける。
後にライズはこの超反射にこう名付けた。
それに加え、神速の直前にライズの身体能力も劇的に上がっている。
そしてその絡繰りにも既に気づいていた。
「体力を温存させるのではなく、身体能力を強化する呼吸法が存在するとは」
酸素を可能な限り保持した状態で呼吸を行う特殊な呼吸はグルメ界を行き来する猛者であれば全員体得している技術であるが、呼吸の度に体力が増強する呼吸など初めてだった。
ノッキングの直前に妙な呼吸音が聞こえてくるのはそのためだろう。
呼吸は現在に至るまで謎が多く、人体にもたらす効果も多岐にわたる。
呼吸を変えるだけでダイエット効果を発揮させたり、爆発的な身体能力を発揮させたり、まだ見ぬ未知の力を覚醒させる可能性すらある。
ライズはその可能性を前世のマンガ知識から感じており、鍛え上げてきた。
フィクションだからできない、そんな常識を蹴っ飛ばして実現させてくれるのがグルメ細胞だ。
「なるほど、これは手強い」
反射とノッキング、特殊な呼吸といくつもの秘密が明らかになったが、今もなおライズの意識が戻っていないことがライズの異質さをより一層際立たせていた。
ライズの異常なまでの反射能力は意識が無いからこそ、むしろ意識など必要ないという狂気的な理論の下に初めて身に着けた能力と言える。
かつて愚衛門が教えた無神経の極致……ライズの意思ではなく、進化したグルメ細胞が導き出した逃げの一手であり、反撃の一手にも通じる能力を土壇場で覚醒させた。
そして、高度なノッキング技術は今日までに培ってきたライズの豊富な格上との実戦経験の賜物でもあった。
この状態ではアルファロも手が出せない。
こと反射の瞬間に至ってはこの地球上のどの生物よりも素早いとさえ思わせる相手に通用する一手がない。
この反射の唯一にして最大の欠点さえなければ。
ライズは再び超スピードを駆使してアルファロへノッキングを仕掛ける。
意識のないライズの代わりにグルメ細胞がアルファロから何らかの信号、もしくは挙動の変化を察知して動いたのだ。
神速と呼吸の力が合わさり、徐々に鋭さを増していくノッキングをアルファロの隙に叩き込む。
アルファロの体に触れるわずかの間、意識のないライズの耳に声が届いた。
「反射とは、本人の意思と関係なく起こる瞬速の挙動……お前のそれは挙動も複雑でより素早く、恐ろしいほどの正確さで隙のある場所を突いてくるが、原理は変わらん」
本人の意識が有れば、ここで悪寒を感じて攻撃の手を止めて逃げているだろう。
しかし、反射で行われた動きを再び止めるのは現時点でのライズでは無理な話だった。
故に
アルファロの拳がライズの頭部を正確に捉えた。
殴られた口と鼻から血を吹き出し、ライズはアルファロの振り切られた拳に吹き飛ばされて氷山の壁に叩きつけられた。
破壊された壁に埋まり、完全に沈黙したライズにアルファロは姿勢を正す。
「お前の反射は恐ろしいほどの正確さで私の隙を突き、ノッキングを叩き込んだが……その正確さが仇となったな」
アルファロはライズの動きを見たのではなく、予測した。
正確にはそうなるよう誘導したということだった。
方法は単純、フェイントをかけて誘い出しただけである。
ライズの意識が無くなったことで可能となった神速の条件はアルファロが何らかの動きを見せることで発動する。
その際、ライズの意識が無いために簡単なフェイントにも神速が働き、発動させてしまった。
ライズの意識が有ればフェイントだと見抜かれ、誘われることもなかったのだが、それも後の祭りだ。
後は意図的に隙を作ってやれば、プログラムされた機械のように意図的に作った隙を突いてくる。
あまりに正確で無駄のない挙動だからこそ予想しやすい。
神速の柔軟性のない挙動こそが最大の欠点であった。
そして、たった二回見ただけでその欠点を見抜いたアルファロが相手だったことが最大の不幸と言えた。
しかし、そのアルファロも今回は無傷とは言えなかった。
ノッキングで身体能力は低下させられ、ライズの神速を攻略する際に神経を消耗させたために肩で息をするほど疲弊させられている。
「まさか、ここまでやるとは……」
遅れて体が汗をドバっと吹き出し、体の熱を冷やす。
数年間、人間界でここまで追い込まれたこともなかったアルファロは戦いの最中だということも一時的に忘れて笑みを浮かべた。
ライズをこの場で確保できたことに心底安堵したからだ。
(細胞が進化した成長を加味しても、到底私には一切のダメージを与えられるはずはなかった。誤算があるとすれば、細胞のパワーだけに気を取られ、こいつ自身の技量を甘く見たことか……)
力押しだけの相手ならどうとでもなった。
しかし、非力さ故に鍛えられた技術力によって防御力を突破されたのは事実。
今回の勝因は細胞が進化し、インターバルを置かずに戦闘に入ったことで暴走状態に陥り、冷静な判断ができていなかったことで動きが単調になったことだろう。
あの超反射と悪辣な策を講じられていれば捉えることは叶わなかっただろう。
(この成長率……ここで逃せば次に捕えられるか)
そこまで考えた時に外から大きな揺れと猛獣のけたたましい咆哮が響き渡った。
トリコとトミーの戦いが激化しているのだろうか、そう思っているとハエに乗ったミクロ型GTロボが自分の傍に飛んできた。
目当てのものを担いで。
「センチュリースープは確保しましたか。よくやりましたねユー」
「モッタイナキオ言葉。コノ体ノ操作性ノ難シサト非力サ故ニ一人殺シ損ネタノガ残念デスガ」
「構いませんよ。スープと、あの料理人以外はどうでもいい。恥ずかしながら、私も見ての通り、かなりの体力を消耗させられました」
「……ソレホドマデノ相手ダッタノデスカ」
「私でなければこうはならなかったでしょう。トミーはどうしてます?」
「通リ過ギタ程度デシカ確認シテマセンガ、トリコト交戦後ニ負傷、ソノ後現地ニイタ再生屋ノ鉄平ニ出クワシテトミー様モカナリ追イ詰メラレ、パラサイトエンペラーヲ……」
「美食會の幹部がそろいもそろって不甲斐ない……」
自嘲と任務を成功させた安堵を込めたため息を漏らす様子にGTロボを通してユーはそこまで疲弊しきったアルファロの姿に驚く。
そんな部下の心情を無視してか息を整えたアルファロは立ち上がり、スープの入ったケースを受け取る。
「ともあれ、今回のターゲットである件の料理人とスープの確保は完了したことですし、トミーたちを回収して撤収します」
「トリコ達ハドウシマショウ?」
「知れたこと、始末するんですよ。消耗していたとはいえ、トミーを相手にここまでやれるのだ。厄介な芽が若いうちに摘み取らなければ」
「これこれ、おイタはそこまでにしときなさい」
「!?」
一瞬の寒気と殺気が体を駆け巡る。
この瞬間、自分が数十回も殺されたとまで錯覚させられるほどの濃密な殺気にアルファロは反射的に声の響いた先に振り向く。
その先にはこの場にいるはずがない節乃が立っていた。
「……これはこれは、かの人間国宝がこんな所へ何の用ですか?」
「うっふっふ。来るとは思っていたがアルファロ、ぬしが来るとは思わなかった。あの暴食バカもそれほど本気だということかえ?」
「我々のボスをそんな風に呼べるのはこの世であなたを含めた数人くらいでしょう……あなたが美食會へ来てくれるのならボスもお喜びになられますが……」
「うっふっふ。心にもないことを……ぬしらが狙うのはスープと、そこでノびている不肖の弟子の方じゃろ?」
節乃の言葉にアルファロは取り繕っていた表情に陰りを見せた。
節乃の言葉でライズが正真正銘の節乃の弟子であることを確信したと同時に、穏やかな口調と裏腹に声も低くなり、重圧が増したことを察知したからだ。
「生憎じゃが、その馬鹿弟子にはまだまだ教えてやることがあるんでの、置いてってもらう。トリコたちを迎えに来たのも目的じゃから、これ以上何もするでない。スープだけ持って帰るがよい」
「……息が白いですね。体がなまっているのでは?」
「なまっていればなんじゃ? ここで一戦交えるか? 今ならあたしゃに勝てると?」
試してみるかえ?
瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの殺気が体を突き抜ける。
痺れるような衝撃の瞬間、懐に隠し、構えていた皿が音を立てて割れて地面に落ちた。
アルファロは状況の悪さに歯噛みする。
こっちは体力を削られ、腕も数本ノッキングで痺れて満足に動かせない。
愛用していた皿も今ので全滅し、トミーたちの応援も望める状況じゃない。
元から実力差がある相手故に勝ちの目が見えないのは明白だ。
しかし、アルファロも退けない理由があった。
(この料理人をここで捕まえなければ、この先捕えられる保証などどこにもない……)
ここに来たのはあくまでスープの確保が目的であるため、必要最低限の目的は既に達成されている。
本来ならここで退くべきであり、勝てる見込みのない戦いでこれ以上の損失を出すのは望ましくない。側近としては素直に頷いて妥協すべきである。
しかし、ライズとの一戦でアルファロに懸念が生まれていた。
もしかしたら、これが最大にして最後の好機ではないのかと。
ライズの逃げ足や生存能力だけに目を取られていたが、今回の進化でライズは戦闘能力は得られずとも抵抗する能力を得た。
実力差を物ともせず、屈強な防御すらも突破して手痛い傷を残すまでの成長率にアルファロは将来的な危惧を抱いていた。
ここで逃せば、この先捕えるのが更に難しくなってくる。
ボスが求めるものを手に入れる最後の機会になるかもしれない。
「ユー……私が節乃を抑えます。あなたは何を置いてでも料理人とスープを持って離れなさい」
「アルファロ様……シカシ……」
「言葉は無用です。私やトミーたちよりボスの命令が最優先です」
「そんな暇、あたしゃが与えるとでも?」
戦う意志あり。
節乃の殺気が明確な殺意となり、その余波で氷山の洞窟が破壊されていく。
アルファロもこの先、自分の命を投げ打ってでもユーを逃がす覚悟を決める。
場の緊張感が最高潮に達したとき、ミクロ型GTロボから一瞬だけノイズが走り、通信が途絶える。
目の前の強敵に注意を向けながらも様子のおかしいGTロボに注意を向けていたその時、GTロボから声が響いた。
「ここは退け。アルファロ」
「っ!?……ボス!?」
「ほう……」
さっきまで操縦していた部下の声ではなく、忠誠を誓ったボスの声に、聞き覚えのある懐かしい声にアルファロと節乃がそれぞれの反応を示す。
そんな二人の様子も気にすることなく、声の主は淡々と命令を下す。
「そのババア相手に欲張っては全てを失うことになる。スープは手に入れた、その任務を達成した以上、それ以上の成果は求めない」
「しかし、ボス……! この料理人は今ここで……!」
「心配はない。いずれなんとかしよう。それに、ネズミが入り込んでいる今、美食會にはお前のように信頼できる奴が必要だ。お前をここで失う訳にはいかん」
「……かしこまりました。ボスの命であれば」
美食會のボスはアルファロの言わんとすることを理解し、それを遮った。
アルファロの声色で今、どんな状況であるかを察したからだ。
対するアルファロは電子音越しでも伝わってくるボスの気迫と確信しているような自信に、自分の抱いている不安を押し込めて苦渋の決断を下した。
ボスの命令は自分たちの意思などよりも優先されるべきなのだから。
そんなやり取りを静観していた節乃はここで口を開いた。
「三虎、あたしゃに挨拶も無しかえ?」
「お前に用はないからな」
「随分とエラくなったのう……フローゼ様の後ろをついて回った小童が成長しおってからに」
「……」
ミクロ型GTロボから鋭い威圧を感じ、節乃もここで口を閉ざす。
恩師ともいえる偉大な料理人の関わった思い出を一時の感情で口に出して望まぬ戦いを引き起こす火種になることを、三虎の黄金のように光り輝いていた思い出を汚すことを望まなかったからだ。
長く会っていなかった人物に出会って知らずに昂っていた感情も落ち着いた所で、節乃はため息を漏らした。
「イチちゃんやジロちゃんに伝えることは?」
「二人とはいずれ出会うだろう……その時に伝えるさ」
「そうかい。なら、はよ帰るといい。あたしゃも手は出さない」
節乃と三虎、互いに並々ならぬ思いは抱えても、この場で長く語ることはない。
いずれ来るであろう避けられない戦いが来ると確信しているがゆえに。
こうして、去っていく美食會とトリコたちを迎えに行く節乃との別れにより、短くも長く感じたアイスヘルでの狩りは幕を下ろしたのだった。
トリコ……トミーと交戦し、原作通り左腕欠損した後に鉄平より救出される。
トミー……原作通りパラサイトエンペラーの召喚で気絶、アルファロに救出される。
鉄平……原作通り後からきてトミーを追い詰めてヘルボロスを召喚。
ゾンゲ……エッセンシャルオイル撒き散らせてトミーからヘイトを向けられ続けたアロマ原始人の爆誕。
滝丸……原作通り負傷。
マッチとラムたち……原作通り負傷
ボギー&バリー……原作通りヘルボロスに食われるも、アルファロによって救出
小松&ユン……原作通り
アルファロ……ライズの将来性を危惧して節ばあとやり合おうとするも、三虎によって止められた。この面子の中で最も無謀なことをしようとした人。
ユー……三虎によってロボ操縦を交代した
三虎&節乃……何気に原作で直接的な接点がなかったので書いてみた。
ライズ……センチュリースープ飲んで進化した。元から波紋の呼吸やら鬼滅の刃から独特の呼吸法を身に付けたりと他作品の技を惜しみなく盗用している。土壇場で新技を身に着けたが、細胞の暴走により単調な動きになったところをアルファロにやられた。どうせまた生き返る。