もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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それぞれの挑戦

怒涛と波乱、いくつかのイレギュラーが渦巻いたアイスヘルでの旅を終えてからおよそ一カ月経過したころ、小松はいつもの様子でホテルグルメに復帰していた。

帰ってきた当初は疲労のピークを迎えて腕は衰えずとも体力が限界に達していた。

 

ライズの介抱(+ノッキング)によって一週間の休養を経て完全に復活したのだ。

 

一週間も休んでしまったことに小松は慌てて職場に復帰し、勤務時間を終えた後にセンチュリースープの研究を行っている。

 

トリコたちに食べてもらうために、そして先人たちが残してくれた世紀の美食(センチュリースープ)を現代に蘇らせるという並々ならぬ決意を秘めた熱意を前に誰も割り込めず、小松の挑戦は一日も休まずに続いている。

 

一人の例外を除いては

 

 

 

 

 

 

「できました! 今回のは割と自信作なんですよ!」

「どれどれ、『ミルクホタテ』と『虹アサリ』……魚介系とほのかに『モーターオニオン』か。節ばあのスープの食材もある程度使われてるな」

「やっぱり分かっちゃいますか。今は節乃さんのスープと同じ食材を使いつつ、少しずつ食材を変えて味を探っていこうかなって」

「そういうアプローチね……でも、これだとまろやかさが突出して別物になってるから、キレを出すために『スパイ酢』を入れてみてはどうだろうか?」

「いいですね! 味のインパクトが増して食べやすくなるかも!」

 

就業時間が終わり、騒がしかった厨房は静まり返っている。

そんな厨房で小松と見知らぬ男がレシピ開発に勤しんでいることに調理スタッフは不思議そうに眺めていた。

 

「小松シェフと料理している人は誰なんだ?」

「シェフが何も言わないってことは料理人なんだろうけど……」

「オレは支配人から聞いたけど、非常勤の料理人らしい」

「そんな話あったっけ?」

 

ライズの姿を見たのはこれで初めてではないが、基本的な自己紹介もされず軽い挨拶だけしか交わしていないので名前くらいしか知らない。

 

今やスタッフの中では『仕事が終わると現れる謎の男』として定着していた。

ちなみに言えば小松に着いて来たユンも今では見慣れたものであり、最初は戸惑いはしたものの、小松が連れてきたことと、何より愛嬌の良さからスタッフのアイドルとして順調にホテルグルメのマスコットとなりつつあるのは余談である。

 

話は戻るが、スタッフにとって衝撃的なのは見知らぬ男がいることだけではなく、小松がその男を同じ厨房に立たせていることだった。

 

普段は温厚な小松でも料理に関しては人一倍思い入れも強いため、担当している仕事に関しては誰にも立ち入らせないこともあるほどに頑固な面がある。

また、料理の腕に差がありすぎて隣で仕事しようものなら邪魔になってしまうため、料理中の小松には他のスタッフは近づかないようにしている。

 

そのため、いかなる場合でも料理中の小松には近づかないという常識ができつつあった。

 

そんな常識をものともせず、調理中の小松と対等に接している見知らぬ男にスタッフたちの間では衝撃が走ったのは言うまでもない。

 

「酸味とスパイシーな香りで食が進む~」

「いいですねー。脂っこい料理ともよく合いそうですねぇ」

「そう言うと思って、中華スープ風味にしてラーメンにしてみた」

「あ~、疲れた体に染みる味ですねー」

「あと、さっきの魚介系のスープに『トマ糖』も合わせたミートソースもおあがりよ!」

「貝の濃厚であっさりとした味わいにトマトの酸味と果物のような甘みを持つ『トマ糖』が絶妙です~……スパゲティやピザにも相性抜群ですね! ユンも美味しい?」

「ユン!」

「はは、美味しそうに食べるなぁ」

 

深夜の厨房で和気藹々と料理を作り、二人と一匹は次々に生まれるスープを基にした料理を楽しんでいた。

 

 

 

 

「いや、センチュリースープを作りましょうよ!!」

「ユン!?」

 

正気に戻った小松の声が厨房に響き渡る。

センチュリースープを作っていたはずなのに、ライズの雰囲気に流されて別の料理を作っていた。

 

慌てる小松にライズは優雅にワインを一口つけて一言。

 

「へたっぴ」

「えぇ!?」

「気の抜き方が下手。こうやってガスを抜いてやらなきゃ体が先に悲鳴を上げる。体を壊しては意味がないのさ」

「それはそうですけど……」

 

ライズの言うことは分かる。

ここ最近、通常の仕事をこなしながら夜通しセンチュリースープを作っているため、疲労が溜まっていることを感じる。

 

しかし、今この瞬間にも治療を頑張っているトリコのためにも早く作ってやらなきゃ、と思ってしまう。

そんな焦りを気にせずライズはワインと一品料理を食べ尽くす。

 

「食材ってのは様々な種類があるのと同じように個性も性格もそれぞれ違う。ただ、そんな食材たちは皆等しく、美味しく、楽しく調理されたいのさ」

「!?」

「言ってしまえば楽しんだもん勝ちってこと。そうしてれば食材は語り掛けてくる」

 

自分なりのコツを伝えるも、小松は自分の思考に没頭している。

話は聞いているだろうから大丈夫だろうと放っておく。

 

「そうか……そうだよね。ボクはいつの間にか食材を選ぶなんて烏滸がましいことをしていた。節乃さんからもあんなに言われていたのに……」

 

ブツブツと自分に言い聞かせるように呟いた後、まるでライズがいることを忘れているかのように厨房に戻って調理に戻る。

あの様子だと何か掴んだっぽいな。

 

ていうか、今回の俺は小松さんの身の回りの雑事の処理及び、こうやって精神安定の役割を担っている。

ていうか、あまり口出さずにサポートに徹するだけでかなりの躍進が見られそうで逆に楽しみになってきた。

 

原作の小松さんには並び立てるような助手がいなかったため、かなり大変ではなかったのか。

というか、小松さんのターニングポイントとなるスープ編が終われば完全に俺なんか越されるな。

 

別に嫌というわけではないが、いつの間にか後輩のように感じていたため、むしろ感慨深いものがある。

と同時に、こんなにあっさりと抜かれるのもまた不甲斐ないと思う所もあるため、うかうかしてられない。

今回のスープづくりは小松さんに任せるが、俺は俺でセンチュリースープの研究を行う。

 

「お前に選ばれなかった時点で俺には作れないからな~」

「ユン?」

 

床でチョコンと佇むユンの頭をなでて独り言ちる。

というのも、今回のユンのように歩み寄ってきた食材で料理が成功するのは選ばれた料理人にしか真価を発揮しないからだ。

 

例えばの話、おにぎりを握った時、作り方や食材は同じなのに作る人によって味が変わるのと同じ話だ。

おにぎりの時はその人の皮脂や匂いが微妙に味わいに影響するというが、この世界の食材に至っては小松さんが作るセンチュリースープと同じレシピで俺や節ばあが作っても完璧に再現できないのだ。

 

体温度0.1度の差でも味が大きく変わる食材は普通にあるが、そういう話ではない。

恐らく、食材の意思も料理の出来に関係してくるのだと思う。

これはメテオガーリックやメロウコーラなど原作で出てきた捕獲も調理も難しい、表現するなら我の強い食材を使う時に起こる現象である。

 

なら、小松さん以外にスープを作れないのか、と言われれば答えはNOである。

そんな話を持ち出すと古代人でもスープは作れなかったはずなのだ。

そのためには、比較的調理も捕獲も容易で声を聞かずとも調理できるありふれた食材で作ればいい。

 

数あるグルメ食材はグルメ細胞を宿すだけあって利己的であるゆえに味が美味しい分、捕獲レベルが上がる一方で、ストライプサーモンやアーモンドキャベツの様に難易度の低い食材は自己主張も弱いという特徴がある。

食材の声が聴ける料理人にしか分からないと思うが。

 

要するに、自己主張が弱い食材の旨味を複雑に絡ませていけば、ありふれた食材でセンチュリースープの製作は可能なのだ。

開発にかける時間とコストが恐ろしく膨大なのが欠点だが、成し遂げた時にはかなりコストと難易度が低くなるという利点がある。

 

俺とて料理人である以上、スープを作りたいという気持ちはある。

 

製作過程で没となっていくスープで色んな料理を作るのも研究の一環である。

後輩の尻にくっつく形で情けないが、こっちはこっちで気長にやらせてもらおう。

 

「ふふ、久々に面白くなってきた」

「ユン?」

 

こっちを見上げて首を傾げるユンの頭から手を放す。

久しく直面していなかった難題にひたむきに修業していた感覚を思い出し、笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「それはそれとして海鮮出汁で作った味噌汁の味見してくれへん?」

「だからスープ作りましょうって! いただきますけど!!」

 

ライズは何気にこの状況を楽しんでいた。




小松「スープを早く作るぞ!」

オリ主「出来たスープを改良して安価で作れるよう準備したろ」

今回はこんな感じです。かなり独自解釈を拡大させた回でした。
トリコ陣営はほぼ原作通りですが、ゾンゲがどう影響するかはちょろっとだけ書く予定です。

それと、長らく登場が長引いたキャラを登場させようと思います。
ここまで引っ張ってすいませんでした。

それでは、また次回にお会いしましょう!
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