なんなら、少しこの作品では性格が少し変わってるかもですが、容赦ください。
とある読者さんから、この作品にヒロインはいないかと聞かれましたが、正直なところ私もいるかどうかわかっていません。
奇妙なことを言っている自覚はありますが、そう答えるほかありません。
ていうか、私の能力では
ヒロインの絡みをかこうものなら上手く書けるか分からないので、イチャイチャ表現はあまり出ないものと思ってください。
気が乗った時だけ、書くかもしれません。
初対面時の印象は一言でいえば最悪だった。
駆け出しの頃、ゾンゲと共に食材を求めてビオトープを探索していた時だった。
自分以外では獰猛な猛獣しかいないはずの場所に女性の悲鳴が聞こえた。
あまりに場違いだったため、最初は聞き間違いかと思っていたが、絶え間なく叫び続けるものだからただ事でないと感じて向かうと、そこにはハンディカメラ片手に猛獣から逃げ惑う女性の姿があった。
当時、キャスターを目指してフリーのカメラマンをやっていた女性はIGOの管理するビオトープに密入したものの、当然ながら猛獣に出くわして逃げている場面に出くわしたのだ。
降って湧いたようなトラブルを片付けて女性を助けたものの、無断で危険地帯に忍び込んだ初犯に関しては同情もなかったため、IGOに引き渡した。
最初から最後まで最悪なファーストコンタクトは彼女との奇妙な交流のきっかけにすぎなかったのだ。
「ん~……なんだか体が軽くなって生き返った気分だわ!」
「ティナさんでしたっけ? ノッキングかけられて大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫! ノッキングも解いてもらったし、むしろかけられる前よりも凄く調子もよくなったくらいだから」
「ノッキングってそんな効果ありましたっけ!?」
さっきまで店の前で騒いでいた女性はさっきまでの鬼気迫る圧もナリを潜ませて機嫌よさそうに小松と向かい合ってテーブルに腰を下ろしている。
「あー、ライズってグルメ整体師のマリーからもノッキングを教えてもらったって言ってたっけ?」
「マリー……って言いますと?」
「マリー知らないの!? ノッキングを施すことで体の不調を治したり、取り扱いが困難な健康食材も駆使して重い病気すらも治す超腕利きのグルメ整体師よ。一時間のマッサージで最低100万はかかるけど、予約は5年先まで埋まるほどのね」
「100万!? 5年!? そんなにすごい人がいるなんて!?」
「前々から思ってたけど、小松って世間の常識に結構疎いよな」
唐突にティナと小松の会話に入りながら冷えた水を渡す。
「ちょっとライズ! あの場から離れるためにノッキングは駄目でしょ! 乙女への対応とは思えないわよ!」
「乙女は衝動に身を任せて店前で騒いだり危険地域に無許可で忍び込むことはしねえ。それとも、あのままグルメ警察呼ばれた方がよかったか?」
「そ、それは……」
「はぁ……その無鉄砲さはなんとかならねえのか」
溜息を吐きながらドカっと同じテーブルについて頬杖を突く。
ライズからの冷たい視線にティナは顔を背けて視線から逃れる。
そんな様子に言っても無駄だと思ったライズも話題を変える。
「で、今日来た要件は?」
「そんなの決まってるじゃない! あんたが再び料理人として再起したことへの独占インタビューよ!」
「うんそうか。今すぐ帰れ」
「いい笑顔で辛辣!」
笑顔で毒を吐くライズに小松はギョッとした。
あからさまに早く帰れと言外に言うライズの豹変に少し引き気味になるも、小松は毒を吐くライズに気にした様子も見せないティナの言葉の一つに疑問を覚えて尋ねた。
「あの、ライズさんが料理人として再起って何ですか? ライズさんは今も料理人だと思うんですが……」
「あぁそのことね。私が言ったのはそういう意味じゃなくて、ランキングに再び載るってこと」
「え!? ライズさんってランキングに載ったことあるんですか!? 見たことありませんよ!」
それを聞くと、ライズはバツが悪そうに視線を逸らし、ティナはため息をついてライズをジト目で見る。
さっきと立場が逆転するという珍場面に小松は首を傾げる。
「これ10年前の世界料理人ランキングなんだけどね、ここ見て」
「どれどれ……え、は、85位、ライズって、ええぇぇぇぇ!!」
ティナから渡された雑誌のランキングを見て小松は驚きのあまり椅子からひっくり返った。
「ちょっと、大丈夫!?」
「そ、そんなことより、85位って、すごいじゃないですか!! 本当にこれ、ライズさんが!?」
「驚くべきことに、当時デビューしたときは店を出してからわずか一年でランキング入りを果たし、当時は超新星って言われてたほどだからね」
「一年!? デビューしてから一年って、相当早いじゃないですか!?」
「今やランキング一位の常連である調理王ザウスでもデビューしてからランキングに載るまで3年はかけてるし、今でもライズの記録を上回る料理人は、いないのよ」
「うひゃああぁぁぁ! すごおおぉぉぉい!」
「なんでお前らが自慢そうにしてんの」
楽しそうに語り合うティナと小松にライズは疲れたように溜息を吐く。
ていうか、なんでそんな雑誌を持ってきたのかと突っ込みを入れたいが、入れると絡まれるので何も言わない。
自分をあまり語るのを避けてるライズにとってあまり触れてほしくない話題に小松は悪意なく切り込んでくる。
今だけは小松のフレンドリーさが恨めしいとさえ思ってしまったほどに。
「でも、ライズさんの名前ランキングに載ってませんよね。何か理由でもあったんですか?」
「あ~、まあ、ね……まあ色々と……」
「あ、別に話したくなかったら言わなくても……」
答えにくそうにするライズに小松はすかさずフォローする。
もしかしたら触れられたくない問題だったかもしれない。
ふと脳裏によぎった。
世界中に数億いる料理人の中でランキングトップ100以内に載ること自体が料理人にとって一生に残る名誉であり、一度でもランキング入りしていれば、その実績だけで客を呼び、店を繁盛させることは可能である。
しかし、一度でもランキングに入ったものの中には当時の栄光が忘れられず、ただひたすら料理を美味しくすることに取り憑かれて身の丈に合わない調理器具や食材に手を出して全財産を投げ出すものも少なくない。
それどころかメルク包丁の使い方を誤って負傷したり、特殊調理食材の調理に失敗して食中毒事件を起こすなど、ランキングに嵌った一部の者の末路など料理人の業界では珍しくない。
もしかしたら、ライズさんに壮絶な過去が―――
「単にライズが1年で自己破産しただけなんだけどね」
「えぇ!?」
呆れたティナからの真実に小松は予想以上に俗的な理由に逆に驚いた。
話の流れからして挫折とか失敗とか壮絶な過去を連想させられたが、別にそんなことはなかった。
「ていうか、なんで自己破産なんですか!? ライズさん、個人的に経営だとかそういうの得意だって思いましたけど」
「そうよ。基本的に運営のような書類仕事とかは全般的に得意な方なのよ。他の人よりも頭が回るから仕事も数十倍早いし、体力もあるから普通の人でも一カ月かかるような仕事も一時間で終わらせるような超インテリよ。こう見えて」
「こう見えてってどういう意味だ」
小松から見てライズは今まで会ってきた誰よりも料理の才に恵まれ、いつまでもその背中を追いたいと自分の中にある熱い何かを掻き立てるような存在である。
しかし、それ以外の部分ではあまり触れさせてもらえない……というより触れてこなかったということもあったため、自分の知らないライズの過去に興味を持った。
「聞いた話だと、節乃シェフから独り立ちする条件として5年以内にランキング100位以内に入るってことだったわよね?」
「まあな。基本的に一回でも載ればよかったし、そもそもフリーでやるつもりだったから店やる気なかったから最短でやることやって片付ける気でいたし」
「でも、ランキングに載るのってそんな簡単なことなんですか?」
「そんなわけないでしょ? ランキングの採点は料理の腕だけじゃなくて店の売り上げや接客態度、年間の売り上げとか細かいところも全て精査し、厳正な基準で付けられてるんですもの。何十億もの料理人を押しのけてトップ100に入り込むだけでも偉業そのものよ」
熱弁するティナの横で他人事のようにしているライズに小松も呆れと驚きで開いた口が塞がらない。
この場に他の料理人がいようものならライズに対して特大級の嫉妬をぶつけていただろう。
「だけど、ライズ料理の味だけでランキング入りを果たしたんだからホント、出鱈目だわ」
「凄いですね!? でも、一年やそこらでは駆け出しの料理人に客がそこまで入るものなんですか?」
「そこから本領発揮よ。移動式屋台で積極的に売り出したり、当時フリーのカメラマンだった私も協力してTV局に広告で売り出したり、何故か私、広告塔としてグルメタウンのど真ん中で歌わされたこともあったわ、そういや」
「手あたり次第ですね……」
「歌は上手くいってただろ。客も喜んでたし、スカウトもされてたし、そっちのほうがうまくいくと思ってたけどね俺は。ティナの声、好きだし(前世の好きな声優とマジで同じ声だし)」
「え、ちょっと……何よ急に……そんなこと急に言われても……」
話を聞くにあたって急にしんみりと思い出話にシフトしていき、本人としては自覚無しに口説く(マジのクソボケ)ため、イジイジとするティナ。
男と女のアレな雰囲気を感じ取った小松は途中から居心地が悪くなっていく感じがする。
「えっと、ティナさんはゾンゲさんともお知り合いで?」
「知ってるわよ? あの原始人」
(ナチュラルに原始人呼び……)
仲がいい故か悪い故か判断しにくい呼び方に小松は困惑するも、もうわかり切ってることなのかティナもそのまま話を続ける。
「そういえばあんたと一緒にいるゾンゲはどこにいんの? 別行動?」
「今、ライフでトリコの治療の手伝い」
「トリコ!? あの美食四天王の!? どういう関係なのよ!?」
「一緒に飯食ったり未知な食材を探索する関係」
「ズブズブじゃないの! ねね、今度取材させてちょうだいよ!」
「そういうのは小松に言ってくれ。この人、トリコのコンビだから」
「コンビじゃありませんよ!? なれたら光栄ですけど!」
「いずれなるから大丈夫でしょ?」
「適当過ぎません!?」
「こ……これは間違いなくてんこ盛りスクープの予感……小松くんよね? ちょっとインタビューを少しだけ……」
ティナの追及を避けて小松を売った結果、小松にマシンガントークで詰め寄るティナに小松は引いた。
しかし、ティナのしつこさを知っているライズとしては今この瞬間だけでも静かにしてもらえるよう取っておいたカードを切る。
「取材はもう数か月してからな。面白い記事が書けるからな」
「面白いって、ちょっと、あんた何か隠してるわね? 教えてよ」
「その時までのお楽しみってことで。今、情報漏れると世紀のレシピ開発に支障が出るし、何なら協力してくれるならいの一番に取材させてやる」
「……後で知らないって言わないわよね?」
「俺がそんなくだらない噓を言うとでも?」
「……言質は取ったからね? 後で嘘だったなんて言ったら許さないからね?」
そう言いながらお互いに手をがっしり握り合って交渉が成立したことを示す。
ティナも今回のライズ復活の記事を書こうとしていたが、思わぬ収穫にノッキングされたことも忘れてルンルンと席を立つ。
「あ、そうだ。今度は原始人も呼んで飲みに行きましょうよ。グルメリポーターとして結構色んな店回ってるんだから良いとこ知ってんのよ? とびっきりのスクープが取れたならカラオケで歌ってあげてもいいわよ?」
「お前がフリーから正式にキャスターになってから疎遠になったんだろうが。それと、歌だけど、マジでデビューしとけ? プロデュースくらいしてやるから」
「アタシの声に対してあんたの執念が恐ろしいんだけど。ていうか、あんたら危険地帯に入り浸ってるから中々連絡できないのよ! また前みたいに困ったことがあれば連絡しなさい。情報操作くらいだけど力貸してやるわよ」
「おーおーありがてえ……その前にビオトープ侵入とか無茶な取材とかで捕まらなきゃいいけどな」
「それじゃあごきげんよう! 小松くんもまた会いましょう!」
「あ、はい……」
「逃げやがったなあの野郎……」
ライズが過去のティナのやらかしをほじくり返すと逃げるように部屋から出て言った。
逃げ足は速いというか、強かというか、癖の強い昔ながらの呑み仲間の久しぶりの姿に郷愁はおろかあまり変わっていないということにため息が出た。
嵐のような騒がしい時間に小松も少し面を食らったように苦笑している。
「ていうか、ライズさんって上位ランカーだったんですよね? また上を目指すとかってしないんですか?」
「……」
「凄く嫌そう!!」
あまり触れない方がよかったのか某大海賊みたいに表情を歪めたライズに対してあまりこの話はしないようにした方がいいかな、そう思いながらも小松たちの歩みは止まらない。
度重なる試行錯誤や食材の声による調理法の模索。
普段の仕事と折り合いを付けながらも途方もなく長い道のり
互いにフォローしながら切磋琢磨し続けたひたむきな料理人たちに、ついに食運が微笑んだ。
小松たちがスープを作り始めてからわずか半年経った時、世界中でとあるニュースが世界中を沸かせた。
“ホテルグルメ小松料理長、センチュリースープを完成させる!”
この瞬間、世界はもう一人の天才の存在を示した。
大分展開を端折りましたが、ここでスープ編を終わらせたいと思います。
ここから少しずつとはいえ、書いていく予定なのでご容赦ください。
ちなみに、主人公は第0ビオトープ職員の大多数(メルクや与作、メリスマンを除き)から一方的に弟子認定されている。
理由はライズの学習能力で幸か不幸か学んだ技術を身に着けてしまったため。
習ったのは整体術、手品の手腕、武術、天文学、暗殺術の極意、医学、グルメ仙術(カロリーを吸う札とか)
(一部除き)第0ビオトープ職員『私能力を継ぐのは君しかいない』
ライズ「マジで帰って」
今更の記述ですが、ライズの能力は根本では美食會の誰かと能力は似てますが、根本は決定的に違っています。勘のいい読者は気づいてるかもですが。