拙い作品ですが、これからもよろしくお願いします。
〇月〇日
急に訪れてきた一龍……さんに俺が驚いていると、その人は快活に笑いながら見つけた魚がストライプサーモンだと教えてくれた。
ストライプサーモン、それはトリコが初期のころに丸かじりして脂がのってるって言ってたやつだ!
脂のあるサーモン大好きだから、当時読んだ時の印象が強い。
そして、そのサーモンが生む金色イクラも高級食材だったような。キロ単価いくらだったかはもう忘れてしまった。
しかも、目の前にいるストライプサーモンには金色イクラが詰まっているらしい。
しかも、金色イクラは本体より捕獲レベルが高く、何百匹に1匹の割合でしか取れない代物だった。
マジでか!?
こんな幸運がポッと出ていいのか!?
そう思うが、すぐ横で一龍の説明に喜んでいるゾンゲの姿を見てハっとした。
これはまごうことなき食運で間違いない。
しかも、食材に引き寄せられる、とかじゃなくて食材の方から寄ってくるレベルで強い奴だ。
分かってはいたとはいえ、やはりゾンゲの天性の才は相当なものだ。
やはり、こいつは色んな意味で格が違う。
そんなことを思っていると、ゾンゲは俺に早く調理して食わせろとせがんできた。
そういえばそれが本来の目的だった、と気を取り直していると一龍が俺が料理人なのかと反応してきた。
ゾンゲは気分を良くしたのか自画自賛を混ぜながら、舎弟の俺がいずれ世界に名を轟かせる料理人になるだとか自慢すると一龍はまるで夢を語る孫を見るかのような優しい笑みでゾンゲの話を聞き続けていた。
世界のトップ相手に恐れ多いとはいえ、こうも自分のことを持ち上げられてしまうと何も言えなくなってしまう。
こういう身内や友を想う気持ちがあるからこそ、原作でも子分たちは最後までゾンゲに付いて行ったのだろう。
今更ながらその気持ちが分かってしまった。
そんなことを想っていると、ゾンゲがじいさんにもコイツの料理を食わせてやる、感謝しろよとかほざいた。
待って待ってちょっと待って。
お前何考えてんだこら。
誰に向かって口きいてんだこのアホ。
世界のトップやで?
グルメ界を含めた世の食材(一部除く)の酸いも甘いも吸い尽くした偉人だと知っての狼藉か?
そんな強さも経験も舌も超えたお人に俺の駄飯食わせようとすんな。
ゾンゲを黙らせて気にしないように言うと、ノリの良さに定評のある一龍さんは試しに食わせて見ろと快諾してきた。
この人、世界のトップなのに暇なのか?
そう思わずにいられないが、これはある意味チャンスだと気づいた。
この人なら世界中の料理人の料理を味わっているから、今の俺に足りないものを教えてくれるんじゃなかろうか?
急に料理人に食べさせて数多い欠点を指摘されても技量に差があり過ぎて逆に参考にならないかもしれない。
こういうのはまず、大まかなアドバイスから始まるものだ。
相手が作中最強の時点で最初の試食役としては豪華すぎな気もするが。
このまま狼狽えても仕方ないので、とりあえず自分なりに丁寧に魚を捌き、鱗を取り、身を料理番組の見よう見まねで薄くスライス。
腹から取り出した金色イクラをほぐし、ゾンゲに持ってきてもらった調味料を我流にブレンドしたタレに漬けて味付けをする。
その間に同じく持ってきてもらった土鍋に米と少し酒を入れて焚火で炊き上げる。
余談だが、炊いている最中に早く極楽米が食いたいと思っていた。
そして、作ったのは貧乏なりに普通のごはんで作ったいくらサーモン丼だ。
それと、サーモンの皮を火で炙ってカリカリのスティック状にしたやつも添えた。
俺なりに全力を尽くしたが、不揃いな切り身の形やサイズと調理後に残った残り物の量が自分の未熟さを見せつける。
小松や節乃とかのレベルなら全ての部位を余すことなく調理できたのだろう。
ワンピースであれば某料理人から蹴りを食らってしまうほどに。
全ての部位を有効活用できない自分の技量の低さを嘆きながら、覚悟を決めてゾンゲと俺を含めた一龍の三人で丼を食った。
真っ先にゾンゲは飯をかきこんで美味いを連呼する。
逆にこいつの嫌いな食べ物は何なんだろうか、それはそれで知りたい。
ゾンゲのことは置いて、俺の感想を述べると、滅茶苦茶うまい。
何だこれ普段食べてる魚が泥臭いとも思えるほどに風味が強くて身も舌の上で溶けて脂が甘いとさえ感じるほどに濃厚で美味い。
それに、イクラなんて弾力が普通のものと段違いに違い、少し嚙んだ程度では歯が押し返されるほどだ。漬けにしたにもかかわらずイクラ本来の旨味が強すぎて醤油やらなんやらの味が逆に塗りつぶされている。
後は身に少し骨が残ったりしたのも悔やまれる。
素人でもわかる減点対象にため息をつきながら一龍の反応をチラっと見てみると、それは俺の予想と全く違った。
垂れていた目じりが吊り上がり、驚いたような表情を浮かべて数秒間、箸が止まっていた。
えっ、何で黙ってんの? コワッ
しばらくしてから食事を再開し、拙いいくらサーモン丼を味わって食べていた。
その後は少し残った料理を持参していたグルメケースに入れて、食器を返してもらった。
その後、「感想はまた会ったときにでも教えよう」とだけ言って去っていった。
残った料理を持って帰って何をする気なんだろうか。
まさか高級食材を無駄にしたのに怒って俺の悪評を広めるためか……なんてないだろうけど、奇妙な行動に不安が募る。
あの様子だと望み薄というものだろうか。
よくよく考えたら、ストライプサーモンのイクラという高級食材を使い、料理を失敗させたのだ。
社会人だったら始末書レベルなのかもしれない。
ゾンゲに乗せられたというのもあるが、俺もかなり調子に乗ってしまった。
勢いに任せた結果、完全に失敗した。
その日は何もやる気が起きず、帰ってそのまま寝たのだった。
〇月〇日
一龍さんがまた来たあああああああぁぁぁぁぁ!?
しかも節乃さんまで連れてええええぇぇぇぇえ!?
何か知らないけどとんでもない量の食材持ってきたあああぁぁぁぁぁ!?
「適当なもの選んで適当なものを一品だけ作ってもらってもええかい?」だとおおおおおおおぉぉぉ!?
急に押しかけて畳みかけくるスタイル、止めてくれません!?
追記
俺が初めて食わせたいくらサーモン丼を気に入ったゾンゲが美食屋になることを決意し、オードブルと魚料理に金色イクラとストライプサーモンを入れた。
ゾンゲが美食屋になるきっかけを俺が作ったという衝撃的事実も一龍さんたちの来訪に話題を搔っ攫われてしまった……哀れゾンゲ。
仕事の関係で片田舎の僻地へ向かい、IGOへ帰るところじゃった。
グルメケースを片手に帰りのヘリが待つ場所へ向かっていると、少し寂れた村を見つけた。
地図にも乗らないような場所にひっそりと佇む村だったから気になり、興味本位で遠目から観察していた時だった。
二人の子供が村から飛び出し、興奮しながら少し濁った川の方へ向かっていく。
この辺りは特に危険な猛獣はいないとはいえ、他の土地から流れてくる危険な猛獣が来る可能性があるというのに不用意な奴らじゃ。
辺りを探ってみても特に危険な猛獣の類もいなさそうだったため、大丈夫かとも思ったが、子供たちの興味を引いているものには少し興味がある。
少しだけ見てから帰っても別に大丈夫じゃろ。
そう思って子供たちの後ろから川の中で泳ぐ魚を見て、驚いた。
それはきれいな水を好むストライプサーモン。
お世辞にも奇麗とは言えない水の中で悠々と泳いでいるということは群れからはぐれたか。
行動を制限されている子供たちがストライプサーモンを珍しがることは普通だと思うが、問題はそこじゃない。
このストライプサーモン、金色イクラが詰まっておる。
それなのに、なぜこの汚い川から逃げようとしないのだ!?
産卵のために必要なきれいな水を求めるのが普通だが、こいつは明らかに
産卵を控える動物なら例外なく神経が過敏となり、少しの環境の変化も嫌がるはずなのに。
もっと言えば、すぐ傍の子供たちへの反応も明らかにおかしい。
ストライプサーモンからすれば天敵がすぐ傍で騒いでいるというのに、まるで逃げるそぶりすらない。
まるで……その二人を待っていたかのように……
少し探ってみるか。
そこから少年たちに接触し、不信感を抱かせないように他愛のない話をする。
白髪……いや、銀髪の少年がライズで黒い髪のライズと同い年とは思えない老け顔の少年がゾンビ……え、レンゲ? ゾンゲ……ええいややこしい!
少し話してみると、ワシを知っているっぽいライズは大袈裟に驚いているが、ゾンゲは生意気な絡み方をしながらライズをビビらせんなと絡んでくる。
その様子に二人の仲は良好なのだと癒されながら少し世間話を進めると、ライズは料理人志望だということが分かった。
食材が集まる料理人見習い……これは面白くなってきたかもしれん。
行儀が悪いが、少年たちに頼み込んでストライプサーモンで作る料理を分けてくれないかと頼んでみると、ライズは味見をした感想と足りないものを教えてくれるならと快諾した。
向上心はあり……感心感心。
すぐ傍でライズの調理を見ていると、やはり独学と料理経験が浅いようで調理に苦戦しておる。
器具の使い方も随分と拙くて初々しささえ感じるが、ちゃんと意識して慎重に調理する姿勢は見られる。
幼いことを考えると成長の余地はある。
そんなことを考えている内にいくらサーモン丼とパリパリに焼いた皮が出てきた。
個人的に皮も料理として出したのはポイント高めじゃ
ゾンゲは既に豪快に飯をかきこんで食べて美味いを連発している。
純粋に食事を楽しむ姿に、もしかしたらトリコたちと気が合うかもしれないと思いながらワシも食べてみると、思考が一瞬止まった。
少し、味が違う。
味が調理工程と調味料で違ってくるのは当然のことだが、この時においては意味が違う。
ストライプサーモンの旨味以外にも
まるで、サーモンのいい所と別の食材のいい所を無理やり掛け合わせたかのようなチグハグ感がある。
味の掛け合わせは悪いことではないので、そこは問題じゃない。
ただ、ライズはストライプサーモンだけを使い、他の食材を使用していないことは確認済みだ。
包丁とかの調理器具の手入れ不足で他の食材の匂いが移ったという可能性もあるが、今回は違う。
あくまで旨味だけが一種類の食材の中に複数存在しているようだ。
そして、一番気になる違和感が自分の身体の中を駆け巡っている。
体が微量に震えている……いや、グルメ細胞が反応しておる。
今更ストライプサーモンに反応するとは思えないが、間違いなく、この料理が原因なのだろう。
細胞の進化……いや、細胞が喜んでいるというのか!?
何の変哲もない、未熟な料理で起こった不可解な現象。
これは少し調べてみる必要があるやもしれん。
ライズには悪いが、丼の残りを持ち帰ってせつのんに食わせてみようかの。
こりゃとんでもない奴を見つけたかもしれんな。
主人公……ズブズブと食運の魔の手に包囲され中
ゾンゲ……お前、ここで美食屋になったんかいワレェ!
一龍……料理食べたら体が悦びを知りやがった。気になるからせつのんにも食わせたろ