そのため、書き直しで時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。
ハニープリズンに呼ばれて依頼された仕事は収監された子供のレッドニトロの鎮静化でした。
どうもデイビーを手懐けた話を聞いていたらしく、俺達にレッドニトロを何とかしてほしいということらしい。
というのも、元々から子供とはいえ知能が高く、並の猛獣さえも寄せ付けないほどの強さを持ち、狂暴な猛獣に手を焼いており、ラブ所長のフェロモンも効果が薄く、収監できているが言うことを聞かないということらしい。
成長したレッドニトロの中にはフェロモンを操る個体もいるって原作でトミーも言っていたし、その子供もそれと同類だからフェロモンに耐性があるのだろうな。
そうなってくると、ハニープリズンでもそんな爆弾を抱え続ける(ゼブラよか何倍もマシ)余裕はないということなのだが、0職員にとってニトロの重要性を知る以上、無暗に駆除もできないし生態系への影響も考えると放逐もできない。
そんな時、一縷の希望として俺達が呼ばれたということになる。
俺達はレッドニトロが収監されている檻の中に入り、荒ぶる猛獣の子供と対峙し、そして―――
「二人ともご苦労様。今日は存分に食べちゃって構わないわよ」
「「いただきまーす!」」
ラブ所長からのお許しもいただき、大広間のテーブルで満漢全席を囲んで乾杯する。
心なしかラブ所長の声が弾んでいるのは気のせいではないのだろう。
長い間悩まされてきた悩みの種が一つ片付いたのだから。
「会長から話は聞いてたけど、予想以上にやるじゃない。会長が推すだけのことはあるわね」
「ま、これもオレ様たちの実力っつーか? 分かり切った結果でもあるけど感謝してくれてもいいんだぞ?」
「本当はこんなところで慰労会なんてしないけど、今日はもう遅いし、何よりあちしが久々に飲みたくなったし、無礼講でいきましょ」
「あれ、無視?」
ゾンゲのいつものムーブを受け流してラブ所長はワインを飲み干す。
その様子からかなり手を焼いていたのか、かなり上機嫌に見える。
まあ、レッドニトロって扱い難しいからね。
「今回は特別にハニープリズンの食料庫から食材使ってもいいわよ。死季の森で採れる食材もいくつか使っていいわよ」
「おぉ、てことは、マグマトータスのマグマも……!」
「残念ながらマグマを保存できる設備はないからないわよ。あそこの在庫に何があったかしら?」
「最近採れたもので言いますと鈴の様に鳴るイチゴとリンゴのストロベルとリンリンゴ、ターキー味のキノコのターキノコ、あとはおでん枝とキャンディーつららくらいですね」
「クリスマスや正月の時に旬を迎えるものがほとんどか……時期的にもまだ美味しく食べられるから、無難にターキノコのローストチキンとケーキでも作るか」
オーバンの読み上げた在庫のある食材のほとんどがスイーツ関連だったため、時季外れだけどクリスマスケーキにしてターキノコも添えれば立派なご馳走だ。
幸いにもこっちも独自に食材を持ってきていたため、割と豪華にできると思う。
メニューを決めたところで調理服に着替え、厨房に向かう直前で振り返って広間の隅っこに腰かける小さい影に声をかける。
「お前、料理に興味があるなら俺と一緒に来いよ。今日は見てるだけでいいから」
ライズの言葉と共に無言で小さな影が立ち上がり、後を付いて行く。
オーバンは冷や汗をかきながらすぐそばを通り過ぎる小さな影――レッドニトロの子供を凝視する。
そんな視線を浴びながら特に気にしない様子でレッドニトロはライズの後を追って部屋から出て言った。
人知れず一息ついたオーバンにラブ所長はため息を吐く。
「なにビビってんのよ。あの様子見ればもう大丈夫でしょ」
「……たしかに、ゾンゲ殿とライズ殿と戦ってから今までに見たこともないくらいに大人しくなりましたが、今までの被害を考えると気を抜くのは早計かと」
「まぁそうねぇ……捕獲に参加した再生屋と看守含めて重軽傷者105人に処刑獣46匹も食べられて軽くない損害だったのはそうだけど……調教師のあちしから見ても間違いないわ。あれはもう大丈夫よ。心配するだけ時間の無駄だわ」
「……所長がそう仰るなら」
レッドニトロが収監されるまでの間、捕獲に当たった再生屋や護送を受けた看守、そして貪欲な食欲によって襲われた処刑獣のことを考えると部下の心配も最もだとラブ所長も理解している。
しかも、正確な被害範囲は把握してないものの、発見から収監に至るほどの野生生物や環境への被害や、子供だからとちょっかいかけて返り討ちにされた囚人のことも考えると総被害は倍以上になるだろうと当たりを付ける。
そもそもそんな狂暴な生物を今日までゼブラが大人しく見逃していたことに驚いてすらいる。
てっきり、『チョーシにのってる』と言って殺し合いを始めると思ってすらいた。
ニトロもゼブラもフェロモンで言うこと聞かない分、近くに置いておくのはかなり危険だ。
愛しのゼブラは出したくないため、どうにかニトロを何とかしようと思っていた矢先にライズのデビル大蛇についての件を聞いたのだ。
一縷の望みをと期待してライズたちに依頼した結果、予想以上に上手く収まったものである。
まさか、持久戦でニトロの攻撃を避けまくってバテバテに疲弊させたところに料理食べさせて手懐けたのだから、同じ調教師として新たな手法にはラブ所長も素直に称賛した。
(自信なくすわねー。あちしよりも深く調教されてんじゃないのよ)
ラブ所長が猛獣を手懐ける際、フェロモンを放出して従えるのだが、これは一種の催眠と言える。
催眠のように猛獣の自我を希薄にして正気を狂わせるため、常に命令を出させる必要がある。
その上、『自分を愛せ』という強い強制には無意識的に反発が付きまとう。
ゼブラやニトロの様にフェロモンが効かないのは個人差にもよるが、その反発が勝ったからであろう。
しかし、ライズの
デイビーを手懐けてからというもの、元々手懐けられる確率の低さを克服しようと研究し続け、研鑽を続けたからこその結果ともいえる。
若い才能への僅かな嫉妬を抱かないこともないが、目の上のタンコブを排除してくれたということもあり、内心では感謝の念が強く出たため、ライズの腕を完全に信用したのだ。
最近ではGOD復活が囁かれ、近いうちに、というか現在進行形で会長から釈放を命じられているためゼブラと過ごす時間も残り少ない。
その残り少ない時間さえも馬の骨とも知らないニトロに奪われてたまるかと思っていたラブ所長はウキウキ気分でグヘヘとワインを喉に流し込んだ。
「なぁ、あいつ変な顔してるけど何かあったのか?」
「……お気になさらずとも大丈夫です」
まるでオーロラの出るスープを飲んだかのような顔のラブ所長を心配したゾンゲの気遣いにオーバンはいたたまれない気持ちになった。
横からじっと見つめてくるレッドニトロの子供の視線を受け流しながら調理を続けるライズはレッドニトロの子供の様子を観察していた。
(こうやって近くで無防備になっても襲い掛かってくる様子もなし、最初に出会った直後みたいに食欲に飢えて暴走する気配も無し……過去の俺じゃあこのレベルの猛獣も手懐けられなかったのだろうか)
ライズの見立てではこの子供のニトロの捕獲レベルは60~70だと見ている。
子供の時点でこの数値は驚異的であるにもかかわらず、体が未成熟であることも考えると潜在能力は未知数だと容易に分かる。
実力としては順調に成長しているデイビーより一歩勝っているくらいだと見ている。
このニトロも同じように鍛えていけばレベルも上がっていくのだろうか。
ライズがニトロの成長について思案するのにはワケがあった。
それは、原作のジジ、カカ、チチのように凄腕の料理人に育てられるのではないか、という思惑があったからだ。
(もし、料理人として育つのならアシスタントとして手伝ってもらえるし、なんならデイビーに次ぐボディガードとしても期待できる)
原作でのレッドニトロの扱いは散々だったものの、三シェフの様子からかなり実力が高く、グルメ界終盤でも通用することは想像に難くない。
こういう時にでも力を蓄えて最後まで生き残れる確率を少しでも高めることがライズにとって最も重要なことである以上、レッドニトロをこのまま捨て置くのはもったいないと感じたのだ。
(ていうか、食霊の乗り物をなぜ子供にする必要があったのか、食霊の力量に合わせたから? それとも奴隷として育てるための何かしらの思惑があるのか……調べておきたいことも多々あるのも事実だし)
後は、少しの好奇心も含まれているのは本人のみぞ知る。
「そういえば、俺の言葉を理解してんのかね?」
「?」
表情こそ見えないが、首を傾げる姿は子供そのものであった。
変わらない表情の代わりに纏う雰囲気である程度予想できるため、日ごろから猛獣や食材と向き合うライズにとってコミュニケーションはお手の物である。
実際、ラブ所長からもこのニトロの処遇も任せられたので、今後のことを考えると今にでも決めたいことがあった。
「とりあえず言葉を理解してると考えて話すけどよ、キミ、名前はある?」
「……」
「……名前っていうか、個別の識別名はなさそうか、それなら今日から『レド』って呼ぶけどいいか?」
「……」
「俺は『ライズ』で、『レド』」
指で名前の概念を、子供に言い聞かせるように教えつつ、ニトロに名前は『レド』だと教え込む。
今ここで完全に理解させようとは思っていない。
ネルグで子供たちの教育をしているライズであれば少しずつとはいえ、ニトロの子供に必要な教育を受けさせることも可能であろう。
まさか、自分がニトロの保護者になる日が来るとは。
今さら、本当に今さらだがどんどん原作から遠ざかっていくことに少しばかりの不安を覚えるが、それとは別に新たな可能性を楽しみにしている。
原作を知る前世の自分の抱く不安とグルメ時代を全力で駆け抜ける今の自分が抱く希望の板挟みも表に出さず、宴会用の料理を丁度作り終えた。
「ほい、味見」
「……!!」
「はっはっは。美味かろう? それ食いたいなら配膳手伝ってくれ」
やっぱりというべきか、調理した食材をニトロ改め、レドに食べさせると手足をバタバタさせて催促してきた。
やっぱりというべきか、声帯がないのかもしれない。
全ての言葉を理解できているとは思えないが、こっちの思惑を理解してか、言うこと聞けば食事にありつけると本能的に理解しているのかレドは自分より大きい皿を頭にのせて器用に運び出す。
その様子にうんうんと頷きながら料理を運びに足を踏み出したその時だった。
『おい、美味そうじゃねえか』
「……え?」
突然、聞き覚えのない声に足を止めてしまった。
ハニープリズンに来る前に予想はしていた。
物語の根幹に深くかかわり、ライズの立場的に最も慎重にならざる得ない重要人物のことを。
当然、自分のことはスルーされると予想していたものの、万が一にも考えていた……原作より早く接触する可能性も。
だからこうして、あっちから接触する可能性も想定していたのだが、いざ現実のものとなると状況を判断する時間はわずかでも必要だった。
想定外があるとしたら、初期のゼブラの聞く耳の無さくらいだった。
『オレにもよこせ』
「え、いや、ちょっと待っ……!」
その瞬間、今まさに向かおうとしていた広場から破壊による轟音が響き、ハニープリズン全体が揺れて天井から土煙がパラパラ落ちてきた。
「な、なんだ今のはあぁぁぁぁ!?」
「大変だー! ゼブラが、ゼブラがまた脱獄したああぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃああぁぁぁ! 処刑獣と囚人たちに多数の被害があぁぁぁぁぁ!!」
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
至る所から職員と囚人、処刑獣と生きとし生ける全ての断末魔があちこちから壁越しに響いてくる。
突然の異常事態に警戒と恐怖からか毛を逆立てて皿を手放すことなく臨戦態勢を取るレドの横でこれだけで現状を把握してしまったライズはキリキリと胃が痛くなっていくのを感じた。
「か、帰りたい……」
今後とも深く付き合っていかなければならないという使命感とは別に危険人物と関わりたくないという気持ちの狭間で葛藤しながら白く燃え尽きていた。
ニトロの子供:ポ〇モンみたいに弱らせた後で手懐けました。以降は『レド』という名前で出していきます。ポジションは半ばライズの弟子みたいなもの
アニオリ食材:現在、配信されているアニメトリコを見ながら採用しました。アニオリ要素は楽しめますが、深夜枠でいいからリメイクしてほしい今日この頃
ゼブラ:ようやく登場した最後の四天王。主人公との絡みを最も悩ませた作中屈指のツンデレ死刑囚。
ゼブラとのコミュを真面目に書くとなると体力も時間も必要という結論に至ったので、重要な所はナレで済ませる予定です。すいません。