「よう坊主、随分と美味そうな料理運んでんじゃねえか」
「オレらここには手違いで入れられちまった罪もない一般人なんだよな~」
「そんなオレたちに恵んでくれよな~」
長い間ここにいたせいで、ここが世界中の最悪の囚人が集うハニープリズンだということを忘れかけていたライズです。
現在、普段は誰も来ない倉庫の中で大柄な囚人服を着た囚人たちに囲まれつつも皿から溢れんばかりの料理を持つ手を放そうとはしない。
密室状態で極上の臭いが充満しているせいで、傍から囲んでいる囚人たちの精神状態が危ういのが既に見た目でよく伝わってくる。
「おい、さっさとコイツ殺っちまおうぜ! もう我慢できねえんだよオレぁ!!」
「おい、盛った犬みたいのが混ざってんぞ。目障りだからどっかやってくんない?」
長い禁食生活を執行されてきた反動がライズの料理の香りで揺さぶられて過激に反応する囚人にライズは心底鬱陶しそうに舌打ちしながら突き返す。
「ていうか、ここで油売ってる暇ねえから。何もしなきゃここでのことは何もなかったことにしてやるから」
「……口には気を付けろよ。オレたちがここでは何もできねえって思ってんなら大間違いだ。今すぐにでもテメエをなぶり殺しにできるんだからよ」
「プギャーwww」
「っ、このクソガキ!」
「おっと」
普段のライズからは考えられないほどに囚人たちへ侮蔑と嘲笑を込めて煽ると狙い通りに堪え性のない囚人が殴り掛かってくるが、ライズからすれば威力もスピードもあくびが出るほどに遅く、鈍い。
これまでに一龍や次郎、節乃との戦闘訓練を経てスタージュンやアルファロや屈強な猛獣との本気の死闘を乗り越えたライズにとって一囚人の一撃など目をつぶってても避けられるし、何なら食らっても怪我することもないだろう。
しかし、ライズは怒気が満ちる狭い空間の中で次々と襲い掛かってくる囚人からの攻撃を器用に避けて虚仮にする。
普段のライズなら人を馬鹿にするということはしないのだが、今のライズは涼しい顔をしながらも内心ではこの場にいる囚人たちに対して怒りしか覚えていない。
自分に襲い掛かってきたからではなく、視界に映る全員が食材の敵だからだ。
器用に皿から料理を落とさずに回避し続けるのだが、その料理が自分に語り掛けてくるのだ、こいつらは嫌い、と。
ライズは基本的に食材や食を求める人の味方ではあるが、食を汚したり料理に不誠実だったりする者は毛嫌いする気がある。
ゼブラの様に凶悪犯でも出された食事や奪った命を残さずに食べるものに関してはその限りではないのだ。
滅多にやらない挑発を続けながら器用に囚人からの猛攻を避けるライズはため息を吐く。
「この料理はとある人からの依頼だからな。これが食いたいならそいつに断ってからにしろよ」
「だったら今すぐ連れてこい! てめえ諸共ぶっ殺してやる!」
「あ、じゃあお言葉に甘えて。お呼びだよー!」
激昂した囚人の言葉を見計らったように倉庫の出口に向かって大声を張り上げた瞬間、出口が轟音と共に爆ぜた。
囚人たちはその衝撃に吹っ飛ばされ、ライズは爆ぜたその先を見据えていると巨大な人影が現れた。
「コソコソと、オレの飯を横取りとは随分とチョーシにのってるなぁ!」
「「「ゼ、ゼブラああぁぁ!?」」」
猛獣に引っ張られても物ともしない巨躯と頬にまで裂けた口という独特のシルエットで気づかない囚人などここにはいない。
並の猛獣すらもすくみ上るほどの暴力の化身がこめかみに青筋を浮かべて怯える囚人たちに近寄っていく。
「で、誰をぶっ殺すって?」
「え、あ、いや、その……」
「俺とゼブラを殺すってよ。そこまで豪語できる勇気はそうそう見れるものじゃないねぇ」
「ちょ、待っ……!」
さっきまで徒党を組んで下衆の笑みを浮かべていた表情が一変し、極寒の地に裸で放り込まれたように体をカチカチと歯を鳴らして震わせ、顔も真っ青にしている。
そんな彼らを見て俺はゼブラの後ろで拍手を送る。
ブラボー、おぉブラボー
まあ、そんな間にもゼブラが怯えていた囚人の顔に極太の拳をねじ込んでから倉庫の中が集団リンチの場から残虐な処刑場へと変貌した。
破壊された倉庫の入り口で騒ぎを聞きつけた職員たちが集まってきたが、鬼の形相で暴れまわるゼブラの姿を見てギョッとした顔ですくみ上る。
俺はそんな職員に対していいからいいから、とハンドサインを送って役に立たないであろう銃を下ろさせると同時に彼らも去っていく。
現在、ゼブラの監視役兼、臨時料理人として俺とゾンゲがハニープリズンに残っている。
レドを手懐けて間もない頃にゼブラが音弾で俺に接触し、飯作れと言って宴会場に突撃したときから全てが始まった。
あの後、急遽としてゼブラの分の料理を大量に作って全力で鎮めた。
それを境にゼブラが俺たち、正確には俺に飯を食わせろと言って帰さなくなった。
もちろん、それを無視して逃げることはできるだろうが、それをすると後が怖いし、何より暴れてハニープリズンを破壊しかねない。
もちろんラブ所長もそう思ったのか協議する間もなくゼブラの世話役に任命されてしまった。
もちろん、ゾンゲとレドも一緒に。
それからというもの、処刑場を占領しているゼブラに飯を作り、時には雑談に興じるくらいには関係も深まった。
「あの、もう食料全部切れたんだけど」
「は? 前に調達したばっかだろうが。てめえら誤魔化してんじゃあねえだろうなぁ?」
「自分が食べる量を自覚して? 供給と消費が極端に偏って残り物でやりくりしなきゃいけないくらいに困窮してるからね?」
「その割には味は変わってねえようだが?」
「お陰様で節約料理もお手の物だよ、どっかの誰かがめっちゃ食うだけであってね」
「めんどくせぇ……また下に降りて調達でもするか。オラ、付いてこい坊主」
「あ、じゃあゾンゲも一緒に連れてくから呼んでくんない?」
「あ? このサル顔も連れていく必要あんのかよ?」
「誰がサル顔だこの野郎!」
「何だかんだでいいデコイだからお得だぜ~?」
「囮って言われてんぞ」
「オレ様が来ると漏れなくライズっつぅ盾が付いてくるぜ!」
「盾って言われてんぞ」
「今、俺とゾンゲが来るとセットですげぇ食運が付いてきて珍しい食材と出会えるかも!?」
「……足は引っ張るんじゃねえぞ」
と、今ではこんな感じで散歩がてら脱獄して死季の森で食料調達をしに連れて行かれるくらいには距離も近くなったように見える。
ただ、ゾンゲ相手にも割とうまく付き合えていけているのは予想外だった。
というのも、ゼブラは好戦的なことから当然のように俺とゾンゲに勝負を仕掛けてきたことがあった。
もちろん、実力で勝てるわけもないので小細工でチクチク攻撃しながら弱らせようとするも、規格外なタフさで全然通用しなかった。
対するゼブラは音速に匹敵する攻撃を仕掛けて来ても、こっちは食運も含めて生存能力に物を言わせて攻撃を止めたり避けたりし続けたので、結局は決着が付かなかった。
ゼブラはその結果に不満だったのか事あるごとに絡んでくるようになったが、それがコミュニケーションの一種になったかどうかは分からないが、俺とゾンゲに対してトリコたちと接するような感じに収まった。
「坊主、ここにいる間はオレに飯を作るのと運動に付き合え」
「じゃあ、こっちから二つ、いや、三つ……いや四つくらい条件出したいけどいいかい?」
「なんで増えてんだテメェ!」
「じゃあ二つで」
と、料理に関してはゼブラのお眼鏡に適ったようで、小松との婚前契約(大嘘)をした時の様なやり取りをするようになった。
まさか俺にそんな話を持って来るとは思っていなかったので面を食らったが、そのおかげでゼブラに対しての大きな懸念が一つ消えたのだから結果としては報われる形となった。
ここまでゼブラにボコボコにされたのが報われたというものである。
ゾンゲはともかく前世とか色々と隠し事の多い俺とウソが嫌いなゼブラがうまく付き合っていけるかとヒヤヒヤしてたけど、予想以上に上手く事が進んでよかった~。
当初は料理人ゆえに囚人から色々とちょっかいもかけられていたが、今ではゼブラの舎弟、もしくはパシリと認識されたのか手も出されなくなった。
俺にちょっかいかける度にゼブラが返り血を浴びながらボコボコにしてきたのだから当然と言えば当然である。
「うおおおぉぉぉぉ! オレ様の歌を聞けえええぇぇぇぇ!!」
「「「ZO・N・GE! ZO・N・GE! ZO・N・GE!」」」
「ふん、歌でオレに挑むとはチョーシにのってんな。いいだろう、完膚なきまでにぶちのめしてやる」
「「「……」」」
「コールはどうしたてめえ等ぁ! この状況に適応しろコラァ!」
なお、ゾンゲはゼブラの舎弟と認識されて恐れられていたのを、尊敬されたのかと勘違いして強者ムーブしてたら、いつの間にか監獄内でコンサート開ける程に熱狂的なファンを獲得していた。
何故そうなったのかと言われると、ワンピースの赤い鼻でお馴染みのバ〇ーみたいな感じである。
妙なカリスマがあったとはいえ、なんでこーなるの?
また、監獄側としてもゼブラと上手く付き合えている貴重な人材として丁重にこき使われている節がある。
ゾンゲのゲリラライブが許されているのもそういうのがあるんだろう。
あれ、ハニープリズンって意外と楽しいぞ?
「いや、ここは遊ぶところじゃないのよ」
「「ごもっともです」」
予定よりも一カ月以上、ここに滞在していたとき、ラブ所長から反論すらできない突っ込みをもらった。
ちなみに今、俺とゾンゲは所長室のソファーで本とマンガを見ている。
「まあ、色々と目はつぶっているけど、ゼブラちゃんが無暗に暴れなくなったことはあんた達の功績だから何も言えないんだけどさ」
「いや、まあそれほどでも」
「そこまで仲がいいならゼブラちゃんの好みくらい聞けるんじゃない? ちょっと聞いてみなさいよ」
「あ、そういうのは専門外なんで」
「なによケチね……でも、ゼブラちゃんだけじゃなくて凶悪犯さえも手懐けるのは大したもんだわ。ねえ、所長はオーバンは変えられないけど、副所長枠でここの運用とかやってみない? そうなったら助かるわ~」
「すいません、お宅らのせいでもういっぱいいっぱいっす……」
「オレも興味ねー」
「あら、フられちゃった。ツれないわね~」
などと緩い会話の合間に、こうやってラブ所長からハニープリズン就職勧誘のラブコールを受けるようになってきた。
まあたしかに、ゾンゲは凶悪犯をまとめ上げていつの間にか看守王などと呼ばれるようになったし、収容される危険生物を手懐けるまでいかなくても抑えてきたりと、ここの仕事もそれなりにこなしてきたからなのだろう。
しかし、ゾンゲはもちろんのこと、俺は他の第0職員から色々と技術を叩き込まれたということもあり、これ以上はマジで何もしたくないのである。
そういう皮肉を込めてお断りをしてもラブ所長に軽くいなされる。
「残念です。ゾンゲ殿とライズ殿がいればここの運用も捗ると思うのですが」
そんな他愛のない会話をしているとオーバンが入室してきた。
「失礼します所長。先ほど、一龍会長から連絡が入りました。トリコ様がもう間もなくここに到着するとのことです」
結局、原作が追い付くまでゆっくりしすぎてしまったのだった。
ライズ:四天王の内で一番厄介だと思っていたゼブラと上手く付き合えるようになって安堵中。サウンドバズーカ×3回、ボイスミサイル×5回、サンダーノイズ×8回もモロに食らったけど生きていれば軽傷なのでヨシ!(現場猫)
ゾンゲ:某赤い鼻の海賊のように囚人たちのアイドルとなり、毎日ゲーム感覚でゼブラに絡まれている。
レド:秘かに料理の修業中。ゼブラから興味を持たれないようにとライズによって接触されないよう保護されている。
ゼブラ:暇をつぶせる人材二人に内心ニッコリ。ライズのタフネスさに口には出さないが若干引いていたが、料理は美味いので特に問題なし。ゾンゲについては嘘を吐けないサルという認識だが、無意識的に本心を馬鹿正直に口にするゾンゲは気を張ったりイライラしたりする必要のない貴重な癒し枠。食運の強さは隠しようもないので重宝している。それはそれとしていつか一発殴ってみせる。
トリコ&小松:またしても何も知らない二人