Wow Wow 食運パンチ!
俺「ぐわああぁぁぁ!」
〇月〇日
悲報?
世界のトップと美食人間国宝が薄汚い我が家にやってきました。
いや、なんでだ。
何か悪いことでもしたのか、と思いながらも粗茶を出すと二人とも我が家のように胡坐をかいて寛いでいる。
そんな姿でも下品さは感じられず、神々しささえ感じさせる。
これが上流階級の後光というやつなのか。
さすが、震えまくってお茶を盛大にぶちまけたのを快く許してくださっただけある。
時代が時代ならその場で打ち首獄門だよ、やったね、やってねえよぶち殺すぞ。
さて、現実逃避もここまでにして現実を見よう。
まず、やんごとなき人たちが下々の民に何の用なのだろうか。
その真意はさっき聞いたけど、よく理解できなかったのは俺が馬鹿だからなのだろうか?
もう一度聞くと、やっぱり最初に聞いたのと違わず同じ答えが返ってきた。
一品だけでもいいから食わせてほしい、だった。
やっぱり理解できなかった。
どうしてここで節乃さんが出張ってまで俺の料理を食いに来たのだろうか。
やっぱりこの前のいくらサーモン丼で金色いくらを無駄にしたことを怒ってる?
普通に混乱してしまったが、その様子を見かねて節乃は言葉が足りなかったと頭を下げるとボリュームある髪がゆさっと揺れる。
まるでハンバーグが揺れたみたいだ、なんて言葉にすると俺の頭が気圧でパーンとなりそうなので下手なことは言わないように努力する。
とりあえず話を黙って聞いてみると、俺の料理が他の料理人と違って特徴的だったから興味を引かれたんだとか。
その確認のために料理のプロを呼んで検証したいのだとか。
どっちにしろ只事ではない話には違いない、ふふ、怖いわ。
またしても現実逃避してしまったけど、そこは許してほしい。
まだ転生して三カ月しか経っていないのに最強格の原作キャラ、しかも世界の権威ともなれば冷や汗が止まらない。
目の前にいるこの二人、今すぐにでも地球をどうにでもできる人たちなんよ。
俺が緊張していると、節乃さんが笑って誰も取って食いやせんよと笑ってきた。
しかもありがたいことに俺の家一杯に持ってきた食材は急に押しかけてきたお詫びに節乃さんが作ってくれるとのことだった。
俺の料理はその後とのことだった。
まるで棚からぼたもちが落ちたような幸運ではあり、衝動的にOKした。
だけど、少し経って我に返った後ですぐに冷静になった。
まるで降って湧いたような幸運が小さな村にやってきたのだ。
それを俺だけ独占となると後で色々と問題が出てきそうだと思ったのだ。
主に人間関係的に。
それに、家を埋め尽くす量の高級品を一気に食うと胸やけも起こしそうだった。
既に節乃さんたちが俺のところに来ているのは村の中で周知の事実だ。
それならと、村外れの広場でバイキング形式で食事を村総出でできないでしょうか……と提案してみた。
一龍と節乃は基本的に人がいいから断らないだろう、という打算的なものだったが、案の定、了承してくれた。
その後は全てがトントン拍子だった。
村で食事会をすると触れ回ると基本的に貧しい村だからすぐに飯にありつけられると集まってきた。
そこへコック帽を被って調理器具を持ってきた節乃と一龍が食欲のエネルギーで作った箸で大量の食材を一手で掴んで持ってきていた。
こうしてみると、普通に食材が浮いてるように見えるけど、注意してじっくり観察すると本当に箸があるように見えるから不思議である。
村人は初めて見るような食材の量と食材が浮かんでいると別の意味で驚いていた。
そんな村人もいざ、節乃さんの食事の実食となると、全員がその味に驚愕し、美味い美味いと舌鼓を打ち、泣いていた。
その気持ちは分かる。
この料理は前世を含めて今まで食ってきたもの、俺が作ってきたものと比べてもまるで次元が違う。
たった一品だけでも味付けと歯ごたえ、素材の旨味、包丁の入れ方全てに至って全てが計算され尽くされたものだと思い知らされる。
味わいも深みもエグみも全てがかみ合い、あらゆる味がそれぞれ個性を出して存在を主張しながらも、決して味を落としていない。
これが、現時点の世界最高峰の料理。
何気なしに村人たちの反応を見て俺の中で不思議な感覚を感じた。
俺はこの世界に転生し、思い付きで料理人になろうと考えた半端者なのは間違いない。
そんな半端者が三カ月程度頑張ったところで美食人間国宝にはどう足掻いても敵わないことは重々承知だった。
大した技術も経験もない小僧の料理と人間国宝が作った料理のどちらがいいかと言われれば、答えは決まり切っている。
俺だってそうする。
村人の反応も納得だ。
それでも何故か 無性に悔しくなった。
嫉妬したわけじゃない。
ただ、自分の至らなさに苛立った。
三カ月の間だけど、俺の料理は最初と比べてかなり好評になっていた。
これでも知識と経験、数をこなして反省と改善を繰り返して試行錯誤してきた。
その結果がバイト先で出てくることが俺に活力を与えた。
それでも、それは子供のおままごと程度でしかなかったことを今日、ここで痛感させられた。
俺では、人の感情を動かす料理など作れない。
仕方ない、そう片づけることができていればどれだけ楽だっただろう。
今の俺からは及びもしない頂点から「お前には無理だ」と言われている気がした。
そんな俺の気も知らず、打ちのめされていた横でゾンゲが両手いっぱいの料理を持ってきた。
呑気に美味い美味いとバカ騒ぎしながらこれも食え、あれも食えと俺に突っかかってきたのに対していつもなら鬱陶しくなって追い返すのだが、今はそんな気力はない。
ため息ついて無視するが、基本的にこいつは人の話を聞かず、事情も察しないデリカシー0野郎なのだ。
その内にイライラが溜まって追い返そうとした時、こいつの一言が心に刺さった。
これが最高の料理なら、いずれ俺様の舎弟ならこれくらいの料理作りまくりだろうが!
その瞬間、一瞬だけ心の中の蠢きが止まった。
村人たちは何言ってんだこいつ?的な感じでゾンゲに遠目で見ていたが、関係なく言った。
ゾンゲ様の舎弟がこんな小さな村で収まるわけがねえだろうが! そっちが人間国宝つーなら、こっちは宇宙国宝だバカヤロー!
一生ありつけるか分からない美食を口にした後でこいつはあろうことか、節乃さんに喧嘩売るようなことを言い出した。
あまりの無礼さにゾンゲは慌てた村の大人たちに折檻されていた。
こいつはバカだ。
打算でこいつに近づいたことにも気づかないほど人からの評価も無関心なマイペース野郎だ。
それに見栄っ張りでその場しのぎの嘘を吐くような小物だと言ってもいい。
そして、そんな奴からの無茶ぶりで火が点いた俺はそれ以上の大バカだった。
自分がこんな単純で衝動的だとは思わなかった!
あぁ、くそ、考えもプランも何もねえ無茶な人生設計だとしても、もう止められそうにない!
こいつからここまで言われちまったら、こいつの言うことを裏切れねえ、何故なら。
こいつは認めた奴は絶対に
三カ月でも一緒に過ごしてたらそれくらい、知り尽くしてんだよ!
こうなったらもうヤケだ。
火を点けたのはお前だ、もし、次に適当なこと言って諦めさせるようなこと言ったらマジでぶっ殺してやる。
やるよやってやるよコノヤロー!!
イチイチ人と比べて気にして立ち止まってられるか!!
いつの日か、俺の料理食わせた奴ら全員の感情動かすくらいのもの幾らでも作ってやるよクソッタレ!
〇月〇日
冷静になって過去の日記を読むと、かなり情緒不安定になってたな俺……
酒が入って酔っていたとはいえ、書いてる内容も無茶苦茶だし、現実でもかなり失礼な態度取ったことも覚えている。
あの後、酔いがさめた翌朝に大人たちから怒られたからだ。
あの後は折檻から解放されたゾンゲと一緒に節乃さんの料理を片っ端から食いまくった。
とんでもない美食を味わうというのもあったが、いずれ必ずこの味を盗んでやるという闘争心が勝ってたからほとんどヤケ食いだった。
その後は調理中の節乃さんの腕の動きとか包丁の握り方、使い方など細かい部分まで至近距離でガン見していた。
途中で節乃さんが料理の腕を俺に見せつけてレクチャーしてくれても、俺は返事も何も返さずにただただ観察していただけ。
明らかに邪魔をしていた。
そして全ての食事を終えた後、村人たちがさっさと家に帰る中、一龍さんと節乃さんと俺だけが残った広場で俺の料理を振舞った。
節乃さんが持ってきた食材を使ってチャーハンを作った気がするが、どうやって調理したのかと言われれば、あまり覚えていない。
ただ、闘争心むき出しにしながら節乃さんから教わった技術や知識、自分の蓄えた経験を反芻させながら激情のままに作った。
そして、作り終えた瞬間に力尽きてぶっ倒れた。
それまでの事の顛末と一龍さんたちが俺の料理を持って帰ったこと、気を失った俺に気を遣って起こさずにそっとしてくれたことは置き手紙で知った。
その瞬間、やらかしを思い出して顔を手で覆って天を仰いだ。
そして、なぜそんなことを思い返しているかというと、それは食事会から一週間後に届いた俺宛の手紙が原因だった。
「せつのんのマンツーマン料理教室応募のお知らせ」
何でこうなった!?
ヘリでせつのんと帰っているとき、ライズのことを思い出して二人でその事に華を咲かせていた。
「イチちゃんの言う通り、ライズくんは面白かったのう」
「そうじゃろう。料理の方もそうじゃが、最後の火が付いた感じは予想外じゃった!」
ワッハッハと快活に笑いながら必死の形相でチャーハンを作る光景を思い出していた。
それに対し、せつのんはどこかホっとしたように己の心情を打ち明けた。
「正直、心配じゃったよ。あの子の才能は将来性があり、目を見張るものがあった。じゃが、急にあたしゃの料理を食わせると言ったときは正気を疑った」
「今まであたしゃの料理を食べてきたものは誰もが褒め称えた。じゃがそれと同時に多くの料理人の夢を打ち砕いてきたのはイチちゃんも知っておるはずじゃ」
「それを知っているはずなのに、それを承知であたしゃに頼んだ」
「期待する子に上の世界を見せてあげたい気持ちは分かる、でもその子を挫折させたときにはイチちゃんといえど許すつもりはなかった」
声と空気が重くなるなかでも一龍は表情を変えない。
パイロットが静かに震える中で、一龍は穏やかな笑みを浮かべていた。
「それでも、あの子は折れなかった……いや、途中で立ち直った。自分を愚直に信じてくれる友人のおかげで」
「……久しぶりじゃった。あたしゃの料理を食べて対抗心をむき出しにした子は」
節乃は威嚇を抑え、穏やかな笑みを浮かべた。
「食材を扱っている時に分かった。ライズくん、いや、あのゾンゲという子にも食運がある。それもかなりの潜在能力を秘めての」
「やはりか」
「おまけにライズくんの能力が考えようによっては厄介じゃな」
「何か分かったのか?」
節乃は長年の料理の経験と食材の知識から自分の思い浮かべる仮説を口にする。
「あの子は瞬間的な記憶能力がずば抜けて高い。あたしゃが調理している時に調理器具の使い方や調理工程、包丁の入れ方を教えた直後には既に自分のものにして調理を始めた」
「じゃが、その時は何も考えずに対抗心だけで動いてた気もするが?」
「身体で覚えたのじゃろう。恐らくグルメ細胞じゃな。まだ衝動的で粗い部分はあるが、最初であれだけやれるのは大したものじゃ」
「そこまでか……だとしたらあそこで腐らせるのは惜しいのう」
節乃も認めるポテンシャルがあるだけで十分に将来有望と言える。
料理のいろはを教える教育の場をどうやって紹介するか思案していると、節乃が待ったをかける。
「それについてじゃが話には続きがあっての、仮説じゃがええか?」
「あぁ、頼む」
「前回のいくらサーモン丼を作った時にあった別の旨味、味の変化はいたずらに混ぜられたかのような乱雑さがあった。じゃが、それから彼は新しい味、調理技術の学習、そして闘争心によって料理への経験値が上がった。その直後、彼は身に着けた全ての経験を総動員して自分のできる最高の料理を作った。その時、あたしゃを超えるという闘争心にグルメ細胞が反応し、あたしゃを超えるために食材を
「進化か……確かに人に宿ったグルメ細胞が進化するんじゃ。食材が調理の良し悪しで進化することはあり得る」
「たまに起こる現象じゃが、ここで問題はそこじゃない。重要なのは彼が経験を調理に反映させる能力じゃ」
「ほう……?」
「さっきのチャーハンの材料は極楽米、蟹豚のチャーシュー、ホルモンねぎ等々じゃが、チャーハンの中の風味の中にホネナシサンマ、アーモンドキャベツ、ベーコンの葉のように材料として使わなかった具材の旨味があった」
「……というと?」
「これらの食材は全て今日食べて、覚えた食材じゃ。その覚えた味は遺伝子に記憶され、その記憶を食欲のエネルギーで調味料にして使用した。未熟な調理技術で生じた欠点を食材の味で補うように」
「だから今回の料理は前回と比べて洗練されておるのか、どうりで身体が前よりも喜ぶはずじゃ」
「人間界の食材でイチちゃんのグルメ細胞が反応したのはそういうことじゃろう。この仮説が正しいのであれば、
いずれ人間界の食材を
「!?」
節乃の仮説に一龍は瞬時にその厄介さを理解した。
現在、人間界にはグルメ界の猛獣を止める戦力はない。
限られた戦力であれば対抗できるが、一気に押し寄せる猛獣たちを全て止め切るのは無理がある。
グルメ界の猛獣を一匹でも人間界に入れれば人類の全滅すらあり得る。
それが起こっていないのはひとえに人間界の食材がグルメ界の猛獣にとって不味い部類であるからである。
皮肉にも人間界の食材の質がグルメ界と比較して悪いことが救いとなっている。
その人間界の食材がレベルアップしてしまったら、今のバランスはどうなるか……想像に難くない。
そして、節乃は口に出さないものの、一龍なら察しているだろうとしている仮説がもう一つある。
もし、ライズのグルメ細胞が進化し、経験を記憶する能力の精度が上がったら?
食べた食材の味や旨味にとどまらず、栄養、効能、グルメ細胞の進化を誘発する効果まで再現できるようになったら?
裏チャンネルを目覚めさせる食材を経験し、再現出来たら?
遠い昔に袂を分かった
嫌な想像はいくらでもできる。
今は大したこともなく、もしかしたら杞憂に終わるかもしれない。
ただ、ライズには食運がある。
無視するには危険すぎる。
節乃は意を決して一龍に一つ提案をする。
物語は本人の意思とは関係なしに進む。
それを拒むこと、止めることは誰にもできない。
全ては食運の導きのままに。
この作品だと食運が不吉なものになっている感じですが、そんなことはありません。
食運はいいものです。