もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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失礼しました。
先ほど投稿したものがイザナミってたので編集し、再度投稿といたしました。

最速で教えてくれた読者の皆様に感謝です。




NTR×メロウコーラ×終戦記念日

時はトリコがハニープリズンへ訪ねてくる数カ月前までに遡る。

 

この時すでに、ライズはゼブラに目を付けられて料理を作らされていたのだが、その見返りとしてゼブラから技を教わっていた。

もっと正確に言えば、教わったのは技そのものではなく、特殊な声の出し方である。

 

ゼブラは声を武器としているが、そのほとんどがゼブラの腹筋と頑強な声帯だからこそなしえる。

そのため、コツさえ掴めば学習能力の高いグルメ細胞で特殊な声の出し方を習得できるライズも直接的な攻撃技の『サウンドバズーカ』や『ボイスミサイル』などを習得するのは能力的に不可能である。

 

しかし、破壊力を必要としない『ウィークポイントボイス』や『吠え弾』、『エコーロケーション』などを習得することはできる。

ただし、能力は習得できても本人の身体能力の限界でゼブラほどの射程は出せないので、実戦向きではないし、ライズの性質上あまり必要としない。

 

しかし、特殊な声の出し方自体を学びさえすればライズは自分に合った性質の声を習得することができる。

そのため、音のスペシャリストであるゼブラ監修の下でライズは一つ構想として描いていた技を特訓していた。

 

「俺が欲しいのは『俺の言葉を頭の奥に浸透させる声』って奴だな」

「浸透……つまり、てめえの声が聞いた奴の頭の中に残るようにしてえってのか? んなもん役に立つかよ」

「いいんだよ。こっちは教師もやってんだ。少し理解が遅い子や頭の中で整理するのが苦手な子がすぐに授業を把握できるような声を出したいんだよ」

「実戦向きじゃねーのかつまんねえ……まあ、その性質ならオレのウィークポイントボイスに近いな」

 

好戦的なゼブラにとって人のために、ましてや戦いに使えなさそうな技をつまらないと言うが、そういう契約なので律儀に教えてくれる。

そして、それだけでライズはゼブラの言いたいことを理解する。

 

「なるほど、生物が嫌がる周波数とは逆の……生物が心地よい周波数の声が必要なのか。そういえばゼブラって生物の嫌がる音をどうやって認識してるんだ?」

「試しに特定の音を出して相手の反応から特定している。だが、その方法に慣れ親しんだわけでもねえお前がやるのは無理だ」

「だろうねえ。もっと言えばパワーが低すぎて複数の生物にいっぺんに音を聞かせられるほどの射程も出せない……よくて半径十数メートルが限界かも。となると、音を聞かせるのも一人、一匹だけになりそうだ」

「さらに言えば、特定の周波数を把握するには聞かせる対象の膨大な情報が必要となる。まあ、それはできるかもしれねえが、かなり時間がかかるぞ」

「あ~……面倒だけどそういうもんだと思って慣れるしかないか。じゃ、約束通り教えてくり」

「ふん」

 

それからゼブラ監修の下でライズは声の出し方を必死に学んだ。

偶に実戦方式だとか言ってゼブラと戦わされた(逃げに徹す)ことは今となってはいい思い出だ(遠い目)。

 

そして、声自体は習得できたが、考えれば考える程この技の応用性が高いということが分かってきた。

 

ゼブラからの監修を経て、自分の知識と経験を総動員して新たに成長を果たした。

 

 

 

 

 

『トリコは相手の攻撃に合わせてカウンターで打ち込むんだ。ゼブラは常に音速で動いてとにかく攻撃を当てて弱らせてくれ』

 

ゾンゲと共に地上に上がるとサラマンダースフィンクス戦が終わってニトロとの第二ラウンドが始まっていた。

 

原作通りエネルギーが尽きたはずのトリコとゼブラはそれぞれ怒りとオートファジーでエネルギーを絞り出して無理矢理戦える状態となっている。

本来なら必要ないのかもしれないけど、ライズは普段と違った様子で二人に指示を出している。

 

そして、その指示が普通のものではないということは指示を直接受けているトリコたちが実感していた。

 

(この感覚、ライズの指示とイメージが頭の中に入り込んでくるようだ。相手がどう動くかが分かる!)

(間違いなくこの声の効果だろうが、オレが教えた時よりも確実に能力が1段階上がってやがる)

 

猛獣相手に立ち回っているトリコとゼブラは体力が限界に近く余裕がないはずなのにライズの声が抵抗なく頭の中に入り、どう動けばいいか、どう相手が動くか、そういった情報が常に頭の中に入ってくるのだ。

そのため、こっちがハンデを抱えているにもかかわらず着実に追い詰めつつ、反撃も一切受けていない。

 

しかし、この技は習得したばかりで粗削りな部分が目立ち、実戦で使うにはあまりにも欠点が致命的過ぎた。

 

(くそ、目が回ってきやがる……頭の中に情報を突っ込まれすぎて吐きそうだ)

(相手の一手、いや、十手先まで先読みできる頭の回転にオレ達の方が耐えられねえ……これがライズの見えている世界か)

 

ライズのコマンダーボイスは本来、自分の指示を抵抗なく聞かせることでごく自然に指示通りの行動を誘発させる。

しかし、ライズのコマンダーボイスはまだ粗削り状態のため、ライズ自身が察知している周囲の状況、空気の流れ、目についた情報の統合、敵の僅かな動きや二足歩行、骨格を考慮した次の行動の先読み……その他多くの情報を余すことなくトリコたちに伝えてしまった。

 

ライズの細胞が進化を経ることで、ライズの細胞一つ一つが自立思考をするに至った。

 

自立思考するとは言っても感情は持っていないため、あくまで本体のライズを基準として状況や環境に応じた適切な〝答え〟を導き出して実行するのみ。

しかし、本体であるライズの望みをかなえる、という意志をもって体を形成する60兆個全ての細胞が団結して最適解を導き、ライズへ答えを示す。

 

 

話を戻すが、トリコたちに余計な情報が流れているのも半分はライズの細胞が自立的に情報をトリコ達へ強引に渡していることが原因である。

 

ライズの細胞の思考能力は現在、人間の2~3歳児程度と言える。

つまり、今はライズがしたいことを愚直に叶えることにほとんどのパワーを使い、柔軟な対応ができていない。

文字通り、教えられたことを真似して学習している最中の生まれたての赤ちゃんに似ている。

 

つまるところ、アルファロ戦で起きた時と同じ細胞の暴走である。

 

(俺の声の中に特殊な周波数の音や匂いを織り交ぜてトリコとゼブラに過剰なほどの情報を伝えているんだ……細胞の暴走である以上、俺の意思で止めるのは無理だ……!)

 

そして、細胞が勝手に暴走していることもあり、声を出しているライズ自身の体力が一気に減っていく。

 

人に自分の考えを伝えるということ自体、莫大なエネルギーと知恵を使う。

少なくとも、指揮をする以上は行動範囲の状況全てを誰よりも理解していることが求められる。

 

周囲の状況を把握しつつ常に最適解を導き出してトリコとゼブラの指揮を執る、細胞のコントロールが追い付かない状態でマルチタスクを行う行為は持久力に優れたライズと言えど無茶な行為であると言えた。

 

(さっきまでここにあったメロウコーラの気配に細胞が活性化された所で強敵に出会ったのが原因か……こういう時に限って運がない!)

 

戦いながらもライズは急に細胞が暴走し始めた原因について悪態をつくも、すぐにトリコたちの指揮に意識を向ける。

二人はいまだ健在、詰将棋の様に相手を嵌めている分ダメージと疲労も蓄積してようやくお互いの力量は五分となっている。

 

しかし、自分の指揮のせいで体力の消耗が激しい。

トリコとゼブラの体力も限界に近く、比較的好調の自分では敵を倒すことはできない。

 

それが分かっているからこそ、ライズはコマンダーボイスを解除した。

 

「悪い……俺の、指揮は、ここまでだ」

「あん?」

「ぐっ……体が重くなった。ライズの指揮で疲労も痛みも感じなくなっていたのか……」

 

予想以上に体力と精神力を疲弊させてしまった技を欠陥と判断してトリコたちの指揮を止めた。

その瞬間、トリコとゼブラに一時期忘れていた疲労と痛みがぶり返して表情を歪めた。

 

だが、それ以上にライズも体力と喉を酷使しすぎて吐血しながら息も絶え絶えになった。

 

「後は、自由に、動いて、臨機応変に、奴を撃破する、文句、あるか?」

「最初からそうすりゃよかったんだ。あんな死にぞこない、オレだけで十分だ」

「そう言うが、オレのオートファジーとお前の怒りのエネルギー、ライズも限界に近いはずだ。ここは合体技で一気に畳みかけるぞ」

「あ? 合体?」

 

ゼブラは怪訝そうな声を上げるもトリコと共に敵へ向き直る。

 

「昔よくやったろ?」

「忘れたよ、んなモン」

「ライズ、お前は休んどけ。俺とゼブラが万が一にもしくじったらサポート頼んだ」

「おいっすー……」

「しくじるわけねーだろバカ」

 

ライズはその場で腰を下ろし、トリコとゼブラの背中を見つめる。

 

そんな三人をずっと観察していた敵は考えていた。

 

まず、トリコとゼブラは強敵ではあるが、取っ組み合ってさえいれば対処できる。

どちらか一方を潰しさえすればどちらかに集中して始末することはできる。

 

しかし、一番の問題は二人の後ろに隠れているライズだ。

 

ライズが二人に指示を送っているとき、さっきまで死にかけていたとは思えないほどに動きが洗練され、こっちの行動の先を読んでいると思わせるほどにこっちの攻撃が通用しない。

 

この中で最も厄介なのは二人の後ろに隠れている奴だ。

奴を始末しなければこっちがやられる。

 

猛獣は野生の本能から真に厄介な敵を特定し、直接襲ってくる二人を無視して二人の間を駆け抜ける。

 

「こいつ、急に標的をライズに!?」

「オレを無視するとは、チョーシにのってるなぁ!」

 

猛獣が猛スピードでライズに迫り、命を奪うために拳を振り下ろす。

 

しかし、ライズは避けない――避ける必要がなかった。

 

「テメーがどれだけ早く動こうが、音速には敵わねえだろうがよぉ!」

 

気付いた時には、もう遅かった。

ゼブラが空中に放ち、反響して育った音の爆弾が今、火を噴いた。

 

「メテオノイズ!!」

 

特大の音の爆弾が落ちてくるのを察知した獣は死への恐怖か、通常では出せないほどの瞬発能力で音速を上回るスピードでかわす。

 

しかし、必殺の一撃を避けたその直後、猛獣は何か透明なものにぶつかって動きを止めた。

何事かと手探りで探ると、わずかに振動する、音壁が自分の周りを包囲網として囲んでいたことに気付く。

 

「外すんじゃねえぞトリコオオオォォォ!」

 

ゼブラから吐き出された声は自分の元へは向かうことなく別の方向へ飛んでいく。

 

しかし、野生の勘かその声を見落とすことなく見定めていると、一直線に飛んで行ったはずの声は弧を描いた不自然な軌跡を描いて方向を変える。

そして、その先のいつの間にか自分の前で構えているトリコの背中にぶつかった。

 

「ううおおおおおおおおおおぉぉぉ!」

 

雄たけびと共に向かってくるトリコに言い知れぬ嫌な予感を感じた。

 

この攻撃だけは受けてはいけない。

 

そう思ってか音壁を跳躍で飛び越えて包囲網から抜け出してトリコからの一撃を回避しようと足に力を入れた瞬間――

 

 

『止まれ』

「カ、エ……!?」

 

 

突如として聞こえてきた声に体が硬直した。

自分の体に起こった異常に驚愕する。

 

一体誰の仕業か。

いや、誰の仕業かだなんて既に分かり切っている。

最初からこの戦場を支配し、駒二匹を巧みに操って自分を追い詰めていた後ろに控える小柄な奴の仕業だ!

 

焦燥と共に二人の強者に守られていた厄介者が口から血を吐きながら自分に向かって笑いかけている姿を確かに見た。

 

人間の言葉など忘れかけていることもあって何を言われたかなんてわからない。

しかし、あの厄介者が自分の動きを声で止めたのだ。

 

「クエエエエエエエエエェェェェ!!」

 

動かなければ死ぬ。

もはやどうにかしてでも生き延びなければ、としか考えられなくなった猛獣はライズの声によるノッキングとゼブラの音壁から逃れようと気合と生への渇望から最後の断末魔を叫んでいた。

 

しかし、もう既に勝敗は決していたのだ。

 

「17連釘パンチイイイィィィ!!」

 

17発の打撃が体に突き刺さった瞬間、猛獣の視界はブレて衝撃と共に意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

戦いは終わり、レドに瓜二つの猛獣は17連釘パンチで地面に沈んでいた。

息を切らせながら強敵を打ち破った充実感にトリコたち三人は大きく息を吐いた。

 

「とんでもねえ奴だ……あれ食らってまだ息があるとはな」

「だが、こいつの命はあと数日だ。脈も心音も少しずつ弱まっている……意識を取り戻したら地獄の苦しみを味わわせるだけだ」

 

ゼブラは目の前で倒れ伏す猛獣を見下ろし、声をためる。

 

「楽しいバトルを提供してくれた礼に、苦しませることなくあの世に送ってやろう」

 

静かに、そして確実にゼブラは文字通り敬意をこめて絶命の声を送る。

 

 

死音

 

 

猛獣にしか聞こえない音を発してからわずか数秒後

 

 

猛獣の生命活動は静かに消えた。

 

 

「ふぅ……」

 

猛獣を看取ったゼブラはなけなしの体力を使ったせいか大量の汗を流して一息ついた。

 

完全に動かなくなった猛獣の亡骸を見下ろしてトリコもようやく一息ついた。

 

「結局こいつはなんだったんだ? レドもそうだが、雲の上でも似たような奴を見たんだが、その中でもこいつはかなり獰猛だった」

「ハニープリズンで捕まった当時のガキの奴は似たようなもんだったが、どっちも何千、何万年も何も口にしていないかのような空腹から来る獰猛さだった」

「何千、何万年……そんな生物がいるとは……」

「おーい、小松たちが目を覚ましたよー!」

 

トリコとゼブラが正体不明な猛獣に思いを馳せていると、後方でゾンゲたちの様子を見ていたライズが声を挙げる。

二人がそれに反応して小松たちに駆け寄ると、意識を取り戻した小松とゾンゲが身を起こしていた。

 

「小松、ゾンゲも無事か!?」

「トリコさん……あはは、特になんとも……」

「……あれ? ここどこ?」

「寝ぼけてないで起きろ」

「あだ! あれ、ここは確か、ピラミッドだっけか? あれ、オレ様何してたんだっけ?」

「ふん、どっちも問題ねえみてえだな。念のために小僧に強めのサウンドアーマーを纏わせていたが、そいつがうまく盾となったのが良い仕事したようだ」

 

一番懸念していた小松と(ついでに)ゾンゲも無事であったことにその場の全員が安堵していた時、部屋の入り口からペタペタと足音が聞こえてきた。

さっきまで緩んでいた空気が再びピリっと引き締まるが、ゼブラだけが特に警戒もしていなかった。

何故なら、その足音が敵でないことを知っていたから。

 

「おぉ、レド! 無事だったか!」

「クルルルル……」

「うおおぉぉぉ! お前、顔の形変わってるけど大丈夫かこれ!?」

「いや、でもとにかく生きててよかったですよ!」

「まったくだ。みんな、よく生き残ってくれたな」

 

顔に拳の痕を痛々しく残して足を引きずっているものの、五体満足で命もある。

 

全員の生存が確認できた結果、ようやく緊張が解けて空気が軽くなった。

それと同時に、小松が思い出したかのように重大なことの顛末を聞いてきた。

 

「そ、そうだ! そういえばコーラは!?」

「なに!? コーラがここにあるのか!?」

「「……」」

 

小松の問いに何も知らないゾンゲがコーラがここにあると思い込んで辺りを走り回って探す。

そんな二人の様子にトリコとゼブラはバトルで後回しにしていた事実に膝をついてしまった。

 

「トリコさん……? ゼブラさん?」

「思い出したら、疲れがあふれてきやがった……」

「そういやあ、喉もそろそろ嗄れそうだ……」

「すまねえ小松、せっかくのメロウコーラ、さっきの奴に奪われちまった」

「トリコさん……いえ、それは――」

「おわー! なんだコイツー!」

 

トリコの痛々しい姿に小松が一瞬だけ言葉を失う。

しかし、恐らくトリコたちも知らないであろう()()()のことを伝えようとすると、さっきまで走り回っていたゾンゲが伏しているサラマンダースフィンクスに今さら気が付いて絶叫を挙げる。

 

どうやら忘れていたらしい。

 

しかし、ビビっていたゾンゲはサラマンダースフィンクスの様子を観察するうちに恐怖心が薄れ、逆に強気になっていく。

 

「って、なんだコイツ、泣いてんじゃねーか! もしかして、このゾンゲ様の神々しい姿に恐れをなしたな!」

「はぁ? そいつはさっきコーラ出し尽くしたばっかりだぞ?」

「いいえ、まだです!」

 

ゾンゲの言葉にゼブラが怪訝な表情を浮かべる。

思い浮かべるのは苦労して泣かせたのに奪われてしまったコーラのこと。

非常に腹立たしいが、横からコーラを確かに奪われてもう残っていない。

 

そう思っていたトリコとゼブラの思い違いを否定したのは小松だった。

 

「まだ、だと?」

「はい! 最初に出てくるコーラも立派なコーラですが、それは上っ面に溜まって酸化した灰汁なんです! 本当の熟成されたコーラはその後に出てきます!」

「なぜ、それがまだ出てないと?」

 

信じられない、そんな面持ちのトリコに対して小松は目を輝かせて答える。

 

「量です。本によると本当のコーラは灰汁の数百倍の量! もし、出ていたとすればここはコーラのプールになります!」

 

だとすれば、本当のコーラは。

同時にそう思ってトリコとゼブラが蹲っているサラマンダースフィンクスに目を向けた時、直感した。

 

これは、()()のだと

 

「ガフッ、ガフッ!…………ガアアアアアァァァァァ!!」

「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

そして、待ち焦がれた瞬間が訪れた。

さっきまで猛獣との死闘を繰り広げていた危険地帯から逃げることなく溢れ出る本流をせき止めようと堪えていたサラマンダースフィンクスも自分の意思で止めること叶わず、長年涙腺に貯め続けた砂漠の恵み(メロウコーラ)を噴き出した。

 

「え、おがぼがぼ……!」

「あ、流された」

 

もちろん、安全だとサラマンダースフィンクスの真ん前で様子を窺っていたゾンゲはメロウコーラの濁流にのまれて流された。

そんな相方を見て特に問題ないと判断したライズは彼を放っておいた。

 

普段なら相方に対してあまりにもあんまりな対応を咎める小松たちも今やそれどころではない。

目の前に、念願のメロウコーラが大量にあふれ出たことで、さっきまでの疲れが吹っ飛んだかのように息を吹き返していた。

 

コーラの炭酸が体に当たるだけで爆竹のような刺激が体を走るが、不思議とそれが心地よい。

 

「すげえ! 炭酸で体中の血流が刺激されるようだ!」

「はっはぁ! これがメロウコーラか!」

「なんて爽快感なんだ!」

 

原作三人組がコーラを目の前にテンションが上がっているが、俺はこのコーラを味わえるだけで満足だ。

 

確かに、この回を見たら無性にコーラが飲みたくなって即買いしたこともあるほどにコーラ回というのは俺のフェイバリットな物語でもある。

しかし、原作を愛する俺としてはこの光景を拝むだけでも望外の喜びなのに、そこに割り込むなど無粋の極み。

 

まあ、少しくらい世界最高のコーラに出会えたことを喜んでもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハアアアアァァァァもう我慢できねえ!! メロウコーラだああああああぁぁぁぁぁぁ↑」

「キモ!」

 

ライズは待ち焦がれていたコーラとの出会いに堪らずコーラ溜まりに顔ごと突っ込んでガブ飲みする。

トリコがぎょっとした顔で何か言っていたが、そんなのお構いなしに欲望のままに飲み干していく。

ライズは完全に舞い上がっていた。

 

そして、コーラを飲んだ瞬間、体が歓喜の雄たけびを上げているかのように跳ねあがった。

口いっぱいに広がる極上の甘みと圧倒的な炭酸に細胞が進化していく。

 

市販で売られているメープルシロップやはちみつの数百倍でも足らないほどに熟成された甘み

 

炭酸は飲んだ後でも胃を刺激し続ける。

 

 

 

体が干上がるような熱さの砂漠の横断、グルメピラミッドでの指揮、未知との遭遇に死闘……これまでの出来事が退屈なものだったと感じるくらいにコーラの炭酸は体の細胞を叩き起こし、圧倒的糖分は疲れを癒す。

 

その証拠に周りの皆もコーラにご満悦な様子だった。

無口なレドも飲み干さんと言わんばかりにコーラを一心不乱に飲んでいる。

殴られた痕も既に治癒されている。

 

「うぅぅまいなぁぁぁぁぁ……」

「おかえりゾンゲ」

 

コーラの濁流に流されたゾンゲはコーラに浮かんだまま戻ってきた。

そして、その顔はあまりの旨さにとろけ切っていた。

 

「これが世界一のコーラ!! なんて存在感だ!!」

 

トリコの言葉に何の異論もない。

これは、間違いなく世界一美味いコーラだった。

 

 

 

 

 

 

 

一通りコーラを味わった後は村に戻ってくるまでは原作通りだった。

 

あの後、ゼブラがコーラをフルコースに入れたと思えば小松(+俺)をコンビにすると言って少しもめた。

俺は一切何も言ってないのに一緒にコンビにすると言ったあたりから小松と俺はトリコと復活したゾンゲから勝手に変な約束をしたことを詰められた。

 

しかし、ゼブラのフルコースがドリンクだけだということでゼブラのコンビ(俺は一切同意してないけど)になるのは一旦保留とし、今回の旅の報酬はこの後のご馳走ということになった。

 

それからコーラを回収したり、帰り道暑さでバテかける小松をコーラを含んだ息で保護したりとゼブラのツンデレを見つつ、全員で村へと戻ってきたのだ。

余談だけど、ゾンゲにもコーラを含んだ息を纏わせた辺り、小松の盾となったことは評価してるっぽい。

そう思っていると、ゼブラから「チョーシのんな」って殴られた、解せぬ。

 

そして、無事に村へ戻ってきた俺たちは村人たちから帰還を歓迎されて迎え入れられた。

 

「皆さま! よくぞご無事で!」

「おう! 戻ったぜ!」

 

村人から熱烈な歓迎を受ける中でゼブラは無言で離れた場所にいる。

こういう扱いは苦手なのだろうか?

 

「ラクダだけが戻ってきたときは何かあったのではないか、と思ってしまいましたが、杞憂に終わって何よりです」

 

俺たちが乗っていたラクダもここに戻って来たそうだ。

よかったよかった。

 

「ラクダのことといい、世話になったな婆さん。ラクダの料金代わりと言っちゃああれだけどよ、この村分のコーラを受け取ってくれ」

 

トリコはいつの間にか小さいグルメリュックに分けていたメロウコーラを渡そうとするも、村人は驚愕し、受け取るのを躊躇ってしまう。

何せ、レンタルラクダの駄賃として幻のコーラが渡されようとするのだ。

普段のラクダ代と比べてもお釣りどころでは済まされないのだから当然の反応である。

 

「う、受け取れません! これは皆さんが命懸けで採ってきたもので……」

「おいてめえトリコ!! 勝手に何してんだコラァ!!」

 

村人からすれば戦争を止めた救世主から金をとることはできない、と考えているだろうが、そんなことゼブラには関係ない。

コーラを村人に分けようとしたトリコに目くじらを立てて詰め寄るゼブラ。

 

そんな二人の間でオロオロする村人たちに俺たちはため息を吐く。

 

「ケンカは止めましょうよトリコさん、ゼブラさん!」

「まあ、知ってた」

 

原作では省略されたけど揉めてたって描写があったからこうなることくらい既に予測済みだった。

 

このまま放ってもいいかもしれないけど、個人的にはこのままスルーさせるのはもったいない。

だから、この時のために準備もしていた甲斐があった。

 

「……? デケエ奴がここに真っすぐ向かってきてる」

「なに? もしかして、生物兵器か?」

「それはありません! 紛争中に送られてきたのはゼブラ様が倒してくださった一匹だけで……」

 

いち早く生物が村へ村へ向かってくる音を察知してゼブラが察知する。

トリコも正体不明のまだ見えぬ生物に警戒しているが、今にも迎え撃ちそうな二人を俺が制止する。

 

「ストップストップ、これは俺が用意したサプライズって奴だから」

「ライズが? それにサプライズって一体……」

「あとゼブラ、報酬の料理は今ここでやっていい?」

「なに?」

 

そうこうしている内に村へ向かってくる何かが砂埃を上げてやってくるから、遠くからじゃわからない。

ただ、近づくにつれてその正体が露わになってきた時、トリコや小松たちはその正体に驚いた。

 

「こいつはデビル大蛇! いや、こいつはまさか……!」

「あれ、もしかしてデイビー!? 大分大きくなってません!?」

「ギシャシャシャ♪」

 

長い胴体に巨大な多くのリュックを背負ったデイビーがトリコたちの前で上機嫌に応えた。

 

「デビル大蛇か……そういえば坊主が飼ってるって言ってたが、通常の奴よりだいぶ育ってるじゃねえか」

「あぁ、最後に見た時よりもサイズが段違いにデケエ。野生のデビル大蛇でもここまで成長するなんて聞いたことがねえ」

「毎日美味いもの食わせたり、暇なときにはテリーと遊んでるからかな」

「なるほど、よく食べて遊んでるって訳か。道理でテリーの成長も早いわけだ」

 

トリコも話では聞いていたからある程度の事情は知っていたが、それでもデイビーの成長の早さは尋常ではないと感じていた。

 

「もしかしたら、デイビーもテリーみたいに古代の王の一角としての血が濃く受け継がれてるのかもな」

「そうなん? でもたしかに、普段は大人しいテリーもデイビーとの相手の時は割と闘争心むき出しにするときがあったっけ? 血が騒ぐ的な」

「大昔に覇を競い合っていた受け継がれた本能の記憶があるのかもしれねえな」

「俺としてはこのまま健やかに育ってくれればいいだけなんだけどね」

「んなことはどうでもいい。じゃあ、あの蛇は何のためにここへ……」

 

ライズとトリコの会話にゼブラが割って入る。

デイビーの事情は理解したが、なぜそいつを呼んだのか真意を聞こうとすると、今度はトリコがその疑問に答える。

 

「なるほど、デイビーに運ばせた荷物は全て食材か。美味そうな匂いが漂ってきやがる」

「ハニープリズンでゼブラ出所と同時にこの付近で起こっていた紛争が終わったって聞いた時からこうなるかなと思っててね。ほら、ここってグルメピラミッドに向かう途中の中間地点だから予測はできてたし、コーラ手に入れた時の宴会場に使えるかなって」

「え、それじゃあハニープリズンから出る前から用意してたってことですか!? コーラも手に入るのか分からないのに!?」

「その時は残念会にでもしようかと」

「行き当たりばったり過ぎません!?」

 

小松の突っ込みも何のその、元からコーラの捕獲は成功すると確信してたからこそ用意できた布陣である。

村人に無償でコーラを分けるよりも、ここで宴を開いた方が両者納得すると踏んだ結果である。

 

満足そうに口を釣り上げているゼブラを見るに、この作戦はうまくいったと言える。

 

「気が利くじゃねえか。オレのコンビならこうでなくちゃな」

「オレ様のコンビだよライズは! 勝手にNTR(寝とる)な!」

 

ゼブラとゾンゲが互いに火花を散らすのを見て他人事じゃないとトリコはジト目で小松を見ると小松は気まずそうに苦笑して目を逸らす。

 

「…………ヘッ」

「!?」

 

ゼブラとゾンゲの横でお互いに初対面のレドとデイビーも火花をバチバチさせていたことは当人以外、誰も知らないことだった。

 

「それじゃあ、早速だけど、コーラ捕獲成功と終戦記念、そしてレドという新しい仲間の歓迎会も兼ねて宴会するけど、異議のある奴はいるかー!?」

「「「大賛成だーーーー!!」」」

 

この場の全員が満場一致で即興の宴会が開催された。

 

 

この日、広大な砂漠の一角で笑顔に満ちた宴会が大々的に開催された。

 

 

長く、辛い戦火に晒されながら耐え凌いできた日々が唐突に終わった喜びを嚙みしめるように、次々と運び込まれる極上の料理に舌鼓を打った。

 

「グルメピラミッドの猛獣で作った料理をご賞味あれ!」

「帰りにレドに捕獲させていた食材か?」

「修業を兼ねてレド一人で取らせたんだけど、全て問題なく熟成済みの絶品さ!」

「うんめええええぇぇぇぇ!! 生で食うより調理した方がやっぱうめえな!」

 

戦争の傷跡は未だ残るけれど、それでも未来へ進む第一歩になると願って。

 

「これが、伝説のコーラ……」

「うめぇ……こんなにうめえ物初めて食った……おっ父、おっ母……」

「こんなにうめえもの、あいつらに食わせてやりたかった……畜生、涙が止まんねえ……」

 

ある者は生きてる喜びを噛みしめて、ある者は犠牲となった者たちに思いを馳せて涙を流す。

 

「これは美味いぞー! 滅多に市場に出回らない幻のハイボールのハイエンドボールとメロウコーラで作るハイコークだ!」

「わぁ! まるで高級なシャンパンの様に気泡がキラキラ光ってますね!」

「プラチナレモンを絞るとさっぱりした風味で飲みやすくなるな! こりゃうめえ!」

 

溢れんばかりの笑顔が咲いた宴会は小さな村だけに収まらず、隣接する他の村や都市から集まってきた人々の傷を癒していく。

 

「ゼブラ、近場の人や商人たちがゼブラへの献上品としてサンドガーデン特産の食材や調味料をくれたから、まだまだ延長戦できるけど、やる?」

「飯がある限りやるに決まってんだろ!」

「ですよね~」

 

戦争で付いた傷は一生治らないかもしれない。

 

それでも、その傷を背負っても力強く生きていける様にと、自分の全てを出し切って料理を振舞う。

 

 

太陽が既に沈んでもなお、調理の手を止めないライズはチラッと今の光景を目に焼き付ける。

 

最初は小さな村の村人しかいなかったのに、既に数百は居るだろう集まった人々が皆、涙を流して料理を食べる。

 

料理で悲しみを癒してやれるとは思っていない。

だけど、美味いものを食えば活力が湧き、それが未来を生きる糧となる。

 

そう願いながら、今日も全力で料理を作る。

 

 

この日を境に、サンドガーデンでは終戦記念日に村総出で目一杯の食事を楽しむ記念日が設けられた。

 

ゼブラによって訪れた平和がいつまでも続くようにと願って。

 

未来を力強く生きるために今日も飯を食べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、ライズの口車に乗ったゼブラが戦争を起こしていた両者を脅したため、ゼブラが生きている限りは紛争が起こらなくなったのはまた別の話。




「また戦争起こったら、メロウコーラが狙われっかもよ? どうするゼブラ?」
「戦争起こす奴を絶滅させりゃいいのさ」
「おう、やったれやったれ」

酒に酔って、こんなやり取りがあった後に戦争を行っていた両国のトップが何故かボコボコにされた姿で全世界に向けて恒久的な和平を結んだのを見てライズが手で顔を覆って天を仰いだとか。

という訳で長かったグルメピラミッド編もこれにて終了となります。
ここからの修業食材以外のエピソードは一部スルーしますが、ゾンゲ大活躍の回だけは各所存です。

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