もう食運なんてコリゴリだあぁぁぁぁ!   作:おむれっつごー

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原作でもゾンゲが輝く回ということで気合入れました。


ビックリアップル事変

ライズの細胞レベルが上がった

 

 

某ゲームのようなテロップの様に伝えるが、俺自身もまさかレベルが上がるだなんて思ってなかった。

まさか命の危険と圧倒的強者と相対したときのストレスで細胞が進化するだなんて。

 

確かにグルメ細胞が食べること以外で進化することもあるのだが、それは生死をかけた命のやり取りを制すために進化する例が圧倒的に多い。

圧倒的強者を前にビビっただけで進化するのは初めてだわ。

 

結局、三虎が我が家を訪ねて来たことは一龍会長も察知していたのだが、鉢合わせる前に三虎が帰ってしまったので会長が来た時には既に人間界を去った後のことだった。

一瞬、もっと早く来てよ、と思ってしまったが、逆にここで会わなかったのはよかったかもしれない。

 

ここで出会っていたらもしかすれば殺し合いをおっぱじめてた可能性もあるので、結局は原作通り?に済んだことで人間界崩壊は免れたと考えよう。

三虎がここに来たのが一番のイレギュラーなので、この際忘れよう。

 

その後、会長から事情聴取というか個人的に何があったのかと問い詰められたので起こったことをそのまんま伝えた。

ただ、一緒にスープ飲んだくらいなのと、体を調べるとか言って結局なにもされなかったとしか言えないけど。

実際、それしかしなかったし。

 

全て話し終えると会長は一瞬だけ神妙な表情で何か考えていたようだが、すぐに笑顔に戻って俺の無事を喜んでくれた。

 

「怖かったからご飯奢ってください」

「余裕じゃなおヌシ!? まあ、たまにはええじゃろ」

「やったぜ」

 

そんな会長の様子に今なら奢ってくれないかな、と駄目元で頼んでみたら呆れながらも奢ってくれた。

何だかんだで甘い会長も好きですよ。

その後、グルメタワー上層階の高級レストランで本当におごってくれた。

ごっつぁんです!!

 

 

 

こんな感じで美食會のボス襲来の人間界を揺るがす大事件は世に出回ることもなく、実害もなかったということでこの話は全て終わった。

 

 

久々にチョーシ乗ってた俺が分かりやすい障害に直面し、改めて世の広さを再認識して細胞レベルが上がること以外は何事もなく時は進んでいった。

 

 

 

 

 

「実際の絵の具のようなワインのような真紅のブリリアントマトのミートソーススパゲティでロックドラムの外殻から作られた最高級陶器の皿の絵をさらに彩らせる。味と芸術の調和……(つく)しい」

「皿やプレートに施したアートの題材に沿った料理を提供するアートグルメか……料理だけならいいんだけど皿のアートは流石にまねできねえ……外注で作ってもらうかな……」

「できたら作ってくれ。お()ならできるだろ?」

「簡単にできねーって。俺、絵の才能はからっきしだからな」

「前にラテアートや飴細工作ったろ」

「料理の飾りつけ目的なら自然と手が動くんだよ。だけど、料理が関わらないとからっきしだ。何なら似顔絵描いてやろうか?」

「どこまで料理狂いだよ……いや、こういう料理一途な所も美点と言えるのか?」

 

現在、俺はサニーと美術館内の併設レストランで食事に勤しんでいる。

そもそもなんで美術館にいるかというと、サニーに誘われたからだ。

 

サニーに誘われて美術館や個展、劇場や音楽鑑賞などに誘われるのは実は初めてという訳ではなく、割とちょくちょく訪れている。

 

なんでも、芸術を理解できるのが知り合いの中で数えるほどしかいなく、更に食へのこだわりも似通っているという点で毎回俺を呼んでくるのだ。

最初はなんで?と思ったが、確かに知り合いを思い受かべると、ほとんどが味重視で見た目とかそういうのを度外視する奴しかいない。

中でもココが割とサニーの感性に近いと思うが、彼は占い師という職持ちなので誘うタイミングが限られるので、消去法で俺しかいないという。

そもそも、料理人としての審美眼を磨く修業と言われると否定できないので、俺もまじめに芸術をたしなんでいるのだ。

 

もちろん、多くの芸術品を見てきたことで料理の腕も上がったことは否めない。

味とかではなく、ラテアートとか飴細工とか、食材を精巧な形に仕上げる腕が上がった。

要は、調理の腕がより器用になったということである。

 

しかし、実際に絵をかいたり陶器を作ろうとすると全てボロクソに終わる。

包丁使えば基本的にどうとでもなる辺り、料理できなくなったら俺に残るものは何もないのかもしれない。

 

そんなことを考えていると、サニーがグラスのワインを飲み干した。

 

「聞いたぜライズ、お()美食會のボスと飯食ったんだってな」

「何で知ってんの?」

「会長から聞いてたんだよ。で、品性皆無の美食會のトップはどんなに醜いツラだった?」

「趣味悪いよ。つっても、分かるのは大柄な男で、気配からして一龍会長とタメ、もしくはそれ以上に強そうな感じだった」

「会長と同等だ!? 本気()で言ってんのか!?」

「感じたままの感想だからそのまんま受け取らんといて。まあ実際、本気で襲われたら絶対に逃げられなかったという確信はあった」

「強い奴に敏感なお前の直感がそう感じたんなら、そういうことだろ。そんな相手によく無事だったな」

「あの時ほど料理の腕を磨いてよかったと思ったことはなかったさ……」

 

意図せず死んだ目にサニーが引いていた。

でも、その時の俺の心情を考えれば、生気の一つや二つは吹っ飛ぶのだから。

 

そんな風に思っていると、サニーはため息を漏らす。

 

「相変わらず運がいいのか悪いのか分かんねー奴だな。そんなギリギリを生きてるお()が欲しがってたモン、持ってきたぞ」

「お、おおおおおぉぉぉぉ! これはああぁぁぁぁ!」

「同じ美を理解する同志だから渡したんだぞ。お()じゃなかったら自分の髪の毛を上げるなんてキショイこと絶対(ぜってー)しねえからな」

 

サニーが懐から取り出した包みを受け取ると、その感触から俺が前々から欲しがっていたものだと分かり、さっきまでのローテンションもどこかへ吹っ飛び、テンションが上がっていた。

これは、前々からサニーに頼み込んで欲しかった、サニーの抜け毛もとい、サニーの触覚である。

 

サニーの髪の毛をもらったのは単純に、何か道具に加工して使えないかなと思ったからである。

 

いや、だってあれだけ細くて頑丈な毛があればできることが増えるって思うだろ普通。

現に蜘蛛の巣とか動植物の毛は膨大な可能性を秘めているのだ、使いたいと思うのは当然のこと。

もしかすればサニーではできないような使い方もできるようになれば可能性が広がるという可能性もあるのだ、やらない理由がない。

 

そのことをサニーに初めて言ってみたら、自分の抜け毛が欲しいと言われたことと動植物の体毛と自分の髪の毛を同じ土俵で語られたことが不服だったらしく、凄い顔で汚いものを見るような目を向けられたこともある。

 

とはいえ、律儀に抜け毛を拾って集めてくれるくらい仲良くなれたことは嬉しいものである。

 

そんなことを思っていると、サニーは唐突にふっと笑う。

 

「こんな願いを聞いてやるのはひとえに、お()だからだ。()の言っている意味が分かるか?」

「え? あぁ! 今度、何か作ったるよ。ちょうど、イチジクリスタルとかメノウメロンルビーオレンジといったジュエルフルーツを大量に見つけたからな」

「ジュエルフルーツ!? 一部地域の鉱山内でしか栽培できない宝石の外殻で覆われた豪華な見た目と上品な甘さがウリの幻のフルーツか!?」

「説明口調の解説ありがとう。それで超豪華なフルーツタルトでも作ろうかなと」

「絶対に作れよ!? そして、()以外は絶対に呼ぶなよ!? 価値が分からねえ奴が食った所で宝石が汚れる……じゃなくて、催促してるわけじゃねえんだよ! そうじゃなくて、言いてえことってのはなぁ……!」

 

なんで自分の半身ともいえる髪の毛を送ったのか、遠回しで言っても通用しないと思ったサニーは咳払いをし、目をつぶる。

これから臭いことを言うので、照れるからである。

 

()お前()をコンビに……」

 

意を決し、自分の思いのたけを告げようとした。

 

 

 

「ほげええええぇぇぇぇぇ!! もうこんな時間になってたあぁぁぁ! わりいけど俺もう行くわ。これで会計よろしく! ごっそさん!!」

「っておい、ライズ!!」

 

のだが、ライズが時計で現在時刻を見て驚愕した声にかき消された。

出鼻をくじかれたサニーのことなどお構いなしにライズはサニーの髪の毛を抱えながら会計用の金を置き、急いでレストランを出て行った。

 

どたばたと騒がしかった嵐が過ぎ去り、一人取り残されたサニーはさっきとは別の意味で深い溜息を吐かされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

事前にサニーには本日、外せない用事があったことは伝えていたので、慌てて出て来たけど大丈夫だろう。

何やら言いたげだったが、次の機会に聞けばいいか。

 

いつもならこんなことはしないのだが、今日は絶対に外せない大事な日だ。

 

あぁ、まさしく今日という日をずっと待っていた。

 

なんたって、原作から見ても数少ない、()()()が主役になれる時だからな。

 

 

「今日はキバっていけよゾンゲぇ……今日、俺たちが世界の中心になるのだ……!」

「どうした? お前、マジでどうした?」

 

サニーと別れてからノンストップでビックリ島にやって来て仰天祭の開催式に立ち合いながら俺は戦意を静かに研ぎ澄ませる。

何やらゾンゲが俺から引いているように見える。

 

今日のために準備もしてきた、あとは全てを出し切るだけだ。

 

 

 

さぁ、始まるぞ。

 

 

 

 

「長らくお待たせしました! 開会式はこれにて終了! 間もなく始まります!」

 

 

 

今日という日の。

 

 

 

「ビックリアップルの祭典、仰天祭の始まりだああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

狂宴が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仰天祭が始まってからしばらくの間が空いた所で、食材とあれば必ず現れるあの男が姿を現した。

 

「今年も景気よく始まってるじゃねえか! 仰天祭!」

「島の外からでも騒音がすごかったのに、農場だと音が更にうるさいー!」

「ビックリアップルが実を付けるのは年に一度のこの時期だけだからな。世界中から数万人が集まって更に騒がしくなるのさ」

 

ビックリアップル目当てにトリコと小松、そしてテリーが農場に現れた。

目的は言うまでもなくビックリアップルだった。

 

トリコの登場に一瞬だけ場がざわつくも、すぐにビックリアップルを驚かせる作業に戻る参加者たちに混ざってもう一人の有名人が姿を現していた。

 

「古代の王者バトルウルフに美食四天王のトリーコ、それにその筋の有名人もちらほーらと見えますね」

「あれは、G7のアポロン氏!? 何でこんな所に!?」

「ビックリアップルの味覚チェックだろうな。実際のビックリアップルの味は実際に食べてみねーと分からないからな」

 

重要人物故に大勢のグルメSPに護衛されている味覚マスターのアポロンの姿に小松は驚くも、トリコはアポロンの目的を察してか冷静である。

 

「誰がここにいたっていいじゃねえか。オレたちも祭りに参加しようぜ」

「そうですね! ボクたちも美味しいビックリアップルを採りましょう!」

 

トリコの言葉に小松は気を引き締め、ビックリアップルの捕獲作戦が始まった。

 

 

 

 

 

「ビックリアップルのレベルが上がらなくなってきたな。どうするか……」

 

祭りも半ば、トリコはビックリアップルのレベル上げに悩んでいた。

 

当初は拡音石を使ったり威嚇してみたりでビックリレベルは30台を叩きだしていた。

その他にも釘パンチの寸止めを試しても力加減を間違えるとビックリアップルが傷んで価値も味も下がるから全力も出せない。

そのせいでトリコが出せるビックリレベルも40~50で停滞している。

 

その他にもつららママやテリーの威嚇で高レベルを出せてはいるが、それでもレベル50以上を出すには至っていなかった。

 

「別に強さで脅ーすだけでなく、不意を突いたり予測しにーくいことをするのもひとーつの手ですよ」

 

伸び悩んだ末にアポロンから助言をもらおうと話を聞くと、かつての一龍やノッキングマスターの出した点数に驚愕しつつも、不意を突くという助言を聞いて頑張ることを決意した。

 

しかし、不意を突くというのは直情的なトリコにとって苦手なことであり、どうしたものかと悩む。

不意を突く、予測できないことをする、思案していると、そんな言葉を忠実に再現するかのような存在のことを思い出していた。

 

「そういや、ライズたちに会ってねえな。来てねえのか?」

 

こういうイベントには必ずいそうな面子がいないことに疑問に思っていた丁度その時、姿を現した。

 

「おうトリコ!」

「やっぱりか! いると思ってたよ」

 

食運の導き(適当)でばったり出くわしたライズとトリコの間に驚きはない。

原作を知るライズはともかく、トリコはこういう時に出くわすものだと思っていたので予想はしていた。

 

「お前がビックリアップルのイベントを見逃すはずがねえからな。で、そっちはどうなんだ?」

「どうって、何が?」

「とぼけんなよ。お前が抱えている大量のビックリアップル、どんくらいのレベルだ?」

「これからアポロン氏に調べてもらおうと思ってんだ。結構いい線いったと思うぜ」

 

大量大量♪と上機嫌なライズの反応からビックリアップルの収穫は上手くいったのだろうと分かるほどだ。

そして、ビックリアップルの表情から、その自信が嘘でないことを示している。

 

(これまでに見たこともないほどの形相でビックリしてやがる……これは、レベル60以上はいってるか!?)

 

今日までに多くのビックリアップルを脅かしてきたトリコでも引き出せなかった驚愕の表情につばを飲み込む。

別に競っているわけではないが、自分よりもびっくりさせたことへの悔しさもあるが、それ以上にどれほどの旨みを秘めているのか気になってライズのリンゴ鑑定に同行する。

 

「あ、ライズさん! 来てたんですね」

「待ちに待った祭りだったしね。これからアポロン氏に判定してもらう所なんだけど、見てみる?」

「いいんですか!? 行きます行きます! なんかすごい表情のビックリアップルが大量にあって不気味ですけど、すごく気になります!」

 

途中で小松とも出会ってビックリアップルの品評に同行する。

 

そして、アポロンの前でおよそ100個はあるだろうビックリアップルを地面に置く。

 

「これーは、相当にレベールの高いアップルたちですね。一つ頂いても?」

「どうぞ。それでは品評お願いします」

 

ライズに渡されたものすごい形相のビックリアップルにトリコたちはもちろん、今までに見たこともないような形相を見せる大量のリンゴに興味を持って集まってきた野次馬たちが固唾を飲んで事の成り行きを見守る。

常に騒がしい祭りの真っただ中にも拘らず、この時だけは全員、ライズの持ってきたリンゴの評価が気になっているのだ。

 

皆、理解していたのだ。

この後下される評価が今日で一番のものであると。

 

アポロンがシャリシャリとリンゴを一口食べてよく味わいながら咀嚼する。

しばらく味わった後、アポロンの表情が急に変わり、振り絞るように呟いた。

 

 

「85……」

「え?」

「ビックリレベル……85」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「なに~~~~~~~~~!!!」」」

 

今日一番の最高レベルに周りで見守っていたギャラリーの絶叫で島が()()()

この絶叫によって近くで実っていたビックリアップルがレベル40を更新したことはご愛敬である。

 

「レベル85だと!? 今日一番の最高レベルを余裕で超えやがった!」

「すげえ! そんな高レベルのビックリアップルなんて初めて見た!?」

「これが国宝節乃の一番弟子、ライズの実力……!?」

「てことは、あの大量のリンゴ全て、そうなのか!?」

 

ギャラリーがビックリアップルの収獲を忘れて色めき立っている。

降って湧いたような高レベルに嫉妬すら通り越してライズへの畏怖と尊敬がひしひしと伝わってくる。

 

「レベル85か……とんでもねえレベルを叩き出してきやがったな」

「うわぁ~、ライズさん凄いです! いや、でもライズさんがいるってことはゾンゲさんも一緒ってことですよね? こういう時、一番騒ぐ人がいないなんて……」

「あの子がライズはんどすか。挨拶がてらいくつかリンゴを融通してもらえるか交渉してみよか」

 

トリコ達もライズが叩き出した結果に驚愕を隠せない。

つららママに至っては同じ料理人としての腕前を前に挨拶がてら関係を持てないかと思いつつ、料理人として極上に仕上がったビックリアップルを店に卸してもらえるよう交渉するつもりでいる。

それだけライズの腕を認めているという所作の表れであった。

 

突然のできごとに祭りのテンションは最高潮の熱気に高まる中、当のライズだけは少し意気消沈したような表情だった。

 

「どうしまーしたかライズさん。素晴らしい結果だーというのーに」

「いやぁ、取ってきたリンゴの中で一番手ごたえがあった奴を見せたんだけど、てっきりレベル90は行けたと思っていたから……」

「なるほど……どんな方法で脅かしたかは分かりませんーが、これ以上はかなーり、厳しいかもしれませーんね」

 

ライズは原作でゾンゲの屁で叩き出したレベル80を必要最低ラインとし、最高目標レベルをレベル90と仮定していた。

それだけライズもゾンゲも頑張ったのだ。

 

その上、ゾンゲが原作を超えるほどの屁を連発して出し切ったため、今はダウンしている。

未だに姿を見せないゾンゲは疲労のピークに達している状態なのだ。

 

文字通り全てを出し尽くした最高レベルが85……普通ならここで打ち止めだ。

 

まだ奥の手が残されていなければ……という点さえ除けばではあるが。

 

「トリコ、ちょっと俺に協力してくんね?」

「なに? それはどういう……」

「ちょい耳貸して」

 

意を決したようにライズはトリコに協力を求めた。

そのためにトリコだけに種明かしする。

場合によってはトリコにとって最も辛い作業になるかもしれないからだ。

 

「実は、ビックリアップルにゾンゲの屁をかけて脅かしてたんだ」

「へ? 屁って、屁ぇ!?」

 

突然の提案にトリコが一瞬遅れて理解するが、ライズは構わず続ける。

 

「で、この大量のビックリアップルは普通の屁で量産できたからレベルは80~85くらいなんだけど、今度は普通じゃない屁で試そうかと思ってんだけど、ここまではいいか?」

「……まあ、この際、屁のことはいいんだが、オレにどうしろってんだ? 聞く限りだと俺にできそうなことなんて何もねえぞ?」

「そこなんだけど、ゾンゲも日々成長しているせいか、色んな匂い成分や生物に与える効果も大分多くなってきたんだけど、効果が強いほど扱いが難しくなってきたんだ」

 

トリコが屁のくだりについてはもう何も言うまいと話を続ける。

ある意味予想通りの反応にライズは特に突っ込むこともなく直近で起こったゾンゲの成長について話す。

 

なんだかんだでゾンゲも日々美味いものを食べているおかげで細胞が成長し、それに伴って分泌する屁や体液の効果の汎用性がより広くなった。

一つ例を挙げると、鎮静剤も効かないような屈強な猛獣すらも鎮める麻酔や精神安定剤に似た効果を発揮する物質なんかを作れる。

 

本人は不服そうだが、効果だけ見れば割と普通に役に立つし、人間界の上澄みに相当するレベル90台の猛獣にすら対応できるほどの効果を持っていると聞くと、そのやばさが分かるだろう。

 

しかし、効果が強力な屁や液体ともなると取り扱いはもちろん、それらの調合がかなり難しいのだ。

 

「そして、今回使うのはさらにワンランク上の激臭を放つ屁だ。まともに匂い嗅ぐと3日くらいは神経がマヒするから気を付けな」

「あぶねえモン作ってんなお前等! 話は分かったが、そのワンランク上の屁を出すにもゾンゲがいねえとどうしようもねえだろ。あいつ、今どこにいんだよ」

「あぁ、それなら」

 

一通り話を聞き終えたトリコは屁のことは飲み込みつつ、まだ姿を見せていないゾンゲの所在が気になったのか尋ねてきた。

ライズの相棒ということもあるが、こういう目立ったことが好きだから参加しているのだろう、そう思っている。

それに対してライズは別の方向へ指を差し、その方向へ視線を向けると備え付けのパイプ椅子に腰かける全身ほぼミイラ状態の男が座っていた。

 

「一通り出し尽くしてもらったから休んでもらってんだ」

「休んでるっていうか、ほぼミイラ化してんだろこれ!? 大丈夫かゾンゲ!?」

 

全身がカピカピに乾き、目元がくぼんで変わり果てたゾンゲの姿にトリコが泣いた。

というよりも心配になって駆け寄ってきたが、当のゾンゲは虚空を見つめて反応を示さない。

 

「効果が強い物質を分泌すると多くのカロリーとビタミンやその他化学物質を消費するから、強力な屁を一発分出しただけでこんな風になってしまって。お労しや」

「お前、マジでこいつにもう少し優しくしてやれよ……」

「こんな風になるとは思わなくて」

 

そういう訳で、ゾンゲは現在行動不能ということなので休んでもらっている。

まさかカロリーを大量に消費する屁を生成するとは、恐ろしい子!

 

「で、最後の最後に出してくれた屁なんだけど、成分調べてみたらかなり圧力をかけないと匂い成分が活性化されないんだ」

 

そう言いながら具現化させたグルメスパイザーを出してガションと手を開く。

元は不本意で作ってしまったグルメスパイザー()も今では使用率の高い技になってしまった。

どこぞのプラごみとは違うんだよぉ!

 

「こいつで圧縮して放つはずなんだけど、あまりに高圧なんで俺の力じゃピストンを動かせない……そこでトリコのパワーが必要なのだ!」

「ようやく話が見えてきた……つまり、こいつのピストンを思いっきり押して屁に高圧をかけて匂い成分を活性化、それでビックリアップルを驚かそうって魂胆か」

「そゆこと。ということで、手貸して」

「……まあ、色々と複雑な所はあるけど、高レベルのビックリアップルをこれで作れるってんならお安い御用だ。これに対して報酬は?」

「レベル80以上のアップルを融通してやれるけど?」

「よし、乗った!」

 

最初の微妙な反応もどこへやら、トリコは握りこぶしを握って応える。

トリコにとって屁などオマケでしかなく、優先されるのは食材がより美味しくなることなのだ!

 

こいつ(グルメスパイザー)はオレが思いっきり殴っても大丈夫なのか?」

「こいつの強度は俺の防御力に比例する。今なら17連釘パンチにも耐えられる」

「なら、お言葉に甘えて目一杯やらせてもらうぜ」

 

トリコが深呼吸し、力をためる中、俺もグルメスパイザーでまだ仕上がっていないリンゴたちが入っているカゴを握る。

グルメスパイザーの手のひらの噴出口から出る屁を直接吹きかけられるようにするためだ。

 

「ハアアアァァァァァァァ、17連……釘パンチ!

 

しばらくのタメの後、トリコが放った一撃、正確には17発の連打がグルメスパイザーのプッシュ部を叩きつける。

一撃ごとに強い衝撃で空気が震え、ピストンが屁……激臭のガスを圧縮していく。

 

「なんということでしょーう! 突然の衝撃でービックリアップルたちがビーックリしまーした! 農場のほとんどのリンゴがレベル40以上でーす!」

 

トリコのパンチの余波に島中のほとんどのリンゴがビックリしているとアポロン氏の言葉から察せられる。

たびたび力で脅していたのだが、今まではリンゴを傷つけさせないようにと手加減していたのだが、先ほどの一撃は本気で打ち込んだのだ。

今日一番の衝撃にリンゴたちもビックリしてしまったようだ。

 

だが、そんなこと関係ないと言わんばかりに注目はグルメスパイザーに集められている。

 

「どうだ!?」

「もう少し……! いけいけいけ!」

 

トリコは息を切らしながら腕を押さえ、俺はグルメスパイザーが破壊されないよう形を保ちつつ、ガスに圧がかかっていることを確認している。

13連あたりでグルメスパイザーにひびが入ったのだが、それにも耐えている内に、きっちり17回、ピストンが動いたのを確認した。

そして、中のガスが変質し、未知の臭い成分に変質したことを確認した俺はついに、それを解き放った。

 

「来た! 超濃縮……臭玉(においだま)!!

 

今までに嗅いだこともない、もしかすれば現時点で世界一臭いガスをビックリアップルに噴きかけた。

 

その瞬間、握りこぶしの中から夥しい数の悲鳴が響き渡る。

一種のホラーと思わせる地獄の光景だが、美味しくするためには必要なことだ。

許せ、ビックリアップル。

 

しばらく響いた悲鳴がやがて止み、握りこぶしを解くと、この世のものとは思えないほど恐ろしい形相のビックリアップルが現れた。

 

「これは……っ!?」

「どうだ!?」

 

トリコと俺が固唾を飲んでリンゴを採点するアポロン氏に注目すると、アポロン氏はワナワナと震えだした。

 

「すごい……これほどまでのビックリした表情ははじーめて見ました。公式の記録にあてはめーるなら、このリンゴの全てがレベル90に達してることでーしょーう!」

「「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」」」

 

今年度の記録どころか歴代の記録に迫るほどの高得点に皆の心が一つとなった。

もはや自分たちの記録などそっちのけで一生見れるかも分からないような高得点を叩き出したこの瞬間に全員が酔いしれている。

 

「うおおおおおっしゃああああぁぁぁぁ!! レベル90突破したあああぁぁぁぁぁ!!」

「ついに来たぜえええぇぇぇぇぇ!! オレ様とライズの時代があああぁぁぁぁぁ!!」

「うお!? ゾンゲお前回復はええな!?」

「凄いですよ! レベル90だなんてどんな味なんでしょうか!?」

自分なりの目標を突破できたライズといつの間にか回復して一緒に喜びを分かち合うゾンゲにトリコはレベル90の記録を叩き出した喜びと興奮以上に驚いてしまう。

遠巻きに見ていた小松もいつの間にかトリコたちに混じって喜んでいる。

 

しかし、事態はこれだけで終わることはなかった。

 

「こんなに極上のビックリアップルがあるんだ! 新鮮なうちに皆で食べ……ピギョオオオオオオオオォォォ!?

「どうしたんですかトリコさん!? 鼻を押さえて倒れて……くっさ!?

「急にぶっ倒れた!?」

「なんだどうした!? あまりに高いレベルを叩き出して興奮しすぎたか!?」

 

喜んでいたトリコの表情が一変して鼻を押さえてもだえ苦しんだと思ったら、奇声を上げて倒れた。

その後、時間差で小松が同じように鼻を押さえて気絶したのを見てライズとゾンゲが慌てて介抱するのだが、突然の被害は二人だけに留まらなかった。

 

「ぐへっ!」

「ごはっ!」

「ぎょへっ!」

「ぷぎゃあああぁぁぁ!」

 

一緒に喜んでいたギャラリーも一緒に奇声を上げながら鼻を押さえて次々と倒れていく。

急な出来事に、一瞬だけ原作にない美食會からの襲撃かと身構えたのだが、次の瞬間、ふと匂った異臭にその考えは打ち消された。

 

「クッサ!!」

「え、くさいって何が?」

 

意識が一瞬だけトぶような臭さに強靭な精神力で持ちこたえた俺は鼻を押さえて周りを見渡す。

隣のゾンゲは平然としている。

 

そんな様子に俺はこの騒動の原因と自分のやらかしにようやく気付いた。

 

「まさか、さっきのガスの残り香が風で舞って……!」

 

そう、俺はトリコの一撃に耐えられるグルメスパイザーの維持と猛烈に臭いガスを作ることに注力して疲労がたまっていた。

そんな状況でガスを作り、ビックリアップルをビックリさせたことで目的を達成した俺は集中力を欠き、グルメスパイザーを解除させてしまった。

 

その結果、ガスの残り香が風に舞って島中に拡散されてしまったのだ。

もちろん、拡散されたことで本来の臭さには及ばないものの、それでも人の意識を刈り取るには十分すぎる威力だったらしい。

 

そんな激臭を鼻が敏感なトリコはもちろん、今見ている限りでもアポロン氏やつららママたちも耐えられなかったのかこの島にいた全員が俺たち二人を除いて全員倒れ伏している。

皆は犠牲になったのだ、ビックリアップルの犠牲にな。

 

「やべぇ……これどうしよう」

「え、これオレたちのせいなの?」

 

 

 

 

 

この日、ビックリ島の仰天祭は前代未聞の結果で幕を閉じた。

 

今回の仰天祭だが、突如として発生した悪臭災害により参加者及び主催者、総勢数万人が意識を失って緊急搬送された。

原因は参加者の一人が持ち込んだ激臭の屁だという事実は一部ボカされたのだが。

 

散々な結果に反し、収獲されたビックリアップル総数1096個は全てビックリレベル85以上を記録した。

この今までに類を見ないほどの大豊作の裏には、未収穫のものはもちろん、既に収獲されていたビックリアップルも例外なく、それ以前に味わったビックリをさらに上回るビックリによってレベルが更新されたという事実がある。

 

それにより、IGOがビックリアップルのレベルに応じて支払う金額も当初の予定より大きく上回ることとなり、支払いはまた後日ということで納得してもらっている。

 

そして、こんな現況を生み出したR氏とZ氏は後にこう語る。

 

『美味しいビックリアップルを作ろうとしただけで他意はなかった』

『疲れて寝てたらいつの間にかこうなってた。よく分からない』

 

と、このように証言しており、不慮の事故ということと悪意がないということで情状酌量の余地ありと認定され、グルメ刑務所への投獄は避けられた。

ただし、悪臭に包まれたビックリ島の消臭作業にかかる費用やその間に農場が機能されないことへの補填など占めて3億円を負担するという裏取引を交わしたことは世間には知られていない。

 

また、気絶させられた参加者全員に対して治療費を払うほか、ヘビーロッジにて収穫したビックリアップルで調理した料理をふんだんに振舞うという、R氏が無休無償で動き回ることでこの件は幕を閉じた。

 

 

 

「もうビックリアップルなんてコリゴリだあぁぁぁぁ!」




今回の件に対する各自の反応

トリコ、小松の反応
「色々あったけど、極上のビックリアップルが採れて美味いリンゴ料理も堪能したのでヨシ!」
「それでいいんですか!?」

アポロン氏、つららママの反応
「こんな事態は予想外だったーので、今でも困惑してまーす」
「色々と融通してもらわんと割に合わんわ」

その他参加者の反応
「ほぼ記憶に残らなかったけど、高レベルのビックリアップルが採れて美味い料理を無料で食べられたので満足」

世間の反応
「またライズシェフの病気が発症したよ」
「一カ月に一回はトレンドと市場を荒らす持病もち」

一龍、マンサムの反応
「「仕事増やすな!」」

某美食會ボスの反応
「元気そうで何より」
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