よっち爺と飲み明かし、大往生を果たしてからすでに数カ月経った。
トリコが巨万の一坪の正式な地主になってからというもの、俺たちには定期的にニワトラの卵を分けてくれるようになった。
よっち爺の残した遺言に書かれている通り、偶にミーコと遊ぶことで定期的に俺とゾンゲに卵を分けてもらえることとなった。
それと、分けてもらった卵は決して金儲けに使わないという条件も入れるところがよっち爺らしい。
そういえば、巨万の一坪を買いに来た輩の中にはアイスヘルで俺たちを置いて逃げたグルメ大富豪のモッコイとかいたな。
原作では書かれてなかったけど、大金をつぎ込んだのににべもなく追い返されていたらしい。
同じ爺さんでもよっち爺の方が人情味があって立派な人だった。
何でも金で買えると思ってんじゃねーぞクソジジイ、ザマぁwww!
少し話がずれたが、そんな感じで巨万の一坪については決着が付き、その話題は世間の移り行く日常の中に消えようとしていた。
そして、それは俺にも言えることだった。
『ようライズ、トリコだ! 早速だけど、モルス山脈に来てくんね?』
つまり、原作も少しずつ進んでいるということだ。
トリコから電話を受けた内容はこうだ。
修業で絶品の食材を捕まえるつもりだから、調理してほしいということだ。
しかも、集合場所がモルス山脈のデスフォール近くというのだから、次の食材は既に決まっている。
あぁ、次はサンサングラミーか。
原作に出てくる食材の中でフグ鯨に次ぐ、食べてみたい魚料理だ。
正確にはサンサングラミーのモルス油仕立ての天ぷらが食べたい。
いや、あの魚とモルス油に親和性があるなら他にも調理法があるはずだ。
いつか後学のために食べようと思っていたのだが、今までの細胞レベルじゃあ、あの滝を突破できずにいた。
しかし、トリコ達の協力を得て進化した今なら滝を突破できる可能性がある。
それに、トリコが既にゾンゲに声をかけていたため、十中八九ゾンゲなら行くというだろう。
特に拒否する理由もないので、トリコの依頼には快諾しておいた。
依頼された日の当日、俺とゾンゲはモルス山脈のデスフォールについて早々。
「サンサングラミー、取ったどーーーーーーーー!!」
「イエーーーーーーーーーイ!!」
サンサングラミーを捕獲した。
突然、どうしてこんな話になってるんだと思っているだろうから理由を説明する。
元々俺たちはトリコの依頼で捕獲したサンサングラミーを調理してほしいと誘われたのは既にご存じであろう。
本来はトリコと今頃合流しているであろうサニーと合流して一緒にサンサングラミーを捕獲しようとも言われていたが、今回はその話を断らせてもらった。
その理由は今回の話の肝である珍師範が山脈をくりぬいて滝から落としてくるスパルタ行為に巻き込まれたくなかったからだ。
そうは言っても、あの人はこういう時手を抜かないから今もこっちを監視しているのは間違いない。
原作でもトリコたちが滝の中腹に差し迫ったタイミングで逃がさないように落としてきたし。
イヤらしい師範からの妨害より逃れようと、トリコたちがデスフォールを攻略する前にそそくさと滝に入ってサンサングラミーを捕獲してみると、あまりにも順調すぎて拍子抜けすらしてしまった。
「ていうか、この滝確かに凄かったけどよ、大したことなかったな」
「いや、そんなことはないぞ。そんなことはないはずだけど……う~ん……」
「がっはっはっは! オレ様たちもチョー強くなったってことだな!」
本当は調子に乗っているゾンゲを諫めなければならないのだが、今回に限っては強く言えない。
なぜなら、今回は他の旅と違って思った以上に順調にいき過ぎてしまったのだ。
何というか、今回の修業は俺たちにとって凄く相性が良かった。
まず、最初の滝を突破するところだが、ゾンゲが撥水性の高い体液を分泌して二人一緒に纏うことでデスフォールの水を体から常に弾いていた。
その体液は水を弾くだけでなくワセリンのように潤滑性の高い仕様となっていたので水の中に含まれている土や石なども滑らせていたので体を切り刻まれることもなかった。
俺たちはゾンゲの体液でアメンボの様に水の上をスイーっと滑りながら巨大なスプーンで上からかかってくる滝の水もガードした。
もちろん、スプーンも体液を塗りたくっていたので滝から流されてきた猛獣や瓦礫も弾き飛ばしてくれる傘の様に機能してくれた。
どちらかと言えば偶に油で足滑らせて滝つぼに嵌った後、スタート地点まで押し戻された所が一番辛かったまである。
「滝の中にも強そうな奴もいなかったし、楽だったよなー」
「あの魚もなんか普通に捕れてたけどよ、これがチュートリアルだったんじゃねえの?」
「そうかな……そうかも……」
原作トリコでもかなりの難所だったはずの所が難なく攻略できたせいで、さっきまで調子に乗っていたゾンゲもどこか不安気だ。
肝心のサンサングラミーは念のためゾンゲが別の体液で周りの景色と一体化することで臆病なサンサングラミーにも難なく近づいてノッキング、捕獲に成功した。
これが節ばあだったら強者の気配がダダ漏れで腐ってしまっただろう。
しかし、俺とゾンゲはどうも強者のオーラというか、そういった気配がないのかサンサングラミーにも警戒されなかった。
今回はそれで楽できたのだが、最近は強くなったと思っていたので少しショックだった。*1
サンサングラミーを採ったこと自体はとても喜ばしいので、今回は自分の貧弱さに感謝しよう。
珍師範も『何事にも感謝せよ』って言ってたし。
「うおおおおおぉぉぉ!? なんだありゃあ!」
「お、時間ぴった」
サンサングラミーの調理を準備していると、遠くから巨大なヘビがこっちにゆったりと向かって来るのを見てゾンゲはビビるが、俺はそのヘビに心当たりがあった。
それはまさしく、この章でサニーの相棒となるクインだった。
「お、ライズとゾンゲじゃねえか。もう来てたのか」
「ライズとは偶に会うが、ゾンゲは久しぶりだな」
「ライズさん! ゾンゲさんも!」
「トリコとサニー、小松じゃねえか! 何だそのヘビは!?」
トリコとサニー、小松がクインの頭から顔を出して見下ろす。
それにゾンゲは驚きつつも初顔合わせであるクインのことについて問い詰めてきたので、代わりに俺が答える。
「その子はマザースネークって超強いヘビでサニーの相棒だよ。敵意はないからそんなに騒いでやるな」
「お、おうそうか……っていうか、なんで知ってんだ?」
「前にインテリア探しに付き合った時に紹介された」
「お前、前々から思ってたけど人付き合い多すぎねえか?」
仲良くなっておいて損はないのさ。
いざという時には助けてもらえると思えば人付き合いくらいはどうということはない。
というのも、当初は助けてもらうことばかり考えていたが、今となっては全員普通に友人だと思っているから打算は既にないのだけど。
今やその人脈を駆使して自分に必要な技を教えてもらったり、その技を自分なりにアレンジしたりして自分の糧にしている。
元はただの一般人だったというのに、今ではトリコの猛獣と張り合えている(生き残れるよう逃げる)のだから。
人生って何が起こるか分かんねえや。
「ライズさんとゾンゲさんも、もしかしてサンサングラミーを?」
「オレから頼んだんだ。小松とは違う発想で美味しいサンサングラミーの調理方法を思いついてくれると思ってな」
「あ、それはいいですね! ライズさんの発想ってボクでも驚かされるようなことばかりですから勉強になるんですよ!」
「まあ、ライズならサンサングラミーも美しく調理してくれるだろうよ」
俺が答える前にトリコが答えると小松とサニーは納得する。
ここまで信頼度が高いのは今でも疑問ではあるが、今更の話なのでこのことはスルーする。
「それに、今回はライズたちと勝負してみてえと思ってな」
「勝負?」
続けてトリコの口から出た言葉に俺は疑問をぶつける。
勝負とは何ぞ?
「前々から思ってたが、ライズたちはオレ達よりも過酷な環境への適応力に長けているからな。これまでの旅もスムーズに行けたが、ライズがいない時も想定しねえと本格的な修行にならねえんじゃねえかってな」
「ライズさんとゾンゲさん、どんな環境下でもブレませんからね」
「実力はオレらが勝っているが、環境に対応する手数の多さではライズたちが上だからな。グルメ界のキモい環境にもブレねえ技も考えていかねえと」
「そういう訳で、今回は先にどっちがサンサングラミーを手に入れられるか勝負しようってサニーとも話してたんだよ」
……あれ?
何だかおかしな方向に話が進んでた感じだな?
最近では俺が原作の流れにのっかる形になるかと思ったけど、ここで別ルート選択できるなら、やり方次第では珍師範からの洗礼を避けられるかもしれない。
もしかして、サンサングラミーの捕獲はしなくてもよかったのかもしれない。
「ほう、勝負か。オモシレーじゃねえか! オレ様たちに勝てると思ってんのか?」
「そのつもりで勝負しようってんだよ!」
ゾンゲとトリコが何やら張り合っているが、俺はこの提案について少し考える。
別に、この勝負は受けてもいいと思っている。
なにせ、このデスフォールは既に攻略済みであり、自分なりの渡り方も確立しているから自分たちの負けははっきり言ってあり得ない。
だが、ここで競争感を煽れば原作にはなかった緊迫感も生まれてグルメ細胞がより活性化して更なる成長につながるのではないのか。
ライズは基本的に四天王の成長を望んでいるため、受けるか受けざるか、どちらがより一層の成長が見込めるかを天秤にかけて考える。
「それで、どうすんだライズ! 受けてくれるか?」
「そうだなぁ……その勝負……」
しばらく考えた俺は。
「「俺たちの不戦勝でーーーっす!!」」
「「なんだとーーーー!?」」
鏡は見なくても分かる、下衆い笑顔を浮かべながらグルメケース一杯に詰めたサンサングラミーを見せびらかして勝負を断った。
否、既に勝負は決したという結果を見せつける。
トリコとサニーが目ん玉飛び出して驚くが、小松は幻想的なサンサングラミーの輝く全容を目にしてワナワナと息を飲んだ。
「そ、その光っている魚が、もしかして!?」
「これがお求めのサンサングラミーだ」
ノッキングされて気絶しながらもキラキラと光るその姿は文字通り、魚の形をしたクリスタルが輝いているかのようだ。
「すげぇ! ノッキングされてんのに、眩いくらいに光っている!」
「こんな……!
フライングでサンサングラミーの姿を拝んだトリコとサニーが驚愕のままにサンサングラミーの姿を凝視し、その神々しさに薄く涙すら浮かべていたが、その感動も引っ込んで俺たちに詰め寄ってきた。
「お前ら、なんでサンサングラミーがここにあんだよ!?」
「もしかして、もうデスフォールを攻略したとか言わねえよな!?」
「そっすよ」
さも当然のように答える。
ここで勝負を受けて競争心を煽るのはいいけど、それが万が一にも焦りに転じ、何らかのミスに繋がって失敗する可能性すらある。
俺という変数が関わることで取り返しがつかなくなるケースにならないとも限らない。
今までは俺が付き添う形になっても目的が一致していたから原作より大きな変更が特になかったのだが、今回みたいに俺の存在でトリコたちの気持ちが僅かにも原作より変化するとなると何かしら起こる危険性がある。
だから、俺は今回見守る側にする。
「ちなみに、滝つぼで足滑らせたら全身なます切りにされたり、滝飛沫もめっちゃ切れるからメチャ痛かった」
「その全身の傷はそれだったの!?」
「なるほど、やっぱ圧倒的な水量から成る滝つぼは自然のミキサー、そして滝の飛沫も小石や砂を含んだ超高圧の水流のカッターと化してるのか……なんでそんなの食らってかすり傷程度で済んでんだよ!?」
言い忘れていたが、トリコとサニーが言うように今の俺は全身なます切りにされた痕が残っている。
とはいえ、ゼブラのボイスカッターに比べれば豆鉄砲程度でしかなかったので傷自体は既に完治している。
「と、まあそういう訳で勝負の話は今回無しってことで……攻略手伝ってやろうか?」
「「いらん!」」
「トリコさん!? サニーさんまで!?」
勝負を仕掛けたにも関わらず勝負するまでもなく先にターゲットを採られていたのだ。
こだわりの強いトリコとサニーならライズからの手助けを固辞することは分かり切っていた。
そんな二人に小松は驚いた。
「ライズさんに助けてもらいましょうよ!」
「仮にそれで簡単に突破できても修業になんねえよ。グルメ界でもライズに頼る気か?」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「それに、こっちから勝負仕掛けて、戦うまでもなく負けた直後に助けを求めるとかダセェ!
「えぇ……」
トリコから正論、サニーからは精神論を聞かされて小松も閉口する。
こうなった二人を止めるのは無駄だと観念するあたり、小松もこういう状況に慣れたものだと感心する。
普通だったら生死のかかっている状況でなりふり構うはずがないからだ。
そんな感じで結局、トリコ達は原作通りトリコとサニー、小松の三人でデスフォールを攻略することとなった。
いかだで滝に突っ込んでいく三人をゾンゲと並んで「いってらー」と手を振ってクインと共に見送ってやった。
「戻ったぞ! 早速サンサングラミーを実食だぁ!」
「あ、おかえり」
トリコ達を見送ってから数時間後、やることやった俺たちはデスフォールの波しぶきをシャワー代わりに水浴びしていた。
そんな時、後から落石によって勢いが弱まったデスフォールから戻ってきたクインの口の中からトリコたちが出てきた。
「なんか、色々と大変っぽかったけど大丈夫だった?」
「ま、当然だし。その証拠にホレ」
「この通り、サンサングラミーの捕獲完了です!」
「「おー」」
続いて出てきたサニーと小松が捕獲してきたサンサングラミーの入ったグルメケースを見せてくる。
ゾンゲと一緒に拍手して称える。
「いや、でもまさか滝が崩落するほどの大岩が降ってくるとはなぁ……オレ様といえどアレを壊すなんて流石と言わざる得なかった。渋かったぜ」
「ビューティーと言え。つっても、あれはマジで終わったかと
ゾンゲとサニーの会話から分かると思うが、結局珍師範の洗礼は予定通り行われた。
クインがせわしなく動き始めたからすぐに安全圏に避難した俺たちは何ともなかった。
それはそれとして、傍目から見てたけど、やっぱり
普通に山一つスプーンでくりぬいて頭上から落とすあたり、殺意がおかしい。
全てを押しつぶすデスフォールの真ん中に入ったところを見計らう所で更に悪辣さもにじみ出ているから言葉も出ないほどにドン引きさせられた。
しかもあの洗礼に殺意はあっても悪意がないという所でもう救いようがない。
あれだけガチの襲撃からして業の深い悪意がないとできないのだが、そういうことを当たり前にしてくるのが第0ビオトープ職員*2である。
やっぱあの人たちおかしいよ頭が(マジトーン)。
昔の辛い修行が思い出されてしまったが、トリコの声に現実に引き戻される。
「それじゃあ、早速食おうぜ! サンサングラミー!」
「当たり前だああぁぁぁぁ!」
「ゾンゲお口チャック」
もちろん忘れていない本日のメインイベント、サンサングラミーの実食に皆のテンションが上がる。
そういう俺も未だに光り輝くサンサングラミーを食べたいと思っている。
小松がサンサングラミーをグルメケースから取り出す。
「それにしても、凄く繊細な魚でしたよ。生息していた池の上澄み部分の水の中でしかノッキングできなかったんですもん」
「グルメケースの中の水がそうか……いや、水というより油か?」
「サラサラな手触りとわずかな脂肪酸の匂い……まるでオリーブオイルの様に上質な油だ」
トリコたちがモルス油の話に入ったところで俺たちは自分たちの分のサンサングラミーを取ってくる。
小松たちはモルス油を使った天ぷらを作るだろう。
なら、俺たちは別の観点でアプローチしてみたいと思っていた。
そして、俺は閃いたのだ。
小松が天ぷらなら、俺は。
「できましたよー!」
「おおおおぉぉぉ!」
小松とトリコたちの声によって思考から現実に引き戻した。
小松たちはモルス油で揚げたサンサングラミーを皿に盛り付けてもり上がっている。
「ほう、天ぷらか。あっちも美味そうだな」
「あぁ、あれも美味そうだ。だが、ライズの作った奴の方が美味いのは言うまでもねえ!」
「おい、勝手に競うな」
「望むところだ! こうなったら小松とライズとの料理人勝負だ!」
「トリコさん!?」
勝手に盛り上がったゾンゲとトリコに俺と小松が突っ込みを入れる。
トリコとしてはサンサングラミーの捕獲競争が空振りに終わって不完全燃焼だったからか、今度は料理対決をしようとしていた。
なお、サニーはライズと小松のどっちの腕も認めているので勝手にしろというスタンスで俯瞰している。
勝手に火花を散らしている二人を置いといて既に調理を終えたサンサングラミーと炊き立てご飯が入っている土鍋を持って来る。
「どうやら、お前も準備はできてるみてえだな」
「とても優しくも力強いお米の香り……食欲が湧いてきますねぇ」
サニーと小松の言う通り、炊き立てご飯の香りによだれが溢れてきそうだ。
あぁ、早く食べたい。
その場にいる誰もが料理と食欲の準備が完了していると判断したサニーがクインに声を挙げた。
「どっちも準備が整ったか。後は、シチュエーションだな! クイン!」
「よっしゃ!」
「え? うわ!」
「どわああぁぁぁ!?」
サニーの呼びかけにクインが動き出した。
それに反応してトリコは小松を掴んでクインに飛び乗るも、ゾンゲはクインに轢かれて弾き飛ばされるも、そのまま頭上に落下する。
俺は、もちろん飛び乗っている。
全員が乗り込んだ所でクインの頭が空高く、高く上がっていき、夕焼けに照らされたモルス山脈を一望できるところにまで届いた。
「うおお……なんて高さだ。垂直でここまで立てるのか」
「クインはまだ子供だからまだ800mほどしかないがな。シチュとしては最高だろ」
「ぎゃああぁぁぁ! たけー!」
「高くて怖いけど……下を見なければなんとか……」
「それじゃあ……」
全員が目の前に並べられているサンサングラミーの前に腰を下ろして手を合わせる。
何気に俺とゾンゲの分まで用意してくれているのはありがたい。
「この世の全ての食材に感謝を込めて」
「「「「「いただきます!」」」」」
皆がサンサングラミーの天ぷらを手に取り、幻想的な姿を堪能する。
原作でも描写がありはしたが、実際に手に取って目の当たりにすると、その感動はひとしおだ。
揚げたてで油が反射して金でできた天ぷらに見える。
それに、モルス油の香りもいい。
「あむ」
目で楽しんでから腹部から一口で食べた。
パリパリと体の表面のうろこがせんべいの様にカリカリだからか、外はサクッと、中はふんわり。
身もクリーミーでジューシー、白身魚のようなたんぱくさがあるのに肉汁と旨みが溢れ出てくる。
これは、もう言うまでもない。
「「「っまーい!」」」
まるで示し合わせたかのように全員がサンサングラミーの味を絶賛した。
何の味付けも無しに、ここまで美味しい天ぷらは前世を含めてもお目にかかったことはない。
だからこそ、この味が未完成だということが信じられない。
確かにサンサングラミー自体の旨みは強く、絶品だ。
しかし、過去に食べてきた食材にもインパクトのある食材は存在してきた。
だからこそ、サンサングラミーにはテコ入れが必要なのだ。
その答えは既に小松は分かっている。
「トリコさん、これに使ってみませんか? メルクの星屑」
「え!?」
「メルクの星屑だと!?」
まあ、俺もわかっていたけどね。
多分、原作知識が無くても同じ答えに行き着くと思えるくらいには。
実際、メルクの星屑は原作前から味わったことがあったけど、強すぎる旨み故に上手く料理に収めることができなかった。
まるで寿司を醤油でネタもシャリもビタビタにした時みたいに、料理に一振りするだけで食材の味を上から押しつぶしてしまう、玄人向けの調味料だ。
しかし、ジュエルミートの様にインパクトのある食材であればメルクの星屑と味のバランスが整い、真価を発揮する。
そして、今食べたサンサングラミーも然り、という訳だ。
丁度、同じ話をしていたトリコたちも更なる味の進化に心を躍らせていた。
「つり合い、調和するかもな」
「試す価値はある!」
「つまり、美味いものが更に美味くなるってことだろ? やるしかねえ!」
サニー、トリコにゾンゲも急かしたところで小松が持って来ていたメルクの星屑を解禁した。
小瓶に入れられた金色の調味料が夕焼けに照らされて周囲を照らす。
「うお! 美しい!」
「じゃあ、早速付けましょう」
行き届いたメルクの星屑を全員がサンサングラミーにかけると、銀の白身と金の調味料がうまく適合したからだろうか、自分の細胞が早く食えと急かしているような気がする。
金と銀の運命的な出会いに歓喜する体を抑えながらサンサングラミーを一口。
瞬間、口内で旨みの爆弾が爆ぜた。
口からのど、果ては胃にまで突き抜けるくらいに旨味が深くなった味に全身の細胞がついに歓喜した。
細胞が進化した。
天ぷらを堪能しながら周りを見ると、自分と同じように細胞が進化して体力が全回復しているみんなの姿が見えた。
ここまでは原作通りの展開だ。
トリコ達の細胞レベルアップという今回の旅の目的が達成されたことを確認したところで、俺たちも介入する。
ただ単純にサンサングラミーを堪能するために。
「よし、天ぷらは堪能した所で、次は俺の料理をご賞味あれ!」
「待ってました! オレ様のコンビの味を思い知れ!」
「ハードル上げるな」
「あだ」
無駄にトリコを煽るゾンゲの頭をペシっと一発軽くたたき、下処理を終えたサンサングラミーを取りだす。
外気に触れないよう布をかぶせた大皿とご飯を炊いた土鍋を円を囲む皆の前に置き、布を外す。
その瞬間、銀白色の輝きが俺たちに注がれた。
「この輝き……!」
「この匂い、これはまさか!」
夕焼けを押しのけ、まるで昼間に時間を巻き戻したかのように辺りを照らすその正体は、サンサングラミーの刺身だった。
「これは、サンサングラミーを捌いたのか!?」
「あれだけ繊細な食材を捌いてもこんなに輝くなんて! 揚げた時の比じゃないくらいに輝いていますよ!」
「いや、でも刺身の表面にモルス油が塗られていて、それがサンサングラミーの発光を反射させて強く輝いているのか……調理が最低限な分、本来の強い風味がダイレクトに香ってくるぜ!」
トリコのお眼鏡に適ったのか、刺身状態のサンサングラミーによだれを溢れさせている。
そう、小松が天ぷらなら俺は生の刺身状態で出してみた。
魚は熱を入れると本来の風味が感じにくくなるので、俺は魚本来の旨味を活かす形で調理したのだ。
バリエーションは多い方が食事も楽しくなるのだ。
「ライズさん! サンサングラミーをどうやって捌いたんですか!? こんなに繊細な食材を!」
「生息していた油の中で包丁を入れただけなんだけどな。何とか上手くいってよかったよ」
「なるほど、万が一にも包丁を入れて味が劣化するのが怖くてできなかったけど、その方法でもできたんですね」
なるほど~と納得する小松ではあるが、もちろん、それだけで捌けるほど簡単な食材ではない。
天ぷらのようにモルス油を使って姿揚げするのとは違い、その身に包丁を入れるとモルス油の中であろうとも味が劣化すると調理前に感じていた。
では、どうする……当然、食義が活きてくる。
サンサングラミーがストレスを受けないほどに丁寧で繊細に捌き、捌かれていると自覚させないことで味を劣化させることなく刺身にできたのだ。
ただ、現時点での小松では無理なので代わりに俺がやったのだ。
食義について触れないのは、特に必要ないと思ったからだ。
どうせ近いうちに分かるのだから。
「で、その刺身を炊いていた真珠米に盛り付けて極光出汁と醤油バッタをベースにしたタレを付けて……海鮮丼ならぬ水晶丼の完成だ!」
「すごい! 海底でしか取れない麦貝から採れる真珠のような米の真珠米の輝きがサンサングラミーの輝きと合わさって更に輝かしくなりましたよ!」
「ただ眩しくなったわけじゃない、強弱のついた光のコントラスト、更にオーロラを演出させるタレが料理を飾り付ける……なに、この美しさ……」
「同じ魚介系だからか、海で採れる真珠米の香りと魚本来の香りが絶妙にマッチして香ばしいなぁ……早く食いてえ!」
「ふふふ、そうだろうそうだろう」
小松は感心し、サニーはお好みの盛り付けに満足してワナワナと不細工な泣き顔で感動し、トリコは再び食欲が再燃して興奮する。
そんな様子を誇らしげに唸るゾンゲに苦笑しながら、水晶丼を人数分盛り付けて全員にいきわたらせる。
ちなみに、人数分というのはクインも含まれているため、地上に降りた後は天ぷらと水晶丼を振舞うつもりである。
今回の立役者に何もなしってのはねぇ……
もう既に食事前の挨拶は済んでいたので、そのまま水晶丼を一口。
ねっとり甘いサンサングラミーのプリプリな身とホカホカ炊き立てのご飯を一気に味わい、破顔した。
(サンサングラミーの甘みとモルス油の芳醇な香りに真珠米の塩味交じりの甘みがタレと絡み合う~)
お互いにインパクトのあるタレとサンサングラミーに合う米として真珠米を選んだのは間違いではなかった。
特殊調理食材である真珠米の調理が成功したことによってお米本来の甘みに加え、海水由来の雑味が抜けた塩味が絶妙なバランスで合わさっている。
噛めば噛むほど甘みを感じ、味わい深くなっていく。
そのおかげで気持ちは穏やかなものとなっていき、旅の締めくくりに相応しい出来上がりとなった。
「何と言うか、素材の味がしっかり利いてますね~……」
「あぁ……サンサングラミーの旨みがジワっと染み渡るようだ……」
「なんの飾り気のないシンプルな旨味が上品さを演出していて良い! 最高!」
「ガツガツガツ!」
小松、トリコとサニーも水晶丼に舌鼓を打ち、ゾンゲは一気にかきこんでいる。
皆がライズの料理を絶賛し、全て食べ尽くすまでその手を止めなかった。
既に進化した細胞では成長させることはできなかったが、個人的には好きな物を作れてよかったと思います。(日記風)
「どうよ? ライズの飯は美味かっただろうが! この勝負、オレ様たちの勝ちだ!」
「なにおう! 俺たちの細胞が進化したのは小松の料理だ! だから、オレたちの勝ちだ!」
ここで勝負を思い出したかのようにトリコとゾンゲがお互いに自分の相棒の勝利を譲ろうとしない。
トリコは捕獲競争の雪辱を、ゾンゲは料理対決で完全勝利を収めたいがゆえにヒートアップしていく。
「まったく、終わったことをグチグチとせわしない奴らだ。この美しい余韻も楽しめないノンデリなんか放っておこうぜ」
「あはは……あ、このお刺身、メルクの星屑とも相性ばっちりで美味しいですよ~」
「この真珠米とサンサングラミーの天ぷらで天丼にするのもいいなこれ!」
「あ、天丼なら上から極光出汁のタレ、真珠米の中にメルクの星屑を混ぜるといい塩梅になると思いませんか!?」
「なんだと……やはり天才か」
「いえいえ、大げさすぎますよー! ライズさんこそ凄いじゃないですかー!」
「二人の料理人が互いの腕を認め合うことで美しさが増し、それに呼応するようにサンサングラミーの料理も輝きを増している。まさに調和と美しさの連鎖反応……お前ら最高!」
そして、当の料理人たちはお互いの料理を再び褒め合いながら、どう調理すればいいかと互いに認め合いながらより良い料理の案を思案している。
サニーは切磋琢磨し合っている二人に何かを見出したのか勝手に感動して幸せそうだった。
命を懸けて食材を採り、美味しいものを食べて余韻に浸る。
お互いが思い思いに過ごすこの時間がとても心地いい。
その後、日が沈んでもサンサングラミーの光が宴会を最後まで照らし続けた。
珍師範「ライズとゾンゲに山を落としても普通に生き残るから意味ないし止めるか……ていうか、二人を撒きこむとチヨちゃん絶対に怒るからのう……」
ライズたちが滝に突っ込んでも横やりが来なかった裏で、どこかの師範がこういう愚痴を呟いたり呟かなかったり。
次回は料理回ではないのであしからず。