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「おぉライズ、久しぶりじゃな。よく来てくれた」
快活な笑顔と共に俺を出迎えてくれたのは最近多忙なはずの一龍会長である。
お盆を模したIGO本部屋外応接広場のテーブルに対面するように腰を掛ける。
「どしたん会長? ここ最近は忙しいとか言って電話にも出なかったくせに?」
「折角の再会に嫌味を聞くつもりはないからの。こっちはワシがいなくてもちゃんとやってるから安心して見守っていたんじゃよ」
「……」
「その胡散臭いものを見る顔止めい!」
自分でもあまりよろしくない顔をしているのは自覚しているが、こればかりは仕方がない。
なにせこの人、自分からコンタクトを取るとき以外は全然応答しなかったのである。
まあ、原作展開からしてグルメ界に行く前の引継ぎとか、これから起こる大飢饉とかの調整とか大変なのだろう。
だけど、原作知識でしか知らない事情を俺が指摘するわけにもいかないので、あくまで知らない体で話をする。
「風の噂で聞くが、トリコ達の修業に付き合ってもらっているそうじゃな」
「まあ、なりゆきと依頼という体ですけど」
「それは結構! お前たちはトリコたちを良い具合に触発してくれている。礼を言いたいのはこっちじゃよ」
好々爺のように笑いながら茶を出してくれる姿からは想像もつかないが、かなりのスパルタである。
懐が深いのは間違いないのだが、人の好さに絆されてこの人の話に耳を傾けると唐突に重要な話をぶっこんできて巻き込まれるのだから注意が必要だ。
「それで、忙しい時間を縫ってまで面会したのはどういう用で?」
「あー、それなんじゃけど、用があるのはワシではないんじゃ」
「会長でない、というと?」
「今日は大事な会議があっての、ちょっとしたお通しを出してほしいんじゃよ」
「? IGO専属の料理人がいるんだから、そっちに頼めばいいのでは?」
会長の言葉に何か引っかかりながらも疑問を投げる。
IGO本部の専属シェフは料理人ランキングには載らないが、腕のいい料理人ばかりだ。
基本的に料理人ランキングに載るのは店を出している人がほとんどだし。
「いや、今日は錚々たる面子じゃから、もてなしも気合を入れねばならん。うちのシェフの腕を疑う訳ではないが、確実性を期すにはお主が適任だということじゃ」
「まあ、そういうことなら……」
会長の言葉は依然として引っかかるが、特に拒否する理由もなかったので料理の依頼は了承した。
本当にいきなりだったが、臨時バイトが入ったと考えればいいやろ。
と、思っていた時期が私にもありました。
長らく会ってなくて忘れてしまったが、会長は基本的に人が良く、面倒見がいい。
しかし、その反面では厳しいときは厳しい。
なので、俺に馬鹿正直に話せば逃げることも織り込み済みだったのだろう。
連れてこられた先で野生の第0職員が待ち構えていた。
「ようライズ、久しぶりだな! ギャハハハハハ!」
見覚えのある面子に固まった俺に愚衛門は何が面白いのか笑いながら挨拶してくる。
すんません、俺今それどころじゃねーんだわ。
いや、あんたらマジでなんでここにいるの?
この集会はグルメ界でやるもんでしょ?
人間界で集まるなんて聞いてないんだけど。
そう思っていると、そんな心情を読んだようにグラマラスな女性、グルメ文豪のメリスマンがここに集った理由を語る。
「ふふ、ここ最近、あんたの活躍をよく耳にするし、上手くやってるようだから祝ってあげようと思ってね。あ、それとあんたと相棒もスペシャルサンクスに載せていい? もしくは、アシスタントとしてウチにずっといてもいいのよ?」
「うん。とりあえずその話は保留にしてもろて」
「あら残念」
口でそう言いながらあっさりと引き下がるが、その様子からして楽しんでいると分かる。
この人、文豪の性だからか人間観察とかが趣味なので、リアクションが大きい俺とゾンゲのことをよく揶揄ってくるのだ。
「皆、積もる話もあるじゃろうが、話は飯の後にでもしよう」
「そうだな。最近噂のシェフの料理を味わうために来たものだ」
テーブルのセンターを陣取っている会長が食事を促すと同席しているゴブリン・ラモン。
れっきとした犯罪歴のあるグルメ山賊である。
二人に促される形で持ってきた料理をテーブルに並べていくと、皆が思い思いに皿に好きな物を取っていく。
「それでは、料理も済んだことだし、俺はこれで」
「お主ももう少しここにおれ」
とりあえずバイトは終わった体でこの場から離れようとするも、会長に具現化した箸で止められた。
そこまでする?
結局、会長の拘束もあって俺は第0職員の食事会に同席させられることとなった。
「いやー、やっぱり料理人が作るメシが一番美味いってことだよな! チンチン達も来ればよかったのによ」
「チンチン言うんじゃないよまったく……ここにいない面子は弟子への引継ぎで忙しいってことさ」
大量に用意した料理も食べ尽くしたところで愚衛門が満足そうに腹をさすりながら、この場にいない珍師範たちの名前を連呼するとメリスマンに注意される。
そう、今出席している第0職員は与作とメルク、ラブ所長、それとリュウさんがいない。
それ以外の面子が勢ぞろいていうのも凄いことなのだが、わざわざこんなクソ忙しいときに、なぜ人間界で集まった?
余計に分からなくなっていると、顔に出ていたのかその疑問にグルメ手品師のマナンが疑問に答える。
「我々はこれから大きな仕事が控えています。もしかしたら、この中の誰かが死ぬかもしれません」
「マナンさん、それは」
「構いませんよ。ライズさんなら既に気付いているでしょうし」
マナンがしゃべりすぎたと感じた武術家の桜が制止をかけるが、グルメ天文学者のララがそれを止める。
「それに、グルメ日食のこともあります。その時にライズさんの力は人間界に必須。故に、我々も筋を通さなければなりません」
「教授……」
「それで、ですね……我々がグルメ界に行く前に確認しておきたいことがありましてね」
コホンと咳ばらいをして煮え切らない態度のララ、だけでなく他のメンバーの態度にライズもイヤな予感。
しかし、そんな彼の気持ちなど知ったことではないと言わんばかりに今回集まった本題を切り出した。
「私の後を引き継ぐつもりはありませんか?」
「謹んでお断りします」
ララ教授の勧誘を俺が断るも、堰を切ったかのように周りの職員(一部除く)が水を得た魚の様に白熱し始めた。
「ララさん、ここにいたって抜け駆けはよそうと言ったばかりではありませんか? 更に言うなら、ライズさんは私の直弟子として手品師が向いています」
「こいつの手腕は手品のようなエンタメよりも、より実践的な暗殺に向いている」
「それこそ戦いが不得意な彼には向いてません。彼には人を活かす武術の才があるのは言うまでもありません」
「ライズの本質を分かってねーなぁ。こいつは戦うよりも人を陥れるイヤらしい戦法が性に合っているんだよ。俺が教えた略奪やその他の手腕で荒くれどもを牛耳ることだって夢じゃねえ」
ララの勧誘を皮切りにマナン、暗殺者のメガロドラス、武術家の桜、山賊のゴブリン・ラモン(ここからはゴブリンと呼ぶ)、がライズを弟子に引き入れようとお互いに火花を散らせる。
目の前でララ教授の勧誘を断ったのに、誰も話を聞いていないのだ。
「いや、彼は料理人気質的に人を癒すことこそ本質です。私の整体術を全て継承できただけにとどまらず、独自の整体術を考案した事実こそ整体師の才能を持っている何よりの証明となります」
「それはありとあらゆる医学分野を修めた知識と頭脳が基盤にあるから。彼はこれまでに分野問わず医学研究・論文を残しているわ。これからの時代、医学界には彼が必要なの」
「研究論文は半ば強制的に手伝わされたせいで論文にアタシノ先生と並んで書かれただけですよね? しかも、俺の許可も取らずに」
グルメ整体師のマリーとグルメ外科医のアタシノもライズの取り合いに参戦するも、当の本人の意見は右から左へ華麗に受け流すか、シレっと目を背けるだけである。
ちなみにララ教授も研究論文に俺の名前を助手枠に書いてある。(無許可)
「相変わらずライズは人気だべ。できることがありすぎると苦労するべな」
「できることは数多あれど、彼の身は一つ。本当は彼に後を継いでもらいたいが、意思はきちんと尊重せねばなるまい」
「これからの世を支える支柱となるには違いない。期待してしまう気持ちは分かるというものじゃ」
「でも、文才だけは絶望的にないから小説家って向いてないのよね。でも、アシスタントとしては超優秀だからやっぱ私も欲しいわ」
鍋職人の栗坊、ゴロ族の戦士タック、グルメ仙人の光才老、メリスマンはライズの引き抜きには積極的でないのか無理な勧誘はしてこない。
しかし、この四人も実はライズに自分の技術全てを叩き込んだ手前、後継として欲しいという気はある。
ただ、ライズは光才老に複雑な心情を抱いている。
(この人、やっぱ白か黒か全くわかんねえ)
その懸念の元はといえば、原作では裏切り者として描かれていたからである。
時系列は不明だが、光才老はグルメフェスで第三勢力のNEOと合流し、反旗を翻す。
最初から最後まで敵として描かれていたが、本当に黒かと言われれば悩むところである。
同じく、原作で栗坊と鉄平が途中から裏切ってNEOのメンバーになるのだが、それは一時的な物であり、また味方サイドに戻ってくるからだ。
というのも前者は二重スパイ、後者はジョアに洗脳されたからというもの。
そういう設定と、その掘り下げが原作では不十分だったため、光才老が自発的に裏切った黒なのか、洗脳された白かが全く判断できないでいる。
さらに言えば、光才老が俺にグルメ仙術を教えたのも全く分からない。
純粋に弟子として取りたかったのか、それともNEOで使い物になるように仕込んだだけなのか。
真意が分かりづらい分、余計に逆らいづらいのが光才老その人である。
そんな感じでライズを取り合う職員たちを前に一龍は手を叩いて注目を集める。
「今日はただの定例会議だと言ったじゃろう。無理な勧誘は無しだと言ったろうに」
「人間界で行う最後だからこそ、引き入れたいと思うのは当然だろう」
「というか、弟子は取ったと全員から聞いておるぞ? なら、ライズを無理に引き入れる必要もないじゃろうが」
一龍が全員に尋ねると、皆が一様に難しい顔をする。
「それはそうなんだけどよぉ……」
「
「何でもできて器用で向上心もある……その手の技術継承はもちろん、今後の発展のことを考えると彼が一番適性があるんですよね」
「ぎゃははははは! お前らは大変そうだな! この中で暇なのはラップくらいか?」
「あんたも人のこと言えんだろう」
「私は暇ではない」
ゴブリンとメガロドラスの言うように、ライズは生き残るために必死に覚えてあらゆる技術を習得できる要領と器用さがあるため、別枠で後継を育てたと言っても才能という点でライズに勝るとは言えないものだった。
それは桜も同じようで今後、後世に技術を残していくことを思うと、独自に技術を発展させられる手腕があるライズはまさに技術を絶やさない希望ともいえる。
しかし、中には愚衛門やラップの様に弟子を取っていない例外もいる。
更に、与作やメルクの様に優秀な弟子がいても個人的な思惑でライズに技術継承(無理矢理)をする一団もいるので皆が皆、ライズを渇望しているわけでもないのがこの組織の難しい所である。
そして、武闘派(愚衛門除く)の三人だけに飽き足らずライズが最も得意とする研究職や医療関係に従事する者たちはライズに熱い視線を向けていることを当の本人は知る由もない。
「お前ら……本人の意思も無視し、あまつさえ弟子がいるのに最後まで勧誘するとはライズにも、その弟子にも失礼だとは思わんのか!?」
「会長……」
一龍が剣呑な雰囲気を漂わせて皆を一喝する姿に感激するライズ。
皆が気まずそうに目を背ける中、一龍はさらに声高々に告げる。
「ライズには既にマンサムの後を継ぐIGOトップの椅子を用意しておるからの」
「おいこらテメエ会長(キレそう)」
思わず今までの恩をかなぐり捨てたかのような一言を皮切りに、今回の定例会はライズの取り合いと会長へのバッシング合戦へと変わり、人間界で行う最後の定例会議は不毛なものとなって幕を閉じたのだった。
「タックよ。ライズの様子はどうじゃった?」
「はい。見た感じですが、会長の言う通り食霊の気配が以前見た時よりも遥かに濃くなっています。間違いなく、目覚めているとみて間違いないでしょう」
「グルメ細胞の進化で目覚めつつあったところを、三虎との接触が決定的なものとなったか……」
「彼は大丈夫なのでしょうか? 長く食霊……グルメ細胞の悪魔を見てきましたが、あれは悪魔とは違う、もっと別の何かです」
「まあ、そこは大丈夫じゃろ。そうそう乗っ取られるタマでもないのは知っておろう?」
「それはそうですが……」
「それに、彼の食運であれば悪いようにはならんと思うてる。いや、むしろワシらの想像をはるかに超えることになるかもしれんのう」
「……否定しきれないところも彼らしいです」
「ま、なんとかなるじゃろ。見た感じ悪いものではなさそうじゃし」
会議が終わった後の講堂で一龍とタックの二人が忍ぶように、そんな会話をしていたことは誰も知る由はない。
第0ビオトープ職員内派閥の勢力図
・ライズには研究内容、技術を継承してほしくて爪痕を残した過激派
桜、メガロドラス、ゴブリン・ラモン、アタシノ、ララ、マナン、マリー
・できれば継いでほしいけど、本人の意思次第の中立派
栗坊、メリスマン、タック、珍
・弟子はとっくにいる、もしくは取らないので問題としてない派
ラブ所長、ラップ、愚衛門
・弟子はいるけど個人的な思惑で技術継承して気に入ってしまった愉快犯派
初代メルク(メルクと一緒に働いてほしい)、与作(弟子は一人だけというルールを破ろう)、光才老(???)