書く構想はあるのに書く手が遅くなっている……
何かいい方法があれば教えてください……
そう言えば、原作からすれば今のタイミングは恵方巻づくりに入っているころだろう。
となると、マダムフィッシュをやった後はドドリアンボム、王酢、そしてエコのりとなるわけだ。
こうして整理すると人間界に残された猶予も残りわずかって感じがする。
クッキングフェス以降は人間界もほとんど壊滅状態に陥るため、できることは少し予定を詰めてでもやった方が良いだろう。
人間界が壊滅した後の備えとして、俺の私財で酪農や醸造、畜産、稲作や農業に加えて海産物の養殖の体制も充実させてきた。
そのため、人間界が原作通りに崩壊寸前に陥ったとしても原作よりはマシになるだろう……と信じたい。
万が一、俺がいなくなったとしてもそれら全ての運営方法はマンサムや節ばあに託しているため、私物化されることはないだろうと思っている。
あともう少し、必要なことがあるとしたら俺自身のレベルアップだ。
グルメピラミッドでのニトロ、いや、アイスヘルでのアルファロと戦った時のような激戦でもない限り、基本的に人間界で危機に瀕することがなくなったくらいに俺の防御力や生命力が上がりすぎて危機を危機とは思えなくなってしまったのが今抱えている問題である。
そのため、何かきっかけが欲しい……そう思っていた矢先に一つ試したいことができた。
それは、失われた俺の記憶。
ここでいう記憶は俺の前世のものではなく、この体の本来の持ち主が辿った記憶のことだ。
今憑依しているこの体は記憶力に長けており、瞬間記憶能力が備わっており、過去のことは基本的に忘れない。
だから、俺のグルメ細胞を体内電気で刺激して脳で記憶されている記憶と細胞自身が保有している記憶を想起させようとした結果、全く思い出せなかった。
というよりも俺がこの世界で目覚めた以前の記憶を見ようとすると途端にノイズが走って強制的に想起を中断させられる。
何度やっても結果は同じで何も思い出せないでいる。
前に村へ帰ったことがあったが、当時の俺の生い立ちを聞きまわっても、他所から流れてきた俺の情報などまるで出てこなかった。
前までならここで打ち切った過去の捜査も、今は違う。
記憶に関する専門家と専門機器が揃ったうってつけの人物と場所があるのだから。
やってきたのはジダルのグルメカジノの最深部。
記憶装置のある区画でライブベアラーと対面している。
「なるほど、あなたが思い出せない部分の記憶を呼び起こせばいいってことね」
「自分で言っておいてなんだけど、大丈夫か?」
そうは言うものの、内心ではあまり期待していない……というよりも駄目元というのが正しい。
自分で自分の記憶をたどる手探りな状態よりも外部から物理的な刺激を受ければ何かしらのとっかかりがあるかもしれない。
ただ、グルメカジノの記憶装置は基本的に食歴を抜き取るためのものであり、言ってみれば味覚の記憶しか想起されない仕様となっている。
そのため、俺の記憶を映像化させて記録する装置が必要だったので、今回は外付けの映像記録装置を持ってきたのだ。
「IGOも太っ腹ねえ。いくらアナタが重要人物とはいえ世間に出回っていない装置を使わせるなんて」
ライブベアラーが感嘆の声を出す。
というのも、ただでさえ記憶操作は技術として確立されているも、悪用されれば危険な技術のため超法規的措置もしくは国から認可が下りた場合以外では使用を禁じられている。
そのため、記憶操作に関係する機器を国が貸し出すこと自体がレアなのである。
ましてや記憶の映像化など世間でも知られていない。
しかし、ライブベアラーは映像化が秘匿されていた技術だと思っているようだが、それは違う。
だって、そんな技術は元々存在してなかったのだから。
「この機器は俺の自作のものだ。IGOではまだ認証はおろか研究すらもされてないからあまり広めるなよ?」
「自作って……これアンタ一人で作ったってこと? ていうか、そんなものこんな所で勝手に使っていいの?」
「それについては問題ねえんだわ。GTロボの遠隔味覚伝達技術開発の一環で脳科学の博士号は取ってるし、専門知識もあるからIGOからも法的使用も認められてるんだよね」
「アンタ本当に頭の中どうなってんのよ?」
「人類の未来……かな?」
「言い方ムカつくけど否定できないのが悔しいわ」
ライブベアラーが呆れ半分、どこか戦慄したかのように尋ねてくるも、それについてはややふざけて返す。
そもそも原作で狼王ギネスが尿を使ってトリコにネオについての情報を伝えたことを着想にしたことである。
グルメ細胞が何らかの作用で他者に情報を伝達させることが可能であるなら、研究して原理さえ見つければ同じようなことを技術で再現できると踏んだ。
さらに言えばGTロボの技術を全て網羅している俺は人間の脳についても理解が深く、専門知識も持っているため記憶の映像化については試作段階とはいえ機器の開発にこぎつけることができたのだ。
「よし、接続も問題なし。それじゃあすぐに始めてくれ」
「何かあったらプラグを引き抜くだけでいいのね?」
「それで強制ログアウトになるからね」
ライブベアラーと部下とともに最終確認を済ませ、頭に装置をはめ込む。
全ての準備が完了したことを合図し、ライブベアラーに装置を起動させた瞬間。
暗転
『ようやく、余と同じ場所に辿り着いたか』
意識が一瞬だけ失った直後、言語とも取れない音の羅列が聞こえてきた。
しかし、存在しない言語のはずなのに俺には相手の意思が、意図が伝わってくる。
目を開けると、グルメカジノにいたはずなのに、見渡す限り果てしない宇宙だけが広がっていた。
ただ、惑星の類はなく、幾千幾万の流れ星だけが降り注ぐ奇妙な空間だけ。
驚くよりも先に状況把握のために広大な宇宙を見渡すと、気配なく巨大な影が虚空から現れた。
『ここに至るまでの過程は少し予想外ではあったが、それでも自力で成したことは称賛してやろう。褒めて遣わす』
「……そりゃどーも。それなら称賛よりも説明がほしいんだけどよ」
『いいだろう。時間制限があるがな』
内心冷や汗ダラダラではあるが、怯えるよりも少しでも情報を集められないかと話しかけてみるも、意外ととっつきやすい印象を受けた。
聞く限り嘘を言っているような素振りもないため、素直に質問する。
「とりあえずなんだけど……アンタは俺の細胞の悪魔……でいいのか?」
『質問というより確認だな。言わずともわかるだろう?』
「それもそう……だな。やっぱり鼻の傷はアンタ由来のものだったか」
俺のグルメ細胞の悪魔……ずっと昔から予感はしていたが、こうして対面するのはもっと後の話だと思っていた。
少しずつ目が慣れてきたため、俺と同じ鼻頭の傷が奴にもあることはもちろん、その全容も少しずつ明らかになってきた。
見た目は巨大な狼ではあるが、背中に天使のような純白の羽と悪魔のような漆黒の翼が生えている。
頭から見事な螺旋を描く捻じれた角が生え、その先には巨木の様に緑が生い茂っている。
巨体からは白銀の体毛が生えており、その一本一本が光の屈折を起こしているのか常に流れ星の様に輝いている。
そして、その巨体の周りにはいくつもの惑星に似た球体が装飾の様に漂っている。
まるでいくつもの生き物を混ぜ合わせたようなキメラのような風貌である。
あまりの異様さに気圧されるところではあるが、ここで立ち尽くしても意味がないので冷静を保ち、質問を続ける。
「じゃあ、名前は?」
『名前……か。そんなもの今まで付けられたことなどない』
「そうか……ただ、名前というか呼び名がないとアンタ呼びで固定されるから不便と思ってな」
『ここにはお前と余しかおらんというに……ただ、『ガーディアンビースト』と敬われていた時期もあったな』
「ガーディアンビースト……長いからガーディでいいか?」
『好きにせよ』
今の異常事態に対して名前を聞くことは些細なものと思われるところだが、相手が知的生命体であるなら名前の有無は大きな意味を持つ。
名前はその人物の本質を現し、唯一無二の侵し難いアイデンティティーである。
そのため、その名を知っている、呼ぶことはコミュニケーションに置いて互いの距離感を大きく左右する。
今のところはコミュニケーションできているが、目の前の超常存在が敵であるかも分かっていない。
今はとりあえずその性根を探って慎重に事を進める。
そう思っていると、グルメ細胞の悪魔……ガーディが口を開いた。
『そんな小細工をしなくても、聞きたいことは聞いてやると言ったはずだ。どうでもいいことに時間をかけている暇はないぞ』
「それはどういう……」
『お前にはもっと聞きたいことがあるはずだ。なぁ、転生者』
「っ!!??」
そいつが最後に付け加えた言葉、耳に届いたのはノイズでしかない解読不可能な雑音。
しかし、それを聞いた瞬間に俺の冷静を保っていた心が大きくかき乱された。
言語自体理解できなくても、奴の意図ははっきりと心で理解した。
なぜなら、それは俺が『ライズ』の名前を貰う以前に名乗っていた俺の前世の名前だったからだ。
「まさか!? お前は知って……!?」
『だから言ったであろう。時間制限だと』
「!? これは……っ!」
時間制限……何のことだか分からなかったが、周りの宇宙を見渡すとその意味が判明する。
何もない広大な宇宙に罅が入り、時間と共に罅が広がって世界が壊れていく。
今さっきの衝撃と今の異常事態に思考が一瞬だけ停止する俺に奴は構わず続けた。
『今回、ここに来るのが早すぎたな。次は正規ルートでここに来い』
「待っ!?」
『自覚しろ。お前の力を……力の本質を。お前は既に理解している』
奴が崩れる世界の中で指をパチンと鳴らした瞬間、俺の意識は再び闇に沈んだ。
「よかった……目が覚めた様ね」
目が覚めると、深くため息を吐いたライブベアラーが額の冷や汗を腕で拭っていた。
少し記憶の混濁で思い出せなかったが、すぐに意識を失う直前までのことを思い出した。
「……あれからどうなった?」
「どうもこうもないわよぉ! 装置が動いた瞬間、このフロア全体の電子機器全ての制御権を奪われて何もできなくなっちゃったんだからぁ!」
「……どういうこと?」
単純に自分の身に何が起こったのか聞いただけだったのだが、返ってきた答えに驚きを隠せなかった。
聞くところによると、俺が装置の影響で意識を失った瞬間、装置そのものが何者かによってハッキングされてライブベアラーたちの操作を受け付けなくなったという。
もちろん、ライブベアラーもそれに対応して制御権を奪い取ろうとしたが、相手が上手だったようでどうもできなかったとのこと。
そして敵わないと知るや俺の装置を強制的に外そうとするも、不気味な合成音声によって中断せざる得なかった。
既に記憶装置どころかグルメカジノ全体を掌握したこともあり、カジノの客とデータとして蓄えてきた記憶全てを人質に俺が起きるまで何もするなと脅迫されていた。
具体的な内容は伏せられたらしいが、カジノの緊急用設備の誤作動や東西南北あらゆる記憶をバラまかれるなどすればカジノの信用問題に繋がるだけでなく、ライズが考え得る限りの最悪な社会懸念にも繋がる。
ただでさえ人間界の崩壊が迫っている中、原作にもない人災など手に負えなくなる。
ライブベアラーの対応を称賛しつつ、一通り聞いた話に俺も一緒にため息を吐いた。
「まあなんだ、お疲れさん」
「そんな一言で片づけられることじゃないでしょう!? あなたの身に何かあろうものならアタシたちが被害を受けるんだかから! 本当に肝が冷えたわよぉ!」
ライブベアラーも今回の件で大分まいったのか半ばヤケクソに詰め寄ってくる。
過去に色々やらかしてくれた奴だけど、今度から少しだけ優しくしてやろうとは思うくらいに憔悴しきっていた。
ライブベアラーを宥めると、落ち着いたのかいつもの調子に戻った。
「今度、そのハッキングされた時のデータをくれ。ちゃんとした所で調べれば何かわかるかもしれん」
「ちょっと、IGOで調べるとか言わないわよね? 他人の記憶や食歴を保存していることがバレればいくらアタシたちでも危ういわよ」
「使うのはオレ専用に宛がわれた研究所の設備だ。これでもIGOの研究開発部門長として功績上げまくったから褒賞として独立研究所とあらゆる個人用ビオトープももらったから万が一にも情報が漏れることはない」
「随分と太っ腹じゃない。あなたの実力を考えれば妥当かもしれないけど」
そんなに大変かな?
こちとら料理に必要な学問として人類が修めてきた全ての学問さえ修めれば回していけるんだけど。
全ての学問を修めるのに二年だけしかかけなかったので、その時の勉強法をIGO職員全員に講義して俺の秘書、サポート役を増やそうとしたんだが、その直後に多くの職員がマンサムに泣きつき、講義は即刻中断された。
曰く、普通の人は食わず休まず寝ずの状態で3カ月勉強して一日休み、また3カ月の勉強ループは体どころか精神崩壊待ったなしだとか。
曰く、普通の人が俺と同じように食材研究・美食屋活動・料理人・再生屋・医者(以下略)の兼用なんてできるわけがない。
さらに色々と言われたが、要は俺のサポート諦めるしかなく、また、俺の実力を完全に発揮するには好きにさせてやるのが一番だったそうだ。
職員も全員そういった理由で納得したとのことである。
「所内じゃ俺の業務量に付いてこれる人も限られるし、俺の提案する計画も理解できなくなってきたことも多くなってからワンマンが認められて実質広い土地で一人で経営していることになったからスパイとかもいないし大丈夫だろ」
「あなた本当に独立した方が良いわよ? 有能が過ぎる部下は手に余って持て余すのが世の常だし」
ライブベアラーにも真面目に言われた。
前世では普通の社会人だったはずだが、今となっては自分の立ち位置がよく分からないところまで来てしまったことを嫌でも自覚させられる。
望んだ結果ではなかったにせよ、そんな気づきがあった日の話である。