それと、前回の話で主人公が少し「自分は万能」という自慢をするような描写があったと思いますが、そう書いたのには理由があります。
元々トリコに出てくるキャラの役割はほぼ完成されており、そこから展開を大きく曲げようとすると並の能力しかないと原作キャラにくっついて後ろをついて回るだけの存在になってしまうため、むしろこれくらいやってようやくスタートラインだと思い、こんなキャラに仕上がりました。
そもそもこのキャラを出した目的は原作展開を少し変えることと、原作で回収されなかった伏線をちょくちょく拾っていく役割が主なので、最初から万能であるという設定の方が後付けするよりも簡単、というのが本音でもあります。
こういう感じのキャラに仕上がって思う所がある方も大勢いるかと思われますが、今後ともよろしくしていただけるとありがたいです。
グルメカジノで過去の記憶の想起実験が失敗してからライブベアラーから送ってもらったデータを確認し、色んなことが分かった。
結論、あのグルメカジノのハッキング元は俺だった。
俺の脳と装置が繋がった瞬間、装置に連なる電子機器を通じてハッキングし、グルメカジノそのものを一時的に乗っ取った。
ライブベアラーが聞いた合成音声の出力も俺の脳波が一致していることは確認できた。
他にも細かな状況証拠からも、ハッカーの正体が俺であるということを示してしまう。
しかし、ハッキングを実行したのは俺ではない。
正確には、俺の中にいたグルメ細胞の悪魔である。
ここまではすぐに分かる。
ただ、ハッキングをする意味が分からない。
やったことと言えばライブベアラーたちの動きを止めただけ。
カジノの客や保存した記憶を人質にしてまで、何をしたかったのか。
「いや、なにを伝えたかったか……か」
グルメ細胞の悪魔が自らの意思で器にあたる俺たちに接触することは原作の一龍会長とトリコの件で分かっている。
トリコのように死に瀕した訳ではないので、ドンスライムのように何かを伝えるために姿を見せたのだろう。
そして、その答えが……この一連のハッキング騒動の中に隠されている。
「……やったろうじゃん!」
幸いにも、データを調べ尽くす最高の環境と設備は整っている。
来るべき大災害を生き抜くために、俺は自分の力と向き合う。
しかし、現実はそう簡単にいくわけもなく、答えは出ない。
色んな文献を読み漁ったり、データも検証してみたけどなーんも分からない。
というのも、俺の能力全てが一貫性もなく、情報が集束できないでいる。
俺の特徴を簡単に羅列すると以下になる。
・作った料理の旨みを上げる
・強靭で柔軟な肉体による防御力
・鋭敏な危機察知能力と逃げ足
・他人の能力や知識を瞬間的にマネできる学習能力
・食事や自衛以外で生物を殺せない
・食運
現状で分かっている能力だが、防御力とか危機察知能力については生存能力特価ということで分かりやすく、食運と作った料理の旨みを無条件で上げるのも料理人としての能力としては理解できる。
しかし、それが今回のハッキングでの件にどういった過程で結びつくのかが分からずにいる。
長年、驚異的な学習能力と生存能力、さらに料理スキルでなまじ何でもできたという万能感にかまけて力の本質を理解してこなかったツケが今まさに返ってきている。
このまま一人で考え続けても気が滅入って、更に沼に嵌りそうだ。
こういう時、何かのお導きがあればな、と思う。
何もかもが行き詰った、そうライズが力を抜いた瞬間、すぐ傍の電話が鳴った。
あまりの倦怠感に無視してやろうかな、そう思いはしたが、何となく
「……もしもし」
『もしもし、オレ、鉄平なんだけど、ライズ君はいます?』
「プライベート番号にかけてきておいて何言ってんだ?」
『いや、これも礼儀だからよ……って、それよりも耳寄りな情報があるんだよ』
「耳寄りって、残念ながら今は絶賛不調で……」
電話越しの鉄平に愚痴交じりで通話している最中、思い出した。
前回、トリコたちと一緒にマダムフィッシュを捕獲し、次の食材も原作で言う恵方巻の具材を探していたはず。
そして、俺が事前に鉄平に頼み込んでいた
「ついに、再生したのか!?」
『マジで大変だったけど、ようやく終わったぜ……お前が再生依頼出した時は正気を疑ったが、正直今でも疑ってる』
「いよっしゃあ! 最近どん詰まりだったから、マジで久々にいい報告聞けた! ありがとう! ちゃんと捕獲したらちゃんと食わせてやる!」
『いやぁ、それはちょっと遠慮したいというか……とにかく、伝えたからな! 他の再生屋に詰められてもこの件はあくまでお前の依頼であって、オレは悪くないって弁明しろよ!?』
「それはまあいいんだけど、多分誰も信じねえよ? お前の無差別再生の件数が圧倒的に多すぎる」
『うぐっ!』
「諦めなさい、もうお前の言葉に信用という名のカロリーは一切存在しない0カロリーだ。最初の無口キャラ作りに失敗した失敗作め」
『うるせえよ!』
と、こんな感じのとりとめもない会話もそこそこにして、次の食材のために準備を始める。
次なる食材は俺たちの次のフルコースになるかもしれない。
そんな期待を胸にゾンゲに連絡を入れた。
待っていろよ
ドドリアンボム!
「決めるぜ~、今日は決めてやる~!」
「なんだぁ? 今日はやけに張り切ってるな。病気か?」
「人がやる気出してるのになんてこと言うんだ」
電車に揺られながら売店で買い込んだ料理に舌鼓を打ち、他愛のない話を続ける。
プライベート時はあまり喋らない方ではあるが、なんだかんだ言って未知なる食材を追い求めているときはテンションが上がるものだ。
「そりゃあ、今日で俺たちのフルコースが決まるかもしれねえんだ。そりゃあ気合も入るってもんだ」
「しかし、なんでわざわざ世界で一番臭いものを取ろうと思ったんだ? 前にオレ様のフルコースのデザートを決めようとしたときにストップかけて、そのドドリアンにしようってよ」
「なんかそんな気がしたから」
「なんだそりゃ」
そこは言葉にできない感覚的なものだから曖昧に返すと呆れられた。
ただ、今回の旅に関しては妙にテンションとやる気が満ち溢れるんだよなぁ……こういう根拠のない気分の高揚が偶に起こる時は思いがけない幸運が訪れる時がよくある。
これも食運によるものなのか、それとも経験則と直感によるものなのか、はたまたその両方か。
何にせよ、きょうは何かが起こる気がする。
「プルルルルルルルルルルルル!! イィヤッハァアアアアアアァ!」
「うるせえ!」
おっと、テンションが少し許容量を超えてしまった。
某ちいさくかわいいウサギみたいになってしまったが、一息ついて落ち着く。
そんな俺たちに第三者の声がかかる
「オレもライズの気持ちは分かるぜ? 次の美味いモンに思いを馳せる時の気分の高揚はたまんねえよな?」
「でも、世界一臭い食材なんてちょっと怖いですね」
そういう声の主は、もはや旅のお供の定番と化しつつあるトリコと小松である。
「またお前等か! なんでいっつもオレ様たちにくっついて回るんだよ! ファンか? オレ様のファンかお前等!」
「最初に言ったろ? 恵方巻の具材にインパクトが欲しいっと思っていた時に鉄平がドドリアンボムのことを教えてくれたんだよ」
「ライズさんが前々からドドリアンボムを欲しがっていたことも聞きましたので、少しだけでも分けてもらえないかと思いまして……」
無駄に騒ぐゾンゲを慣れた様子で受け流すトリコと小松はともかく、他の四天王は割と偏食で色んな食材を片っ端から味わう俺たちとは基本的にかち合うことが少ないんだよな。
だからトリコたちと接点が多くなるのは必然なことである。
「まあ、今回トリコたちの方が過酷な旅になると思うがね」
「ほ~、オレたちは足手まといだと?」
「そこまでは言わんけど……まあ、行けば分かるか」
「あぁ、それと持ってきた食料は早めに食っとけ。ドドリアンボムの匂いは他の食材を腐らせるって話だ」
「マジで!?」
何気ない話を続けている内に電車は世界一臭い駅・ドドリアンステーションに到着した。
俺たちが電車を降りた瞬間、強烈な悪臭が鼻孔を殴りつけた。
「臭っ!?」
「臭過ぎて普段は誰も降りない無人駅だからな。それにこれはただの残り香、絶滅してからも残ってるだけだ」
「これが残り香!? 本物はどんだけ臭いんですか!?」
いつものことながら何も知らされてない小松が騒いでいる。
毎回のことながら事前に話くらい聞かないものか、と思ってしまうも自分の所も似たようなものなので特に何も言わない。
だけど、今回のトリコたちはドドリアンボムの危険性をあまり理解していないように見える。
このドドリアンボム、特に掘り下げられてはいないのだが、実のところかなり危険な食材なのである。
それは、これからの旅で知ることになるだろう。
「くせぇ……」
「あ”う”う”う”う”う”~」
臭いの元へ歩みを進めてから数十分あたりでまず、トリコたちが音を上げ始めた。
最初はドドリアンボムに思いを馳せて笑顔を浮かべていたトリコの顔も苦虫を潰したような苦しいものとなっている。
「……流石に臭いな」
「臭いですよ! そりゃもう果てしなく! 今からでも帰りましょう!」
「あ、スマン。屁こいちまった」
「全然わかりませんよ!」
原作と同じ絡みをしているのを尻目に俺たちはその横を通り過ぎる。
「まったく、うるせえ奴らだ。こんなんでたどり着けんのか?」
「まあ、これくらいの臭いはそうそうにないからな。俺たちでなきゃ耐えられねえのも仕方ねえ」
「四天王だとか言われてるけど、ホントたるんでんなぁ!」
「「なんでお前等(お二人)はへいぜんとしてんだぁ(るんですかぁ)!?」」
わっはっは!とゾンゲと笑い合っていると、後ろからトリコたちが突っ込んできた。
何でも何も、この程度の臭いなんて隣にいる
むしろ、ドドリアンボムの臭いが意外と控えめだったことにビックリしたくらいだ。
「この匂いで嗅ぎ慣れてるって、どんな生活してんだよ!?」
「それを言うならビックリアップルの時の方がよっぽど臭いだろ? 何を今更」
「一嗅ぎで意識を刈り取る臭いなんかそうそうあってたまるか!」
「こんな凄い臭いの食材なんて見たこともありませんよ!」
まったく、この程度の臭いで音を上げるとは情けない。
そう煽って奮い立たせようとすると、ゾンゲが不思議そうに尋ねる。
「じゃあお前らはここで止めるのか?」
「な訳ねえだろ!? むしろやる気が出てきたってもんだ! これだけ凄い臭いならすげえ熟して旨くなってるってことだ! 絶対に食ってやろうぜ小松!」
「え!? 行くんですか!?」
「当たり前だろ! 目の前に美味いもんが待ってんだ! たかが臭いだけで引き下がるわけにはいかねーだろうが! ライズが行くのにお前だけ帰ったらさらに引き離されちまうぞ!?」
「!?」
「あいつに、負けたくねえんだろ!?」
「はい!」
気合を入れなおした小松が行きましょう!、と先ほどとは打って変わって強気になって鼻を押さえながら先行していく。
再びみんなで歩き出したところで、俺は少し混乱していた。
(……小松が負けたくないって、あの小松が?)
原作では美味しい物を人に食べてほしいと願い、他者と争うような素振りも見せなかった小松が
(唯一あるとしたら大竹が美食會に入ったことが発覚したときではあるけど、それとはまた事情が違うんだけどな……)
大竹の時は敵であり、人を傷つける美食會に入ってまで野望を叶えようとした大竹に対して目を覚まさせるという意思表明である。
しかし、見習いの時はお互いを高め合うライバルというよりもお互いに邁進するよき友としてしか見ていなかったような感じがする。
(俺という存在がイレギュラーだから小松が抱くこともない闘争心を俺に抱いた、ということなのかもな)
ただ、小松にとって成長をより早める要素であり、そもそも自分という存在がイレギュラーだからこういうイレギュラーが連鎖して起こるのももっともだと考えて先に行った皆の後を追い始める。
しかし、ライズは気が付いていない。
自分はこの世界ではいずれ成長する小松のアシスト役であると無意識的に決めつけているため、自分が既に料理人としてどれほどの高みに昇っているのかを自覚していない。
そのため、小松、いや、小松のみならず多くの登場人物から感情の矢印が向けられていることを正しく認識できていない。
この先、ライズは自分がどう思われているかなど気づきはしないだろう。
生きるために殺気や敵意といった負の感情に敏感になった代わりに、自分に向けられる好意等の正の感情を感知することができなくなった。
自分に害意が無いと判断するやそっち方面の感情は無意識的に無視するようになった特異体質故に。
話は戻り、しばらくドドリアンボムを目指して歩いていたライズも酷くなっていく匂いに少し苦しくなり始めていた。
とはいえ、トリコたちと比べれば被害は軽く、片手で鼻をつまめば問題ない程度でしかない。
「くさぁ……」
「はふぅ……」
問題のトリコたちは普通に死ぬ五秒前のような声しか出せていない。
「がはははは! ライズが気を付けろって言うもんだから覚悟してみれば、どうってことねえじゃねえか!」
「もうお前がNo.1だよ」(鼻つまみながら)
そして、肝心のゾンゲはやっぱりというか、マジかと言うべきか、いつもより調子よさそうに先行している姿は流石に異常に見えてきた。
臭いの強さも旅立った時と比べると、不快感も桁違いになってきたので、早めに食事をとることに決めた。
この先、食欲が出ない以前に食料が腐っていくからだ。
「ちょっとここで休憩ー! 食える時に栄養補給しとくぞ!」
何もないとはいえ、既に数時間は歩いたためエネルギー補給はどうしても避けて通れない。
「でも……こんな匂いじゃ食欲なんて出ませんよぉ」
「それでも……腹に入れとかねえと力でねえぞぉ」
「声チッサ!」
小松が弱弱しく食欲が出ないというのも無理はない。
食事に置いて風味を感じる時、7~9割が匂いであり、残りは味覚とされている。
そのため、肝心の匂いが悪臭となると食が進まないというのは当然のことである。
なので、今回に限っては邪道だけどトリコたちに食わせる食材は少し特殊なものを持って来ていた。
「ここでまともなモノを食っても吐かれちゃ意味ないからな。今日はこれだ」
「これは……玉?」
「玉っていうか、兵糧丸な。過去のグルメ忍者が食ってた実際のレシピを基にして作ったやつ」
予め作っておいた黒い兵糧丸を人数分渡す。
この兵糧丸は元の世界でも忍者や飛脚が携帯食として食っていたほどのスタミナ食であり、栄養価が恐ろしく高い。
ましてやグルメ食材を使ったものの栄養価はそれの比ではない。
新鮮な状態でも発酵臭が強い鮭・シャケカスとスカンクの屁のような臭いのするピクルス・ピクルスカンクといった匂いが強すぎて滅多に調理されないが、今のように過酷な環境下でも滅多に腐らない無類の栄養量を誇るものを混ぜ合わせている。
そのため、この兵糧丸は食べるというよりも飲み込んだ方がいいのである。
「こんな無理して食べなくても……」
「いや、これ以上はドドリアンボムが食材を確実に排除してくる頃だ。ここが最後の食事時と思った方が良い」
「どういうことだ?」
ゾンゲの疑問にトリコも小松も凄い顔しながら無言で続きを促す。
「ここに来て分かったんだけど、ドドリアンボムは他の食材を拒絶……いや、嫉妬して遠ざけようとしている」
「確かに……言われてみるとそんな気も……」
「食材の声か……」
変な顔は少しも変わらないが、小松が意識を集中すると薄っすらと納得する様子にトリコは自分の鼻でも分からない料理人特有の感覚……食材の声からの答えとなると納得せざる得ない。
「食材の中には捕獲する過程で他の食材を遠ざけるものがある。例で言えば食林寺のシャボンフルーツも似たような性質があるんだ」
「シャボンフルーツ!? 次の修業食材じゃねーか!?」
「もっとも、あっちは排除じゃなくて、姿を隠すだけだけど」
ちょっとネタバレになるかと思うけど、いずれ分かることだから問題はないだろう。
もう既に食没を会得してシャボンフルーツを食ったことがあるから分かるけど、実際にドドリアンボムの声を聞くと性質が似ていることが分かった。
食材の味も性格もあまりに違うが、根本たる性質の『他の食材を近寄らせない』という点がかなり似ている。
しかも、こういう食材って防護服だとかでガチガチに安全対策をすればするほど捕獲難易度が上がるという厄介なハンデが付きまとうことが多い。
だから今回、ほぼ身一つになるほどの軽装で来たのだ。
今回持ってきた兵糧丸も臭いがきついものをメインに使ってドドリアンボムの臭いに耐性がある食材しか使っていない。
並の食材だと臭いのストレスと食材の劣化を促進させる未知の臭い成分で朽ちるからだ。
「なるほど……ドドリアンボムに挑む理由が増えたな。ここを攻略できなきゃシャボンフルーツも夢のまた夢ってわけだ……それなら遠慮なくいただくぜ」
「……そうですね! ここが踏ん張りどころですよトリコさん!」
二人の渋い顔は未だ消えずとも、再び活力が戻った。
次の修業食材のシャボンフルーツを絡めることで背中を押すことになり、結果として息を吹き返したようだ。
湧き上がったやる気に身を任せて渡した兵糧丸をパクっと軽く咀嚼してすぐに呑みこむ。
一瞬だけ顔をしかめるも、意外と味は受け入れられたようだった。
「臭いけど……今の臭いが強すぎるから臭いはそんなに気にならねえな」
「臭いが強いだけで味わい深く、旨味はありますね……調理次第では十分美味しい料理に仕上げられるかと」
こんな状況だからか兵糧丸に使用された食材の旨みをこの際、堪能までしている。
この後少し休憩をはさみ、探索を再開するのだった。
あれから、休憩をはさみながら探索を続けて幾許か時間が経ち、遂に待ちわびた時が迫っていた。
……はずである。
「ふぃー、ふぃーっ……!」
「はふぃ、はふぃっ……!」
トリコと小松が限界を迎えようとしている。
今までは臭いものの談笑くらいはできていたのだが、ここ数時間ほどから談笑する体力というか活力というか……余裕が完全になくなっていた。
一応体の異常はないのだが、痙攣で体が常時震えている姿を見ていると不安になってくる。
というか、俺もさっきから手を鼻に当てて極力臭いをシャットアウトしている。
普通なら臭いに慣れてくる所だが、ドドリアンボムに近づくたびに臭いが強くなってくるせいで慣れた先にさらに匂いが強くなるので慣れが追い付いていない。
俺もトリコたちほどではないが、会話し続ける元気もなくなってきている。
体力がどうだとかじゃなくて単純に気が滅入ってきた。
だが、ここまで匂いが強くなってきたことと、聞こえてくる
「お、おい! あれはまさか!」
声を上げたのがこの中で最も余裕があり、始終この臭いの影響を受けなかったゾンゲである。
さっきまで臭いに参っていた俺たちを茶化していたのだが、流石に静かすぎる俺たちに遠慮して静かにしてくれていたのだろう、気を遣わせてしまった。
はっきり言って、ここまで臭いに耐性あるのはどうかと思った。
内心冷や汗をかいている間にトリコたちが、遂に目的地へとたどり着いたことに狂喜乱舞した。
「で、でかああぁぁぁぁぁ! 臭っ! 臭っっっさああぁぁ!」
「やったああぁぁぁぁ! うぼええぇぇぇぇ!」
「うおおおおぉぉぉ! ようやく見つけたああぁぁぁ! こいつはオレ様のモンだあぁ!」
(やっば)
目当てのものを見つけたトリコたちは狂喜と狂気に包まれていた。
やかましいわ。
俺も人のこと言えず、隣で狂いつつあるトリコたちと間近で見るドドリアンボムの臭いに顔がひくひくと痙攣して引きつっている。
ゾンゲは通常運転で普通に喜んでいる。
臭い耐性バグってんだよなぁ。
そして軽い混乱状態に陥っている所で、その瞬間は訪れた。
ブチブチと巨大なドドリアンボムの房が音を立てて千切れつつあるのだ。
「おわああぁぁ! やばいぞこれはああぁぁぁ!」
「おああああぁぁ! あんなのが落ちてきたらどうなるんですかああぁぁぁ!?」
「やっべ(戦慄)」
「ちょうどいいタイミングじゃねーか! オレ様が来るのを待ってたと見える!」
「よくそんなに冷静になれますねゾンゲさん!?」
あ~、流石に気分が悪くなってきた。
俺の環境適応能力を以てしても、この臭いは流石に想定を超えすぎだ。
しかも、ここから落下して悪臭の爆発が起こるわけだから、流石に覚悟は決めよう。
その気になれば、奥歯に仕込んだ気付薬を嚙み潰せば
この瞬間、俺の意識が一瞬だけ
ライズが油断していたわけではない。
ただ、想定を超えただけだった。
そもそもライズには原作知識が備わっており、ドドリアンボムのことについては、この世界の古い文献で得た知識と併せて原作組も含めて誰よりも熟知していた。
しかし、食材自身でさえも諦め、伝えていなかったドドリアンボムの
絶滅する前からドドリアンボムの正しい調理法を誰も達成どころか発見できなかったことで古い文献にすら載らず、ドドリアンボム自身でさえも諦めていた正しい調理法を達成したのは他ならぬゾンゲだった。
ドドリアンボムの旨みを100%中120%まで引き上げる方法―――『ドドリアンボムの臭いを嗅いでも嫌な顔一つせず、心の底から悪臭も含めた全てを受け入れること』。
相手がどんなに
それが唯一にして最大の欠点と分かっていても、その欠点も認めてほしいと思うのは生き物として当然のことである。
しかし、その悪臭がある以上、人はおろか猛獣や他の食材からも拒絶されてしまう故に生きとし生けるもの全てに悪臭を受け入れられることはないと自覚するのは当然のことであった。
しかし、そんな悪臭にも嫌な顔もせず、それどころか自分の姿を見て心から歓喜する
最初から最後まで鼻を閉じることも表情を歪めることもなくありのままの姿を受け入れた運命の相手にドドリアンボムは辛抱たまらんと言わんばかりに
この時点でトリコと小松は意図せず意識を手放すが、二人にとってここで気絶したのは最大の幸福と言えた。
自身を全て受け入れたゾンゲに向かって落下するドドリアンボムはさながら―――迎えに来た
第一波とは比べ物にならない旨みと臭いの爆発が起こった。
あ、ありのまま起こったことを説明するぜ!
ドドリアンボムが熟して落下する前に、ドドリアンボムが光り輝いて旨味が爆発した。
ただ、それと同時にこれまでに嗅いだことのない強烈な臭いに一瞬意識が反転しかけ、咄嗟に奥歯の気付薬を噛み潰して完全に意識を手放すことを回避。
しかし、その後落下したドドリアンボムの爆発によって原作をはるかに超える悪臭の暴風をモロに嗅いでしまった。
想定外過ぎて何が起こったのかもわからねえが、原作を上回る恐ろしいことが起こったのは確かだ!
その証拠に立つことすらままならず膝から崩れ落ちた。
頭痛がする。
は、吐き気もだ……
この俺が、悪臭にやられて、立つことができないだと!?
これは俺だからこの程度で済んだからだと言っていい。
今すぐ傍で気絶しているトリコたちだったらどうなっていたことか!
ここで主人公が死んでしまうようなら、この先起こる結末は世界の滅亡である。
死因が悪臭ってどういうことだよいい加減にしろ!
いや、これはふざけている場合じゃねえ。
これ、過去一で不味かったかもしれねえ。
もしかすれば頭痛や吐き気で済んだのは不幸中の幸いでもあったかもしれない。
気を失っていたら、ここで何日拘束されるか分かったものじゃない。
そうなったら本気で命の危機だっただろう。
ここで一カ月も気絶とか繰り返すと普通に栄養失調による餓死するものだと思うが、原作のトリコたちはよく生きていたものだ。
「うおおおお!? どうしたお前等!? っていうかライズお前も顔色悪っ!」
「……何でもいいから帰ろう」
「声チッサ!!」
「……」
「分かった、無理して答えなくていいからもう帰ろうか!」
それからというもの、息絶え絶えになりながらドドリアンボムと気絶したトリコたちを運んで行った。
顕現したグルメスパイザーとスプーンでそれぞれドドリアンボムとトリコたちを運ぶ。
そして、気分が悪くなった俺をゾンゲは背中におぶさっていく。
しばらくして回復した俺は自力で歩きつつIGOに連絡して迎えを頼んだ。
ドドリアンボムのように周りに影響を及ぼす危険な食材を一般客もいる列車で運ぶわけにはいかないからだ。
しばらくして元居た駅に戻り、そこで待機していたIGO職員にドドリアンボムとトリコたちを託した。
その間に防護服を着ていたはずの職員が全員臭いにやられて気絶したり、そんな状況でも生身でいる俺とゾンゲが正体不明のナマモノを見るかのような目で見られるなどと色々とあった。
その中でも特に何故か同行していた防護服姿のヨハネスさんがサングラス越しに「またですか……」と言いたげな目で見てきた。
そう言えばバトルアイランドの悪臭騒ぎもこの人来てたっけ、ゴメンて。
そんな珍事も交えつつもドドリアンボムの捕獲は無事完了した。
一部はIGOに売り、残った部分は俺たち四人の山分けということで引き取った。
全てが終わり、気絶したトリコと小松をIGOに託し、体に染みついた臭いを消したいということでゾンゲと一緒にドドリアンボムを早速いただいた。
臭いに反して濃厚な甘さは天に昇るような美味しさであり、インパクトは虹の実に引けを取らない。
極上のフルーツを堪能しつつ、悪臭によるストレスから解放された俺はこの時、大事なことをうっかり忘れていた。
トリコたちに染みついた悪臭の消し方を伝え忘れたことに気が付くのは数週間も後になってのことである。
原作
ドドリアンボム「わーい小松だー(落下)」
トリコ・小松「ぴゃあああぁぁぁ!(絶叫)」
今作
ドドリアンボム「そんなに優しくされたら頭オカしくなっちゃう~~!(臭いプシャー)」
トリコ・小松「 (瀕死寸前)」
ライズ「久しぶりにマジで死ぬかと思った(白目)」
ゾンゲ「失礼だな。純愛だよ(クソボケ)」
今回の話で独自解釈も多くなりましたが、ご愛敬ということでよろしくお願いします。