今回からあのキャラが登場します。
〇月〇日
悲報
グルメヤクザに売られてしまった。
失礼、ちょっとした冗談です。
正確にはネルグ街のグルメヤクザの管轄下でスラム街の飯炊きを行っている。
なぜ、こうなっているかを考えながら鍋で料理を煮込む。
ちなみに、なぜこうなったかは下記のような流れである。
①最近料理に迷いが見られるとセツ婆より指摘される。
②ちょうど与作が活きのいい料理人を探してたし、ついでに気分転換に別の場所で修行してこい。
③気圧変化でゾンゲ共々気絶させられた直後、起きたら黒服に囲まれてた。
ほとんど誘拐だよ!
せめて返事くらいはさせてほしかったのに、実際は問答無用だった。
起きた直後はゾンゲと涙目で抱き合ってただブルブル震えてた。
余りの恐怖にゾンゲが悪臭を垂れ流したせいでドドリアンボムの目の前で限界を迎えそうになったトリコたちみたいな顔をしてた。
いたいけな少年たちが急にヤクザに売られたらそりゃそうなるよ。
絶対にゴネられると思われた故の強硬策だよコレ。
そりゃゴネるに決まってるけど、せめて拒否権はなくても拒否くらいはしたかった。
というよりもネルグ街のグルメヤクザってマッチだよどう考えても。
なんやかんやで好きなキャラだから会うのが楽しみだった半面、ヤクザの一員であるため怖いと思った。
そう思っていたら、偶然にも俺たちの監視兼サポート役としてマッチが俺たちの監督役になった。
まだゼブラと戦ってないからか顔に目立った傷はなく、既に刀を武器として携えていた。
偶然……じゃないよねこれ?
ここまで原作キャラとピンポイントで関わってくると、もはや必然的だと感じてしまう。
食運スゲー。
ともかく、なってしまったものは仕方ない。
今日も今日とてゾンゲが給仕をサボってマッチから放たれる怒声をBGMに、スラム住民たちに飯を作るのだった。
追記
マッチとの顔合わせの前にリュウ組長と顔合わせした。
めちゃくちゃいい人だったけど、オーラが凄すぎたため身体が固まってしまった。
圧が強すぎてビオトープの猛獣が霞むインパクトだったが、緊張した俺たちを見て笑っていた姿に少し親しみやすいと感じた。
グルメ界に入れる人ってやっぱ只物じゃないと肌で感じた。
〇月〇日
飯の炊き出しが始まってしばらく経った今では既に慣れてしまった。
基本的にIGOから食材が支給されるのを調理し、スラム住民に支給する日も数をこなせば慣れていく。
今までと違って短時間で数多くの料理を作らなければならない状況には毎日目を回されてきた。
最初と比べてマッチからの怒号も減ってきたように感じる。
原作よりも厳つくないとはいえ、刀片手に怒鳴られれば当然怖い。
だが、セツ婆の方が鬼難易度なため普通に耐えられた。
今では量を作るあまり疎かになってしまった料理の味も、最近では上がってきた。
なにくそー、って感じで状況に流されず、怒号にも怯むことなく自分のすべきことを全力でやってきた結果なのか、大人のヤクザたちからは「最初より美味くなった」と称賛され、ある時、マッチから「やるじゃねえか」と褒められた。
この日は押し寄せる疲労も気にならず、気持ちよく眠れた。
〇月〇日
この状況にもだいぶ慣れた今日この頃、問題が起きた。
ゾンゲが我慢できずに癇癪を起こし、マッチと大喧嘩した。
もとよりゾンゲはゲーム好きで楽な方へ逃げたがる、言ってしまえば現代っ子だ。
それに対してマッチはスラムで生きるか死ぬかの生活から今の組長に助けられ、その恩返しを全うする仁義に厚い性格である。
この二人が合うだろうかと言われれば、もうお分かりであろう。
ゾンゲは地位と名誉のために美食屋を目指したのに、関係のないスラムでのボランティアに嫌気がさして我慢の糸が切れた。
ボランティアに勤しんでいたころに貧しい子供から食材をくすねられたり陰口を叩かれたり、しまいには過激派のグルメヤクザからの襲撃もあったので、色々と限界だったのかもしれない。
マッチもマッチで毎日一回はサボるゾンゲの無責任さと楽観的な性格と虚勢を張ったりつまらない嘘を吐くところが地味に苛立っていたとのこと。
その不満がゾンゲの大爆発で連鎖爆発してしまったのだ。
この日は二人の取っ組み合いを宥めたのだが、流れ弾でゾンゲから「あのババアに騙されてんのが分かんねえのか」とか「舎弟ならオレの言うこと聞け」、挙句には「何食わせてもこいつらが美味そうな顔してたか」と言われた所で俺もキれて大喧嘩。
三人が取っ組み合っている最中に年上のグルメヤクザたちに俺たちは取り押さえられ、全力でぶん殴られて正座で反省させられた。
転生した日以降で最も気分の悪い一日だった。
〇月〇日
俺とマッチは炊き出しに従事しているので普通に仲良くなってきたが、ゾンゲは俺たちと離れた場所で斧を振り回している。
喧嘩して以来、仲直りはできていない。
お互いに気まずい思いをしながらも、俺はゾンゲの言葉の一つが引っ掛かっていた。
それは、スラムの住民が俺の飯を食っても表情が死んでいることだ。
俺の料理を食べても、希望なんてない、どうせお先真っ暗だと言わんばかりの表情しか浮かべていないのだ。
今でこそ余裕が出てきた俺だから分かる、このスラム住民は俺の料理を食っても何も思ってない。
美味いと言ったのは俺たちを護衛してくれている大人のヤクザだけだった。
そんな現実が見えた時、俺は憤慨した。
こんな気持ちになったのは村にセツ婆が来て料理を振舞われた時だった。
あの時はただの小僧のままごとレベルだったということで悔しくはあったが、納得はしていた。
だが、今はあの時と違う。
あの時よりも体力、精神、料理の技術や知識も桁違いにレベルアップしたのだから最初よりも確実に美味い飯を作れているはずなのだ。
その上でセツ婆の地獄のスパルタ地獄を乗り越えてきた自負もあったので、俺は納得いかなかった。
ゾンゲの俺をキれさせた一言は紛れもない、事実だった。
ここまでやって俺の料理はお前らの感情を揺さぶれないと?
俺が世間知らずの頃と何も変わらないとでも?
上等だよやってやるよ。
気が変わった。
いつ終わるかもわからねえ炊き出しだったけど、こいつらの度肝を抜かせてやるまでは
今がいくら辛いと言っても飯食う時くらいは表情の一つも変えやがれ。
思い返せば「美味かった」と住民から言われたことがなかった。
こうなったら勝負だ。
お前らの絶望と、俺の料理の旨さ、どっちが上か白黒はっきりさせてやる!
この日から俺は睡眠時間を削り、ひたすら料理の基礎と調理方法の見直し、味付けの研究に没頭した。
〇月〇日
大問題が発生した。
IGOからの配給車が猛獣に襲われ、行方不明となった。
幸いにも運転者は脱出し、命からがら逃げてネルグ街にたどり着いたためにこの情報が明らかになったのだ。
ヤクザたちはIGO職員を保護して看病している。
職員が助かったのはよかったが、命からがら助かった職員から伝えられたのは絶望の一言だった。
今までは辺りに捕獲レベルの高い猛獣がいなかったから配給車はネルグ街に来れていたのだが、どこからか強い猛獣が迷い込んで来た。
職員も気が動転していて猛獣の姿を確認できていないが、頑丈でロケットランチャーくらいなら簡単に跳ね返す配給車を襲撃できるとしたら少なくとも10~20は固い。
俺とゾンゲでもそこまで強いレベルを相手にしたことはない。
IGOも人手不足で討伐できる美食屋に依頼を出しても時間がかかる。
そもそもIGO非加入国に好き好んで来る物好きは滅多にいないらしい。
ただでさえIGO非加入国への食糧配給に対して世間からの風当たりが強いのに、追加の食糧配給や美食屋への依頼などで金を使うと一龍さんへの批判が強くなる。
頼みのリュウさんは与作からの依頼ということでライフに行って不在中、他の組員は配給車が襲われたことで攻めてくるであろう過激派グルメヤクザとの抗争準備で猛獣討伐には行けない。
いつもは勝ててはいいるが、食料を抜かれれば自ずと弱ってしまい、不利になってしまう。
戦うには急ぎの食料調達が必要だが、外部からの支援が望めない状況においてすべきことは俺とマッチで意見が一致した。
俺たちで猛獣を倒す。
ここで負けてしまえば、全てが終わる。
俺もマッチも捕獲レベル10台の猛獣としか実戦経験がない。
実質、助けも望めない命がけの狩りはこれが初めてとなった。
本当はゾンゲが付いていれば生存率も上がるのだが、仲直りできていないので最近ではゾンゲの姿も見ていない。
ゾンゲの悪臭は猛獣相手に有効な手ではあるが、それを望めない以上、防御に優れたタンク役の俺と攻撃役のマッチで何とかするしかない。
あまりに不利であることは分かっているが、それでも俺達は震える体を抑えて街を出て行った。
次回は日記形式でない、マッチ視点での話になります。
そろそろ原作前の下積み時代も終わりが見えてきました。
不定期で申し訳ありませんが、次回もお楽しみください。