先週の台風で職場がえらいことになり、予定外勤務と疲労と気圧変化の体調不良で投稿が遅れました。
急ぎで書き、確認も簡単にしかしてないので不安ですが、お楽しみくだされば幸いです。
今後も感想の返信は遅れてしまいますが、ご承知ください
評価と応援と感想はモチベにも繋がるので。
オレの第一印象は「根性なし」だった。
先輩たちがガキ二人を抱えてリュウさんの前に連れて来られた時は情けねえ
それが白髪のガキのライズ、原始人みてえな厳つい顔をしているゾンゲとの出会いだった。
第一印象で全てを判断するつもりはないが、ゾンゲと言う奴から悪臭が噴き出して吐き気を催したこともあり、印象はかなり悪かった。
話を聞いてみると、奴らは師匠ともいえる人から気絶させられ、気づいたらここに来ていたのだという。
こいつらの師匠も無茶なことをするなと思いつつ、オレは納得できなかった。
今この瞬間にも街では貧困にあえぎ、ガキどもが貧困に苦しんでいるというのに、IGOからの支援に根性なしのガキ共を送り込みやがったんだからな。
こっちは命がけの毎日を必死に生き、腹を空かせているガキたちに美味い飯を食わせて少しでも生きる希望を持たせてやりてえと思っているのに、奴らは料理のお勉強のためだけに来たんだからな。
きっと奴らはここにいる奴らのことを自分たちのステップアップの踏み台くらいにしか思ってねえはずだ。
リュウさんと先輩方は奴らの境遇を聞いて豪快に笑って迎え入れたが、オレは絶対に認めねえ。
こんな奴らがガキどもに生きる気力を与えられるわけがねえ。
そんな風に思っているとリュウさんから声をかけられた。
「おいマッチ、こいつらのことはお前が面倒見てやれ」
「お、オレが!?」
まさかの展開に反射的に反論してしまった。
リュウさんからの頼みなら二つ返事で引き受ける気概でいつもならいたはずなのに。
今回ばかりはリュウさんの決定といえど、こいつらと関わりたくなかった。
「お前が歳近いんだから向いてるだろうが。こいつらの緊張も晴れるかもな」
「いや、でも……」
「そりゃいい! たまには同年代の奴と遊んだらどうだ!?」
「先輩たちまで何言ってんだよ!」
だが、オレの好き嫌いよりも組織としての意向が優先されることは決まっている。
頭ではわかっている。
リュウさんにはやることがあり、先輩方はスラムの治安維持でガキどもを護る役割がある。
だから、重要な仕事もまだ任せられねえ若手のオレがこいつらの世話をすることになるのは当然のことだ。
やりたくねえとは思いつつも、リュウさんたちに迷惑をかける訳にはいかず、二人の面倒を見ることとなった。
まあ、少しだけの辛抱だ。
前にIGOから来た料理人たちもこの街の現実に心が折れて逃げ出しやがったからな。
劣悪な環境、横行する犯罪、度々起こる過激派グルメヤクザとの抗争
これらの問題を前に、この甘ったれ共が耐えられるとは思えねえ。
すぐに音を上げて逃げ出すに決まっている、とあまり期待することなく監視役の命を受けた。
ただ、世辞でも活きのいい料理人と認められたなら最低限の根性は見せてリュウさんの顔に泥を塗るんじゃねえぞ、という気持ちもあった。
「いいか、オレはお前らと仲良くするつもりはねえ……もし、逃げてリュウさんの顔に泥でも塗りやがった時は、こいつの錆びにしてやる」
「「肝に銘じておきます!!」」
二人がここに来て一週間は経った。
ライズはスラム民の料理を作り、ゾンゲは給仕といった手伝いを着々とこなしている。
最初の頃は先輩方に囲まれ、俺からも監視されているということでビビっていた二人もある程度こなしていれば慣れもする。
朝から晩まで動きっぱなしで倒れてたやつらも今では悪態を吐きながらも任せられた仕事はこなすようになった。
特にライズの根性はオレでも見張るものがある。
あいつの料理の腕は相当なものだった。
飯が素直に美味いのはもちろん、限られた食材を上手くやり繰りしながらスラム民や先輩方たちの料理を賄える実力が最初からあった。
個人的な好き嫌いで捻じ曲げた評価をするつもりはなかったから、すぐに奴の実力を認めることができた。
これで駆け出しの料理人ってんだから大した奴だ。
だが、ゾンゲがいつかに言った一言でライズは更に勢いを増した。
「お前、手ぇ抜いてんのか?」
「はぁ? 誰が、いつ手ぇ抜いたって?」
「だっていつもより美味くねえし、なんか色々と雑だし」
「なん……だと?」
「何くっちゃべってやがる! 口じゃなくて手ぇ動かせ!」
それは侮蔑とかではなく、純粋な感想だったのだろう。
嘘を言った様子もないことはオレはもちろん、付き合いの長いライズが悪くなっていた機嫌が一変してショックを受けていた。
それからブツブツ何かを呟いたと思った後、料理を終えたその日は床に就くまで放心した様子で誰とも話さなかった。
不気味な野郎だと思ったが、その後に奴の真髄を見せつけられたのは後日のことだった。
鬼気迫る、鬼のような形相で料理に没頭する姿に不覚にもオレは圧倒された。
最初に連れて来られた時のような怯えた小鹿の様子は微塵もなく、まさに修羅そのものだった。
そして、それは迫力だけでなく料理の味が劇的に上がり、作るスピードも上がった。
余りの変わりようにオレだけでなく、先輩方にも伝わったのか周りで驚いていたのを覚えている。
スラムのガキ共も心なしか表情が軽くなったように感じた。
「ふん、オレ様の舎弟ならこれくらい余裕なんだぜ」
「いいから手伝ってくれゾンゲ様ぁ! サボってんじゃねー!」
「サボってねーよ!」
必死に鍋と、いつの間にか追加されていたガスコンロの大火力でフライパンを振るい、燃え上がる火柱にも怯まないライズの姿にオレの中の疑心が薄くなったのを感じた。
それを裏付けるように先輩方もライズたちのことを一目置くようになった。
ライズがここに来たのは不本意なことのはずだ。
それも、IGO非加盟国であるネルグ街の炊き出し……どんなに頑張っても誰にも認められねえようなことを必死にやろうとしているのか。
こいつのことが分からなくなって、どう評価していいのかわからなくなった。
ただ、このままモヤモヤとした気持ちを抱いてんのも気持ち悪いから直接聞くことにした。
あいつが一人になるとき、深夜のあいつが泊まっている仮宿に尋ねた。
何の前触れもなく尋ねたこともあってあいつには相当驚かれ、逃げ出した。
オレは回り込んだ。
「おい、今何で逃げた?」
「すんません……有り金これしかないので命だけは……」
「誰が追剥だ!」
窓から逃げ出そうとした所を回り込んだすぐ後にどこからか財布を出して平謝りしてきた。
判断がはええよ、ってか早とちりも甚だしい。
こいつはオレを何だと思っているのか、案外失礼な奴だった。
まあでも、まともに話したのはこれが初めてだから無理もねえか。
いつもは怒鳴ってばっか……というかオレが一方的に敵意を抱いていたようなモンだったしな。
こればっかりはオレも反省が必要だな。
ていうか、すぐ近くで爆睡しているゾンゲは起きない。
ここまで騒いでいるのに起きねえとか美食屋として致命的なんじゃねえのか。
そう思いながらライズと目線を合わせるように胡坐をかいて床に座る。
何かあると察して佇まいを正したライズに直接切り込む。
「何でお前はそこまで頑張る?」
「急にどうした?」
「質問に答えろ……お前がここに来たのはテメエの料理の腕を鍛えるためだけだろ。お前の師匠に力づくでここに連れて来られて、働いても得もしねー
そこまで言うと、奴は腕を組んで頭をひねる。
時折、「う~ん」と唸ってしばらくするとあっけらかんと言った。
「分かんね」
「……は?」
「いや、急に言われてもなぁ思いつかないというか……待って待って、まずは話を、話をしようか? だからその刀を置こうか!?」
「……」
ふざけた回答に思わず獲物を握ったのに対してライズは慌てて制止する。
フツフツと湧き上がりそうになる怒りを抑えて深呼吸をする。
「俺でもよく分かってねえんだよ。本音言えばこんなあぶねえとこから早く逃げたいし暖かい布団にも入りたい……」
「……初日に散々言ってたよな」
「それでも、セツ婆より怖いとはいかないし、最近は猛獣にも襲われ慣れてきたから特別に辛いって訳でも……あぁ、違う。そんなんじゃない。もっと別の理由があるんだけど……それが分からない。自分が何を思ってここで料理しているのかも……だけど、一つ確かに言えることがあるとすれば――ここから逃げたらダメって思っちまうんだ」
「逃げたらダメ……」
悩みに悩んで出したライズは何かにもがいているようだった。
少なくとも、その場しのぎで口に出したとは思えないほど、重みがあった。
「そう思う理由は俺にも分からない……でも、それを見つけられない限り、俺は何者にもなれないと思う」
妙な言い回しではあるが、嘘を言っているわけではなさそうだ。
まるでオレにも分からない遠い場所を臨んでいるような目に、何故だか目が離せなくなった。
「期待してた答えか分からないけど、俺が答えられるのはこれくらいだ」
「いや、充分だ。少なくとも今は、な」
「?」
「遅いとこ邪魔したな。寝不足で明日何もできませんってならねえようにさっさと寝ろよ」
今の答えにオレも納得したわけじゃない。
でも、少なくともライズが伊達や酔狂、ただ流されただけでここにいるって訳じゃないことが分かっただけでも今は充分だった。
こいつはオレたちのことを踏み台とは思ってないって分かったからな。
こいつも何かに藻掻き、答えを見つけようとしている。
それは、スラムの奴らを飢えから救い出せないかと考えているオレと同じなのだろうか。
こいつの覚悟のほどはまだ測れないが、少なくともやわな根性はしていないことだけは分かった。
外から来た人間を少しだけ認めることができた、その日の夜はいつもより深く眠れた気がした。
ライズと話した後も料理の上達ぶりは凄まじかった。
日に日に味は美味くなり、心なしか力が湧いて体が軽くなってきた気がした。
スラム民を襲う過激派との抗争や炊き出しに追われる毎日でも飯の時間になると心が軽くなる自分がいた。
そんなガキっぽいこと、誰にも言えないから隠しているが、先輩方もあいつの飯の時はいつもよりも気が休まっているのを見ると自分だけじゃないって思えて、少し安心している。
あいつらがここに来てから日も長くなって、もはやあいつらがいる日常にも慣れちまった。
最初こそ二人の腰抜けっぷりには苛々させられたが、逆に言えば隠し事せずに堂々と本音をぶつけてくるあいつらのことも悪くねえんじゃねえかと思えてきた。
そう思っていた時、事件は起きた。
ゾンゲが急にオレに話しがあると言い、内容を聞いた瞬間、頭が沸騰したかのような怒りを覚えた。
「帰りたい……だと?」
「いい加減、ここにはうんざりなんだよ。美食屋になれるって言うからババアの下で特訓してたっつーのに、こんな小汚い場所でずっと手伝いなんてして、なんであんな奴らに食わせなきゃなんねえんだよ」
「あんな奴ら……まさか、ガキ共のことじゃねーよな?」
「他に、誰がいるんだよ! あんな死んだようにタダ飯くらうだけの奴ら……っ!?」
「それ以上喋るんじゃねえぞ。その首、落としたくなる」
考える間もなく、無意識的に自分の得物をゾンゲの首に当てていた。
こいつ、いうに事欠いてガキ共のことを侮辱しやがった。
確かにウチの出は犯罪を起こす奴らが多いし、こいつみたいな考えを持っている奴が多数いることくらい分かってる。
どうでもいい奴の言葉ならここまで激高することはなかったかもしれない。
だが、今回は話が違う。
オレはこいつのことはあまり好きじゃなかった。
調子いいことしか言わないで下らねえ見栄を張る腰抜け、まるでずる賢いネズミのような奴だと思っていた。
それでもこいつは長い間、ライズと共に頑張ってきたのを近くで見てきた。
文句を言いながらもライズの顔を立てて不平不満を押し殺す、その姿は兄貴分として認めていた。
そんな奴からオレたちのことを否定されるようなことを言われるのは、我慢ならなかった。
「こいつらだって好きでこんな境遇にいる訳じゃねえ。みんな必死で生きて、貧困に負けないために生きてんだ。そんな奴らを否定する権利はテメエにはねえ」
「……っ! だからって与えるだけでどうにかなんのか!? 飯恵んでもらうのが当たり前だと思ってる奴らの辛気臭えツラ見せられるこっちの身にもなりやがれ! ライズもライズだ! いつまでもこんなとこで飽きもせず飯だけ作って満足しやがって!」
「てめぇ! 曲がりにも
「知らねえよ! あの料理バカの気持なんか知るわけねえだろうが!」
「この野郎!」
スラム民がバカにされることだったら耐えられたかもしれない。
でも、ライズのことだけはだめだ!
あいつのことはコンビのこいつが一番信じてやんなきゃダメだろうが!
自分の発言が意味することを分かっていないゾンゲから得物を引き、代わりに胸倉を掴んで額をぶつけ合う。
普通ならビビって悪臭垂れ流すゾンゲもその時だけは負けじと怯むことなくオレに鋭い目をぶつけてくる。
しばらく膠着状態が続き、周りがオレたちの様子がおかしいと集まってくると、その中にライズがいた。
「おいおいおい、何やってんすかあんたら! いつかやり合うとは少し思ってたけどついに爆発したのか!?」
「違えよ! お前のことだ!」
「え、なに?」
ゾンゲは駆け寄ってきたライズに気付くとオレの手を振りほどき、今度はライズに詰め寄る。
ライズも今まで見たこともないゾンゲの様子に戸惑いを見せる。
「ど、どうしたゾンゲ様? なんかあった?」
「あった、じゃねえ! いい加減ここ出てくから準備しろ!」
「えぇ、いや、俺はここに残るつもりなんだけど。いい修行場でもあるし」
「料理の練習なら他でもできんだろ! お前がやりたいから今日まで我慢してきたけどもう限界だ! あのババアにいい様に使われやがって! 舎弟ならオレの言うこと聞けってんだ!」
「……あぁ~、マジの爆発かよこれ」
もはや暴走しているゾンゲの様子にライズもため息を吐いて舌打ちを出す。
どう宥めようか、そう思っているだろうライズに火を点けたのはゾンゲの一言だった。
「幾らここで飯作っても変わんねえよ! こいつらがお前の飯を『美味い』なんて思ってねえんだよ!!」
「あ”ア”!?」
他人が大袈裟にすると気分が落ち着く、なんて言葉があるが、まさにその通りだと感じた。
ライズが目に見えて怒りに顔を歪ませていた。
顔には青筋が立ち、立った筋から血が飛び出たのも関係ないと言わんばかりにゾンゲの胸倉を掴む。
「それは、俺の飯が、不味いって言ってるよなぁ!? えぇおい!!」
「言ってねえだろそんなこと! お前の料理でできることはねえって言っただけだろうが!」
「おいお前ら……」
最初にゾンゲと喧嘩していたオレがいつの間にか止める側になっていた。
心なしか、ゾンゲも俺と対峙していた時よりも激しい気がする。
だが、オレの制止も全く意味をなさない。
それどころか喧嘩はだんだんヒートアップし、今回の件と関係のない話で喧嘩を始める始末。
「だいたい、てめえいつもいつも俺の指示無視して猛獣にやられやがって! 少しは足りねえ頭を使う努力でもしたらどうだ!」
「ろくに戦えねえ足でまといが偉そうにすんじゃねえ! 護ってもらうことを当然のことだと思ってんじゃねえ!」
「その悪臭が――!」
「いちいちうるせえ――!」
「「なんだとこの野郎!!」」
もうだめだ、止まる気がしねえ。
もう最初の話題から関係のない不平不満まで吐き出して殴り合っている。
こいつらの方が付き合いが長い分、溜まっていた物もオレより多かったのかもしれねえ。
そう思っていると、見るに見かねた先輩組員が一人、こっちにやってきた。
「いい加減にしねえか馬鹿どもが!!」
この日、頭を強くドつかれてたんこぶができたオレたちはこの日、反省の意を込めて一日中正座させられた。
三すくみの大喧嘩の後、オレとライズの仲はこじれることなく、それどころか大分お互いに信用するようになってきた。
あれ以降、ライズは何か悩むような表情を見せながらも料理の腕は上達してきている。
オレは監視を続けながらも、たまに調理の手伝いもするようになってきたし、こいつの護衛も行っている。
ただ、ゾンゲだけはオレたちと顔を合わせないようになってきた。
ライズ曰く、夜寝る時はライズより先に離れた場所で眠り、朝起きる時は既に姿を消しているという。
ただ、スラムの外れで斧を素振りしたり適当な猛獣を追い回している姿が目撃されているから特に心配はしていないが、特に話もできないまま日は過ぎていく。
喧嘩したときのことをまともに話し合えない状態がしばらく続いたとき、オレは気になって聞いてみた。
何でゾンゲみたいな奴とコンビを組んだのかと。
すると、あいつは珍しくきっぱりと特に悩むことなく言った。
「最初は打算ありきで組んで、美味しい思いして生きていけるかなと思ってた」
「おいおい……」
ゾンゲもそうだけど、こいつも変なところで正直なところあるな。
そして、意外と下衆い理由で呆れを通り越して尊敬すら抱きそうになった。
ただ、あいつはケラケラ笑った後、穏やかな笑みを浮かべる。
「最初はそんな感じだったけど、俺の料理食って『美味い』って馬鹿正直に言ってくれるところが決め手、かな」
「それだけか? 戦い方の相性とかで選ばねえのか普通」
「それもコンビを組む一つの指標だけど、あいつは俺に料理人としての喜びと楽しみを教えてくれた奴だから。深く考えず馬鹿正直に『美味い』って言ってくれると、嬉しいって教えてくれたようなもんだしな」
そう言うあいつの顔は清々しく、どこか寂しそうだった。
オレには分からねえが、こいつらには互いに認め合い、信じ合っている所があるんだろう。
ゾンゲも一人で逃げずにたむろしてるのもそういうのがあるのかもしれない。
ゾンゲはともかく、ここまでオレたちのために尽くし、とっくに認めているライズのためにも一肌脱いでやりたいのは山々だが、どうすればいいか分からない。
今日までリュウさんのために剣の腕を磨いてきたが、人の機微について学ぶことを疎かにしてきたことが悔やまれる。
今は何ができるか分からないが、こいつが重大な決心をするときには何か手伝ってやらねえといけねえ。
それが仁義ってもんだからな。
仁義にこたえるため、オレに何ができるか探していた時だった。
スラム民の命綱……食糧輸送車が猛獣に襲撃された。
命からがら逃げてきたIGO職員によってもたらされた情報はスラムに混乱を招いた。
定期的に届く食材は文字通りの命綱だった。
スラム民だけでなくオレたちの食い扶持も消え、いずれ飢え死にすることはもちろん、食糧難による犯罪の横行が増加する。
何より飯が食えずに弱っていくオレたちのことがバレれば過激派どもが襲ってくるだろう。
普段はリュウさんの名とオレたちの実力が上回っていることで被害を最小にできてた戦況も大きく変わる。
そうなれば双方共に甚大な被害を受けることとなる。
先輩方はそれを察して事態が収束するまで総出で街の警備を固める方針を決めた。
とてもじゃないが、姿も正体も見せない猛獣を仕留める人員がいない。
頼みのリュウさんは別件で街を離れていて、いつ戻ってこれるか判らねえ。
今、自由に動けるのは大した仕事を持っていない若手のオレたちだけ。
迫りくる危機を前にオレは決意し、ライズのもとへ頭を下げに行く。
「頼む! オレと一緒に猛獣を仕留めるために力を貸してくれ」
「うっそだろ、おい」
予想通り、奴は顔を引きつらせて顔色を悪くしていた。
こいつは直接猛獣を倒せないことは既に知っている。
「お前が戦えないのは承知の上だ。戦いに向かないお前を戦闘に連れていくのはオレの未熟さ故、恨んでもらっても構わねえ! でも、オレだけじゃあどうしようもできねえ! ゾンゲも姿を見せねえ以上、頼れるのはお前しかいねえんだ!」
「いや、でも……」
「お前のことはオレが命に代えても護る! オレにできることは何だってやる! だからお前の力をオレに貸してくれ! リュウさんの街を、ガキ共も、誰も死なせたくねえ!!」
土下座して叩きつけるように頭を地面にこする。
そのオレの姿にライズは目に見えて狼狽え、今にも爆発寸前だった。
頭を掻きむしり、顔を手でこすったりと挙動不審になって目の照準もブれている。
ライズだってこの状況のヤバさを理解しているからこそ、今の状況を打破するにはオレの提案に乗るしかないと考えている。
ライズは戦えないが、頭の回転が速い。
そんな奴がオレの提案を考えなしに断れるわけがねえ。
我ながら卑怯だと自嘲し、これが終わったらどんな謗りも報いも受けることも全て覚悟している。
「あぁ、もうクソっ……もうっこの野郎……!」
ライズは言葉にならないやるせなさを吐き出すような苦しい声色と共に、この不運に対する恨み言を吐いた後、オレに詰め寄って無理やり立たせる。
「分かったよ、やってやるよこうなったらなぁ!! アンタにそこまで言われて今更逃げられるかバカ野郎!!」
「それじゃあ!」
「ていうか分かってるよなぁ! 相手は少なくとも捕獲レベル10、20くらいの装甲車すらぶっ飛ばす化け物だ! 街周辺をうろつくようなものとはわけが違う、俺たちが束になってもまともにやり合えるなんて思ってねえよなぁ!?」
「分かってる……だから、お前に危険が及べばオレが命をかけて……」
「違う! 命かけんなら、オレ逃がすよりもオレの指示に絶対に従うことにかけろ! オレが勝つための指揮をするから、オレにお前の命をよこせ!」
「! あ、あぁ……言うまでもねえ」
「こんなことになるなんてよぉ……他人の命を背負わされることになるとか責任が重すぎんだろ、くっっそツいてねぇ……」
ライズはため息と弱音を吐いて、自分に喝を入れる。
自分の顔を両手で叩いた後、赤くなった顔も気にせずオレと向き合う。
「行くぞ、化け物退治に」
「あぁ……」
未だ姿を見せない未知の化け物を退治するために、オレたちは戦いの準備を整えて街を人知れず出て行った。
主人公……不運という名の食運により運命コロコロされ中。終盤はあまりの八方塞がりっぷりにヤケクソからの覚悟完了
ゾンゲ……感情的になってしまって顔を合わせづらくなっている。お前、そんな繊細なキャラだっけ?
マッチ……若手時代を想定しているため、過去を捏造中。違和感とかキャラの呼び名に違和感があればコメントお願いします