「若い子って良いわね…あんな下らないことで笑えて…けほっ」
辺りに漂うコーヒーの香り。一見してそれは香ばしく優雅なようではあった。
だが、それも過ぎれば嫌味だろう。本来、鼻孔を抜けていく香りが直接へばりつき、姫子の鼻の奥をツーンと刺激する。
おっぱい…。
確かに丹恒なら絶対に言わないだろう。
横で聞いていた姫子ですら、その言葉と丹恒のイメージが結びつかない。
だからこその不意打ちだった。
ゆづきの物真似には一定の評価をしていた姫子ではあったが、まさかこのタイミングするとは思っていなかった。あるいはそれは、どこかの世界の学生たちにはありふれた光景だったのかもしれない。
だが、もう学生とも言い切れない年齢の姫子がするには憚られる。
青春って良いわよね。
そんな風に思いながら、若い子たちのじゃれ合いをBGMにして、いつものコーヒーを口に含む。
すべからく平和だ。こんな時間がずっと続けばいいと思う。
しかし平和というのは、あくまで相対的な状態でしか無く、その尊さに気づくのは何時も破られてからだった。
丹恒が絶対に言わなさそうな事。
その名目に興味を惹かれた姫子は、カップの隙間からゆづきの遊びを横目にしていた。
「…おっぱい」
呟かれた言葉は、そんなに珍しいものでもない。
女の子が大ぴらに口にするには品がないとも思うけど、そこはまあ聞き流せもする。
だけれどそれが、丹恒の声音で、丹恒の仕草で、なによりも、そうする前に告げられた表題。
「丹恒が絶対に言わなさそうな事」は、本来噛み合うはずがない言葉と、人物像とを無理矢理にフュージョンさせ、姫子の頭の中で、言いそう、言ってそう、今言ったと、耳を疑うレベルまで、急速に解像度が上げられていった結果。
「ぶふっ!?」
その瞬間に吹き出してしまった。普段の丹恒とのギャップが辛い。
飲みかけのコーヒーを口から吹き出し、勢い余って鼻孔にまで逆流してくる。
辛うじてカップで受け止めたまでは良いものの。弾けたコーヒーの飛沫は、テーブルに、床にと散乱し、有難いことに、姫子の豪奢なドレスにまで、黒いシミをポタポタと滲ませたのだった。
「なら、君だって十分に若いじゃないか姫子」
「ほんとね。コーヒー飲んでる時に止めて欲しいもんだわ」
「ほれ、タオルじゃ。あんまり列車を汚さんでくれな」
「ええ、ごめんなさいパム。ありがとう」
傍らで苦笑するヴェルトの指摘に、姫子は苦々しく答えるしか出来なかった。
ーおまけー
没シーン
丹恒 「聞いているのか、二人共」
ゆづき「ん、私は元気だよ?」
なのか「はいはーい。ウチも元気でーす」
丹恒 「…」
最後までご覧いただきありがとうございました。
こんな感じでずっとイチャイチャしていたい。
続きは、なんか思いついたら